ミゲル・ガライ/マノロ・ソロに3度スクリーンで出会い学んだこと | 俺の命はウルトラ・アイ

ミゲル・ガライ/マノロ・ソロに3度スクリーンで出会い学んだこと

 2024年(令和六年)2月9日京都シネマ・シネ

マ1J列1番・5月12日塚口サンサン劇場劇場1C―

8席6月26日出町座BF2Fにおいて『瞳をとじて』

Cerrar los ojosを鑑賞した。

 

 

『瞳をとじて』

Cerrar los ojos

Close Your Eyes

映画 トーキー 169分 カラー

2023年5月22日 カンヌ国際映画祭上映

2024年2月9日 日本封切

製作国 スペイン

製作言語 スペイン語 英語

 

出演

 

ミゲル・ガライ マノロ・ソロ

 

 

 

アナ・アレナス アナ・トレント

 

チャオ・シューことジュディス ヴェネシア・フランコ

 

シスター・コンスエロ ペトラ・マルティネス

ベレン・グラナドス  マリア・レオン

マックス・ロカ  マリオ・パルド

マルタ・ソリアーノ エレタ・ミゲル

ティコ・マジョラル アントニオ・デチェント

レヴィ・フェラン・ソレル ホセ・マリア・ボウ

ロラ・サン・ロマン ソレダ・ヴィジャミル

ドクター・ベナビデス ホアン・マルガリョ

リン・ユー      カオ・チェンミン

 

 

フリオ・アレス/探偵フランク/ガルデル

ホセ・コロナド

 

 

ストーリー ヴィクトル・エリセ

脚本    ヴィクトル・エリセ

      ミシェル・ガズダンビデ

 

エクゼクティヴプロデュ―サー クリスティーナ・スマラガ

プロデュ―サー クリスティーナ・スマラガ

        パブロ・E・ボッシ

        ヴィクトル・エリセ

        ホセ・アルバ

        オディ―ル・アントニオ=バエス

        アグスティン・ボッシ

        ポル・ボッシ

        マキシミリアーノ・ラサンスキー

 

撮影監督    バレンティン・アルバレス

編集      アセン・マルチェナ(AMAE)

オリジナルスコア フェデリコ・フシド

音響監督    イヴァン・マリン

サウンドデザイン ファン・フェロ

音響ミキサー   カンデラ・パレンシア

プロダクション・マネージャー マリア・ホセ・ディアス・アルバレス

アートディレクター クルル・ガルバル

衣裳デザイナー ヘレナ・サンチス

メイクアップ&へアディレクター ベアトシュカ・ヴォィトヴィッチ

 

 

 

監督 ヴィクトル・エリセ

 

鑑賞日時場所

2024年2月9日 九時三十分

京都シネマ シネマ1 J列1番

 

2024年5月12日

塚口サンサン劇場・劇場1 C8

 

2024年6月26日出町座 BF 2F

 

 

 映画『別れのまなざし』は1947年スペイ

ンの親子の物語を語る。

 

 老富豪レヴィは悲しみの王と呼ばれている。

 

 

 レヴィは探偵フランクに、中国人少女チ

ャオ・シューことジュディスの写真を見せる。 

 

 レヴィは中国人女性と自分の娘がチャオ・

シューであると告げ、余命幾ばくもない自身

の夢は別れた娘との再会であると語る。

 

 フランクに娘がいることを調べているレヴ

ィは父の心を語り、ジュディスとの再会が生

き甲斐であることを強調する。

 

 探偵フランクはチャオ・シューことジュデ

ィスを探しだして彼女にレヴィに会ってもら

うことを確約する。

 

 このファーストシーンとラストシーンの二

場面が1990年にミゲル・ガライ監督により撮

影された。

 

 その直後にフランク役の人気俳優フリオ・

アレナスは失踪してしまった。

 警察は自殺を推理したが、死体は見つか

らなかった。

 

 

 

 未解決事件のテレビ番組のプロデューサーマ

ルタ・ソリアーノはフリオ失踪事件を追い、ミ

ゲルに解説を頼む。映像使用料金が貰えること

を親友の編集者マックスから教わり、ミゲルは

出演を受ける。

 

 番組インタビューでミゲルは「私は親友も映

画も失った」と心境を述べる。

 

 

 現在小説家・翻訳家として活動するミゲルは

海の家でギター好きのトニーとその妻テレサ・

デカ足のおじさんルフィ・犬のカリと共同生活

を為していた。

 

 

 フランコ総統の独裁時代に探偵フランクが独裁

政治に抵抗した人物であったことを、ミゲルは劇

中のレヴィの台詞で語った。

 演じたフリオも又体制の圧力に対して糾弾を

為して処罰を受けた存在であった。

 

