椿三十郎 | 俺の命はウルトラ・アイ

椿三十郎

『椿三十郎』

 

 

映画 トーキー 96分 白黒
昭和三十七年(1962年)一月一日封切
製作国 日本
製作言語 日本語
 
製作会社 東宝 黒澤プロ
製作  田中友幸 黒澤明
原作  山本周五郎(『日々平安』)
脚本  黒澤明 小国英雄 菊島隆三
撮影  小泉福雄 斎藤孝雄
美術  村木与四郎
録音  小沼渡
照明  猪原一郎
音楽  佐藤勝
整音  下永尚
監督助手 森谷司郎
制作担当者 根津博
剣技指導 久世竜
 
出演
 
三船敏郎(椿三十郎)
 
小林桂樹(木村)
仲代達矢(室戸半兵衛)
 
加山雄三(井坂伊織)
団令子(千鳥)
志村喬(黒藤)
 
藤原釜足(竹林)
清水将夫(菊井)
久保明(森島隼人)
太刀川寛(河原晋)
土屋嘉男(広瀬俊平)
田中邦衛(保川邦衛)
江原達怡(関口信吾)
平田昭彦(寺田文治)
小川虎之助(黒藤家三太夫)
堺左千夫(足軽)
堤康久(足軽)
松井健蔵(八田覚蔵)
樋口年子(こいそ)
波里達彦(守島広之進)
佐田豊(菊井の配下)
清水元(菊井の配下)
大友伸(騎馬の侍)
広瀬正一(見張りの侍)
伊藤実
宇留太耕司
山田博義(見張りの侍)
大橋史典(騎馬侍)
峯丘ひろみ(腰元)
河美智子(腰元)
爪生登喜(腰元)
 
伊藤雄之助(睦田)
入江たか子(睦田夫人)
 
監督 黒澤明
 
鑑賞日時場所
平成十二年(2000年)十月一日
京都文化博物館
 井坂伊織と八人の仲間は藩の腐敗を
糺そうという正義感に燃えていた。
 次席家老の黒藤と国許用人竹林に対
して告発書を書いた。井坂は同志を代表
して家老達に話した。
 城代家老の睦田は告発書を破った。井
坂が大目付の菊井に相談した。菊井は若者
達と共に決起することを約束した。
 
 大柄な体格の浪人が拝殿の奥から現れた。
若者達の話を聞いた浪人は、菊井こそ怪し
い人物であると指摘する。井坂たちはこの
古い社殿で菊井と面会する予定であったが、
菊井の腹心の部下室戸半兵衛に囲まれてい
た。井坂は菊井に嵌められたことを悟り悔
しがる。
 
 大柄な浪人は若侍達を助け、室戸の部下
達を挑発する。室戸は浪人を気に入り仕官
したければ来いと声をかけて誘う。
 
 半兵衛は引き揚げた。浪人は若者達九人
が菊井に狙われていることを感じ守り始め
た。
 
 菊井は睦田を連れ去り監禁した。睦田に
菊井達が犯した罪迄擦り付けられていた。
浪人は若侍達に策を授け、睦田の妻と娘の
身柄を確保させた。
 見張りの侍寺田の屋敷に若侍達は潜伏し
た。寺田の家は黒藤の屋敷の隣にあった。
黒藤屋敷は椿邸と呼ばれるほど椿が見事
に咲いていた。
 睦田の妻から名を問われた浪人は「椿
三十郎」と名乗り「もうすぐ四十郎かな」
と年齢を伝える。
 
 菊井は睦田が脅迫に応じず要求をかわさ
れ焦る。若侍達を罠に嵌める為空の駕籠を
用意し歩ませる。三十郎の注意を聞かぬ若
侍達は菊井の罠に嵌りそうになるが、罠に
気付き逃げる。
 
 三十郎は仕官に誘って来た室戸を尋ねた。三
十郎を怪しむ保川は室戸と三十郎の尾行を進言
し、室戸一党に捕縛されてしまう。
 三十郎は室戸の不在を見て、その部下や菊井の
部下を皆殺しにして保川ら若侍を助ける。
 無駄な殺生をしたとして三十郎は不機嫌になる。
帰って来た室戸に三十郎は大人数に襲撃されたと
芝居をした。
 椿屋敷に睦田は監禁されていた。

 

 三十郎は若侍達が町外れの寺に隠れ

ていると贋情報を語って椿屋敷の侍達

を移動させる。その間隙を縫って屋敷

を襲撃する作戦を立てた。襲撃の合図

に椿の花を小川に流す事を決める。

 椿屋敷に現れた三十郎は町外れの寺

の山門で若侍達を見たと室戸に報告す

る。室戸は配下の者達を寺に派遣した。

町外れの寺に山門がないことを室戸は

不審に思い椿の花を集めていた三十郎

を捕える。

 

