三代目桐竹勘十郎 七十一歳誕生日 仮名手本忠臣蔵 大序・二段目・三段目・七段目・九段目  | 俺の命はウルトラ・アイ

三代目桐竹勘十郎 七十一歳誕生日 仮名手本忠臣蔵 大序・二段目・三段目・七段目・九段目 

桐竹勘十郎

 

 三代目桐竹勘十郎

 (さんだいめ・きりたけ・かんじゅうろう)

 本名 宮永豊実

 昭和二十八年(1953年)三月一日生まれ。

 文楽人形遣い

 

 昭和四十二年(1967年)七月文楽協会人形部

 研究生。

 

 三代目吉田簑助に師事し初代吉田簑太郎を

名乗る。

 

 平成十五年(2003年)四月三代目桐竹勘十郎

を襲名。

 

 令和三年(2021年)七月十六日、重要無形

文化財指定保持者認定。

 

 

 

 三代目桐竹勘十郎七十一歳誕生日の本日は

『仮名手本忠臣蔵』の高師直・加古川本蔵・

寺岡平右衛門の遣いを讃えたい。

 

 

 

大序 高師直

 

通し狂言 仮名手本忠臣蔵(大序より四段目まで)
第一五四回=開場三十五年記念文楽公演
平成三十一年(2019年)四月二十九日 国立文楽劇場

作   二代目竹田出雲

          三好松洛
     並木千柳
 

  大序 

 鶴が丘八幡宮兜改めの段
  《太夫》 竹本碩太夫 豊竹亘太夫 竹本小住太夫

 《三味線》  鶴澤清光  鶴澤燕二郎
 野澤錦吾  鶴澤清公 

 恋歌の段
 《太夫》
 高師直 竹本津國太夫
 顔世御前 竹本南都太夫
 桃井若狭助 竹本文字栄太夫
 《三味線》 竹澤團吾

 

 《人形役割》
 足利直義 吉田玉勢
 高師直  桐竹勘十郎
 塩谷判官高定 吉田和生
 桃井若狭助安近 吉田文昇
 顔世御前 吉田簑志郎
 大名  大ぜい
 仕丁  大ぜい


 

 
 
 
 
 
三段目 
 下馬先進物の段
 《太夫》 竹本小住太夫
 《三味線》 鶴澤寛太郎
 
 腰元おかる文使の段
 《太夫》 豊竹希太夫
  《三味線》鶴澤清馗
 
 殿中刃傷の段
 《太夫》 豊竹呂勢太夫
 《三味線》 鶴澤清治
 
  裏門の段
  《太夫》 豊竹睦太夫
 《三味線》 野澤勝平
 
 《人形役割》
  高師直  桐竹勘十郎
  鷺坂伴内 吉田文司
  加古川本蔵 吉田玉輝
  早野勘平 吉田玉佳
  腰元おかる 吉田一輔
  桃井若狭助安近 吉田文昇
 塩谷判官高定 吉田和生
  奴     大ぜい
 侍      大ぜい
 門番      大ぜい
 大名      大ぜい
 
 

 

  『仮名手本忠臣蔵』の作者は二代目竹田出雲・三好

松洛・並木千柳である。

 寛延元年(1748年)八月十四日竹本座で初日を迎え

大当たりを取った。

 

 

 

 

 

 

 

 午前十一時「大序 鶴が丘八幡宮の段」が開幕する。人形遣い

は黒衣を着て遣う。

 

     嘉肴ありといへども食せざればその味はいを知らず

     とは。国治まつてよき武士の忠も武勇も隠るゝに。譬

     へば昼の星見えず夜は乱れて顕はるゝ 

 

 足利直義・高師直・塩谷判官・桃井若狭助の人形が静止した

状態で舞台に立っている。太夫の語りで名を呼ばれると動き

出す。太夫が語り三味線が惹かれ人形遣いが遣って、人形に

命が吹き込まれ躍動し始める。文楽の神秘を明かす演出だ。

 

 直義の人形かしらは若男で繊細で美男の君主的存在である。

執事高武蔵守師直は権柄眼で他人を見下す権力者で、人形

のかしらは大舅で黒の着物を着ている。師直は巨悪を顕示

する存在である。

  師直の指示を受ける御馳走の役二人は桃井若狭之助安

近と塩谷判官高定(塩谷高貞)である。若狭之助は正義感

が篤く、塩谷判官は優しくて思慮深い。若狭のかしらは源太、

判官のかしらは検非 違使(けんびし)である。

 