 マックスは未完成でも撮った2シーンをスク

リーンで上映すべきだとミゲルに勧める。老い

を克服できなかったことが、プレイボーイフリ

オの悲しみではなかったかとマックスは推理す

る。

 

 マックスの部屋でミゲルは息子ミケルが描い

たイラストを見つけ感嘆する。ミケルへの手紙

を見つけた父ミゲルの胸は熱くなる。

 

 

 

 ミゲルはフリオの娘アナ・アナレスと喫茶店

で会う。

 

 「父が生きている夢を見たわ」とアナはミゲ

ルに告げた。

 

 アナは美術館で絵画の解説の仕事をしている。

 

   「毎日同じ解説を繰り返すのは退屈よ。

    この仕事に就いた時は名画に囲まれて

    嬉しかったけど。」

 

 美術館勤務を語るアナには息子がいる。

 

  1967年に撮られた水兵姿の父フリオとミゲル

の写真をアナはミゲルに提示した。ミゲルはアナ

から写真を譲り受けた。

 

 親友だったフリオとの過去の日々をミゲルは

確かめる。

 

 古本屋で昔の恋人ロラに献辞を書いて贈った

自著をミゲルは買う。フリオとも交際していた

ロラと再会したミゲルは彼女の家の暖炉の前で

語り合う。ロラはフリオがタンゴの名人であった

ことを確かめる。タンゴが下手だった僕はフリオ

に君を取られてしまったと嘆く。ロラは国外に出

る際荷物は売られてしまったので、貴方が献辞を

書いてくれた本は売っていないわと述べる。

 「君の元に帰ってきたんだ」とミゲルは改めて

本をロラに捧げる。

 

 フリオの携帯電話が鳴る。

 

 海辺の施設にフリオに似た男性がいると言う

情報が届いた。

 

  ミゲルは施設を訪ねる。

 

 男性は施設に居て作業をしていた。記憶喪失で

認知症の男性はガルデルとシスターに名付けられ

ていた。

   

 彼の荷物にはチャオ・シューの写真と『別れの

まなざし』の小道具のチェスの駒があった。

  

 ミゲルは施設に宿泊しガルデルと塗装の作業を

なした。水兵が為す紐のもやい結びの技術をガル

デルが見せた。ミゲルは1967年撮影の2ショット

写真を見せる。

 

  ガルデルは「俺じゃないし、もう一人も君じゃ

ないよ」と否定する。

 

 ミゲルは施設にアナを呼ぶ。

 

                                                                ガルデルが眠る部屋をノックし入って行くよう

にとミゲルは、アナに勧める。アナは思い切って

ノックしガルデルが睡眠を取っている部屋に入る。

 

 ガルデルが覚醒した。

 

 アナは瞳をとじて「私はアナ」と語った。

 

 

 

 

 

 ヴィクトル・エリセ

  Víctor Erice Aras

 ヴィクトル・エリセ・アラス。

 映画監督・脚本家。

 1940年6月30日スペインバスク地方カラン

サに生まれた。本日85歳誕生日である。

 82歳で『瞳をとじて』を発表した。

 

 マノロ・ソロ

 Manolo Solo

 

 1964年スペイン・アルへシラスに生まれた。マ

ノロ・ソロは重く深い演技で主人公のミゲル・ガラ

イを生きる。

 

 ホセ・コロナド José Coronado

 1957年8月14日、スペインマドリッドに

誕生した。本名はホセ・マリア・コロナド・

ガルシア José María Coronado Garcíaで

ある。

 

 65歳で映画『瞳をとじて』において俳優

フリオ・アレナス・探偵フランク・ガルデル

を演じた。

 ホセ・コロナドは劇中劇『別れのまなざし』

の落ち着いた探偵フランク、フランクを演じた

人気俳優・プレイボーイフリオ、記憶を失った

老人ガルデルの三つの顔を深い芸で探求した。

 

 繰り返しになるがガルデルは「フランク役者

フリオの老後」に見えるのだ。

 

 フリオはミゲル演出風景のフィルム・1967

年の写真、ミゲルの想像に登場する。

 

 雨に打たれびしょ濡れになって靴から雨水を

流す。

 

 ゴールキーパーの位置で両手を大きく開ける。

 

 施設の医師べナビデスはミゲルにガルデルの

脳の病を解説する。ガルデルがフリオであった

としたら、脳の病が原因になって失踪に繋がっ

たのではないかという仮説をベナビデスは説き、

ミゲルは傾聴する。

 

 フリオとしての在り方は、ミゲルの想像や

撮影風景で示される。

 

 フランク探偵を重厚に演じるフィルムはフリオ

の豊かな芸力を示している。

 

 記憶を失った老人ガルデルは多弁である。

 

 ホセ・コロナドとアナ・トレントは9歳違い

だが、親子に見える。二人の芸の凄まじさに感

嘆した。

 

