由松/大河内傳次郎 京都文化博物館で再会 | 俺の命はウルトラ・アイ

由松/大河内傳次郎 京都文化博物館で再会

 令和六年(2024年)七月六日十三時三十分

京都文化博物館フィルムシアターにおいて映画

『仇討選手』48秒版を鑑賞した。

 

 『仇討選手』

 

 映画 白黒 無声

 オリジナル版十四巻

 48秒版現存(令和六年現在) 

 昭和六年(1931年)十二月十八日封切

 製作国 大日本帝国

 製作言語 日本語

 

 

 制作 日活太秦

 原作・脚本 小林正

 撮影 松澤又男

 助監督 荒井良平

      末岡武郎

 

 出演

 

 大河内傳次郎(由松)

 

 山田五十鈴(お静)

 

 三桝豊(辰三)

 小松みどり(お静の母)

 佐久間妙子(お嶌)

 村田宏寿(柴野又助)

 斎藤紫香(陣太)

 清水俊作(殿様)

 高木永二(下坂八郎次)

 川越一平(床屋のおやじ)

 田村邦男(講釈師)

 

 監督 内田吐夢

 

 ◎

 現存版に至るまでの物語。シナリオより

纏める。

 

 元禄赤穂浪士の討ち入り事件は人々に感

動を与えた。

 

 講釈師から忠臣蔵の物語を聞いた殿様は、

自身の家臣に「仇討の快挙を為す者は居ら

ぬのか」と問い、家老下坂は困惑する。

 

 植木職人由松は娘お静と愛し合っていた。

 

 父辰三は植木挟みを足軽柴野又助の側に

落して叱責される。謝罪する辰三だが、又

助は「あやまって済むことと思うか!」と

激怒する。二人は口論になり、又助は辰三

を斬り逐電する。

 

 由松は仇討を命じられ、本懐を遂げれば

士分に取り立ててやると激励される。武士

達から特訓と称して武道の稽古で痛めつけ

られる。静は由松を気遣い、剣術人形を見

て彼が無事に帰還することを祈る。

 

 由松は仇討の道中、掏摸のお嶌・甚六夫

婦に苦しめられるが、夫婦は由松の純朴な

姿勢に触れ、真心を回復する。

 

 仇の又助と巡り合い、壮絶な激闘を経て、

由松は遂に又助を斬って父の仇を討つ。

 

 仇討を成し遂げ、由松は殿様に褒められ

武士となった。

 

 だが、最も会いたい靜はいない。

 

 由松を嫉視する浪川は「女を取られた」

男と嘲笑する。

 

 下坂は由松が留守のうちに、卑劣にもお

静を奪い妾にしていたのだ。怒りに燃える

由松は下坂邸に糾弾に行き、彼と口論にな

る。下坂の振った刃がお静を斬ってしまい、

由松は下坂を斬り恋人の仇を討った。

 

 殿様はこの事態を聞いて、下坂の遺児の

少年に由松を討たせる仇討をさせねばなら

んと言う。

 

 由松と少年の対決の日が来た。

 

 最初は討たれる決意を固めていた由松は、

「少年は人形ではない」と思い、彼を斬殺

する。

 

 ◎現存版◎

 

 由松は襲い掛かってくる朋輩の侍達と

闘う。

 

 殿様は部下の侍達に由松抹殺を命じる。

 

 斬った少年の亡骸を見つめ、由松は切腹

して果てた。

 

 

 父の仇を討ったが、愛する女性を奪われ、奪

回することも叶わず死別し、恋敵とその子を斬

った由松。

 

 無限に繰り返される仇討の連鎖に悲しみを覚

え、成り立ての武士として切腹し武士道に抗議

することに命を散らした。

 

 

 平成二十二年(2010年)十月三日、京都文化博

物館映像ホールにて48秒版を初鑑賞し衝撃を受け

た。

 

 十四ぶりの再会に震えた。

 

 内田吐夢は、明治三十一年(1898年)四月二十

六日に岡山県岡山市大供養において誕生した。本名

は内田常次郎である。

 昭和四十五年(1970年)八月七日、七十二歳で

死去した。

 

 少年時代にパイプオルガン製作所等で働き不良

少年として名を轟かせ「トム」と呼ばれ、この名

が俳優・監督の芸名の根拠になった。

 

 映画俳優となり、放浪生活も為し、社会の様々

な世界を見て、監督として骨太の作品を発表した。

 

 昭和六年、小林正の脚本を得て、大河内傳次郎

の主演で時代劇『仇討選手』を発表する。

 

 

 

 

 現存版では大河内傳次郎の凄まじい殺陣を伝え

ている。

 

 

 この映画のフィルム完全版は前述の通り見れな

い。

 

 吐夢研究家の藤井康男が編集した『内田吐夢の

全貌』に小林正が書いたシナリオが収録されてい

る。

  

 同書には正が鞘、傳次郎が刀・吐夢が刀を掲げ

ている写真も掲載されている。

 

 内田吐夢は大河内傳次郎とのコラボレーション

を「是非喜劇で」と望み撮ったのが本作であると

いう。風刺喜劇と言われている。

 

 しかし、現存脚本を読むと始終重厚悲劇で一秒

も緊張感が抜けない。

 

 由松を助けようとして下坂の刃にかかり事故死

するお靜。満年齢十四歳の山田五十鈴が演じたと

いう。引用画像右の女性である。

 

 下坂の遺児が由松に斬られる大詰も悲惨である。

 

 本日の鑑賞で大詰に横たわる少年の遺体が映り

由松の切腹となることを確認した。

 

 『宮本武蔵 一乗寺の決斗』における武蔵(初

代中村錦之助後の初代萬屋錦之介)が壬生源次郎

(西本雄司)少年を決斗で斬殺し苦悩するシーン

を想い起した。

 

 由松は少年を斬って仇討連鎖を悲しみ、切腹し

て連鎖と封建制に抗議する。

 

 武蔵は源次郎少年を斬って悲しみ、生きて血を

流さねば生きていけぬ剣の道に悶え苦しむ。

 

 『宮本武蔵 一乗寺の決斗』『宮本武蔵 巌流

島の決斗』は、少年の血を吸った事に苦悩する男

というドラマにおいて、完全版が失われた『仇討

選手』の悲嘆精神を継いだのではないか?

 

 白黒映像における決斗場面に、吐夢の剣への

悲しみの探求が有る。

 

 

                  合掌