顔役 勝新太郎製作・監督・主演作品(弐) | 俺の命はウルトラ・アイ

顔役 勝新太郎製作・監督・主演作品(弐)

『顔役』

映画 トーキー 98分 カラー

昭和四十六年(1971年)八月十二日封切

製作国 日本

製作言語 日本語

製作会社 勝プロダクション

 

製作 勝新太郎

   西岡弘信

脚本 菊島隆三

   勝新太郎

 

撮影 牧浦地志

美術 西岡善信

音楽 村井邦彦

録音 大角正夫

照明 中岡源権

編集 谷口登司夫

助監督 辻光明

 

出演

 

勝新太郎(立花良太)

 

山﨑努(杉浦俊夫)

太地喜和子(滝川真由美)

 

藤岡琢也(栗原支店長)

伴淳三郎(赤松)

山形勲(尾形千造)

 

前田吟(和田)

大滝秀治(西野)

深江章喜(筒井)

織本順吉(吉川)

江波多寛児(入江健次)

蟹江敬三(沢本)

 

横山リエ(トルコ風呂の女)

大川修

北城寿太郎

秋山勝俊

テレサ・カーピオ

藤山浩二

九段吾郎

伊吹新吾

黒木現

山岡鋭二郎

長岡三郎

大杉潤

岩田正

福井隆次

安藤仁一郎

馬場勝義

藤春保

新関順四郎

三藤頼江

石井喜美子

三輪京子

上原寛二

今田義幸

宮崎美栄子

渡辺寿男

竹内春義

森下耕作

佐竹克也

新田章

山村友絵

 

若山富三郎(星野)

 

監督 勝新太郎

 

奥村利夫=勝新太郎=二代目杵屋勝丸

 

山﨑努=山崎努

 

太地喜和子=志村妙子

 

東木寛→伴淳三郎=ばんじゅん

 

江波多寛児=江幡高志

 

奥村勝=若山富三郎→城健三朗

   →若山富三郎

鑑賞日時場所

平成十八年(2006年)五月二十六日

京都文化博物館

 画像はインターネットより拝借引用

している。

 

 令和五年(2023年)十一月二十九日

発表記事を再編している。

 

 ラストシーンに言及します。未見の

方は御注意下さい。

 

 本篇に従い「トルコ嬢」の言葉を用い

ます。ご了承下さい。

 ◎

 立花良太ははみだし刑事だが捜査への情熱

は熱い。賭博はするしストリップ小屋にも通

う。 

 新人の和田刑事にネクタイを買ってやる立

花は朝の集いを平気で休んだりする。

 西野課長にとって立花のあばれ方は悩みの

種だ。

 

 大淀組と入江組の抗争が激化した。

 

 殺し屋沢本は理髪店で事件を犯した。

 

 大淀組の尾形千造組長が狙撃された。

 

 立花は大淀・入江の両者を厳しく調べる。

 

 立花は大淀組の若衆頭杉浦俊次を逮捕

する。杉浦の情婦真由美に近付いた立花

は彼女の通帳を調べ下着を奪った。

 

 取調べで立花は杉浦の頭に真由美から

奪った下着を乗せて挑発する。

 

 事件の鍵を握る某信用金庫の栗原支店

長は家族と車で出かけるが、何者かに襲

われ、車ごと潰される。栗原と妻と可愛い

娘は無残に殺された。

 

 立花は悲しむ。黒幕は尾形と突き止めた。

 

 だが、警察に圧力がかかり捜査は打ち

切りになった。

 

 立花は警察手帳を西野に叩きつけて職を

辞した。

 

 大淀組と入江組の抗争は激化した。

 

 大親分星野により手打ち式が開かれた。

 

 だが、これは偽装であった。立花の策謀

である。

 

 高級乗用車に尾形と乗った立花は車を

走らせ埋め立て地に向かう。

 

 立花は車から出て中をロックして尾形

を監禁した。

 

 シャベルで立花は車に砂をかけ始めた。

 

 尾形は監禁と窒息の恐怖で震える。

 

 立花は車への砂かけを静かに行った。

 

 ◎勝新が映した砂場◎

 

 勝新太郎(かつ・しんたろう)は昭和六年

(1931年)十一月二十九日千葉県に誕生した。

 本名は奥村利夫である。別名義に二代目杵屋

勝丸がある。

 俳優・映画監督・脚本家・映画プロデューサ

ー・歌手・三味線師範として大活躍を為した。

 二十世紀・昭和・平成の時代を代表する大

スタアの一人である。

 平成九年(1997年)六月二十一日、六十五

歳で死去した。

 

