地獄の黙示録
『地獄の黙示録』
Apocalypse Now
映画 トーキー カラー
劇場公開版 153分
完全版 202分
ファイナルカット版 182分
1979年8月15日 アメリカ合衆国公開
昭和五十五年（1980年）二月十六日 日本先行公開
昭和五十五年（1980年）三月十五日 日本劇場公開
製作会社 アメリカンゾイトロープ
製作 フランシス・フォード・コッポラ
原作 ジョゼフ・コンラッド(『闇の奥』)
脚本 ジョン・ミリアス
フランシス・フォード・コッポラ
音楽 カーマイン・コッポラ
フランシス・フォード・コッポラ
撮影 ヴィットリオ・ストラーロ
編集 リチャード・マークス
リサ・フラックマン
ジェラルド・B・グリーンバーグ
ウォルター・マーチ
出演
マーロン・ブランド(カーツ大佐)
ロバート・デュヴァル(ビル・ギルゴア中佐)
マーティン・シーン(ベンジャミン・L・ウィラード)
フレデリック・フォレスト（ジェイ・“シェフ“・ヒックス）
サム・ボトムズ（ランス・B・ジョンソン）
ラリー・フィッシュバーン（タイロン・“クリーン”・ミラー）
アルバート・ホール（ジョージ・“チーフ“・フィリップス）
| ジョージ・“チーフ”・フィリップス） |
| デニス・ホッパー（報道写真家） |
ハリソン・フォード（ルーカス大佐）
| G・D・スプラリドン（コーマン将軍） |
ジェリー・ジーズマー（CIAエージェント）
スコット・グレン（コルビー大尉）
ケリー・ロッサル（マイク）
ロン・マックイーン（負傷兵）
トム・メイソン（配給係の軍曹）
シンシア・ウッド（キャリー）
コリーン・キャンプ（テリー）
リンダ・カーペンター（サンドラ）
| ジェリー・ロス（ジョニー） |
ハーブ・ライス（ローチ）
R・リー・アーメイ（パイロット）
監督 フランシス・フォード・コッポラ
◎
令和二年(2020年)三月二日十三時二十分
TOHOCINEMAS二条スクリーン10において
ファイナルカット版鑑賞
◎
1969年。ベトナム戦争の時代にベン
ジャミン・L・ウィラードは大尉の職に
就いていた。
南ベトナム軍事援助司令部・研究監
視団に活動する工作員でもあるウィラ
ードは酒に酔い痴れる日々を過ごして
いた。
CIAによる要人暗殺の秘密の任務を果
たしてきたウィラードに対して軍は多大
な評価を送っている。
ニャチャンの第一野戦軍本部はウィラ
ードを呼ぶ。ルーカス大佐は任務について
説明する。
ウォルター・E・カーツ大佐はアメリカ
陸軍特殊部隊に所属する軍人だが、上官の
許しを得ずに戦闘を行っていた。カーツは
北ベトナム軍・南ベトナム解放戦線・クメ
ール・ルージュに対して戦闘を為していた。
カンボジア東部においてアメリカ軍・山岳
民族軍・クメール民兵部隊を率いるカーツは
王国を築いていた。王国に暮らす人間達は
カーツを神のように崇めている。
カーツがベトナム人四人を殺害したことを
ルーカスはウィラードに告げる。ルーカスはウ
ィラードにカーツ暗殺を命じる。
フィリップス上等兵曹指揮の海軍河川哨戒
艇に仲間のランス、クリーン、シェフと共に
乗ったウィラードはカーツ王国を目指す。
「空の騎兵隊」の異名を持つ第9航空騎兵
連帯第1大隊とウィラードは合流した。
指揮官ビル・ギルゴア中佐はランスがサー
ファーであることを知ると自身が熱中している
サーフィンへの欲望が燃えた。
ギルゴアはヘリコプター部隊を指揮して拡声器
で『ワルキューレ』を奏でベトナム人が住む集落
をナパーム弾で空爆し焼き払った。
「朝のナパームは格別」と語るギルゴアから
ウィラードと仲間たちは逃げて米軍基地に立ち
寄る。プレイボーイによる軍人慰安公演が開催
される。舞台のセクシーな女性芸能人に発情した
男性兵士達が暴れ公演は中止になる。
