銀嶺の果て | 俺の命はウルトラ・アイ

銀嶺の果て

『銀嶺の果て』
映画 トーキー 89分 白黒
昭和二十二年(1947年)八月五日封切
製作国 日本
製作言語 日本語
製作 東宝
製作 田中友幸
原作 黒澤明
脚本 黒澤明
   谷口千吉
撮影 瀬川順一
美術 川島泰三
録音 亀山正二
照明 平田光治
音楽 伊福部昭
監督補佐 宇佐美仁
音響効果 三縄一郎
編集 長沢嘉樹
特殊技術 東宝技術部
現像 キヌタラボラトリー
 
出演
 
三船敏郎(江島)
志村喬(野尻)
 
若山セツ子(春坊)
河野秋武(本田)
小杉義男(高杉)
高堂国典(スキー小屋の爺)
深見泰三(署長)
坂内栄三郎(刑事)
大町文男
望月信子
浅田健三(新聞記者)
石島房太郎(鹿の湯の主人)
登山晴子(鹿の湯の女中)
岡村千鶴子(鹿の湯の女中)
笠井利夫(学生B)
石田鉱(学生C)
花沢徳衛
 
監督 谷口千吉
 
山崎進蔵→河野秋武
 
高堂国典=高堂黒天
 
鑑賞日時場所
平成十五年(2003年)七月六日
京都文化博物館
 三人の強盗が銀行を襲撃した事が報道
された。江島・野尻・高杉の三人組は長野
の雪山に逃げる。雪崩で高杉は呑まれてし
まった。野尻と江島は命を取り留めスキー
小屋に行く。老人と孫娘春坊が仲良く暮ら
していた。登山家の本田も居た。七日間
は動けないと江島・野尻は聞かされた。
 春坊の歌声を聞いた野尻は自身の子供を
想い起した。
 江島は伝書鳩の命を奪う。逃避行の緊張
と恐怖から世に自分達が潜伏していること
がばれないようにと用心深くなっていた。
 本田は江島に脅されて野尻と共に案内す
る。
 雪山で野尻は事故死する。江島は命を取
り留めるが警察が来ていた。本田は江尻から
謝罪を受ける。護送される電車の中で野尻は
山を見たいと言う希望を語った。
 
 
 

 三船敏郎は大正九年(1920年)四月一日に

誕生した。 

 平成九年(1997年)十二月二十四日、七十

四歳で死去した。

 獣性の迫力で世界映画の歴史に存在感を示

した。

  
 
 

 志村喬は明治三十八年(1905年)三月十二

日に兵庫県に誕生した。

 本名は島崎捷爾(しまざき・しょうじ)で

ある。出演映画は四百本を超える。日本映画

史を支えた大名優である。

 昭和五十七年(1982年)二月十一日、七十

六歳で死去した。

 

 谷口千吉は明治四十五年(1912年)二月十九

日に誕生した。平成十九年(2007年)十月二十

九日、九十五歳で死去した。三十五歳で監督第

一作である『銀嶺の果て』を演出した。

 
 

 黒澤明は明治四十三年(1910年)三月二

十三日東京府に誕生した。映画監督として剛

腕を振るい迫力に富む大作を発表していた。

 平成十年(1998年)九月六日、八十八歳で

死去した。

 

 三船敏郎の俳優出演第一作と言われているが、

『講座日本映画』第五巻「戦後映画の展開」(

1987年1月14日発行 岩波書店)における佐藤

忠男のインタビューで三船は「その前に一番最

初に出たのが『新馬鹿時代』(一九四七)、これ

は山嘉次さんのシャシンで」と語っている。

 『新馬鹿時代』封切は「前篇」が1947年10月

12日、「後篇」が1947年10月26日である。自分

は『新馬鹿時代』は未見である。三船自身は封

が後になったこちらが第一作と証言している。

 

 野獣の個性の江島に三船敏郎、罪の意識に悩む

野尻に志村喬の配役である。雪山のアクションに

谷口千吉のシャープな感性が光る。欲深くて荒っ

ぽい野心家強盗江島を三船敏郎が二十七歳の若さ

で鮮やかに表現する。

 

 老人と孫春の交流を見て罪を反省し悩む野尻を

志村喬が繊細に尋ねる。

 

 脚本黒澤明は原作提供者でもあるのだが、若き

野獣江島と苦悶中年野尻を対比させ、男二人の葛

藤を迫力豊かに描く。

 

 

  三船  シナリオは黒沢さん。編集も、撮影

      済みフィルムは東京に送って、黒沢

      さんがどんどん編集していました。カ

      ット足らんぞと言って電話かかってく

      るわけですよ。それ撮り直したりね。

      半年くらいかかったんじゃないかな。

      映画の撮影隊が山の中にこもっている

      らしいというので、食糧がヤミだろう

      と警察が調べにきたりね。白馬と唐松、

      黒菱なんていう山を上りましたね。白

      馬では明大の小屋と成城学園の小屋を

      ずっと借りていたんです。

  (三船敏郎インタビュー「戦後映画を駆け抜け

   る」

  『講座日本映画』第五巻「戦後映画の展開」14

  3頁 1987年1月14日発行 岩波書店)

 

 谷口千吉は冬のアルプスにロケを行った。撮影隊

は雪山の寒さに耐えてアクションドラマを撮った。

 脚本黒澤明・主演三船敏郎・志村喬のチームはこ

の後数々の名画写真を産み出して行くが、本作は間

違いなく原点であろう。

 

 高堂国典は『七人の侍』において「やるべし」を

語る儀作老人を演じる。「やるべし」の台詞回しは

有名だが、本作の老爺も強烈な印象を与えてくれて

いる。

 

 監督谷口千吉・主演三船敏郎のコンビも又雪山

人間ドラマの名チームを成していたことを強調し

たい。

 

                    合掌