大菩薩峠 三部作 衣笠貞之助脚本  三隅研次・森一生監督 市川雷蔵主演作品  | 俺の命はウルトラ・アイ

大菩薩峠 三部作 衣笠貞之助脚本  三隅研次・森一生監督 市川雷蔵主演作品 

『大菩薩峠』
映画 トーキー 106分 カラー
昭和三十五年(1960年)十月十八日公開
製作国 日本
製作言語 日本語
製作 大映京都
 
製作 永田雅一
企画 松山英夫
    南里金春
 
原作 中里介山
脚本 衣笠貞之助
 
撮影 今井ひろし
音楽 鈴木静一
美術 内藤昭
 
出演
 
市川雷蔵(机竜之助 机龍之助)
 
中村玉緒(お浜 お豊)
本郷功次郎(宇津木兵馬)
 
 
菅原謙二(近藤勇)
根上淳(芹沢鴨)
見明凡太郎(裏宿の七兵衛)
 
島田竜三
千葉敏郎
丹波又三郎
阿井美千子
藤原礼子
舟木洋一
真塩洋一
山路義人
 
笠智衆(机弾正)
島田正吾(島田虎之助)
 
山本富士子(お松)
 
監督 三隅研次
 
 

市川雷蔵=二代目市川莚蔵

      =八代目市川雷蔵

令和二年(2020年)七月二十五日
京都みなみ会館にて鑑賞
 大菩薩峠の頂きで黒紋付着流しの剣士
机竜之助は老人の巡礼を斬殺した。巡礼の
孫娘お松を盗賊裏宿の七兵衛が助ける。
 
 机道場に帰ってきた竜之助のもとに宇津木
文之丞のお浜が、夫との御嶽山奉納試合の
勝を譲って欲しいと頼むが拒絶される。帰途
水車小屋でお浜は龍之助に身体を奪われる。
 
 竜之助は文之丞を試合で倒しお浜を連れて
逃げる。
 
 文之丞の弟兵馬は、父弾正から妖剣音無し
の構えを破る為に精進が必要と説かれ、剣聖
島田虎之助に学ぶ事を決意する。
 
 江戸で竜之助は虎之助に出会い貫禄に緊張
する。新選組に出来りするようになった龍之助
はある夜土方歳三らが、虎之助に跳ね飛ばさ
れるように圧倒された光景を見て感嘆する。
 
 兵馬は亀田道場に学び、お浜と知り合い愛
し合うようになる。
 
 竜之助は兵馬から果たし状を受け取るが、口
論から無残にもお浜を斬殺し、一子郁太郎を残
し江戸を去る。
 
 京都に現れた竜之助は、芹沢鴨を頼って新選組
に入る。
 
 一方兵馬は近藤勇の世話で新選組に入った。
 
 お松は京都に来ていたが、偶然龍之助と芹沢
の近藤暗殺計画を聞いてしまったことを見つけ
られ、御簾の間に連れ込まれる。
 
 竜之助の妖気が光る。
 
 兵馬が竜之助に迫る。
 
 ☆妖気の剣士 竜之助☆
 
 

 市川雷蔵は昭和六年(1931年)八月二十九

日京都府京都市に誕生した。出生名は亀崎章雄

である。

 三代目市川九團次の養子となり、昭和二十一

年(1946年)十一月二代目市川莚蔵の芸名で

初舞台を踏む。

 昭和二十六年(1951年)四月、三代目市川壽

海の養子となり同年六月大阪歌舞伎座において八

代目市川雷蔵を襲名し本名を太田吉哉に改める。

 昭和二十九(1954年)大映所属の俳優となっ

た。

 大映において映画俳優・映画スタアとなった

雷蔵は深い演技力で存在感をしめした。

 冷酷非情の剣士机竜之助(机龍之助)は当たり

役である。

 昭和四十四年(1969年)七月十七日に三十七

歳で死去した。

 

 

 衣笠貞之助は明治二十九年(1896年)一月一

日に誕生した。本名を小亀貞之助と申し上げる。

無声映画時代は女形役者として活動し後に監督

・脚本家に転身し数数の名画のシナリオ・演出を

担当し、日本映画を支えた。

 昭和五十七年(1982年)二月二十六日に死去し

た。

 

