10ミニッツ オールダー 人生のメビウス ライフライン | 俺の命はウルトラ・アイ

10ミニッツ オールダー 人生のメビウス ライフライン

『10 ミニッツ オールダー 人生のメビウス
ライフライン』
 
Ten Minutes Older 
The Trumpet
Life Line
映画 トーキー 10分 白黒
 

2002年5月18日 フランスカンヌ国際映画祭上映

 

平成十五年(2003年)十一月八日 日本東京

国際映画祭上映

 

製作国 ドイツ イギリス

 

製作言語 スペイン語

 

◎ 

鑑賞日時場所

平成十六年(2004年)三月一日 

京都みなみ会館

 

 赤ん坊が熟睡している。

 

 母親も側で熟睡している。

 

 赤ん坊の産着に血が滲んでいる。

 

 少年は自身の腕に時計のイラストを描き

腕時計にしている。

 

 老人はテーブルに腰かけ食器をナイフ・フ

ォークで突く。

 

 おばさんは洗濯物を干す。

 

 案山子が畑に立っている。

 

 赤ん坊の出血は増し血痕も広がる。

 

 黒猫が歩む。

 

 泣き叫ぶ赤ん坊の声が人々の耳に響く。

 

 洗濯をしていたお婆さんは赤ん坊の

もとへかけつける。

 

 村の人々もやって来た。

 

 目覚めた母親と父親は心配そうに見守

る。

 

 赤ん坊は臍のあたりから出血していた。

 

 お婆さんが赤ん坊の手当をする。

 

 赤ん坊は笑顔になる。

 

 母親も微笑む。

 

 案山子が自然の中に立っている。

 

 時は1940年のスペイン。

 

 新聞にはハーケンクロイツの写真が載って

いる。

 

 ◎白黒十分の映像詩◎

 

 

 ヴィクトル・エリセ

  Víctor Erice Aras

 ヴィクトル・エリセ・アラス。

 

 映画監督・脚本家。

 

 1940年6月30日スペインバスク地方カラン

サに生まれた。本日2023年6月30日は83歳誕

生日である。

 

 カール・テホ・ドライヤー、ジャン・ルノ

ワール、溝口健二、ロベルト・ロッセリーニ

の映画に学び、フランソワ・トリュフォーの

『大人は判ってくれない』を18歳か19歳の時

代に鑑賞して映画に自身を決定付けられた。

 1973年9月18日、スペイン・サン・セバス

チャン映画祭において監督作品『ミツバチの

ささやき』が上映された。

 

 1983年5月19日第二回長篇監督作品『エル・

スール』がスペインで公開された。

 

 1992年10月1日第三回長篇監督作品『マル

メロの陽光』がアメリカ合衆国』で封切られた。

 

 2002年映画『10 ミニッツ オールダー』

と題するオムニバス映画が二本製作・公開さ

れた。『イデアの森』The Cello と『人生の

メビウス』The Trumpetの二作品集である。

 

 世界の名匠十五人が参加し、時についての

物語を10分間の短篇映画を撮った。一本一本

それぞれが独立しているので他の十四本とス

トーリー連関している訳ではない。

 一本一本に名匠達の鋭い演出がきらりと光

っている。

 

 

 

 エリセは『人生のメビウス』において『ラ

イフライン』を撮った。白黒映像に風格を感じ

た。

 

 時は1940年、所はスペイン。赤ん坊には

この年誕生したヴィクトル自身が投影されて

いるのだろうか?

 

 「ライフライン」の名が語るように赤ん坊

にとっては熟睡中の出血という危機が迫り、

生きて在る命が何時失われるかわからないと

いう状況が語られる。

 

 エリセ監督はサスペンス描写の名人でも

ある。

 

 赤ん坊が痛みで泣き母親が熟睡している

シーンは観客の震えを呼ぶ。

 

 洗濯をしていたおばさんが泣き声に気付き

赤ん坊のもとにかけつける。

 

 黒猫は『ミツバチのささやき』においてイ

サベルに首を絞められ怒った黒猫を想起させて

くれる。

 

 母親・父親はおばさんの赤ん坊治療を見守る。

 

 赤ん坊は出血が治まり、母親・父親も喜ぶ。

 

 観客も安堵する。

 

 大自然に立つ案山子は人間達を見つめている

ようだ。

 

 新聞にはハーケンクロイツが報じられている。

 

 スペイン内戦の後フランシスコ・フランコ・バ

アモンテはアドルフ・ヒトラーと親しい関係を築

いていた。第二次世界大戦において始めは枢軸国

に親しい関係で中立を語り、後に連合国に味方す

るという作戦を打ち出した。

 

 

 1944年頃までドイツと親しい関りを保ち、枢軸

国が負けだすと見捨てて連合国に親しくするとい

う老獪な手法でフランコ・バアモンテはスペイン

内での権力を強化した。戦後独裁者として君臨し

た。

 

 ヴィクトル・エリセ作品集の考察で特に『ミツバ

チのささやき』でフランコ・バアモンテ統制中1940

年の世代をヒロインアナやその姉イサベルが象徴し

ているという意見が、ウィキペディアの項目を始め

語られているが、わたくしは強く反対している。

 

 アナ・イサベル共に宇宙においてたった一人であり

ただ一つの命を生きる人間であり、唯一無二の生物だ

からだ。

 

 「ライフライン」においては1940年のスペイン・

ドイツの関係が語られている。これは注意しなければ

ならない。

 

 スペイン内戦への痛みをエリセが確かめたことは

想像している。

 

 その厳しい時代に在って赤ん坊は両親やおばさん

に守護され、血を流しながらも回復し微笑む。

 

 腕に時計を描いた少年の瞳の清らかさも忘れられ

ない。

 

 京都みなみ会館においては、上記の通り2004年

3月1日本作、2017年12月2日『ミツバチのささやき』

を鑑賞した。

 ヴィクトル・エリセ映画との出会いを恵んでくれ

た映画館でもあった。

 2024年1月京都シネマではヴィクトル・エリセ

監督作品集を上映する。

 

 『瞳をとじて』公開記念で1月26日から『ミツバチ

のささやき』『エル・スール』がリバイバルで上映さ

れる。

 2月9日新作『瞳をとじて』が上映される。

 

 ヴィクトル・エリセとアナ・トレントが50年

ぶりにチームを組んだ。

 アナ・トレントは今回女優アナ役を演じる。

 

 今から緊張している。

 

 『10 ミニッツ オールダー イデアの森』

「ライフライン」の赤ん坊の笑顔は暖かい。

 

 

                   合掌