風と女と旅鴉 昭和三十三年四月十五日封切 加藤泰監督 初代中村錦之助主演作品 | 俺の命はウルトラ・アイ

風と女と旅鴉 昭和三十三年四月十五日封切 加藤泰監督 初代中村錦之助主演作品

『風と女と旅鴉』

映画 トーキー 91分 白黒

昭和三十三年(1958年)四月十五日

 

制作国 日本

制作言語 日本語

制作 東映京都


 

企画 辻野公晴

    小川貴也

 

脚本 成沢昌茂

撮影 坪井誠

音楽 木下忠司

 

美術 井川徳道

照明 中山治雄

録音 墨関治

編集 宮本信太郎



 

出演

 

中村錦之助(風間の銀次)


 

長谷川裕見子(おちか)

丘さとみ(おゆき)

 

薄田研二(銭屋庄左衛門)

進藤英太郎(鬼鮫の半蔵)

 

上田吉二郎(源造)

加藤嘉(甚兵衛)

殿山泰治(健太)

河野秋武(片目の寅吉)

 

星十郎(三次)

長島隆一(吾作)

中村時之介(辰)

香住佐久良(滝造)

矢奈木邦二郎(医者)

中村幸吉(若者)

遠山恭二(町人)

国一太郎(町人)

木下サヨ子(老婆)

源八郎(近所の男)

熊谷武(農夫)

 

三國連太郎(刈田の仙太郎)


 

監督 加藤泰

 

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 中村錦之助=初代中村錦之助→初代萬屋錦之介

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 鑑賞日時場所

 平成二十一年(2009年)六月十四日

 京都文化博物館 

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 平成二十五年(2013年)六月十七日発表

 記事・令和五年(2023年)十一月十八

 日発表記事を再編している

 ☆

 
 

 山道を一人の渡世人が歩む。

 

 この中年男。名を刈田の仙太郎という。

 

 仙太郎は水を飲みたがっている。

 

 水を飲もうとする。

 

 背後から若い渡世人が現れる。

 

 風間の銀次と言う名の青年だ。

 

 銀次はドスを抜いて、仙太郎をからかう。


 

 仙太郎は亡くなった息子を想起して、銀次に親近感

を抱く。

 

 銀次も又、亡き父親の面影を仙太郎に見て、ふたり

の間に篤い絆が産まれる。

 

 銀次は故郷に帰ってきたのだ。彼の父は村で強盗

殺人を働き、母親は「強盗の女房」ということで村人か

ら攻撃を受けて投身自殺し、銀次も村を出たのだ。

 

 村人源造は銀次が帰ってきて強盗と間違えて撃って

しまう。

 

 銀次は農夫甚兵衛の家に担ぎ込まれ、介抱を受ける

が、甚兵衛は強盗の息子と聞いて、憤慨し家を出ても

らいたいと語るが、仙太郎が頭を下げる。


 

 村の実力者銭屋庄左衛門は、盗賊半蔵一味が村の

金を狙っていることもあり、仙太郎に用心棒になっても

らいたいと頼む。

 

 仙太郎は「銀次も一緒にお願いします」と願い出るが、

銭屋は銀次のことを否定していることもあり、不満に思う

が仙太郎の頼みもあり、渋々承知する。

 

 甚兵衛の娘おちかは男にだまされ、心身に傷を負って

おり、心に深い傷を持つ銀次と意気投合し、銀次はおちか

に接吻する。

 

 しかし、銀次は、銭屋で働く娘おゆきが洗濯物をしてい

る時に彼女に惹かれる。

 

 十手持ちの健太は、おちかにその光景を見せまいと

するが、おちかに見られてしまう。

 

 おちかは「あたしに勝ったと思ったら大間違いだよ」と

おゆきに恋の鞘当を宣言する。

 

 銭屋のもとに半蔵の手下の寅吉と三次が強請に現れ

る。

 

 仙太郎は三次を捕縛するが、逃走した寅吉を追う銀次

は五両の金を見せられ、思わず解き放ってしまう。

 

 祭りの夜。

 

 半蔵が大八車に乗って現れ、村の千両箱を貰って行くぞ

と銭屋に宣言したうえに、銀次は五両の金で買収したと述

べる。

 

 村人達は、銀次をなじる。おちかは、おゆきを選びつつあっ

た銀次の心に怒りもあってか強く糾弾してしまう。

 

 半蔵は仙太郎に明朝六つにこいと語る。甚兵衛が「金を取

らないでくれ」と懇願すると、非情にも半蔵は彼を斬殺した。

 

 おちかが父の非業の死を見て絶叫する。

 

 銭屋はどうしても銀次を信用できず冷たい態度をとり続ける。

 

 仙太郎はあくる日の六つに約束の場所に現れるが、卑怯な

半蔵は彼を鉄砲で撃ち怪我を負わせる。

 

 「仙太郎は絶体絶命か?」と思われるが、銀次の活躍で救わ

れる。

 

