新必殺仕置人 幽霊無用 | 俺の命はウルトラ・アイ

新必殺仕置人 幽霊無用

『新必殺仕置人』「幽霊無用」

(『新・必殺仕置人』「幽霊無用」)

テレビ映画 トーキー 54分

カラー(一部)白黒

昭和五十二年(1977年)九月九日放送

 

製作国 日本

製作言語 日本語

    ◎

 

 オープニングナレーション

 

 のさばる悪を なんとする

 天の裁きは 待ってはおれぬ

 この世の正義も あてにはならぬ

 闇に裁いて 仕置する

 南無阿弥陀仏

 

 

 正八は馴染みの女と御船蔵に行く。ここ

には征夷大将軍の御座船が保管されている。

 この場を守る一族は御船蔵番人宇津木氏

である。当主和市は真面目な役人である。

 

 「伊豆へ行こう」という声を聞き、正八

と女は怯える。

 観音長屋で正八は己代松に幽霊の声では

ないかと怯える。赤い布に正八の恐怖は高

まる。松は赤い布は屋根の男の褌が落ちた

ものと告げる。

 

 南町奉行所では中村主水が幽霊探索を与

力から命じられる。つまりつと姑せんは主水

に勤務をしっかり為すようにと強く督励す

る。

 

 主水は和市を尋ねた。和市の美しい娘糸

と婿伊之助は風車作りの内職をしている。

役人とはいえ宇津木一族の暮らしは厳しい

ものであった。

 伊之助は主水に一両の金を渡し、幽霊騒ぎ

を企てる者達を捕縛して頂きたいと頼む。

 

 

 主水の一両をおていが掏った。主水は返す

金だから返してくれとおていに頼む。おてい

から一両を受け取った主水はお糸に返金する。

 

 主水が去り、夫伊之助が帰宅した。糸はど

うやって一両もの大金を手にしたのですかと

問う。この家に金は無くても有るところには

有るのだと伊之助は答える。糸は夫が大金を

不正に得たのではないかと不安になる。

 

 和市は御座船の金が類似したものとすり替え

られたことを知る。職人が和市に呼ばれ調査す

る。沢山のすり替えが発覚した。

 

 伊之助は奉行様のご見聞ですと告げた。奉行

五十嵐林右エ門が家来達と職人文治を連れて現

れ和市の呼んだ職人を去らせる。御座船を調べ

た文治はすり替えは全くありませんと報告する。

 

 五十嵐は文治を殊勝と褒める。だが、和市は

不正があったことを報告しようとする。

 

 五十嵐と文治たちは去る。

 

 幽霊騒動は伊之助・文治が起こし、御座船の金

をすりかえ五十嵐に渡すという悪事の為に行われ

ていた工作であった。和市はその事を見抜いた。

 

 伊之助は義父和市を刺殺し切腹自殺に見せかけ

る。

 夫の悪事を知ったお糸は糾弾する。

 

 悪党とはいえ、伊之助は妻糸迄は斬れなかった。

 

 御座船に隠した大金を出し、「一生飼ってやる」

とお糸に告げた。

 

 寅の会では伊之助・文治・五十嵐殺しが競りに

かけられた。料金は二両で闇の俳諧師達は怒る。

 念仏の鉄が二両で競り落とす。

 

 宇津木家では風車の内職を続けるお糸に伊之助

の怒りが炸裂する。

 

  「あなたは殺されます」

 

 お糸は夫伊之助に宣告した。縁の下では正八が

会話を聞いている。「誰かに頼んだのか?」と伊

之助は激怒する。お糸は夫から殴る蹴るの暴行を

受けても虎の名は明かさなかった。伊之助はお糸

を縛り上げ、帰ってくるまで考えておけと言い放

ち出て行く。

 正八は縁の下から宇津木家に入り、お糸に頼んだ

人の名を語ったら命はないと忠告する。

 

 五十嵐の宴席に伊之助と文造はすりかえた金を

届けた。伊之助は五十嵐から「お糸を斬れ」と厳

命を受ける。

 

 伊之助と文造が去った。

 

 五十嵐は自身が汚職を詫びて切腹したという張

り紙が貼られた屏風を見て驚愕する。文言を隠れ

ている主水が詠む。

 主水の姿を見た五十嵐は斬りかかるが逆襲され

斬殺された。五十嵐が切腹したように主水は見せ

る。

 

 御座船前で文造は己代松に竹鉄砲で射殺される。

 

 宇津木家でお糸は風車作りを為している。帰宅

した伊之助はその光景を障子越しに見て刀を抜く。

 