 三隅研次は大正十年(1921年)三月二日に誕

生した。

 日活京都に入り、昭和十七年(1942年)招集さ

れ、滿洲配属となり、昭和二十二年(1947年)まで

シベリアで抑留生活を送る。

 

 戦後大映に入り、衣笠貞之助や伊藤大輔に学

んだ。

 

 時代劇巨匠として数々の傑作を発表した。秀麗

な映像で妖気を描いた。

 昭和五十年(1975年)九月二十四日五十四歳で

死去した。

 

 市川雷蔵の竜之助は巡礼を斬り、お浜の身体を

奪い、文之丞を斬り、お浜も殺すという極悪人であ

る。

 

 お松を前に御簾の間で見せる残酷美は凄まじい。

 

 山本富士子はお松で可憐さを見せる。

 

 中村玉緒はお浜・お豊二役を鮮やかに演じ分け

る。

 

 本郷功次郎は兵馬の直向きさを探求する。

 

 島田正吾の虎之助の殺陣は圧巻である。

 

 三隅研次は剣で血を流す竜之助の悪の華を鮮明

に咲かせた。

 

 市川雷蔵と本郷功次郎の対決に緊張感が走っ

た。

 

『大菩薩峠 竜神の巻』

 

映画 トーキー 106分 カラー

昭和三十五年(1960年)十二月二十七日公開

製作国 日本

製作言語 日本語

製作 大映京都

 

製作 永田雅一

企画 松山英夫

    南里金春

 

原作 中里介山

脚本 衣笠貞之助

 

撮影 今井ひろし

音楽 鈴木静一

美術 内藤昭

録音 大角正夫

照明 岡本健一

編集 菅沼完二

スチール 小牧照

 

出演

 

市川雷蔵(机竜之助 机龍之助)

 

中村玉緒(お豊)

本郷功次郎(宇津木兵馬)

 

近藤美恵子(お玉)

藤原礼子

片山明彦(金蔵)

三田登喜子(お杉)

中村豊

村上不二夫

山本弘子

清水元

真塩洋一

須賀不二男

石黒達也

小堀阿吉雄

見明凡太郎(裏宿の七兵衛)

 

 

山本富士子(お松)

 

監督 三隅研次

 

 

 

令和二年(2020年)八月四日

京都みなみ会館にて鑑賞

 

 机竜之助と宇津木兵馬は戦うもお互いを

見失った。

 

 お松は裏宿の七兵衛より島原から身請け

され、祖父を斬った下手人は机竜之助である

ことを知らせる。

 

 竜之助は街道で酒井新兵衛に試合を迫られ

るが、植田丹後守の仲裁を受け、彼の屋敷に

世話になりお豊と再会する。

 

 お豊に横恋慕を燃やす金蔵は仲間と図って

彼女を誘拐する。

 

 上野の旅籠で竜之助は新兵衛と再会し天誅

組の松本奎堂と知り合う。天誅組は破れ、彦根

藩・藤堂藩に追われ、竜之助は爆薬で視力を失

うが切り抜け竜神の森に逃げる。

 滝で目を洗う竜之助はお豊と再会するが、彼女

は金蔵に無理矢理妻にされていた。

 

 お松は黒滝の鬼蔵に拉致されたが、お玉・米

友に救出される。兵馬が金蔵の旅籠に滞在する。

 

 お豊は竜之助の危機を感じ彼が籠る篭堂に

登る。金蔵はお豊に逃げられたことを怒り放火

する。

 

 竜神の森で兵馬は捨身の突きで攻めるが竜

之助は滝壺に逃げる。

 

 第二部は机竜之助の魔性を市川雷蔵が鮮や

かに魅せる。悪の華が華麗に咲く。視力を爆薬

で失うが、妖気は益々盛んになるという凄みを

雷蔵が鋭く表現する。

 

 中村玉緒がお豊の妖艶さを豊かに示す。二十

代で豊かな表現力を明かしている。

 

 本郷功次郎は兵馬の直向きさを探求する。

 

 山本富士子のお松は綺麗だ。

 

 見明凡太郎の七兵衛は渋い。

 

 片山明彦がストーカー男金蔵を粘り強く演じ

る。

 

 純情な児童や真面目な青年を当たり役にして

いた片山明彦は、本作で我儘で卑劣な金蔵を熱

演する。

 

