阪東妻三郎主演 勝海舟・勝小吉 息子・父役の道 二題に学ぶ | 俺の命はウルトラ・アイ

阪東妻三郎主演 勝海舟・勝小吉 息子・父役の道 二題に学ぶ

 阪東妻三郎は映画『江戸最後の日』にお

いて勝海舟、『あばれ獅子』において勝小吉

を演じた。

 

 息子・父を映画で演じた。その道程を学び

たい。

 

『江戸最後の日』

 

映画 トーキー 95分 白黒

昭和十六年(1941年)十一月二十八日封切

製作国 大日本帝国

製作言語 日本語

脚本 和田勝一

演出補 安田公義

      菅英雄

      天野信

時代考証 江馬努

音楽 西梧郎

照明 西村計男

設計 角井平吉

撮影 石本秀雄

撮影助手 柴田達矢

録音 佐々木稔郎

 

 

阪東妻三郎(勝海舟)

 

香川良介(大久保越中守)

志村喬(榎本武揚)

大沢健司(大鳥圭介)

水野浩(高橋伊勢守)

戸上城太郎(山岡鉄太郎)

上田吉二郎(益光休之助)

河部五郎(向山隼人)

遠山満(川路聖謨)

常盤操子(おせき)

柳美恵子(八重)

環歌子(勝静代)

澤村敏子(照)

藤川三之祐(喜兵衛)

團徳麿(石田俊吉)

高田弘(パークス)

泉静治(ギャッフル)

葉山富之輔(藤沢志摩守)

大東専太郎(川勝備後守)

多岐征二(浅野美作守)

尾上菊太郎(徳川慶喜)

原健作(塚本虎太郎)

 

 

 

 

演出 稲垣浩

 

阪東妻三郎=沢村紀千助

        =阪東藤助

        =阪東要二郎

        =岡山俊太郎

 

香川良介=香川遼

 

原健作→原健策

 

稲垣浩二郎=東明浩→稲垣浩

        =藤木弓

鑑賞日時場所

平成十六年(2004年)六月六日 

京都文化博物館

 

 令和元年(2019年)七月七日

発表記事を再編している。

 時は明治元年(1868年)、徳川慶喜は鳥羽伏見の合戦に

敗れ、江戸に戻り、幕府内の論戦を見守る。幕府内には

官軍と戦い続けるべしとする者達と慶喜の意見に賛成する

者の二派に大きく分かれていた。二月に有栖川宮を征東

大将軍とする官軍は、薩摩・長州等の二十一藩の軍を

率いて江戸城総攻めを為そうとしていた。

 安房守勝海舟は山岡鉄太郎を派遣し、西郷隆盛に許し

を乞い、江戸の人々を戦禍に遭わせたくない和平の心を

伝える。その情熱は伝達され、西郷は勝との会談に応じ

てくれることとなった。

 三月十三日、海舟は一命を賭けて隆盛との会談に臨む。

 

 ☆勝海舟/阪東妻三郎☆

 

 阪東妻三郎は明治三十四年(1901年)十二月十四日に

東京府神田区に誕生した。本名は田村傳吉である。

 歌舞伎俳優を志し沢村紀千助を名乗るが、門閥制度

の厳しさがあり、大きな役を求めて阪東藤助・阪東要二

郎を名乗り活動大写真の仕事も為して行く。

 マキノ・プロダクションに入り、小さな役や斬られ役を

勤める。

 大正十年(1921年)阪東妻三郎を名乗り、二年後マキノ・

プロダクションに入る。活動大写真の人気スタアとなり、

日本映画界を牽引する存在となっていく。

 大正十四年(1925年)二川文太郎監督『雄呂血』で久利

富平三郎を熱演し、阪東妻三郎の大殺陣は観客の心を

緊張させ、悪人と呼ばれる者の優しさは感動を呼ぶ。

 

 トーキー時代に入って、阪妻は自身の声と活弁調と

言われていた台詞回しに悩み、伊藤大輔・マキノ正博・

稲垣浩に相談し、演技の研究を重ねた。

 

 本作は、江戸の民を幕府・官軍の争いの犠牲にする

ことを悩み、なんとか合戦を回避し、人々の命を守ろう

とする勝海舟の生き方を重厚に描く。

 

