ラスト・タンゴ・イン・パリ Last Tango in Paris オーシーノがマーロンに | 俺の命はウルトラ・アイ

ラスト・タンゴ・イン・パリ Last Tango in Paris オーシーノがマーロンに

『ラスト・タンゴ・イン・パリ』

Last Tango in Paris

Ultimo tango a Parigi

 

ポール ジャンヌ

 

映画 トーキー 

136分 125分 250分(オリジナル)

カラー

1972年12月15日 フランス公開

1972年12月16日 イタリア公開

1973年1月27日 アメリカ公開

昭和四十八年(1973年)六月二十三日日本公開

製作国 イタリア フランス アメリカ合衆国

製作言語 英語 フランス語

 

製作 アルベルト・グリマルディ

   ベルナルド・ベルトルッチ 

 

脚本 フランコ・アルカッリ

   ベルナルド・ベルトルッチ 

   アニエス・ヴァルダ

 

音楽 ガトー・バルビエリ

編集 フランコ・アルカッリ

   ロベルト・ペルピニャーニー

配給 ユナイテッド・アーティスト

 

出演 

 

マーロン・ブランド(ポール)

 

マリア・シュナイダー(ジャンヌ)

 

マリア・ミチ(ローザの母)

ギオヴァンナ・ギャレッテイ(売春婦)

カトリーヌ・アレグレ

カトリーヌ・ブレイヤ

ヴェロニカ・ラザール(ローザ)

 

 

ジャン=ピエール・レオ―(トム)

 

マッシモ・ジロティ(マルセル)

 

 

撮影監督 ヴィットリオ・ストラーロ

 

監督 ベルナルド・ベルトルッチ

88年再上映チラシ

昭和六十三年(1988年)五月

三越劇場にて英語版鑑賞

 感想文の中で性的問題に言及します。

 本作の性描写は、人間の悲しみを追求

するものであり、興味本位に決して性欲

を煽動・刺激するものではありません。

 

 学習の為物語の核心及び結末に言及しま

す。未見の方々は御注意下さい。

 

1988年三越公開

 ☆

  フランシスコ・ベーコンの絵画が映りキャスト・

スタッフの名が表示される。

 

 「畜生」

 

 叫び声が晴れたパリの町に響く。

 

 地下鉄の高架線ビルアーケイムの橋の下で中年男

ポールが悲しみを叫ぶ。

 

 ミニ・スカートにコートを羽織る若く可愛い女性

ジャンヌは颯爽と歩み清掃作業員男性の動き帚を飛

び越える。

 その姿を見たポールは惹かれる。喫茶店の電話ボ

ックスでジャンヌは母親に電話するがここにもポー

ルがいた。

 

 

 アパルトマンで空き室を見つけ部屋に入ったジャ

ンヌはアフリカ系の女性管理人に手を握られ驚きつ

つ部屋に入る。家具を業者に入れてもらい部屋の整

頓を始める。

 

 

 部屋には鍵が入っていなかったため入室したポー

ルがいた。

 

 

 二人はキスし抱きしめ合い求め合う。その後別れて

は再会し再び抱きしめ合う。

 

 ポールのホテルの一室の浴槽は血に塗れており家

政婦が掃除しながら警察から受けた尋問の内容をポ

ールに報告する。自殺した女性ローザの夫は元ボク

サー・俳優・音楽家・南アメリカ革命家・日本の記

者を経てフランスでローザと出会いホテル管理人に

なったこと。ポールは自身の略歴を静かに聞く。

 

 

 

 情を交わしながら動物の真似をしてポールとジャン

ヌは微笑みあう。

 

 ジャンヌが名前を聞くとポールは名前はいらないと

怒る。

 

 ジャンヌは駅では映画監督の恋人トムと会う。トム

はジャンヌを主人公にした記録映画を撮っているが映

画に夢中である。ジャンヌの一挙手一投足の仕種や表

情を良いフィルムの材料にすることしか考ていない。

 思い出の写真を掲げ先生や友人や父親についてジャ

ンヌが語りトムが撮る。庭で子供達がふざけている。

 ジャンヌは心の中においてトムの映画最優先主義に

空虚さを抑えられない。

 

 自殺したローザの母がホテルを訪問し義理の

息子ポールと抱きしめ合う。夫が来れなくて良

かったと語る義母は私のほうが強いのとポール

に語る。

 義母はカトリックの葬儀を望むがポールはロ

ーザがカトリックを信じていなかった事を根拠

に強く拒む。

 