 衣笠貞之助脚本と三隅研次演出はスピーディー

に竜之助の妖剣物語を描く。 

 

 様々な人間関係が絡み合い、竜之助と兵馬の宿

命の激突に向かってドラマは絞られ、二人の戦いは

持ち越しとなって観客の緊張感は次作に繋がる。

 

 三隅研次の演出は本作までで、『大菩薩峠 完結

篇』(昭和三十六年五月十七日公開)は森一生が監

督を担当する。

 

『大菩薩峠 完結篇』

映画 トーキー 98分 カラー

昭和三十六年(1961年)五月十七日公開

製作国 日本

製作言語 日本語

製作 大映京都

 

製作 永田雅一

企画 久保寺生郎

    南里金春

 

原作 中里介山

脚本 衣笠貞之助

 

撮影 本多省三

色彩技術 白波瀬直治

音楽 塚原哲夫

美術 西岡善信

録音 林士太郎

照明 中岡源権

編集 谷口孝司

スチール 西地正満

製作主任 小沢宏

 

出演

 

市川雷蔵(机竜之助 机龍之助)

 

中村玉緒(お豊 お銀 お浜)

 

小林勝彦(がんぎりの百)

近藤美恵子(お玉)

 

三田村元(駒井能登守)

丹波又三郎(宇津木文之丞)

矢島ひろ子(お徳)

阿井美千子(お絹)

尾崎和枝(山の娘)

井上明子(娘)

橘公子(おろく)

真塩洋一(与八)

荒木忍(慢心和尚)

見明凡太郎(裏宿の七兵衛)

酒井三郎(与兵エ)

南里金春(米友)

東良之助(松助)

尾上栄五郎(大貫)

芝田総二(出来りの者)

玉置一恵(坂田)

沖時男(町役人)

愛原光一(栗林)

竹谷俊彦(津原)

木村玄(篠塚)

千石泰三(坂崎)

大丸智太郎(清一郎)

春日清(雲水)

桜井勇(雲水)

井手野賢治(江藤)

藤春保(船大工)

松岡良樹(木村)

南正夫(老人)

森宏之(新作)

有村淳(駕籠昇)

島一男(郁太郎)

武智雅文(蔵太郎)

神脇絵須子(おまん)

高月冴子(婆さん)

小林加奈枝(老婆)

 

 

本郷功次郎(宇津木兵馬)

 

監督 森一生

 

 

 

平成十六年(2004年)一月二十五日

京都文化博物館にて鑑賞

 机竜之助は竜神の滝における断崖から落ち

たが、お豊の助けで伊勢大浜の与兵衛の家

に匿われた。

 

 お豊は遊里で働き病身になり自害する。遺言

と金はお玉の手に伝えられ、お玉は役人と問われ

た際に金を落とすが手紙は竜之助に渡す。

 

 七兵衛は竜之助の居場所を尋ねるが、竜之助

は琴の師匠お絹と旅立った。

 

 がんりきの百はお絹に横恋慕しており、竜之助

と彼女の駕籠を離す。竜之助は百の手を斬り、滝

に落ちる。

 

 お徳に救われた竜之助は彼女の子蔵太郎を見

て、自身の子郁太郎を思う。

 

 神尾主膳は望月家から金を捻出する作戦を立て

婿の清一郎を捕える。竜之助は清一郎を救出する

も自身は神尾に捕らえられた。主膳は駒井能登守

暗殺の刺客に竜之助を選ぼうとしていた。

 

 兵馬は七兵衛と竜之助を追う。

 

 竜之助は女性お銀の危機を救い、二人は惹かれ

合う。

 

 駒井能登守暗殺に失敗した竜之助はお銀と共に

大菩薩峠に戻るがお浜の墓を見て悲しみを覚える。

 

 辻斬りを続けていた竜之助は、与八の世話を受け

成長する郁太郎を求めた。

 

 兵馬は遂に竜之助を見つけ勝負を挑む。

 

 だが、笛吹川の濁流により、竜之助は流される。

 

 ☆流れ☆

 

 

 