  文楽において大序は、若手の太夫の研鑽の段とも言われて

いる。碩太夫・亘太夫・小住太夫・咲寿太夫が力強く語る。小

住太夫の声は鋭く聞こえてきた。

 清允・燕二郎・錦吾・清公が弾く三味線は力強かった。

  師直と若狭の間に緊張関係が生じ、判官は直義の指示を

仰ぎ、直義は過去に後醍醐天皇に仕え、義貞の兜を取り次

いだ高定の妻顔世御前を召し出す。四十七という数字が、

様々な形で劇中に登場する。いろは四十七文字から「仮名」

と赤穂義士の数が照応するのは題名だ。師直のせりふの

「四十七」の死骸にもこの数字が登場する。

 顔世(かおよ)は「かおよい」に通じる。高師直が顔世御前

に横恋慕してその夫塩谷高貞を虐めたという物語に依拠し

ている。

 塩谷高貞(本作では塩谷高定)は、生年不明で興国二年・

暦応四年(1341年)の三月二十五日から二十九日の間に

自刃した。自刃事件の真相は現在も謎である。「塩谷」の

「塩」の一字が赤穂の「塩」に通じることもあり、浅野長矩

役が託されて、『仮名手本忠臣蔵』に登場することになった。

 『太平記』の人物である新田義貞・高師直・塩谷高貞が

江戸徳川時代の生活様式で生きるという自在な発想も

文楽歌舞伎の演出なのだ。だがこうした作者達の作劇を、

簡単に「現代」と決めつけ思いこむことは早計である。

 浅野長矩刃傷事件の「四十七」年後に、作者が『仮名手

本忠臣蔵』を発表したことは重くて大きい。

 

 吉田玉勢の直義は気品豊かであった。吉田和生の塩谷

判官には清潔な美しさがある。吉田文昇の桃井若狭助は

一徹な正義感が漲っている。吉田蓑志郎の顔世御前は

優美であった。

 桐竹勘十郎の高師直は憎々しさが壮絶である。

 

 

 「恋歌(こいか)の段」は、美しい人妻に恋してしまった

老権力者の強烈な片思いのドラマだ。作者は師直・高

定の争いの根源を、女性への男性の恋心という具体的な

事柄に見た。人妻に恋した権力者が執拗に口説いて振

られ、逆恨みをして夫を虐めぬいて斬りつけられる。男

女三角関係の問題という極めて分かりやすく生々しい問

題にドラマの根本を確かめた。

 

 

    天下を立てようとも伏せようともまゝな師直。塩谷

    を生けうとも殺さうとも、顔世の心たつた一つ

 

 天下の権力者師直は夫塩谷判官の生殺与奪の権を

握っているから、顔世は心から靡いて夫を生かしてやる

べきではないかという脅し文句である。

 

 津國太夫が師直のねばり強い口説きを語る。南都太夫

が言い寄られる顔世の悩み、文字栄太夫が若狭の正義

を鮮やかに語る。團吾の三味線は劇的緊張を強く弾く。

 桐竹勘十郎が師直の傲慢不遜と巨悪を表現する。

 

 二段目 加古川本蔵

 平成二十四年(2012年)十一月五日

 国立文楽劇場公演

 

 二段目 桃井館本蔵松切の段

     (もものいやかたほん

     ぞうまつきりのだん)


 

大夫    竹本文字久大夫

三味線   野澤錦糸


 

加古川本蔵  桐竹勘十郎

 

桃井若狭助  吉田幸助

妻戸無瀬    吉田和生

娘小浪     吉田一輔

奴        大ぜい

 

 思いつめた桃井若狭之助は、鶴が

丘八幡宮で高師直にいじめられ、辱め

を受けたことに激しい怒りを抱いており、

明日、師直に対して刃傷に及ぶ決意を

固めていることを、家老加古川本蔵に

打ち明ける。

 

 勿論、殿中において刀を抜くことは許

されない。若狭之助は、師直を斬って、

切腹することを心の中で固く決めている。

 

 本蔵は「御詞さみ致さぬ心底、御覧に

入れん」と刀を抜いて松の枝をすっぱと

切った。

 