 アパルトマンでポールとジャンヌは情を交わ

し問答を為す。

 

 

   「私達此処で何をしているの?」

 

   「空しいセックスをしているだけだ。」

 

   「幾つ?」

 

   「今週で93歳」

 

   「見えないわ」

 

 ポールは髭を剃る。短気な父親と酔っぱらいの

母親がいたことを告げる。少年時代にバスケット

ボールをガールフレンドと行こうとして父親に乳

絞りを命じられ靴にまで牛の糞の匂いがついた事

を語った。

 シャワーを浴びながらジャンヌは貴方は年寄り

でデブと指摘する。十年経てば君も中年になると

ポールは告げる。

 

 ジャンヌがアパルトマンに帰ってくるとポ

ールはチーズを食べていた。ジャンヌを俯せ

にしたポールは彼女の身体にバターを塗り身

体を求める。

 

 乱暴なふるまいにジャンヌは泣く。

 

 池のデートでトムはジャンヌに結婚を申し

込む。アタラント号の浮き輪が流れる。

 

 アパルトマンでジャンヌは鼠の死体を見て悲

鳴をあげ「もうこのベッドでメイクラヴできな

い」と嘆く。ポールはマヨネーズをかけて食べ

たいと述べジャンヌは驚愕する。

 

 義母は私達の若い頃はホテルを宿泊のみに用

いたが最近の若い人は麻薬を服用すると嘆く。ポ

ールはホテルの電気を消して住人を紹介すると

人々の性癖や行動を語り義母は怯え悲しむ。住人

が驚くとポールは電気をつける。

 

 ローザの愛人マルセルがホテルを尋ねる。ポール

とマルセルは同じ寝巻を着て語り合う。マルセルは

新聞切り抜きを為しつつローザが爪で壁を引っ搔いた

事を告げる。「君は若い頃ハンサムだったんろうな」

とポールは恋敵に述べる。

 

 ローザの遺体は彼女の母によって花に覆われてい

る。ポールは尻軽女と罵るが彼女の自殺に号泣し

「俺も死にたいがどうすればいいか分からないんだ」

と悲しむ。

 

 呼び鈴が鳴り故ローザの友人の売春婦が男性客と

の部屋を欲しと求めポールは話を聞く。男性客は去り

娼婦は追っかけて欲しいと頼む。ポールは男を呼ぶが

男は皮膚病を患っておりあんな女の相手はしないと述

べ、ポールは怒り彼を叩き「ホモ」と怒鳴る。

 

 トムは飛翔の動きを為すジャンヌを讃える。

 

 

 ポールに性奴隷にされていることにジャンヌは悲し

みトムとやり直そうと決意する。

 

 ポールはジャンヌに逃げられると嘆き身の上を語

り現在45歳でホテル管理人をしているが妻に自殺さ

れたことを告げる。ジャンヌは追いかけてくる中年

男ポールから逃げる。

 

 ジャンヌとポールはダンス会場に入った。

 

 初めは若ジャンヌの体に惹かれ彼女との抱擁に生き

る希望を確かめたポールは次第に心彼女なしでは生き

ていけない身に新生していた。ジャンヌは奥さんにつ

いて教えてと頼む。

 

  「若い頃、君みたいな可愛い女性を口説いてた」

 

 ポールは思い出を語りかける。

 

 ダンスホール会場では会員の男女が見事にタンゴを

踊る。老女のスタッフがベストカップル10組の優勝者

を紹介し20人の男女が華麗に踊る。感嘆しつつポール

は酔った勢いでジャンヌを引っ張り無茶苦茶な動きで

会場を滅茶苦茶にする。淑女のスタッフが注意すると

ポールは彼女とも踊ろうとして叱られズボンと下着

を脱いで臀部を露出する。

 

  酔ったポールはジャンヌと坐り、「音楽が恋の糧

なら続けてくれ」と『十二夜』冒頭のオーシーノ公爵

のオリヴィア姫への片想いの言葉を引用する。

 

 ジャンヌはポールに別れを告げて去る。ポールは逃

げるジャンヌを執拗に追いかける。ジャンヌは自宅の

アパートに逃げエレベーターに乗り、ポールは階段で

追いかける。ジャンヌがドアを閉めようとすると足を

入れてポールは部屋に乱入し「愛している。君の名前

は」と遂に彼女の名を問うた。

 

 ☆悲しみの中でのオーシーノ☆

音楽が恋の糧なら

 