ウィラード達は川を進む。重大な任務を課せ
られたウィラードは仕事を部分的にチーフに話す。
ウィラードと仲間たちは敵の襲撃を受ける。ラン
スが発煙手榴弾を作動させてしまう。クリーンが
戦死する。
ウィラードと仲間たちはフランシス人のプラン
テーションに立ち寄りクリーンを埋葬する。
女性ロクサンヌ・サローとウィラードは惹かれ
合う。
ウィラードと仲間たちは川を進む。上流において
山岳民が槍を投げ、チーフの身体に刺さった。チー
フは死亡する。
カーツが王国を建てたクメール寺院にウィラード
一行は着いた。アメリカのフォトジャーナリストの
男がランス、シェフ、ウィラードを迎えた。ウィラ
ードとシェフはカーツ探索に出かける。シェフは二
人が帰還しない場合は、前哨基地に空爆を要請を出
すことを指示された。
ウィラードは山岳民に捕らえられカーツの元に
送られ竹籠に監禁された。カーツはシェフの生首
をウィラードの前に落とす。ウィラードは恐怖を
覚える。
ウィラードは竹籠から解かれる。
カーツはウィラードに語りかける。
◎戦場 男対男◎
フランシス・フォード・コッポラ Francis
Ford Coppolaは1939年4月7日に誕生した。
『地獄の黙示録』は40歳で発表した監督作品
である。
ヴィットリオ・ストラーロ Vittorio Storaro
は1940年6月24日イタリアローマに誕生した。
「光で書く」撮影技術で濃密で華麗な映像を映
し出している。38歳で『地獄の黙示録』の濃密
な映像を撮った。
マーロン・ブランド Marlon Brandoは19
24年4月3日に誕生した。アメリカ映画・世界
映画の大スタア・大名優である。2004年7月1
日、80歳で死去した。
55歳でカーツ大佐を演じた。ジャングルに
王国を作り、刺客ウィラードとも対話する軍
人カーツを重厚に演じた。
ロバート・デユヴァルは1931年1月15日に
誕生した。
本名はRobert Selden Duvallである。サー
フィンへの欲望の為にベトナムの人々が暮らす
村落を焼き払うギルゴアの狂気を凄み豊かに
演じる。
マーティン・シーン Martin Sheenは1940
年8月3日にアメリカ合衆国オハイ州デイトンに
誕生した。本名はRamón Gerardo Antonio Estéves
ラモン・ジェラルド・アントニオ・エステべス
である。
39歳で軍人であり刺客のウィラードを鋭く
演じた。
ここで書いたスタッフ・キャストの年齢はアメ
リカ合衆国初公開時の年である。
ベトナム戦争の残酷さを背景としつつ、王国建
設者軍人に刺客軍人が心身の全てを挙げて体当た
りでぶつかる。男対男の戦いのドラマと見た。
スケールの大きさに圧倒される。ベトナム戦争
の時代を描く為にフランシスはフィリピン共和国
でロケーションを行った。
アメリカ合衆国とベトナム社会主義共和国の
国交が無かった。アメリカ合衆国軍の協力は得
られなかったのでフィリピン共和国の協力でF‐
5戦闘機やUH‐1ヘリコプターの撮影が行われる
こととなった。
冒頭はドアーズの『ジ・エンド』が流され、
アメリカ軍のベトナム空爆が描かれる。ウィ
ラードが拳で鏡台を叩き出血する。これは撮
影中の事故であったが、マーティン・シーンが
スタッフに撮影続行を頼んで撮られた。
アメリカ軍がベトナム戦争でベトナムの民
を殺していることは描写されている。フランシ
スがベトナム戦争におけるアメリカ合衆国の
残忍さを見つめたことはアメリカ映画監督の
慧眼を見る。
その一方でカーツがカンボジアで王国を築
くエピソードはベトナム人やカンボジア人へ
の差別を感じる。
こうした残念な点があるのだが、映像迫力
は凄まじい。
1976年3月から1977年5月の2年2か月に撮
