市場にて(その3)~シチリアの果物~ | 無縁(むえん)の縁(ふち)から

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老いた母と暮らす夫なし・子なしのフリーランスライター。「真っ当なアウトサイダー」は年を重ねる毎に生きづらくなるばかり。自身の避難所(アジール)になるよう、日々のつぶやきを掲載します。とはいえ、基本「サザエさん」なので面白おかしく綴ります。たまに毒舌あり。

(PHOTO:Fruttivendono ad Arenella/アレネッラの八百屋さん)
 

シチリアでお目にかかる四季の果物をご紹介しよう。

初夏、さくらんぼ、いちご、きいちご、ラズベリーが次から次へと出る。さくらんぼは、アメリカン・チェリーと日本のさくらんぼのちょうど中間のような味だ。一度友達が自分の家で採れたさくらんぼを持ってきてくれたが、それがまた美味しくかった。市場で売っているさくらんぼも美味しかったが、自家製が常に売られているものよりも美味しいのがシチリアだ。

 

いちごは日本のものよりもっと野性味がある。そのまま食べるよりは小さく切って、レモンと砂糖を加え、少し、赤ワインを入れても美味しくて、冷蔵庫で冷やして食べるといい。

きいちご、ラズベリーは少し贅沢で、小さな紙製のボックスに入って売られている。

そして、びわが登場。そして、安い! びわ1キロは大きい粒で20~30個、小さめなら40個ぐらい。日本円で1000円しなかったと思う。当たって黒ずんでいるのもあるけど、量を食べれば一緒じゃん、って感じで、1キロ買って全部食べる。さくらんぼも1キロ買って全部食べる。日本ではなかなかできない贅沢だ。

 

(PHOTO:Mandorle, di fronte/アーモンドの実・前方)

その頃、青緑色のひしゃげた梅の実のような実、が市場をにぎわす。生のアーモンドだ。これはシチリアにしか売っていない(らしい)。梅の実を想像していただきたいが、梅の種の中にある白い部分、そこを食べるのだ。

実と種を割るのに結構時間がかかるが、この白い生アーモンドの実がほんのり甘くて香ばしくて…。杏仁豆腐の香りがほわんとして、ほんとに美味しい。わずかな期間しか出まわらないが、もしシチリアへ行ってみかけたらぜひ試してほしい

 

そして夏本番はすいかだ。イタリア北部ではすいかのことをアングリア(angulia)と言うが、シチリアはメローネロッソ(melone rosso=赤いメロン)という。なんと分りやすい表現!

道端のあちこちにすいかを山のように積み上げた屋台が出る。やはりすいかも大きい。

味は、日本のすいかと同じ。暑い夏には、やっぱりすいかはおいしい。

 

そのメローネロッソ以外にも、いろんなメロンが出まわる。日本でもお目にかかる黄色いメロン、白い皮のメロンなどなど。日本でおなじみの網状の皮のマスクメロンは見なかったけれど、日本で見たことのないメロン、メローネビアンコが美味しかった。大きさはすいかぐらいで、濃いでこぼこしした緑色の皮をしている。割ると中の実は、うすーい緑色。このメロンがマスクメロンほど甘くはないが上品なお味で、夜のお食事の〆めにはぴったりだった。

 

(PHOTO:Sinistra・rossa Pesca noce e Uve/右(赤)ペスカノーチェと葡萄)

 

すいかと同じ頃、桃が出る。白い桃、黄色い桃、硬い桃、柔らかい桃と、種類はいろいろ。日本の白桃ほど洗練されていないが、それはそれで美味しい。一度、白桃を辛口の白ワインにつけただけのデザート(と言えるのかな? リストランテの手抜きかもしれない)が出てきたが、意外や意外、桃と辛口の白がよくあって実に美味しかった。

黄色い硬い桃があって、名前をペスカノーチェ(pesca noce)と言う。この桃には食べ方があって、種に沿ってナイフで縦半分に切れ目を入れる。そして、地球儀で言うと経度に沿ってもう一度ナイフで切れ目を入れると、ぱかっとその部分の実が種からはがれる。そうやって食べるやり方を教えてもらって、それができるようになったのが嬉しくてペスカノーチェばっかりを食べていた。

 

夏の終わりが近づくと、大きな房の葡萄が、そしてシチリア名物、サボテンの実が登場する。ウチワサボテンの実で、大きさ・形は、手りゅう弾くらい。色は赤や黄色、緑があってそれに黒い点がぶつぶつとついている。分厚い皮をむいて食べるのだが、刺がついていて危ないので果物屋さんが向いてくれたりする。中の実も皮と同じように、赤や黄色、緑色をしている。

食べてみると…すいかの種みたいなサボテンの種が口の中でガショガショする。ガショガショの種も一緒に食べる。実は…すいかのような、すかすかのりんごのような…多少甘い。私は1つ食べれば十分だったが、好きな人は大好きなので、一度食べてみてもいいかもしれない。

 

秋になると、りんごや洋ナシが果物屋の店先の前の方に出てくる。日本で見るような洋ナシより2回りくらい小さいのがあって、これがなかなかいけるのだ。

で、シチリアで柿にお目にかかった。柿は日本在来種だと聞いていたので、びっくりしてしまったが、ちゃんと「kaki」という名前で売られていた。日本の柿と姿形は一緒だが食べ方が違う。イタリアの柿は、じゅくじゅくに熟した状態で売られている。そのとろとろ柿を皮からスプーンでこそげとるようにすくって食べるのだ。お国が違えば、柿もまた変わる。ここにたどり着くまでの柿の長い長い旅を想像し、同胞意識が芽生え「大変だったね」と思わず柿に話しかけてしまった。

 

そして、冬になるとオレンジの季節になる。シチリア特産の実が赤いオレンジはタロッキ(tarocchi)と呼ばれて、中がオレンジ色のものと区別して売られている。

だいたい2キロで小さいもので7、8個、大きいので4、5個で150円から200円ぐらい。私はこのオレンジを買って、毎朝ジュースにして飲んでいた。今思えば、なんと贅沢なジュースなのだろう。でも、シチリアではそれが普通なのだ。

 

小さな庭のあるおうちなら、大抵レモンかオレンジの木があって、「欲しいだけ採っていいよ」といわれる。もう少し余裕のあるうちなら、オリーブの木やみかんの木(みかんは、南イタリアで沢山栽培されている)、桃にスモモにぶどうが植わっている。

さらに田舎で土地を持つ人なら、自分たちが食べるオリーブオイルを採るためのオリーブ畑、自分たちが飲むためのワインを作る葡萄畑を持っていたり…。

そういう人は、ごくごく普通のありふれた人たちだ。決して大富豪、というわけではない。その人たちは、自分の畑で採れたオリーブオイルが一番美味しいと自慢しあい、うちのワインが一番だから飲め、とついでくれる。

シチリアは、イタリア中で一番貧しいと言われているが、本当はどうなのだろう。私は、実は一番豊かなのではないかと思ったりしている。

 

※1999~2000年、私がシチリアに住んでいた時の話です。