 『別れのまなざし』ラストシーンをフィルム

上映してガルデルに見聞してもらい、彼がフリオ・

アレナスであることに目覚めて欲しい。

 ミゲルはこの課題に燃える。ガルデルはフランク

探偵役者フリオと同一人物なのか?これは問いのま

ま述べておき書いておきたい。

 

 地球映画史上ベストワン等という上是下非・高是

低非のランキング価値観の頂点への位置付けや映画

賞千兆個贈呈の表彰では、『瞳をとじて』の永遠性は

顕彰しきれない。

 

 まなざしは祈りの具現化でもある。

 

 『瞳をとじて』が観客を見つめている。

 

 2024年2月9日京都シネマ・シネマ1J列1番で本

作に出会い、「人生最後の映画鑑賞写真が選べる

ならば、本作との再会で集大成にしたい」と感じ

た。気の弱いわたくしが沢山の作品と出会って

いないことへの未練を抑えられない筈がない。

 

 だが、人生最後の映画館映画鑑賞が『瞳をとじ

て』であったとしたら、有終の美を感じれるので

はなかろうかという心が湧いてくるのである。

 

 勿論生きていたいし、出会っていない作品に

会いたいし、夢の企画も妄想する。

 

 ヴィクトル・エリセ監督が『ミツバチのささや

き』においてウィリアム・シェイクスピアの『テ

ンペスト』(『嵐』『あらし』)における詩を大事に

している事は過去記事に書いた。

 

 

   おそらくぼくが個人的に気に入ったものという

   ことなんでしょうが、その結末が、シェイクスピア

   の『テンペスト』の有名な詩文ー父親の死につい

   てのもので、ーその一部はシェリーが埋葬され

   ているローマの墓地の墓碑に刻まれています

   ーと関係づけたものだったんです。

   (『ミツバチのささやき』 パンフレット 29頁

    1985年2月9日 シネ・ヴィヴァン)

 

 ここで言う「シェリー」とは、『フランケンシュタイン』

の作者メアリー・シェリーの夫パーシー・ビッシュ・シ

ェリーである。パーシーは1792年8月4日に誕生した。

 1822年7月8日、帆船エリアル Arielに乗って航海

をしていたが、暴風雨に遭い29歳の若さで事故死し

た。

 エリアル Arielとはウィリアム・シェイクスピアの戯曲

『テンペスト』The Tempestに登場する妖精の名前で

ある。吉田健一はアリエルと訳している。

 

  Nothing of him that doth fade,

       But doth suffer sea-change

       Into something rich,and strange

 

  パーシー・ビッシュ・シェリーのローマの墓に刻まれ

る妖精エアリアルの詩である。

 

   身体(からだ)はどこも朽ち果てず、

   海の力で、みな、変えられて、

   不思議な宝となっている。

   (和田勇一訳『シェイクスピア全集 第三巻』

   「あらし」284頁

   1967年11月20日発行  筑摩書房)

 

   その身はどこにも朽ち果てず、

   海はすべてを変えるもの、

   今では貴重な宝物。

   (小田島雄志訳『シェイクスピア全集 第三巻』

    「テンペスト」317頁 

    1975年3月10日発行 白水社)

 

   お前の父親の体で失はれたものは一つもなくて、

   ただ海の底でその凡てが何か

   異様に美しいものに変つただけなのだ。

  (吉田健一訳『シェイクスピア』「「リヤ王の嵐の

   場面と「嵐」」79頁

   1977年5月25日発行 河出書房新社)

 

 エアリアル(アリエル)は青年ファーディナンド

(ファアディナンド)に対して、汝の父アロンゾー

(アロンゾオ)は死んだが、身体は失われる事も

朽ち果てる事もなく、海底で美しいものに変わ

っていると呼びかける。

 実はアロンゾーは生きていて、クライマックスで

ファーディナンドと再会する。

 エアリアルの詩の時点では、ファーディナンド

にとっては父の死を伝える言葉であった。

   

 ウィリアム・シェイクスピアが戯曲『テンペスト』

(『嵐』『あらし』)において妖精エアリアル(アリエ

ル)の詩として書いた言葉が、映画『ミツバチのささ

やき』当初の構成では結末に関係するものであった。

 

 娘が父を探すドラマと父が娘を探すドラマが、ア

ナ/ガルデル、レヴィ/ジュディスの関係にある。

 

 ウィリアム・シェイクスピアはプロスペロオ・ミラ

ンダの父娘の物語を以て自身が単独で書く戯曲の最後の

作品とした。

 

 この事柄に照応するものを『瞳をとじて』に感じる。

 

 4回目のスクリーン鑑賞を、今夢見ている。

 

 『瞳をとじて』は2023年5月22日の時点で、ヴィク

トル・エリセが自身の映画活動の集大成にした写真

であろう。

 

 

                 合掌