 隠れていた念仏の鉄が右手を挙げる。

 

 伊之助は鉄に斬りかかる。鉄は伊之助の刃を片

手に受け流血するが、右手で伊之助の右肩に圧力

をかける。

 

 伊之助は鉄の怪力であおむけにされる。

 

 鉄は伊之助を骨はずしで殺害する。

 

 お糸は夫伊之助の死を確認し自害する。

 

 正八は主水に幽霊への恐怖を語り、注意

される。

 

 中村家に着いた主水はりつとせんの髪が

逆立つ光景の影を見て怯える。

 

 

 キャスト

 

 

 藤田まこと(中村主水)

 

 

 中村嘉葎雄(巳代松)


 

 

 火野正平(正八)

 

 

 中尾ミエ(おてい)

 

 

 河原崎建三(死神)

 

 

 森次晃嗣(宇津木伊之助)

 

 

 

 松本留美(宇津木糸)

 

 

 

 波田久夫(船奉行五十嵐林右衛門)

 山本一郎(文造)

 

 

 

 藤村富美男(元阪神タイガース)(元締虎)

 

 マキ(屋根の男)

 美鷹健児(職人)

 岡田恵子(女)

 

 

 北村光生(吉蔵)

 松尾勝人(同心)

 宮川珠季(同心)

 広田和彦(同心)

 

 

 

 藤沢薫(闇の俳諧師)

 原聖四郎(闇の俳諧師)

 沖時男(闇の俳諧師)

 秋山勝俊(闇の俳諧師)

 遠山欽(闇の俳諧師)

 

 藤原釜足(宇津木和市)

 

 

 

 菅井きん(中村せん)

 

 

 白木万理(中村りつ)

 

 

 山崎努(念仏の鉄)

 

 

 スタッフ

  

 

 

 制作      山内久司(朝日放送)

         仲川利久(朝日放送)

         桜井洋三(松竹)

 

 脚本      岡本克己

 

 

 音楽      平尾昌晃

 編曲      竜崎孝路

 

 

 撮影      藤原三郎

 製作主任    渡辺寿男

 

 

 

 

 美術      川村鬼世志

 照明      中島利男

 録音      木村清治郎

 調音      本田文人 

 編集      園井弘一

 

 

 助監督     服部公男

 装飾      玉井憲一

 記録      野口多喜子

 進行      佐々木一彦

 特技      宍戸大全

 

 

 装置      新映美術工芸

 床山結髪    八木かつら

 衣装      松竹衣裳

 小道具     高津商会

 現像      東洋現像所

 

 

 

 殺陣      美山晋八

         布目眞爾

 題字      糸見渓南

 

 ナレーター   芥川隆行

 

 

 

 オープニング 

 ナレーション作     早坂暁

 

 

 主題歌     あかね雲

 作詞      片桐和子

 作曲      平尾昌晃

 編曲      竜崎孝路

 唄        川田ともこ

 東芝レコード

 

 

 制作協力     京都映画株式会社

 

 

 監督       高坂光幸

 

 

 制作      朝日放送 

         松竹株式会社

 ◎

 藤田まこと=はぐれ亭馬之助

 

 中村賀津雄→中村嘉葎雄

 

 二瓶康一→火野正平

 

 

 中尾ミエ=中尾ミヱ

 

 河原崎建三=河原崎健三

 

 森次浩三=森次浩司→森次晃嗣

 

 藤原釜足=藤原鶏太=安恵一夫

     =藤原秀臣

 

 

 白木万理=松島恭子=白木マリ

 

 山崎努=山﨑努 

 

 

 山内久司=松田司

 

 野口多喜子=嵯峨忍

 

 平尾昌晃=平尾昌章

 

 ◎

 早坂暁はノークレジット

 ◎

 念仏の鉄 山崎努

 

 この字幕は起こしで表示される。

そのムードを想い、大きな活字で

表記してみた。

 ◎ 

 色悪 宇津木伊之助

 ◎

 森次晃嗣(もりつぐ・こうじ)は昭和

十八年(1943年)三月十五日、北海道に

誕生した。本名は森次浩三(もりつぐ・こ

うぞう)である。

 

 映画俳優・テレビ俳優・舞台俳優・歌手・

声優・ファッションモデル・ナレーター・レ

ストランオーナーを兼ねる宇宙のスタアは現

在八十歳である。

 初めの芸名は森次浩司(もりつぐ・こうじ)