 若狭之助は「奥にも逢ふて余所ながら

の暇乞ひ」と述べ、本蔵に「モウ逢はぬぞ

よ、さらば」と今生の別れの挨拶を済ませ、

奥の間に入ってゆく。

 

 本蔵は馬を引かせ、妻戸無瀬と娘小浪

が「何故殿にご意見申されぬか」と問うと、

他言無用と言い聞かせて、師直に対する

賄賂贈呈の工作に向かう。

 

 過去の記事で述べたように、本蔵は始め

から全て賄賂による工作に全面的に賭けた

訳ではない。工作がこの「二段目」の時点で

奏功するかどうかは不明だ。

 

 「松切」は本蔵の決意である。寝刃を合わせ

切れ味を良くすると共に師直への「抵抗」の

心根を示す。

 

 武智鉄二の劇評によると「松切」の行為自

体が江戸時代は禁忌であったらしい。即ち、

「殿が師直様を討ち損じた場合は、必ずや

其がご鬱憤を晴らしまする」という未来への

討ち入りの密意もこめて松を斬ったとみる

べきだろう。

 

 それだからこそ、若狭之助は後事を託し、

本蔵が寝刃を合わせてくれたことに深謝し、

師直との決戦に全てを賭け、奥の間に入って

いったのである。

 

 そこで本蔵は、もう一つの賄賂工作による

刃傷忍耐への道を賭ける作戦に出て、秘密

保持の為、不信感を持つ妻子に「何事も他言

無用」と言い聞かせて馬を引かせるのだ。

 

 繰り返しになるが、「二段目」の主題は、本

蔵が松の枝をすっぱと切って、「刃傷幇助」の

武士の決意を示しつつ、馬を引かせて強欲な

師直に賄賂を贈り、「刃傷忍耐」への隘路を見

出そうとするお家安泰の願いを篤くする場であ

る。

 

 本蔵の心の中で二つの道が揺れている。

 

 

 竹本文字久大夫の語り、野澤錦糸の三味線

は重厚深遠で圧倒された。

 

 桐竹勘十郎の遣いは重厚で、本蔵の苦渋を

渋く繊細に伝えてくれる。

 

 過去の記事に書いたように、竹本文字久大

夫は、「御傍のちいさ刀抜くより書院成る。召し

がへ草履かたし片手の早ねたば。とつくと合

せ縁先の松の方枝ずつぱと切て手ばしかく鞘

に納め」の文を敢えて読まず、松の枝をすっぱ

と斬る道程を勘十郎の遣いに託した。

 

 

 

 馬上から本蔵が妻戸無瀬と娘小浪に厳重に

注意する段も印象的だ。

 

 出番が短くとも、重鎮吉田和生が戸無瀬を

遣ってくれる。

 

 ここにも文楽の尊さを思った。

 

 「二段目」は「胆力」の物語である。

 

 本蔵の重く深い苦悩と忠義を、文字久大夫・

錦糸・勘十郎の至芸が、厳かに明かしてくれた。

 

三段目 高師直

平成三十一年(2019年)四月二十九日

国立文楽劇場公演

 「三段目」は劇・ドラマ・物語の理想を極めた傑作と自分は絶賛

する。

 横恋慕の邪念を燃やす師直。その計画に協力しつつ自身もお

かるへの口説きに踊るる鷺坂伴内。

 任務の間を縫ってささやかな時間に恋し合う早野勘平とおか

る。恥辱への怒りに燃えて刃を向けんとする桃井若狭之助。主

君の生命と御家の安泰を祈るりつつそれらが叶わぬ場合は、

せめて武士の面目として刃傷だけは主君に果たしてもらいた

いと二面の課題を思う本蔵。

 これらの人々の人生の道が、塩谷判官の刃傷事件により激

変する。一人の青年が抜いた一本の刀の動きは、彼自身が

切腹という刑を受けることを呼び起こし、関わる人間達の人生

の物語にも急激な変化を惹起する。

 足利館に師直・伴内・本蔵・判官・勘平・おかるが現れる。文楽

ではこの来館を丁寧に語る。今や文楽でなければ見れない名

場面でもある。師直・伴内の入館だが、大序に続いて師直の 

衣装は黒である。勘十郎がここでも師直の歩き方に憎たらしさ

をたっぷりと見せる。

 寛太郎の三味線も渋い。

 

