『初夢ロンド』

 

 神様が現れて、願いごとを何でも叶えてくれると言う。

 これは夢に違いない、とオレは思った。なぜなら神様の顔がロバート・デ・ニーロにそっくりだったからだ。しかも日本語を喋る。ありえんだろう。それともこの夢は吹替版か? 

 

 オレは結婚して7年になる。結婚直前まで二股かけていた。 

   夏希と美雪。

 夏希の可愛さはアイドル並み。町を歩けば誰もが振り返り、電車に乗れば泣いてる子供も笑顔になる。明るく元気で天真爛漫、オレが落ち込んでいると、トム・クルーズのモノマネで笑わせてくれる可憐な天使。

  美雪の美しさは女優レベル。町を歩けば男は二度見いや三度見し、女は羨望の眼差し。繊細で清楚でおしとやか。オレが落ち込んでいると一緒に落ち込んでくれる優しいお姫様。

 2人ともオレにぞっこんだから、ひとりを選ぶということはひとりを不幸にするということだ。ったくオレも罪な男だぜ。夏希vs美雪、遊園地vs美術館、初音ミクvsモナリザ、ゴジラvsモスラ、貞子vsお菊‥‥てなことで夏希に決めた。正しい選択だった。最高にハッピーな結婚生活。だが、7年もたてば愛らしい笑顔も色あせ、天然の明るさもうっとうしい。トムのマネも飽きた。

 近頃ふと思う。これはベストな選択だったのだろうかと。もしかしたらもうひとつの選択、もうひとつの人生があったのではないだろうか。ひょっとしたらそっちの方がオレ本来の生き方だったのかもしれない。たぶん、いや絶対そうに違いない。だからと言って、夏希と別れて美雪と一緒になるとかそういう話ではない。離婚とか面倒なことは性に合わない。それに、誰からも好かれている夏希と別れたらオレが悪者になってしまうじゃないか。それはイヤだ。

  だけど、もしもだ。もしも時計の針を7年前に戻すことができるなら. . . . そうしたらオレはもうひとつの選択をする。そしてもっともっと幸せな人生を送る。そんな夢のようなことをつい考えてしまうのだ。

  そんな願望を叶えるチャンスが、今ここにある。もちろん夢の中の話だが、だからこそ夏希に対して遠慮はいらないし、周りに気兼ねする必要もない。オレは迷わずお願いした。

「神様、オレを7年前に戻して、美雪と結婚させてください」

 

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   1月2日の朝、美雪と二人で箱根駅伝を見ながら雑煮を食べる。いつもの正月の風景だ。

   着物姿の美雪は平安時代のお姫様のように美しい。そんな美雪が手間かけて作る雑煮はとても上品で優しい味だ。まあ、オレとしてはもっとパンチの効いた味が好みなんだが。

「あ、そうだ、ゆうべ夢見たんだけどさ、ロバート・デ・ニーロそっくりの神様が出てきてさ、願いごとを叶えてくれるって言うんだよ。それでオレ、何お願いしたと思う?」

「さあ、何かしら」

「あのね、ええと、あれ? なんだっけ? なに頼んだんだっけ? う~ん思い出せない、しゃあない、後で思い出したら教えるよ」

  だが、それっきり思い出すことはなく、食事が終わる頃には、夢を見たことすら完全に忘れてしまった。

 

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 目の前に神様が現れて、願いごとを叶えてやると言う。なぜかロバート・デ・ニーロにそっくりの神様だ。これは夢だ、とオレは思った。

 

 結婚して7年。結婚直前まで二股かけて付き合っていた美雪と夏希。繊細で心優しい美人の美雪。天真爛漫で元気いっぱいの可愛い夏希。天秤にかけて美雪に決めた。至福の結婚生活だったが、どんな美しさも7年もたてば飽きる。そして美雪の優しさがなぜかオレをイラつかせる。

 近頃ふと思う。オレは選択を誤ったのではないだろうかと。もうひとつの選択をしていたら、もっと楽しくハッピーな人生を送っていたのではないだろうか。だからと言って美雪と別れるなんてことはできない。優しく清純な美雪を捨てるなんて最低な男だと責められる。それは避けたい。しかし、もしも時計の針を7年前に戻すことができるなら。そうしたらオレはもうひとつの選択をする。夏希と結婚するのだ。そもそも今は夢の中。なんだって許される。

 

「オレを7年前に戻して、夏希と結婚させてください」

 

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   1月2日の朝、夏希と二人で箱根駅伝を見ながら雑煮を食べる。いつもの正月の風景だ。

 夏希は毎年、オリジナルの雑煮を作る。今年は地中海風海鮮雑煮だ。スパイスが効いて味は悪くないが、オレはやっぱり普通の雑煮が食いたい。

「あ、そうだ、ゆうべ夢ん中にロバート・デ・ニーロそっくりの神様が出てきてさ、願いごとを叶えてくれるって言うんだよ」

「ゆうべ寝る前に『マイ・インターン』観たかじゃない?」

「かもしれん。それでさ、オレ、あれ、なに頼んだんだっけ?思い出せないぞ。あれ、なんだっけ?」

「どうせ若い子にモテたいとかそんなことでしょ」

 そうじゃないぞオレをみくびるなと言いたかったが、言われるとそうだったような気がしてきた。

 

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   夢の中でロバート・デ・ニーロそっくりの神様にお願いした。

「オレを7年前に戻して、美雪と結婚させてください」

 

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   1月2日の朝、美雪と二人で箱根駅伝を見ながら雑煮を食べる。いつもの正月の風景だ。

   美雪の作る雑煮は上品な味だが、オレにはなんだか物足りない。

「ウチの実家の雑煮はさ、すき焼きみたいに甘じょっぱくてさ、それ食べると正月が来たーって感じになるんだよ」

「私のお雑煮じゃお正月来ないの?」

「いや、そういうことじゃなくてさ」

   マズイ!正月早々ケンカはしたくない。話題を変えよう。

「そうそう、ゆうべ夢にロバート・デ・ニーロそっくりの神様が出てきてさ、願いごとを‥ 」

「私のお雑煮がいやなら自分で作ればいいじゃない」

「え? いや、だからイヤだなんて言ってないだろ」

   その後二人は無言で雑煮を食べ、夢のことは完全に忘れてしまった。

 

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   1月2日の朝、夏希と二人で箱根駅伝を見ながら雑煮を食べる。今年の雑煮は地中海風海鮮雑煮だ。

「野菜とシーフードたっぷりだからカラダにいいよ」

「確かに具沢山だけど餅入ってんの?」

「あ、入れるの忘れた、アハッ」

「それじゃ雑煮じゃないだ‥‥」

「あ、そうだ!聞いて聞いて」

   おいおいオレの話をさえぎるなよ。

「夢の中にメリル・ストリープそっくりの神様が出てきてね、願いごとを叶えてあげるって言うからあたしね、あれ? . . . 」

 

     ー おわりー

 

おまけ:(ヒマな方だけ読んで下さい)

夢に出て来たのは、本当に神様なのか、それとも神様のフリした悪魔なのか? キーワードを見つけると答えが出ます‥‥たぶん