 勝海舟は文政六年一月三十日(1823年3月12日)に

誕生した。幼名は麟太郎、諱は義邦、後に安芳を名乗

った。明治三十二年(1899年)一月十九日、七十五歳

で死去した。

 

 

 阪東妻三郎は、言葉で誠意を見せる演技で、海舟

の平和希求の心を明かした。その存在感は堂々たる

者で迫力は強烈である。江戸の人々と海舟の心と心

の交流が熱く語られる。

 大詰は西梧郎の壮大な音楽が鳴り響き、阪妻の海舟

が映しだされる。

 

 

 

 稲垣浩の演出は広大で深い。イナカン演出には暖かさ

がある。

 

 妻三郎・イナカンのコラボは、二年後の『無法松の一生』

に繋がっていく。

 

 

 

 『江戸最後の日』を見ていると、戦争の時代を生きている

ことの厳しさが一コマ一コマに窺える。先輩達は苛酷な時代

状況において時代劇の傑作を撮り上げた。

 

 阪東妻三郎の大いなる男海舟の勇気に学び、平和希求の

心を確かめたい。

 

 『あばれ獅子』

 

 

 映画 トーキー 98分 白黒

 昭和二十八年(1953年)八月十二日公開

 製作国 日本

 製作   松竹

 

 製作   小倉浩一郎

 原作   子母澤寛『勝海舟』

 脚本   八住利雄

 音楽   鈴木静一

 撮影   石本秀雄

 

 出演

 

 阪東妻三郎(勝小吉)

 

 山田五十鈴(勝信)

 

 北上弥太朗(勝麟太郎)

 紙京子(君江)

 

 有島一郎(都甲市郎左衛門)

 徳大寺伸(永井青崖)

 山路義人(小林隼太)

 戸上城太郎(箕作阮甫)

 永田光男(孫一郎)

 高山裕子(岡野の奥様)

 桂小金治(三太)

 堺駿二(妙見の禰宜長谷川)

 瀧川美津枝(夜鷹おまつ)

 青山宏(若い男)

 西田智(大島文太)

 

 香川良介(道具市の世話人)

 市川春代(常盤津文字二三)

 月形龍之介(島田虎之助)

 

 監督 大曾根辰夫

 

 ☆

 北上弥太郎=嵐鯉昇→八代目嵐吉三郎

 

 

 月形龍之介=月形陽候=月形竜之介

         =月形龍之助=中村東鬼蔵

                   =門田東鬼蔵

 

 大曾根辰夫=大曾根辰保=大曽根辰夫

        =大曽根辰雄

 ☆

 平成二十九年(2017年)十月三日 

 京都文化博物館にて鑑賞

 

 画像はインターネットより拝借引用

している。

 

 平成三十年(2018年)三月十二日

発表記事を令和六年(2024年)七月

七日に再編している。

 

 「一代の名優 阪東妻三郎に捧ぐ」の字

幕が映る。

 

 勝小吉は義侠心に篤く、義を尊ぶ男だ。徳

川十二代将軍家慶公の時代、太平の世に在っ

て、暴れ者の四十石の旗本小吉は若くして隠

居を命じられ、淋しさを抱えながら、日々を

過ごしていた。

 

 しかし、困っている人が居れば、共に悩み、

元気を回復してもらうべく、懸命に相手に尽

くす。それが暖かき男小吉の在り方だった。

 

 妻お信は気性の激しい夫小吉を優しさで包

み、献身的に支えている。

 

 小吉とお信には一子麟太郎が居た。幼くし

て学問に優秀で度胸もある。剣術にも懸命に

取り組み、島田虎之助の門で学んでいた。

 

 蘭学に学びたいという麟太郎に、父小吉は

「お袋に楽しい日を送らせてやってくれ。」

と妻思いの言葉を語る。

 

  小吉は無頼の侍小林隼太を叱り、妙見の

禰宜長谷川や岡野家の人々を救出して、江戸

の人びとの英雄として敬われた。

 

 以前に優秀だった息子麟太郎を通して自身

の立身出世を計ろうとして叶わなかったこ事

に不満だった小吉は、息子を利用しようとし

ていた魂胆を、妻信に叱られはっと気付いた

ことがあった。

 