 室戸は寺に向かい部下達を呼びに行

く。

 三十郎は黒藤に赤の椿が襲撃の合図

で白の椿が中止の合図だと伝えた。慌て

た黒藤は懸命に白椿を川に流した。

 若侍達が屋敷を急襲し菊井を捕え睦田

の身柄を無事確保した。

 

 帰ってきた半兵衛は、黒藤らが縛られ

た姿であることを見て落胆する。

 

 睦田は若侍達に深謝し、菊井が切腹した

ことを告げる。

 

 伊織ら若侍は姿を消した三十郎を追う。

町外れに三十郎と半兵衛が居た。

 

 「どうしてもやるのか」と三十郎は決闘

の意志を半兵衛に聞いた。半兵衛は「やる」

と答え、「お前みたいな酷い奴は初めてだ」

と殺意を露わにして決闘の意志を明かす。

 

 「どちらか死ぬ。つまらねえぜ」と三十郎

は諫める。

 

 「それでもやる!」と半兵衛は決闘の戦意

が燃えていることを確かめた。

 

 両者は激しく睨み合う。

 

 

 ◎豪快・豪胆・剛直 三十郎◎

 

 

 三船敏郎は大正九年(1920年)四月一日に

誕生した。 

 平成九年(1997年)十二月二十四日、七十

四歳で死去した。

 獣性の迫力で世界映画の歴史に存在感を示

した。

 「四十郎」の年四十歳で椿三十郎を豪快に

演じ勤めた。

  

 

 黒澤明は明治四十三年(1910年)三月二

十三日東京府に誕生した。映画監督として剛

腕を振るい迫力に富む大作を発表していた。

 平成十年(1998年)九月六日、八十八歳で

死去した。

 五十一歳で痛快娯楽時代劇の本作を鋭い演出

で表現した。

 

 

 

 黒澤明監督・三船敏郎主演の「三十郎」物の

第二弾である。『用心棒』(昭和三十六年十月

二十五日)に続く作品である。資料に明記はさ

れていないし、椿三十郎の台詞からも明言は無

いが、『用心棒』の強豪浪人剣客桑畑三十郎と

椿三十郎は同一人物のようだ。

 

 手に汗握る興奮・緊張を黒澤明演出は観客の

身に呼び起こした。

 『用心棒』の凄み豊かな殺陣は時代劇を大き

く変革したと言われている。わたくしはその意見

を全面的に肯定する者ではない。だが、『用心棒』

を京都文化博物館のスクリーンで見聞しその迫力

に緊張した事は事実だ。

 

 喜劇の魅力も豊かである。

 

 正義感に燃える伊織ら若侍の熱い行動を三十郎は

心配し守る。三十郎は何の義理も無いのに、偶々社

殿で若侍の密談を聞いたことから、彼らを守る。

 三十郎と若侍達九人は精神的父子・兄弟の関係と

なっていく。

 

 三船敏郎の迫力は本作においても圧巻である。

 大柄な体躯で豪快豪放なチャンバラを見せ、無敵

の強さを顕示する。

 

 ライバル室戸半兵衛の冷徹さを仲代達矢が鋭く

表現する。仲代達矢の眼光は怖い。

 

 加山雄三・田中邦衛・平田昭彦・土屋嘉男ら

は少年のような初心さを鮮やかに見せる。

 

 睦田夫人は、三十郎に「良い刀は鞘に納まって

いる」と説く。暴れてしまう三十郎にとっては厳

しい警句だ。

 

 入江たか子が三十郎を包む睦田夫人を暖かい

ムードで演じる。

 

 志村喬の黒藤と藤原釜足の竹林は憎めない魅力

がある。

 

 睦田は大詰近くに登場する。

 

 伊藤雄之助が飄飄と演じる。

 

 ラストの三十郎対半兵衛の決戦は三船敏郎対仲代

達矢の演技合戦が燃え盛ることによって表現される。

 

 息を呑む流血シーンである。

 

 黒澤明はポンプを使って流れ飛ぶ血を現した。

 

 これが日本時代劇映画のリアリズムの本流という

評価には首を傾げる。

 

 だが、迫力豊かな名場面であることは確かであ

る。

 

 伊藤大輔は『用心棒』『椿三十郎』を絶賛した。

 

 老人から子供まで全ての世代の人々が愉しめる

娯楽大作である。

 

 日本時代劇映画の代表作かどうかということに

ついては過去記事で疑問を呈してきた。

 

 だが、否定している訳ではない。

 

 『七人の侍』が迫力満点の傑作であることは確

かな事だ。だが、敵の野武士集団は攻撃してくる

存在で悪役としての魅力に欠ける。

 

 だが、室戸半兵衛は剃刀のような切れ味を持った

男で三十郎のライバルとしてスクリーンに現れる。

 

 豪快浪人三十郎対冷徹武士半兵衛。

 

 ドラマの魅力の源は対決にある。

 

 三船敏郎対仲代達矢の決戦場面にその事を学ん

だ。

 

                   合掌