 文使いの段では、判官・勘平主従が入場する。この場面も

今日では文楽でなければ聞見しえない名場面である。

 

 おかるが主人顔世御前の文を持って現れ、判官様から直

接師直様に手渡しをお願いしたいという顔世の伝言を持って、

勘平に文箱を渡す。

 伴内が勘平を呼ぶ声を語り城に入れて、その隙におかる

に言い寄るが拒絶され、勘平の作戦で師直の用事を告げる

声が語られ、邪恋の伴内は口説きを中断して城に向かう。

 主人師直・顔世・判官と家来伴内・おかる・勘平の主従の恋

愛三角関係が照応する。豊竹希太夫の語りと鶴澤清馗の三

味線は恋愛のドラマ を鮮やかに明示してくれた。

 

 「殿中刃傷の段」は豊竹呂勢太夫の熱い語りと鶴澤清治の

深き弾きで、名舞台であった。

 桃井若狭助は師直遅しと待ち、鶴が丘での辱めに対し恨み

の刃を斬りつけ真っ二つに斬殺しようと待っている。師直は彼を

見るや態度を変えて謝罪する。老獪な師直は本蔵の賄賂を受

け巧みに態度を変えて若狭の殺意を弱らせる。

 文楽殿中刃傷の段ではここで伴内ではなくて茶道の僧珍才

を登場させる。原作に忠実な文楽にしては珍しい改変なのだが

これは良くない。原作通り伴内を登場させるべきだ。「寝刃合は

せし刀の手前差し俯き思案顔」と語られ、二段目で寝刃を本蔵

に合わせてもらったものの、師直に謝罪され、謝る者は斬れな

い。若狭は計画を諦める。

 

 文楽ではここで体調不良を訴える若狭に師直が珍才に看病

を命じる演出だ。「アゝもう楽じゃ」と殿中に潜む本蔵の安堵を

呂勢太夫が繊細に語る。

 文箱を持って塩谷判官が現れる。師直は遅いと叱るが、判官

は不調法を確かめつつ、時間があると語り、妻顔世からの文を

渡す。恋の上機嫌で文を見る師直だが内容を読み、その機嫌が

変化する。

   「さなぎたに重きが上の狭夜衣、我がつまならぬつまな重

    そ。これは新古今の歌」

 

 『新古今和歌集』の歌を引用して、顔世は恋の拒絶を伝えた。

心にもない謝罪を若狭にしたことと権力を用いてでも奪おうとし

た顔世に完全に振られた失恋の悲しみの両方が師直の心身を

直撃し怒りを呼び起こす。目の前には、顔世の夫で恋敵の判

官が居る。その逆恨みの激怒が一挙に向けられ、執拗な虐め

となる。

 呂勢太夫の鋭い語りと清治の重厚な三味線は、師直の粘り

強い虐めを迫力豊かに語り弾く。

 

   「うちばかりに居る者を井戸の鮒ぢゃという譬へがある」

   「貴様も丁度その鮒と同じこと。鮒よゝ鮒だゝ鮒侍だ」

 

 呂勢太夫は権力を笠に着て失恋の怒りを恋敵に向けて虐めを

楽しむ師直の憎たらしさをじっくりと語る。勘十郎が師直の傲慢さ

と嫌らしさを粘り強く遣う。和生がいじめにあって必死にこらえる

判官の苦悩を遣う。

  「ムゝハゝ」の長い笑いは師直の魔性を示す。ここでも呂勢

太夫の語りが圧巻だ。

 

   「ムゝすりや今の悪言は本性よな」    

 

   「くどいゝがまた本性なりやどうする」

 

 悪口雑言は本性のお言葉だなと判官は問い、某の本性ならど

うするのだと師直は問い直す。

 判官は耐えに耐えていたが、我慢の限界を突破し、師直に斬り

つける。師直は斬られた痛みを堪えて平舞台から引っ込み、舞台

二重に逃げて上手から下手に走り去るように歩み、判官はその

後を抜刀しながら追いかけて本蔵に抱き留められる。この段の

演出は見るたびに感嘆するが、人形と人形が本当に刃傷事件を

起こし逃走・追走しているように感じられるのだ。文楽の深いアク

ションである。

  玉輝の本蔵は、判官を抱き留める本蔵の親切心を鮮やかに

遣う。この思い込みは足利幕府には全く通じず、判官は殿中刃

傷の罪で切腹死罪を命じられ、本蔵への激しい恨みを抱いて切

腹の座につくことになる。

 和生が憎い師直の暗殺を仕損じて、痛恨の悔しさを噛みしめ

る判官を遣う。

 