 息子が蘭学や剣術に学び、妻に楽をさせて

やれば、それが幸ではないかと目覚めた。

 

 一徹な老人都甲市郎左衛門や女心を鮮やかに

語る常盤津の師匠二三といった人々と勝一家は

出会う。

 

 麟太郎は鳶の者達に絡まれていた芸者君江を

助け、彼女と視線が合い、好きになる。君江も

美男で優しく強い麟太郎を愛してくれた。

 

 二人の恋仲を聞いて、小吉は複雑な思いであっ

たが、報復に来た鳶の者達を倒し、若い二人の仲

を祝福する気持ちになった。

 

 小吉・お信夫婦は愛息麟太郎の成長を祝い、

恋する二人を優しく包み込む。

 

 ☆

 勝小吉は享和二年一月十五日(1802年2月17日)

に誕生した。嘉永三年九月四日(1850年10月9日)、

数え年四十九歳で死去した。

 

 昭和二十八年(1953年)阪東妻三郎が勝小吉を

映画『あばれ獅子』で演じる事となった。

 

 

 妻さんの小吉は強きを挫き弱きを助ける義侠心に

富む男である。しかし、放蕩無頼を注意され、若く

して隠居を命じられてしまうという事態になり、退

屈を悲しみ憤懣を抱えながら日を過ごして喧嘩する

という暮らしになってしまっていた。

 

 それでも彼の持ち前の優しさは、困っている人を

助け、庶民虐めをする侍を懲らしめて正義感を発揮

していた。

 

 愛息麟太郎の成長に期待と夢を抱いており、それ

が生きる支えになっていた。

 

 阪妻の小吉は大いなる男である。心に傷を持ちな

がら夫の愛、父の優しさを、しみじみと伝えてくれる。

 

 山田五十鈴のお信は歯を黒く塗り、眉毛を剃って、

武士の妻の献身を深く勤める。

 

 北上弥太郎後の八代目嵐吉三郎の麟太郎は美男

で蘭学・剣術の文武両道に精進する若者の清廉さが

光っている。笑顔が素敵だ。

 

 弥太郎は昭和七年(1932年)一月六日生まれ。嵐

鯉昇の芸名で歌舞伎俳優として舞台に立った。

 

 伊藤大輔監督と大谷竹次郎の推薦を受けて松竹に

入り、本名北上弥太郎の名で映画界に入った彼は、

昭和二十年代・三十年代時代劇映画に出演し、後に

歌舞伎に復帰し、八代目嵐吉三郎を襲名した。

 昭和六十二年(1987年)九月三日、五十五歳で

死去した。

 

 有島一郎は若き日から老け役が得意であったこと

を思った。

 

 紙京子の君江は可愛さが光る。

 

 市川春代の二三師匠は色っぽい。

 

 堺駿二はコミカルな味わいを示す。

 

 香川良介は渋さと重みを見せてくれる。

 

 

 

 撮影途中の昭和二十八年(1953年)七月二日

主演阪東妻三郎が倒れ、七日に満年齢五十一

歳で亡くなった。

 

 松竹は代役を立てて撮影を続けた。

 

 代役の役者の名は不明だが、夜にお信と歩む小

吉の後ろ姿の登場シーンでは、妻三郎の渋い声を

巧く真似ていた。

 

 製作途中に妻三郎が亡くなったことは悲しい。

 

 だが全編に妻さんの暖かさが溢れているようにも

思えた。

 

 家族愛の尊さを教えてくれる名画である。

 

 ラストは小吉・お信夫婦が、麟太郎・君江を優しく

見守る。

 

 

 

 勝海舟・勝小吉の次第で阪妻は息子・父を銀幕

で演じた。

 

 父子の侠気と男気を阪妻が熱い芸によってフィル

ムに刻み付けた。

 

 勝海舟は大きい。

 

 本人にとっては未完になってしまったが、残存

フィルムに勝小吉の暖かさが溢れている。

 

 阪東妻三郎の勝父子は映画の歴史において不滅

の輝きを放っている。

 

 

 

                     合掌

 

                 南無阿弥陀仏

 

 

 

                    セブン