かくも長き不在 | 俺の命はウルトラ・アイ

かくも長き不在

『かくも長き不在』

UNE AUSSI LONGUE ABSENSE

 映画 トーキー 98分 白黒

 1961年5月17日 フランス封切

 昭和三十九年(1964年)八月十四日 日本封切

 製作国 フランス

 製作言語 フランス語

 製作 クロード・イエーガー

    アルベルト・バルサンティ

 脚本 マルグリット・デュラス

    ジェラール・ジャルロ

 音楽 ジョルジュ・ドルリュー

 撮影 マルセル・ウェイレス

 主題歌 『コラヴォケール』

 編集  ジャクリーヌ・メピエル

     ジャスミン・チェスニー

 

 

 出演

 

 アリダ・ヴァリ(テレーズ・ラングロワ)

 

 ジョルジュ・ウィルソン(浮浪者)

 

 シャルル・ブラヴェット(フェルナンド)

 ジャック・アルダン(ピエール)

 

 

 監督 アンリ・コルピ

 

 ◎

 鑑賞日時場所

 令和六年(2024年)五月四日

 Cinema KOBE Cinema2

 ◎ 

 テレーズ・ラングロワは古い教会のカフェの

店長を勤めている。前夫はアルベールは十六年

前にゲシュタポに拉致され行方不明になってい

る。現在運転手をしているピエールと暮らし、

お店は可愛いウェイトレスと共に支えている。

 

 カフェの前を男性浮浪者が通った。テレーズ

は浮浪者がアルベールに酷似していることにび

っくりする。

 

 テレーズは店の前を浮浪者が通るたびに緊張

した。店を女の子に任せてテレーズは男性浮浪

者の後を追った。河岸で暮らし雑誌の切り抜き

をしている浮浪者にテレーズは声をかけた。浮

浪者は記憶喪失であることを自己確認した。

 

 アルベールの伯母と甥を呼びカフェに来ても

らい浮浪者の姿を見てもらうことにした。二人

はアルベールと浮浪者が同一人物であることに

否定的であった。

 

 テレーズは夜に浮浪者をカフェに呼び、二人

だけの晩餐会を催しレコードをかけダンスを踊

った。

 

 浮浪者はアルベールであると確信するテレーズ

は、記憶を取り戻して欲しいと切に願う。

 

 河岸に帰ろうとする浮浪者にテレーズは思わず

「アルベール」と呼んだ。

 

 夜は深かった。浮浪者は外に出て歩き出した。

近所の人々も外に出た。

 

 浮浪者は走り出した。

 

 ◎テレーズの希望◎

 

 アリダ・ヴァリ Alida Valliは1921年5月

21日にイタリア王国領イストリアに誕生した。

2006年4月22日、84歳で死去した。

 世界各国の映画において活躍した大スタア・

大女優である。39歳でテレーズの一途な心を

深い芸で示した。

 

 ジョルジュ・ウィルソン Georges Wilson

は1921年10月16日にフランスに誕生した。10

月7日誕生日説もある。2010年2月3日、88歳で

死去した。39歳でアルベールに似た浮浪者を重厚

に演じた。

 

 アンリ・コルピ Henri Colpiは1921年7月

15日に誕生した。2006年1月14日、84歳で死去

した。国籍はスイスである。生涯で撮った長篇映

画の本数は少ないようである。だが、本作一本の

みを見ても不滅の演出表現力を明かした活動屋で

あったことが窺える。

 

 浮浪者が切り抜く写真にはジャン・マレエの写

真があった。時代を窺える。

 

 浮浪者を優しく見つめ包むテレーズの母性に心を

打たれた。

 

 戦争から十六年の月日が経ち、カフェの女主人が

前夫に酷似した浮浪者に出会う。前夫その人と確信

し語り合う。記憶を取り戻そうと懸命に語り、レコ

ードをかける。親切にしてくれるテレーズの優しさ

に感謝する浮浪者だが、失った記憶は戻らない。

 

 本作に出会ったのはNHK教育テレビの『世界名画

劇場』放送版の視聴であった。戦争の傷跡を柔らかく

繊細に表現する方法に瞠目した。

 

 2024年5月4日Cinema KOBEで遂にスクリーン

上映見聞の機会を得た。

 

 浮浪者がアルベールなのかどうかは分からない。

 

 だが、名前を呼ばれ車のライトを浴び両手を挙

げる仕種に、彼が戦争で深い傷を負ったことが窺

える。

 

 銃撃や刀剣の音や流血の描写はない。この手法

で戦争の残酷さを語る。

 

 アンリ・コルピ監督の深い表現に震えた。

 

 

                     合掌