 三段目裏門の段はおかる勘平の物語だ。おかるとの逢瀬で

主君塩谷判官の城中刃傷に居合わせることが成り立たなかっ

た早野勘平は自責の念から切腹しようとするがおかるに止め

られる。

 

    「皆わしが死ぬる道ならお前よりわしが死なねば

    ならぬ。今お前が死んだならば誰が侍ぢゃと褒め

    まする。こゝをとつくりと聞き分けてわしが親里へ

    一先づ来て下さんせ。」

 

 豊竹睦太夫の語りと野澤勝平の三味線が鋭い。吉田玉

佳と吉田一輔の遣いが勘平とおかるの固き愛を遣う。

 

  

 桐竹勘十郎の高師直の傲慢さと憎たらしさは壮絶である。

同時に若い人妻美女に振られた悔しさや嫉妬も強烈な印象

を与えてくれる。塩谷判官に斬られ上手から下手に逃げる

速度には、「痛み」「恐怖」を伝えてくれる。傲慢不遜な権力者

が人妻をわが物にしようと狙い、恋敵の夫を虐め抜いて刺され

負傷する。「憎たらしい」と観客に実感させる巨悪の遣いに感

嘆した。

 

 

 

               

 七段目 寺岡平右衛門

 

 

 

 第一二八回=文楽公演

 平成二十四年(2012年)十一月十七日

 国立文楽劇場

『通し狂言 仮名手本忠臣蔵』

 第二部 

 七段目 祇園一力茶屋の段

 

 第一二八回=文楽公演

 平成二十四年(2012年)十一月十七日

 国立文楽劇場

『通し狂言 仮名手本忠臣蔵』

 

 

「七段目」

大夫
大星由良助    豊竹咲大夫

おかる       豊竹呂勢大夫

大星力彌     豊竹睦大夫

十太郎       竹本津国大夫

喜多八       竹本文字栄大夫

弥五郎       竹本南都大夫

仲居        豊竹咲寿大夫

仲居        竹本小住大夫

一力亭主     豊竹始大夫

斧九太夫     豊竹松香大夫

鷺坂伴内     竹本三輪大夫

寺岡平右衛門  豊竹英大夫

 

三味線

 

竹澤宗助

鶴澤燕三

 

≪人形役割≫

 

大星由良助    吉田玉女

大星力彌      吉田文昇

矢間十太郎     吉田玉勢      

竹森喜多八     吉田文哉

千崎弥五郎     吉田清五郎

一力亭主     桐竹紋秀

斧九太夫     吉田文司

鷺坂伴内     桐竹勘壽

寺岡平右衛門  桐竹勘十郎

おかる      吉田簑助

 

 おかる 

 「七段目」は祇園一力茶屋という遊里の華やか

な魅力が絢爛と語られる。舞台の書割が素早く

動いて場面の変化を示す手法も素敵だ。

 

  大夫が掛け合いで語り、基本一人一役に徹す

ることも珍しい。それだけに競演の舞台であること

が窺える。

 

 松香大夫の九太夫の老獪さ、三輪大夫の伴内

の軽妙さ。

 咲大夫の由良之助は堂々たる大音声で、胸の

底に響く大きさがあった。

 呂勢大夫のお軽は妖艶、英大夫の平右衛門は

忠義の熱さがあった。

 

 鶴澤燕三の三味線は品格が光る。

 

 吉田玉女(現二代目吉田玉男)の由良之助は

遊びの中に潜む忠義の熱意を見せる。

 

 吉田簑助のお軽は綺麗で可愛らしくて美しい。

 

 桐竹勘十郎の平右衛門は逞しく勇敢で大きい。

 

 平右衛門が裏切者九太夫の身体をかつぎあげる

のも文楽でなければ成り立たない演出である。

 

 九段目 加古川本蔵

 平成二十四年(2012年)十一月十七日

 国立文楽劇場公演

 

 「九段目」

 雪転しの段

 大夫  豊竹芳穂大夫

 三味線 野澤喜一朗



 山科閑居の段

 大夫  豊竹嶋大夫

 三味線 豊澤富助

 

