腕時計の針は21時を回っていた。僕はビルの隙間から出ると、警察官の姿が見えない事を確認した。繁華街は飲み屋を探し回るサラリーマンや若い人達で賑わっていた。僕は人混みに紛れながら駅を目指し、ハチ公前を避けながら裏の口へ回り、特急列車の切符を買って群馬を目指した。群馬には一度だけ陽葵と温泉旅行へ行った事がある。南の方へ進むのならばできるだけ土地勘のある場所へ逃げた方が動き易いと思ったからだ。
乗車すると安堵したのか喉が渇いている事に気が付いた。警察から逃れビルの隙間で身を隠している間、ペットボトルは直ぐに空になり、それから暫くの間水分を口にしていなかった。喉の渇きに気付かない程、僕は神経を張り巡らせていた。車内販売の籠の中のビールが気になったが、ノンアルコールビールとサンドウィッチを選んだ。マスと飲みに行った日以来、一度もアルコールを口にしていなかった。サンドウィッチをノンアルコールで流し込み、一息付くと僕は目を閉じた。