 マーロン・ブランド Marlon Brandoは1924年4

月3日誕生した。アメリカ映画・世界映画の大スタア

・大名優である。2004年7月1日80歳で死去した。

 

 マリア・シュナイダー Maria Schneiderは1952

年3月27日にフランス・パリに生まれた。父は俳優

ダニエル・ジュランである。2011年2月3日68歳死

去した。

 

 ヴィットリオ・ストラーロ Vittorio Storaroは194

0年6月24日イタリアローマに誕生した。「光で書く」

撮影技術で濃密で華麗な映像を映し出している。

 

 

 ベルナルド・ベルトルッチ Bernardo Bertolucci

はイタリアの映画監督・脚本家である。

ベルナルド

 1941年(昭和十六年)3月16日イタリアパルマに

おいて詩人アッティオ・ベルトルッチの息子として誕

生した。

 ピエル・パオロ・パゾリーニ監督のもとで学び、19

62年第一回監督作品『殺し』 La  Comarre Secca(

トーキー作品 92分 白黒)を演出し、同年9月19日

に公開さる。

 以後数多くの傑作映画を演出し、全世界の映画芸術

を牽引する。

 2018年(平成三十年)11月26日イタリアローマに

おいて死去。77歳。

 

 演出ベルトルッチ・撮影ストラーロの名コンビは

1972年秀麗な映像で男女の悲しみを探求した。

 

   『ラスト・タンゴ・イン・パリ』は私が初めて

    ”現在形”で撮った映画です。『革命前夜』で

   さえも”過去形”の話でした。二年前に起こっ

   たできごとをストーリーとして語るのだから。

   つねに過去形とで撮ることについての私の口実

   は映画はつねに現在形だという確信でした。その

   後映画では継続時間を活用できる知ったのです。

   『ラスト・タンゴ・イン・パリ』ではこの継続

   時間の活用をより深くきわめようと勤めました。

   過去を見つめながら現在を撮るのです。それま

   でにやっていたやり方とは反対のものでした。

 

 

 (柳澤一博責任編集『ベルナルド・ベルトルッチ頌』

157頁1988年2月1日 芳賀書店)

 

 吉岡芳子訳編「ベルナルド・ベルトルッチインタビ

ュー」においてベルナルド・ベルトルッチは本作を現

在形と確かめる。ポールの叫び、ジャンヌの跳躍から、

二人の情交を描きそこから二人の過去を語る語り口は

鮮やかである。二人が何故傷つき刺激的な性に全てを

賭けて打ち込んでしまうのかが過去に負った傷と連関

していることが伝えられていく。

 

 

 本作の性描写は過激と語られ社会問題に発展し裁判

が起こった。本国イタリアでは公開4日で上映禁止処

分が命じられた。日本においては「芸術かポルノか?」

のキャッチフレーズが話題を呼んだ。だが興行成績は

振るわなかったと言われている。

 

 ポルノ裁判に主演のマーロン・ブランドとマリア・

シュナイダーは出頭を命じられ有罪判決を受けた。

 この裁きに自分は疑問である。裁判で呼ばれるべき

人がいるとしたら監督のベルナルド・ベルトルッチや

製作のアルベルト・グリマルディではないのか?俳優

を裁いたことは酷い。

 私はポルノ裁判で厳しい判決を受けた本作を人間の

悲泣の心を探求した芸術美として熱く絶賛する。

 

  マーロン・ブランドは本作の出演を「拷問に遭って

いるようで身心共に傷ついた」と語っている。妻から

「セックス映画に出た」と叱責され親権を奪われた。

 マリア・シュナイダーは「人生最大の痛恨」と後悔

している。語っている。そのことは深く想像していか

なければならない。

 

 2016年に2013年ベルナルド・ベルトルッチイン

タビューが公開された。

 ポールが背後からジャンヌの身体を無理矢理奪う

シーンはマリア・シュナイダーに詳細を知らせず「罪

悪感はあるが後悔はない」とベルトルッチが語った

言葉が公開された。抗議が殺到し実際にレイプが

為されたのかと質問が起こりベルトルッチは叱責

された。ベルトルッチはジャンヌがポールに襲わ

れることは脚本に書いてありマリア・シュナイダー

は知っており、実際の性交はないと固く否定した。

 

 