 大夫 豊竹呂勢大夫

 三味線 鶴澤清介

 

≪人形役割≫

大星由良助   吉田玉女

大星力彌      吉田文昇

お石       吉田簑二郎

戸無瀬     吉田和生

小浪      吉田一輔

加古川本蔵  桐竹勘十郎

sibai e

「九段目」

 「雪転し(ゆきこかし)の段」が語られることは、嬉

しい。現在では、文楽でないと上演されない段でも

ある。

 祇園から山科へ帰ってきた由良之助が色里の空

気に溺れいい気分になっているところを、玉女が絶

妙の遣いで明かし、大人の男の色気を魅せる。

 芳穂大夫が雪に譬える仇討浪士の境遇を語り、

大きさを響かせる。

 「山科閑居の段」は巨星嶋大夫の至芸に圧倒され

た。

 戸無瀬・小浪の来訪、お石の冷酷な対応、戸無瀬

の苦悩と小浪の自害の決意、虚無僧本蔵の登場、

首級の要求。

 この重厚な物語を、嶋大夫が全身の気合で熱く

激しく深く語って下さった。

 戸無瀬の「しぇえええ」の叫びは、今も心に深く刻

みついている。

 嶋大夫の語りは親子愛の無限の深さを語ってく

ださった。

 

 呂勢大夫の本蔵には古怪さが光っていた。

 

 吉田和生の戸無瀬の母性愛、吉田一輔の小浪の

純粋無垢、桐竹勘十郎の本蔵の武士道の貫徹、吉

田玉女の由良之助の風格。

 

 

 命を捨てて由良之助の仇討の大義を助け、愛娘

小浪の恋心の成就に尽くし、死んでいく本蔵。

 文楽では本蔵の遺体の前で、小浪・力彌が婚儀

を行う。このことに怖さを感じたことがあったが、今

思うに、本蔵の望んでいた形が、小浪・力彌の結婚

であるから、若き二人のめでたい場に死ぬことは、

本蔵にとって本望かもしれないと思った。

 

 雪の日に起こる無垢な若者達の恋の物語と親達

の悲しみと哀感と愛情の筋であり、愛と犠牲と忠義

という浄瑠璃の主題が美しく語られる大曲である。

 

 塩谷判官を殿中で抱き留めてしまったことを詫

びる本蔵。「あさきたくみの塩冶殿」はモデルの

浅野内匠頭長矩と呼応している訳だ。武士道におけ

る謝罪から大星力彌に敢えて刺され、愛娘小浪と

の婚儀をして欲しいと彼に望む。

 

 自己の命を捨てて義と父性愛に全てを託す。

 

 加古川本蔵の命を桐竹勘十郎が明かした。

 

 ◎

 平成二十四年(2012年)十一月十二日発表

記事・平成二十八年(2016年)九月十九日発表

記事・令和三年(2021年)七月二十一日発表記事

を再編している。

 ◎

 

 桐竹勘十郎の至芸の鑑賞は、文楽ファンにとっ

て生き甲斐である。

 

 

 国立劇場は令和五年(2023年)十月に閉場した。

 再建築が全く進んでいないことは残念である。日本

における伝統演劇・伝統演芸を上演する場である。

 二代目吉田玉男や五代目中村時蔵を始め

とする伝統芸実演者が国立劇場再建への迅

速な対応を求めるこころを記者会見で語っ

た。

 

 日本政府は日本の歴史的演劇・演芸を伝承

していく課題に無自覚なのではないか?

 

 危険なmRNAを開発するワクチン工場の

建設等今すぐ止めるべきだ。

 カジノ万博等問題外以前の事柄である。

 

 原発を始め儲かる事には取り組むが文化・

藝術の支援はさぼる。

 

 このような状況を放置して良い筈がない。

 

 怠惰な与党は勿論のこと、沈黙を続けてい

る野党にも取り組んでもらなわないと困る。

 

 東に国立劇場、西に国立文楽劇場という

両輪が競い合う。この状況を再建しよう。

 

 

 国立文楽劇場は、勘十郎の遣いとの縁を恵んで

くれる場である。

 

 三代目桐竹勘十郎師

 

 七十一歳お誕生日

 

 おめでとうございます

  

 

                      合掌

 

 

                                    

                       南無阿弥陀仏

 

 

                            セブン

 

 

 勘十郎