を名乗った。昭和四十二年(1967年)十月一

日から昭和四十三年(1968年)九月八日に全

四十九回に渡って放送されたテレビドラマ『ウ

ルトラセブン』において主人公モロボシ・ダン・

ウルトラセブンの声・薩摩次郎を勤めた。

 二十四・二十五歳でモロボシ・ダンを熱演し

大人気を博し、生涯の当たり役とした。

  

 昭和四十八年(1973年)八月四日放送『必殺

仕置人』「大悪党のニセ涙」(脚本国弘威雄 監

督工藤栄一)において極悪非道の男仙八を鬼気迫

る名演で見せ強烈な印象を視聴者に与えた。とこ

ろが『ウルトラセブン』ファンの児童達がこの番

組を視聴し、「ダンが悪者になった」と泣きだし

た。

 森次浩司は悪役を演じる機会は子供達が見聞す

る時間を十分に注意するようになった。

 

 己代松役の中村嘉葎雄(中村賀津雄)の兄であ

る萬屋錦之介と淡路恵子(当時の錦之介夫人)の

勧めで森次晃嗣に改名した。

 

 三十四歳で強かな悪党宇津木伊之助を重厚に

演じた。

 最初の登場カットは真面目な内職をする青年と

して高坂光幸は映す。森次晃嗣も温厚そうな瞳を

見せて優しい男なのかなと視聴者に思わせる。

 

 主水に一両の金を渡す伊之助を高坂光幸監督

は見せる。伊之助に訳があり何らかの方法で金策

していることが視聴者に知らされる。それでも

主水は風車作りの内職を見たことから、伊之助は

妻と真面目に内職する青年武士と見て金を返す。

 

 お糸に対する乱暴な態度から次第に伊之助の

狡猾さと冷酷さが明らかになる。森次晃嗣が色

悪の存在感をじっくり見せる。

 

 松本留美は昭和二十四年(1949年)二月二十

四日に誕生した。本名は諸角留美である。

 昭和四十六年(1971年)、初代中村錦之助後

の萬屋錦之介主演のNHK大河ドラマ『春の坂道』

において烏丸順子を演じた。

 昭和四十七年(1972年)九月二日から昭和四

十八年(1973年)四月十四日に放送された「必

殺シリーズ」第一作『必殺仕掛人』では主人公の

仕掛人西村左内(林与一)の貞淑な妻美代を繊細

に演じた。

 

 美代と糸の対照対応はファンの心を刺激する。

 

 左内は殺し屋であり、伊之助は悪党である。美

代は夫が殺し屋仕掛人であることを知り落胆する

が全てを受け入れ支えることを決める。

 糸は父を夫伊之助に殺され、仇を鉄に討っても

らって自害する。虐待を受けても伊之助を愛した

心は忘れてはいない。愛情があるが故に義父殺し

と幽霊騒動の悪事を犯す伊之助仕置を虎に頼んだ

のだろう。

 

 松本留美が悲劇美を豊かに香らせる。

 

 藤原釜足は明治三十八年(1905年)一月五日

に東京府に誕生した。本名は安惠重男である。深

く重い芸で数々の映画・テレビで活躍した大名優

である。七十二歳で一徹者の老役人和市を渋く勤

めた。

 

 和市は伊之助に刺殺され、遺体は切腹したよう

に工作される。

 

 林右衛門は主水に刺殺され、遺体は切腹したよ

うに工作される。

 

 伊之助と主水が同じ手法を為す。

 

 岡本克己脚本は鋭い。

 

 お糸が風車の内職をして、障子の外に刀を抜いた

伊之助が近付く。殴り蹴り倒しても命だけは取れな

かった妻糸に対し遂に悪党伊之助が殺意を固めて抜刀

して近付く。

 

 鉄が姿を見せて伊之助と決闘を為す。

 

 鉄の両手と伊之助の刀の戦いを山﨑努と森次晃嗣

が芸と芸の激突で火花散る演技合戦を見せる。

 

 闇の中の決戦に高坂光幸監督の演出美が光った。

 

 伊之助も使い手で鉄の腕を傷つけ流血させる。

 

 しかし、鉄の怪力が勝った。

 

 仙八は鉄に背後から骨を外され即死した。

 

 伊之助は奮戦するが力比べで鉄に潰され仰向け

にされて骨外しをされて死亡する。

 

 お糸は伊之助仕置を確認し父の仇討ちが成った

事と悪人とはいえ愛した夫であったことを想い、

自害の意志を固める。

 

 壮絶な決闘を終えた鉄はじっと伊之助を見つめ

る。悪党とはいえ、強敵であったことを確認して

いるようにも見える。

 

 汗をいっぱいに流す鉄の瞳に震えた。

 

              南無阿弥陀仏