新型コロナウィルス蔓延のニュースに不安な毎日が続く。以前のようにふらっと遠出をして、その土地の食べ物、歴史、自然、地元の方との触合いが出来ないことは、とても残念だ。でもきっとまた「大変だったわよね」と言い合える日が来る。その日まで、手軽にインターネットで購入した日本酒とその背景を紹介していきたい。

 さて今回紹介するのは、秋田県小玉酒造の「太平山 天功」。「天功」は「自然の力でできた見事なもの」という意味で、自然天然に咲かしめられた天功の妙味という想いから命名したという。精米歩合40%の純米大吟醸、原料米は山田錦100%。純米酒なので醸造アルコールは入っておらず、お米を磨き上げて吟醸造りをしたものだ。また黒いボトルも細やかな心遣いである。というのも、日本酒は品質が劣化しやすいデリケートなお酒で、特に紫外線は大敵だ。屋内でも蛍光灯には紫外線を発生するものがあるらしいので、「日本酒って臭い」などと言う人は、保管状況が悪く、劣化して不快な臭いを発生させてしまった日本酒だとは思わず、それこそが本来の日本酒の香りだと勘違いしている可能性がある。だとしたら、実に残念で、もったいない。そんな悪いイメージは是非、払拭してほしいものだ。つまり紫外線を吸収しないための黒いボトルは最後まで美味しく呑んで欲しい~という蔵元の思いがボトルにも込められているのだ。

 しかしながら日本酒は無色透明の澄んだ色をしている。その美しさを表現するために色の薄いボトルに入った日本酒も多い。ようは呑む側の心得次第だ。

 早速、一献。なんという爽やかな香り!太平山というのは、秋田市内の各所から望める市のシンボル的山だという。アイヌ語の「オイダラ山」に漢字で当て字をしたのが山名の由来で、意味は「山の麓の動揺する地」といい、かつては太平川が氾濫を起こした地であったらしい。山中には秋田杉、ブナ、七竈の木々が立ち、そんな清々しい風を思わせる香りだ。

 太平山にはいくつかの登山コースがあるそうだが、その一つにヒメシャガの群生があるという。このシャガ(著莪)は夏の季語だ。淡紫色のヒメシャガは白紫色のシャガの傍題ではあるが、同じアヤメ科アヤメ属でも全く違う生態をしている。ヒメシャガには種ができるが、シャガには種ができない。では、どうやって増えるのか?自らのクローンを増やしているのだ。身近な植物では、やはり夏の季語のドクダミもそうだ。そう考えると可憐なシャガに、何だか雑草の逞しさを感じてしまう。

 やれやれ、植物の世界も奥が深い・・・比べて、この「天功」は雑味が無く、ふわりとお米の甘みが口中に広がる。さすが数々の受賞を受けている酒だ!キレのある口当たりの良さにクイクイと杯を重ねてしまった、シマッタ。

 

柔らかな陽射しに著莪も吾も酔ひ          花風

                                        

                                        俳句結社「圓」7月号掲載文

「太平山 天功」秋田県潟上市 小玉醸造