三代目玉吉田簑助 錦祥女の遣い 鑑賞三年 | 俺の命はウルトラ・アイ

三代目玉吉田簑助 錦祥女の遣い 鑑賞三年

 令和三年(2021年)四月十九日国立
文楽劇場。
 三代目吉田簑助の錦祥女を拝見しました。

  

 

 全身全心を挙げて熱くなりました。
 
 

 三代目吉田簑助(さんだいめ・よしだ・みのすけ)

 文楽人形遣い

 昭和八年(1933年)八月八日大阪府生まれ。

 本名平尾勝義

 芸名歴 桐竹紋二郎 

     三代目吉田簑助

 

 平成十四年(2002年)四月十日

 『菅原伝授手習鑑』千代

 

 平成二十二年(2010年)四月十二日

 『妹背山婦女庭訓』 雛鳥

 

 平成二十六年(2014年)四月七日・二十六日

 『菅原伝授手習鑑』 桜丸

 

 平成三十一年(2019年)四月八日・二十九日

 『仮名手本忠臣蔵』 顔世御前

 

 遣いの至芸は悲しみの心を伝えて下さい

ました。

 

 我が子を亡くした母千代。

 

 愛する清舟との恋を母定高に斬首してもら

うことで叶える雛鳥。

 

 自責のこころで妻と父の前で切腹する

桜丸。

 

 夫塩冶判官の遺体に縋りつく顔世御前。

 

 蓑助の遣いは、心の底で熱くしてくれる

芸なのです。

 

 溝口健二監督作品『西鶴一代女』に若い

人形遣いが映っているが、十八歳の桐竹紋

二郎だろうか?

 

西鶴一代女

 

 令和三年(2021年)四月三日初日 二十五日千穐楽 
 国立文楽劇場  
 第一六二回 文楽公演
 
 第一部 花競四季寿
       万才 海女 関寺小町 鷺娘
 
       恋女房染分手綱
       道中双六の段
       重の井子別れの段
 
 第二部 国性爺合戦
      平戸浜伝いより唐土船の段
      千里が竹虎狩の段
      楼門の段
      甘輝館の段
      紅流しより獅子が城の段
 
 第三部 傾城阿波の鳴門
       十郎兵衛住家の段
 
      小鍛冶
 
 第三部  傾城阿波の鳴門
        小鍛冶
 
 十七日に七列十二番席で第三部、十九日に
十二列十二番席で第一部・第二を鑑賞しました。
 
 吉田玉助が和藤内を豪快に遣いました。
 
 『国性爺合戦』「楼門の段」
 太夫 豊竹呂勢太夫
 三味線 鶴澤清治
 人形役割 
 和藤内 吉田玉助
 鄭芝龍老一官 吉田玉輝 
 老一官妻 桐竹勘壽
 錦祥女 吉田簑助

 老一官こと鄭芝龍は妻と息子和藤内と共に
明国再興の志を抱き唐土に渡り、唐土の地の
娘錦祥女(きんしょうじょ)に会って、彼女の夫
五常軍甘輝に協力を依頼しようと考えていま
した。
 
 獅子が城楼門において老一官は現在の妻
と和藤内を錦祥女に紹介し、別れた父である
ことを語ります。
 
 父と娘の楼門における対面は親子の情が
迫ってきます。
 
 家族愛の為に自身を犠牲にしてでも、夫
甘輝と父老一官・弟和藤内の協力関係を
纏めたいと願う錦祥女の母性愛を、吉田
簑助師匠が遣われました。
 
 吉田簑助が遣う女性に、観音菩薩の
慈悲を仰いでいます。観客は心の芯から暖
められます。
 
 自身の胸を刺して夫と弟の同盟を成り立
たせようと錦祥女は決めるのですが、その
自己犠牲の精神に切なさが極まります。
 
 水面に血が流れる紅流しには文楽の悲劇
美が光ります。
 
 吉田簑助師が出演される楼門の段は錦祥
女が父老一官の要望を聞き、鏡で顔を見て、
父の後妻を縄目で城内に入れることを決める
場までですが、自身の生命を犠牲にしてでも
父に孝行し弟を助けたいと言う家族愛が光って
いました。
 
 大詰めで楼門に布が閉まります。
 
 「吉田簑助の遣いを拝見鑑賞するのはこれ
が最後」と心の中で確かめると切ないものが
ありました。
 
 令和三年四月公演は千秋楽が一日前倒しさ
れました。
 
 十九日に客席で蓑助の芸を見聞した縁に
深謝します。
 
 最強の技芸で古典浄瑠璃の傑作を現代の
国立文楽劇場舞台に現出してくれる。
 
 文楽は心の故郷です。
 
 吉田簑助師
 
 
 浄瑠璃の命を師匠の遣いに実感しました。
 
 
 師匠の遣いは、自分にとって生き甲斐です。
 
 今後とも文楽ファンをご指導頂きますよう
お願い申し上げます。
 
 吉田蓑助の遣いは暖かい。
 
             文中一部敬称略
 
                 合掌