影は為された。編集に2年の歳月がかけられた。
製作費は3100万ドル（日本円90億円）かかっ
たという。
本作に関しては、精緻なドラマ作りを、全く
意識してないというよりも、投げ出して本能と
動物的勘と直感で撮っているという印象を受け
た。ベトナム戦争の狂気を描くという壮大な試
みである。フィリピンの台風で撮影は厳しい状
況が続いたと言われている。
長谷川和彦から「『地獄の黙示録』の主題は
何か？」と問われたフランシスは「途中で分か
らなくなった」と正直に答えている。
カーツ暗殺の密命を託されたウィラードは
川を進みながらベトナム戦争の残酷さを見る。
ベトナムの民達はアメリカ軍に殺される。ウ
ィラードの戦友たちも戦闘で死んでいく。カ
ーツの王国で標的カーツと語り合い、恐怖を
受け入れ死をも覚悟するカーツの戦士の心意気
を見る。
映画の凄みは強烈である。問題点はあるも
のの鑑賞後忘れられない印象を与えてくる。格
別の存在感を見せる写真であることは間違い
ないだろう。
撮影スタッフ・キャスト全員に「お疲れ様で
した」と心の中で言わざるを得ない。高いギャ
ラを貰っているマーロンも大変な撮影だったこ
とは素人でも察せられる。
キャストが中々決まらなかったことでも有名
である。
ウィラードの候補にはスティーヴ・マックィ
ーン、アル・パチーノが挙がった。アル自身断
ったことをインタビューで述べている。もし、
『ゴッドファーザー』で父ヴィトー・息子マイ
ケルを演じたマーロンとアルが狙われるカーツ
と狙うウィラードを演じていたら、新たな歴史
的伝説になっていたことは確実だろう。これは
実現しなかったが、心の中で想像を刺激してく
る案である。
当初内定していたハーヴェイ・カイテルは二週
間で降板した。
結果的に役を射止めたマーティンが大健闘し
た。
ギルゴアの候補にはジーン・ハックマンが挙
がっていたという。ジーンのギルゴアも魅力的
だったとは思うが、「朝のナパームの匂いは格別
だ」と虐殺放火の後快感を語るギルゴアを、ロバ
ート・デュヴァルが鋭く表現した。
音楽に冨田勲を呼びたいとフランシスは望んだ
が実現しなかった。父カーマイン・コッポラが音
楽を担当することとなった。
ベルナルド・ベルトルッチ監督『暗殺の森』に
感激したフランシスは、ヴィットリオ・ストラーロ
に自身の作品を撮ってもらいたいと長年望んでい
た。
『ゴッドファーザーPARTⅡ』のキャメラにヴィッ
トリオを呼びたがっていたという研究がある。
遂に本作でフランシス＆ヴィットリオの演出・撮
影チームは実現した。ヴィットリオは本作を「オペラ」
と語ったという。
わたくしにとっての本作との出会いは1982年3月
21日の『水曜ロードショー』における日本語吹替版
視聴であった。
フランス人入植者のエピソードはようやくファイ
ナルカット版で見聞し得た。
ロクサンヌ役のオーロール・クレマンが綺麗だ。
4年後『エル・スール』でイレーネ・リオスことラ
ウラを勤める方である。
地獄の戦場においてカーツとウィラードは
語り合う。恐怖を確かめ怖いことを友にする。
刺客の任務を命じられたならば果たすことは
大事とするカーツの武人の心にウィラードは
打たれる。
二人は標的と刺客の関係だが、師と弟子の
ようでもあり、精神的父子のようにも見える。
ウィラードにとってカーツは自身の手で屠り
弔うことが課題になる人物となって行く。狂気
と殺意の戦場においてウィラードは大事な存在
であるからこそカーツに引導を渡したいという
心を覚える。愛憎がせめぎ合い混ざり合って大
詰の凶行に向かっていく。
犠牲になる水牛は本当に屠殺されているだ
ろう。
ウィラードとカーツの男対男の情は流血に
よって完成するドラマなのだ。
合掌