 昭和六十三年(1988年)五月に大阪北浜三越

劇場で鑑賞し感涙を覚えた。『ラスト・タンゴ・

イン・パリ』は、苦悩の至奥を探った作品として

心に焼き付けられている。情けないことと怒る人

もいるかもしれないが人目も憚らず涙を流してし

まった。

 当時二十歳の私は感涙を流し美しき悲劇に銀幕

客席で出会った縁に感謝したが、演じたマーロン・

ブランドとマリア・シュナイダーは耐え難い傷を

負って苦悩していた。

 

 ベルナルド・ベルトルッチは男女の情交を通して

人間の悲しみを深く探求した。

 マーロン・ブランドとマリア・シュナイダーの

体当たり熱演によって成り立った悲劇である。

 

  私は、彼に彼自身のあらゆる経験、人間とし

  て俳優として生きてきた全てを持ち込んでほ

  しいと頼んだのです。彼が理解してくれたと

  き、私はポールにマーロンになってくれるよ

  うに頼んだ。

  

(柳澤一博責任編集『ベルナルド・ベルトルッチ頌』

 158頁 1988年2月1日 芳賀書店)

 

 ポールの少年時代の話はそのままマーロン・ブラ

ンドの少年時代に通じるとベルナルド・ベルトルッ

チは証言している。人間・俳優として歩んできたこ

とをこの映画に持ち込んで欲しいとベルナルドはマ

ーロンに頼み、ポールにマーロンになって欲しいと

頼み込んだ。役が演じる人に成っていった。

 悲しみを荷ってさすらう男ポールがマーロン・ブ

ランドに出会い、名演によって命を吹き込まれた。

 

 トム役のジャン=ピエール・レオ―が鋭い。フラ

ンソワ・トリュフォー監督作品の「アントワーヌ・ド

ワネルシリーズ」のアントワーヌの繊細さや『恋のエ

チュード』のクロードの純情と全く違う監督トムの冷

厳さを鮮やかに表現する。

 

 

 マッシモ・ジロティがマルセルを渋く勤める。『郵

便配達は二度ベルを鳴らす』や『テオレマ』でも不倫・

浮気のドラマで存在感を見せたが、不倫で愛したローザ

への想いを恋敵の夫ポールと競い合う愛人男の存在感

を見せた。

 

 ポールは自殺した亡き妻ローザの遺体の前で号泣

し彼女を失った痛みを激しく語り自殺したいが方法

が分からないんだと自問する。マーロン・ブランド

の悲しみの探求に圧倒される。

 

 売春婦の相手をしようとした男を追いかけ罵倒

するポールは怖い。女に不実な客の男を叱責する

激怒は妻ローザに自殺を思いとどまらせることが

成り立たなかった自身への怒りでもあろう。

 

 

 

 傷ついたポールとジャンヌは激しく抱きしめ合い、

情を交わす。妻を亡くし絶望の中にあるポールと恋

人が映画に自身を利用することに傷つき空虚さに悩

むジャンヌは生命の感覚を情交で確かめた。だがポ

ールは力任せにジャンヌを隷属させようとした。

 

 夢から覚めたのか、ジャンヌはトムとの生活を選

びポールを振る。

 

 冷たくても若い美男子のほうが太った中年おじさ

んよりいいというジャンヌの選択は厳しい。

 

 

 ジャンヌが逃げる。その時初めてポールはジャン

ヌは性玩ではなく、愛している人だったことに気付

く。

 

 ポールは45歳でホテル管理人をして妻に自殺され

た身の上を話す。

 

 ダンス会場で男女のドラマは一気に悲劇へと展開

する。

 

 鮮やかにタンゴダンスを踊る人々をベルトルッチ・

ストラーロは映す。ダンスシーンの巨匠ベルナルドの

演出が光り輝く。

 

 本作は華麗なるダンス会場を潰し混乱させるポー

ルが主人公である。これは確かにベルトルッチが自身

のキャリアに挑戦している。

 

 タンゴは踊る男女・女性女性の息がぴったり合う

ことが求められる種目である。自分は少し社交ダンス

を勉強したことがあるのでこれは呼吸が大事と下手

なダンスを踊りながら痛感した。私と一緒に踊る事

になった女性の方々、ごめんなさいね。

 

 本作におけるダンス会場のタンゴを踊った人々の

踊りは圧巻である。

 

 

 ポールとジャンヌの無茶苦茶な動きは痛々しく

て悲しい。マーロン・ブランドとマリア・シュナ

イダーが破壊的な動きで傷ついた男女の悲しみを

表現する。

 老女のスタッフに叱られたポールが臀部を露出

するシーンは悲しみが極まる。

 