 冷酷な半蔵の所業に対して、銀次は怒りの刃を向けた。


 

 加藤泰(かとう・たい)監督は大正五年(1916)年八月二十四日、

兵庫県に誕生した。母方の伯父に映画監督山中貞雄がいる。

 

 少年時代に伊藤大輔監督の映画を見て感激し、映画の道を

志す。

 

 伊藤大輔は泰にとって生涯の師であった。

 

 昭和十二年(1937年)に東宝に入社し、満州映画協会を経て、

戦後の昭和二十一年(1946年)に大映に入り、師伊藤大輔監督

の助手となる。

 

 昭和二十二年(1947年)の伊藤の生涯の代表作『素浪人罷通

る』では加藤泰通の名で演出助手を担当している。

 

 黒澤明監督『羅生門』においても助監督を担当している。

 

 レッドパージで大映を追われた後、1956年東映に入る。

 

 演出に関しては、徹底的に題材を追求する非妥協の姿勢を

貫いた。

 

 長回しが得意で、対象を粘り強く追う視座を大切にして、演出が

なされていった。

 

 ニコラス・レイ監督の『追われる男』を基盤にしたという。

 

 心に傷と悲しみを持った二人の男の友情のドラマだ。

 

 それが本作『風と女と旅鴉』である。

 

 主演俳優達にはノーメイクで撮影に臨むことが課せられた。

 

 錦之助がノーメイクで銀次を熱演する。

 

 父親が強盗殺人犯であったために、母親はそのことを責め

られて投身自殺をした。そのことに深く傷ついた銀次は村に

帰ってきても、村人から冷たい仕打ちを受けて、更に深く傷つく。

 

 仙太郎は息子を亡くし、その面影を銀次に見て、人生を前向き

に歩んで欲しいと願う。

 

 三國連太郎の仙太郎が渋く深く重い。

 

 人生の傷と悲痛さを背負って歩む男の年輪が、渋い芸に光って

いる。


 

 傷ついた男二人の友情の物語が、観客の胸を暖める。

 

 銀次は「世の中は金」で、金さえあれば全て買えるのだろうと

考えている。

 

 銀次「酒・女・博奕。考えただけでゾクゾクするぜ」

 

 仙太郎「金で買(け)えねえものもあるんだぜ」


 

 成沢昌茂の台詞が鋭い。

 

 銀次は仙太郎が言いたいことは「心」だと喝破するが、素直

に認められない。

 

 だが、仙太郎の真心に触れて、金で買えない心の尊さを学ん

で行くのだ。

 

 長谷川裕見子のおちかは妖艶で大人の女性の色気がある。

 

 若いおゆきに対して、「負けた」と痛感する悔しさの表現も怖い

ものがあった。

 

 父甚兵衛の死を見て嘆くシーンは凄絶であった。

 

 加藤嘉の甚兵衛は渋く強い頑固親父だ。

 

 百姓の親爺の一徹さが光る。

 

 畑仕事のシーンで、仙太郎を注意しながら野良仕事を教える

仕種も鋭い。

 

 村を守る為に、半蔵の横暴に立ち向かい犠牲となる甚兵衛の

勇気は観客の心に強烈な印象を与える。

 

 丘さとみのおゆきは可憐で可愛らしさが印象的だ。

 

 進藤英太郎は堂々たる体躯で悪の親分の存在感を重厚に

表現する。

 

 薄田研二は銭屋の複雑な心境を深く伝えてくれた。銭屋は銀次

の父親に対する憎しみを捨てきれず、どうしても銀次に冷たく当た

ってしまう。仙太郎には感謝しつつ、銀次には冷酷に接するという

心を鮮やかに明かしてくれた。


 

 殿山泰司の健太は女好きの十手持ちで、重い物語の中で笑いを

呼び、一息つかせてくれる空間を現出してくれている。

 

 上田吉二郎が気の弱い源造を渋く演じている。

 

 河野秋武の凄みも強烈だ。

 

 大詰の銀次と半蔵の激突も迫力が豊かで、加藤泰の

殺陣の演出の凄まじさが輝く。

 

 銀次は仙太郎の無事を確認して一人で村を去っていく。

 

 傷ついた男が、優しい兄貴分の心に触れて、勇

気に目覚めて一人で歩んで行く。

 

 仙太郎の歩みに始まって、銀次の歩みで終わる。

 

 長谷川伸文学を想起させてくれる情感がある。
 

 加藤泰演出の暖かさが観客の心に感動を与えて

れる。

 

 やくざ映画・股旅映画を代表する大傑作である。

 

 加藤泰は昭和六十年(1985年)六月十七日

に死去した。

 

 初代中村錦之助が加藤泰の熱き指導に応え

銀次の生命をフィルムに燃やした。


 

                               

                          文中一部敬称略


 

                                 合掌



 

                            南無阿弥陀仏


 

 

                                セブン