 森一生(もり・かずお)は明治四十四年(1911

年)一月十五日に誕生した。

 昭和九年(1934年)に第一映画に入社し、伊藤

大輔や犬塚稔に学び、大映に移った・召集され中

国戦線に従軍し、復員した後は大映に復帰し、時

代劇の傑作を生みだした。 

 平成元年(1989年)六月二十九日死去した。

 

 

 森一生演出は竜之助の妖気を鋭く探求する。

 

 音無しの構えで無敵の剣を振るう盲目の剣士机

竜之助を市川雷蔵が華麗に勤める。雷蔵の美しさ

が竜之助の魔性に輝いている。

 

 優しさと冷酷さ、暖かさと残忍さが同居している

竜之助義挙を為したか後に極悪非道の辻斬りも

平然と行う。

 

 お浜・お豊・お銀という愛した女性達への思う

心に魔剣士も男であり情を持っていることを伝え

る。

 

 剣の修練を為し、無敵になったが、血に飢えて

凶行を繰り返し、愛したお浜さえも斬ってしまう。

 お浜を始め斬ってきた人々への罪の意識は、

竜之助の心に迫る。

 

 苦悩と悲痛は新たな流血へと竜之助を駆り立て

るが、その彼が戦の果てに思う存在は生き別れた

一子郁太郎であった。

 

 惨たらしい殺人を繰り返し屍の山を築き、夥しい

血を流してきた竜之助が生き別れた息子を思う気

持ちには、胸が熱くなる。

 

 極悪人であっても愛はある。

 

 だが、竜之助は愛を知っても刀を取ってしまう男

なのだ。

 

 衣笠貞之助と森一生は、激動の時代に多彩な人間

関係の中で剣を振るい血を流す竜之助を探求し、何が

善で何が悪かは分らぬものであり、愛を感じても血を流

してしまう存在が人間であることを尋ねた。

 

 

 中村玉緒が二十代でヒロインを深く表現する。お浜・

お豊・お銀は輝いている。

 

 本郷功次郎は兵馬の誠実さを探求する。

 

 見明凡太郎の七兵衛がいぶし銀の味わいを見せる。

 

 兵馬と竜之助の激闘はいよいよ最終決戦になるかと

思うところで衝撃のラストになる。

 

 

 大いなる流れに飲み込まれる竜之助を雷蔵が熱演

する。

 

 人間の果てしない煩悩は大いなる流れとなっている

ことを教えてくれているようだ。

 

 

 私的な事だが、市川雷蔵主演・衣笠貞之助脚本・

森一生監督『大菩薩峠 完結篇』(昭和三十六年

五月十七日封切)は平成十六年(2004年)一月二

十五日京都文化博物館にて鑑賞し、衝撃のラスト

に出会ってから物語を遡るという出会いを大映版

学習で為した。

 

 令和二年(2020年)夏京都みなみ会館におけ

る市川雷蔵特集での三隅研次演出第一作・第二

作上映は有難かった。

 

 これも私的な事柄だが、五十三歳誕生日に第一

作銀幕鑑賞の縁を恵んで頂いたことにも深謝して

いる。

 

 

 三→一→二の次第で十六年かけて銀幕鑑賞した

が、内容は緊張感をもって自分の心に迫ってきた。

 

 

 令和四年(2022年)三月二日発表記事・令和
三年(2022年)三月四日発表記事・令和四年(
2022年)三月五日発表記事・令和五年(2023年)
九月二十日発表記事を再編している。
 
 市川雷蔵主演・衣笠貞之助脚本版『大菩薩峠』
三部作全体を考察したいと望んでいた。
 

 島田正吾は舞台版でも島田虎之助を当たり役に

して高齢時代にも壮絶な殺陣を見せたと聞いてい

る。緒形拳主演版舞台では演出も兼ねたという。

島田正吾舞台に間に合わなかった自分には映画

版の重厚さに出会えたことは大切な縁である。

 

 巨匠衣笠貞之助は脚本にのみ専念しているが

その緻密な構成に感嘆する。

 

 孤独な殺人鬼・美剣士机龍之助は血を流しつつ

愛を求め後悔に悩み、煩悩に悶える。

 

 美男俳優市川雷蔵は『大菩薩峠』『大菩薩峠 竜

神の巻』『大菩薩峠 完結篇』に剣士机竜之助の苦

悩と妖気を鮮やかに光らせた。

 

                    合掌