 映画スタッフとしても鋭いシナリオ・重厚な

演出を見せた天才巨星である。

 

 『顔役』は三十九歳勝新が製作・脚本・監督・

主演の四役を成し遂げて発表した名作である。

監督処女作品から天才勝新の叡智と豪腕が光っ

ている。

 

 既存の映画文法を無視して幻想的な画作り

に挑んだ。

 

 西野課長役の大滝秀治の禿頭が映る。

 

 刺客沢本が野口を襲うシーンは、勝新太郎

監督が蟹江敬三の鋭い眼差しを映す。若き日

の蟹江敬三の凄絶な迫力を勝新が確かめ描写

する。

 

 賭場のシーンは本物を撮ることに熱意を燃

やし山口組組員に出てもらった。

 

 風俗街の描写においてもその非妥協の精神

は貫かれ、本物の風俗勤務の女性達に出演を

依頼し出てもらった。

 

 立花良太はやくざの抗争を悲しみ犯罪を

厳しく捜査するが、手法はやくざ的である。

 

 乱暴者刑事立花は勝新の当たり役だ。

 

 弟分和田役で前田吟が清新な魅力を見せ

る。

 

 山﨑努は杉浦俊次役でギラギラと凄みを

輝かせる。

 念仏の鉄の二年前である。

 

 取調室で立花が真由美から奪った下着を

杉浦の頭に被せ嫉妬させ焦らせるシーンは

怖い。

 

 山さんの光る眼力が恐ろしい。

 

 大淀組と入江組の戦闘は迫力豊かだ。

 

 チンピラや小悪党の役で憎たらしさを見

せる事が多い江波多寛児が親分入江役で嫌

らしさをたっぷりと見せる。

 

 山形勲は大御所尾形役で悪の大ボスの存

在感をたっぷりと示す。

 風俗嬢にマッサージしてもらうシーンに

おいても名優山形勲の悪玉親分の表現を感じ

る。

 

 藤岡琢也が栗原役で哀れさを見せる。栗

原の車が襲われ眼鏡で彼の死が伝えられる。

 

 立花の悲憤のシーンになる。

 

 勝新の映像で語る力は凄まじい。

 

 本郷功次郎は京都映画祭のトークショーで

「市川雷蔵さんから『本郷。台詞は必ず覚え

や』と教わり、勝新太郎さんからは『本郷。

台詞を覚えちゃいけねえぞ。台詞を忘れる。

忘れた時に出て来る言葉が本当の台詞なん

だ』と教わりました」と語っていた。

 

 若山富三郎が星野親分で貫禄を見せて画を

引き締める。

 

 「お兄ちゃん」こと若山先生の出番は短い。

短いが大親分星野を勤める人は若山富三郎し

かいない。

 名優の存在感を光らせる勝新監督の手腕は

凄い。

 

 立花勝新と星野若山先生の激突競演シーン

が無い。この省略も監督勝新の狙いなんだろ

うね。

 

 大詰の埋め立て地砂場の車ごと生き埋めの

処刑方法には吃驚した。

 

 立花は巨悪の尾形を許さず死の恐怖をじっく

り味あわせて制裁を加える。

 

 極悪人の尾形に対して観客は「可哀相」とい

う同情心を抑えられなくなる。

 

 悪人も又尊い命を生きている。

 

 埋立地砂場で砂をかける立花には孤独感が

漂っている。

 

 映画『座頭市』はシリーズ化される度に市つ

ぁんが無敵のスーパーヒーローになっていった。

 

 伊藤大輔は『座頭市地獄旅』脚本に当たっ

てスーパーマンの強さを見せる市つぁんに疑

問を呈して予め市が斬る人数を六人と定めて

ドラマを描いた。

 自分は『座頭市地獄旅』をレンタルビデオ

鑑賞しかしていないが、大輔脚本と三隅研次

演出が光る傑作と頂いている。

 何が言いたいかと言うと『座頭市』シリー

ズにおいても壮大な殺陣・チャンバラが人気を

博しても、クライマックスのゲストとの決戦に

物語の焦点を絞る作風が検討され始めたこと

である。

 

 監督第一作において勝新太郎は自身が演じ

る立花の戦をクライマックスの尾形生き埋め

作戦に集約してくる。

 

 埋め込み作業が終わった後立花は何度も砂

を踏み作業を確認する。

 

 制裁・処罰を為した立花は無言のまま淋し

さを映し出す。

 

 勝新太郎は男の哀愁を静かにフィルムに焼き

つけた。

 

                  合掌