 9か月前ドン・ヴィトー・コルレオーネで風格

を見せた大名優が下半身裸になって男の悲痛さを

見せる。マーロン・ブランドの役者魂に圧倒さ

れる。

 

 19歳のマリア・シュナイダーの熱演も光って

いる。

 

 ◎ここから結末に言及します。未見の方は御注

意下さい◎

 

 

 

 If music be the food of love

 (音楽が恋の糧なら聞かせてくれ)

 

 ポールが疲れながら語ったのは、『十二夜』

Twelfth  Night 冒頭のオーシーノ公爵の台

詞であった。

 

 オリヴィア姫に恋する余り、恋に恋してしまっ

たオーシーノは切ない片想いを糧として音楽に

癒しを求める。

 素敵な夢に生きているとも言えるし、恋にいの

ちを賭ける男の浪漫も感じる。

 

 この引用に息を呑んだ。最愛の妻を亡くし、よ

うやく得た新しいガールフレンドにも逃げられつ

つある中年男ポールは絶望の中に居て恋に恋して

いる。

 

 『十二夜』冒頭においてオーシーノは楽師に音

楽演奏を求め、「恋の糧ならば」と音楽を求めて、

オリヴィエへの片想いの悩みを癒そうとする。オー

シーノ本人は大変な状況だが、恋に恋する男の無垢

が浪漫と甘美のドラマの幕を開ける。

 

 ポールがここで音楽が恋の糧を求めるのは、自殺

した亡き妻への想いなのか、絶望的状況で出会い性

交によって出会ったジャンヌへの恋なのか?

 

 或いは悲しみの中でダンス会場で突然心に出てき

た「音楽が恋の糧なら」が言葉に成り、音楽を求め

るようになったのか?

 

 答えを特定することは無理である。

 

 冒頭の台詞の引用であっても、オーシーノの切な

さがフィルムに香る。流石マーロン・ブランドだ。

 

 ジャンヌと出会い抱き合ったが性奴隷にして逃げ

られ、彼女の身体だけでなく愛しいんだという意識

が芽生えたが故にオーシーノの言葉が出たのかもし

れない。

 

 「ポールにマーロンになってもらう」とベルナル

ドは語った。「オーシーノがポールになって、ポー

ルがマーロンになった」ことをベルナルドは撮った。

この劇中劇引用はマーロン・ブランドがオーシーノ

を演じ、オーシーノがマーロン・ブランドになった

貴重な記録でもある。

 ◎結末に言及します。鑑賞予定の方は以後の記事

はスルーして下さい。本篇御覧の後ご高覧頂きます

ようお願い申し上げます。◎

 

 ジャンヌはストーカーのように追いかけてく

るポールから走って逃げる。ポールの哀れさは

決定的である。失恋してもポールはジャンヌを

追い回すことが生きる喜びなのだ。

 

 ポールは遂に名前のかけがえのなさに覚醒し

愛する女性にその名を問うた。

 

 ジャンヌは拳銃の引き金を引きポールに致命

傷を与える。

 

 断末魔にベランダに出て噛んでいたガムをテ

ラスに付けてポールは倒れる。

 

 ジャンヌは「彼は私をレイプしようとした。

名前も知らない」と正当防衛であることを自身

に言い聞かせる。

 

 ポールが悲しみのどん底で出会ったジャンヌ

と情を交わし彼女を隷属させ振られて彼女が生

き甲斐で愛している事に気付く。彼女への愛を

告白し愛に目覚めた時に愛する人に射殺される。

 

 これほど完璧に悲劇美を見せた映画を他に知

らない。

 

 ベルナルドはあいまいな結末を重視し物語を

観客が鑑賞後様々に想像する道を示した演出家

だった。その彼が結末に痛ましさを鮮やかに打

ちだしたことは印象的だ。

 

 明確な悲劇美に感嘆した。

 

 悲惨・悲痛な物語の主人公ポールが愛する人

に射殺される前に恋に恋していたことは悲劇の

華を豊かにしている。

 

 ◎

 2022年6月24日に発表した記事を再編した。オ

ーシーノの「音楽が恋の糧なら」が引用を主題に

今回は尋ねた。テーマはウィリアム・シェイクスピ

アで投稿する。

 

 マーロン・ブランド生誕百年

              2024年4月3日

 

 

                   合掌

 

 

               南無阿弥陀仏

 

 

                  セブン