新必殺仕置人 愛情無用  | 俺の命はウルトラ・アイ

 新必殺仕置人 愛情無用 

 

『新必殺仕置人 愛情無用』

(『新・必殺仕置人 愛情無用』)


  テレビ映画 トーキー 54分 
 カラー(一部白黒)

 

  昭和五十二年(1977年)十月二十八日(金曜日)

 二十二時放送

 

 

 製作国 日本

 製作言語 日本語

 ◎

 

 オープニングナレーション

 のさばる悪を なんとする

 天の裁きは 待ってはおれぬ

 この世の正義も あてにはならぬ

 闇に裁いて 仕置する

 南無阿弥陀仏

 ◎

 感想文では研究学習の為ドラマの結末に

言及します。

 本作未見未視聴の方は閲覧御注意下さい。

ドラマをご覧になってから当記事をご高覧

頂きますようお願い申し上げます。

 ◎

 

 寅の会で仕置人鉄と長次が競り合う。「世の

中金よ」と長次は拝金主義を剝きだしにする。

 

 正八に惚れているお仙は彼の居場所を鉄に

聞く。

 鉄は正八が樹の下にいるんじゃないかと想

像する。

「正八が帰ってくるまで俺と付き合わねえか」

と鉄はお仙を口説くが振られる。

   

 正八は陽光の下で晴れやかな空を見るのが

大好きだ。

 

 仕置人長次と配下の仕置人お徳が口論して

いる光景を目撃する。

 お徳が男を誘惑して参次が殺す。この仕置

稼業から足を洗いたいとお徳は願う。長次は

てめえのやわらけえ身体で男を誘うんだと命

じる。標的は侍でお徳の身体で誘わないと仕置

が出来ねえと長次は怒る。

 

 長次の子分の仕置人参次はお徳の男で説得

は自分に任せてくれと頼む。長次は参次に事

を託して一旦去る。

 

 参次は「おめえ。男が出来やがったな」と

怒り彼女を打擲する。仕置仕事は絶対に断る

というお徳は強制されるならば奉行所に訴え

ると述べた。おめえも罰せられるんだぞと参

次は告げた。処罰も覚悟していることをお徳

は明言した。

 三次は、お徳の固い決意を聞き、仕置人離

脱を許可する。

 お徳は喜んで去っていく。だが彼女の首に参

次が投げた匕首が刺さる。

 

 死神はお徳の遺体を見て号泣する。正八を仕

置人と喝破した死神はこれまで仕置の仕事のみ

教えられ女も知らなかったと告白する。

 

 お徳と出会い愛し合って、初めて女の優し

さに触れ感動した。殺人マシーンであった死

神は女徳の愛に触れ涙する男になった。

 

 鉄は骨接ぎの講義を長屋の人々に教授する。

 

 参次に挑戦状を叩きつけた死神は、決闘で

彼を仕置する。

 

 監視役と見られる側の仕置人二人であった

死神と正八に絆が芽生えた。死神が愛したお

徳の遺体を埋葬しようと正八は考える。

 

 お徳の遺体を運んだ正八は了然和尚に名前

を聞かれ己代松の名を騙ってしまう。目明し

が松を調べ、「お徳殺しの下手人は己代松」

と奉行所は推理した。

 

 鉄は奉行所の目明しが松を探索すること

から、金を稼いで松に逃げろと提案する。旅

費の為まとまった金を十両は稼がねばならない。

 

 参次の親分で隻眼の仕置人長次は、死神が

私怨で掟を破って俺の子分を殺したとして競

りにかけるべきだと虎に迫る。

 

  「一人旅冥途へ急ぐ死神や」

 

 寅の会で元締の補佐を務める仕置人吉蔵に

先立ち長次自ら句を詠んだ。

 

 虎は苦渋を堪え、用心棒であり、精神的関

係の息子であった死神仕置を決定し競りにか

ける。

 

 

 仕置は鉄が十両で競り落とした。

 

 絵草子屋の会議で鉄は標的が死神だぞと正八

に知らせる。「止めよ」と正八は鉄・松・主水

に頼んだ。鉄・松・主水は正八を殴り倒し死神

の居場所を吐かせる。

 

 鉄・松・主水は死神が潜む小屋に向かう。

 

 夜。

 

 長次一味は鉄・松・主水対死神の対決を見

届け、勝った方を殺害する計画を立てる。

 

 鉄・松・主水は長次の罠を知りつつ敢えて

仕掛けて出る作戦を選ぶ。

 

 ◎ここから核心・結末に言及します。

 ドラマ未見の方は作品をご覧になってか

 ら当記事を読んで下さい◎

 

 長次とその部下二人伊作・又八も凄腕の仕

置人だ。

 

 主水は又八と激闘を為して斬る。

 

 伊作は鉄の首に鎖鎌をかけて引き摺り回

す。

 

 松が伊作を竹鉄砲で射殺する。

 

 長次は短銃を己代松に向ける。

 

 倒れていた鉄が立ち上がり長次の骨を外

して殺害した。

 鉄・松・主水は死神がいる小屋に向かう。

 

 「死神逃げろ!」と正八が叫んだ。

 小屋の中で銛で 橈骨動脈を斬って自殺した

死神とお徳の遺体があった。

 

 「鉄は死神が後追い心中」したことを様

にならねえと冷笑する。

 

 主水はお徳の遺体を見て樹の下で殺され

た女と確認する。

 

 己代松は命が助かり安堵する。

 

 鉄・主水・己代松は冷徹に場を見つめ去

って行く。

 

 正八は死神とお徳の髪の毛を切り、小舟に

乗せて流した。

 

 

 

 キャスト

 

 

 藤田まこと(中村主水)

 

 

 中村嘉葎雄(巳代松)

 

 

 火野正平(正八)

 

 

 河原崎建三(死神)

 

 戸浦六宏(長次)

 

 中川梨絵(お仙)

 

 八木孝子(お徳)

 黒部進(参次)

 

 

 藤村富美男(元阪神タイガース)(元締虎)

 

 

 山本弘(目明し文蔵)

 黛康太郎(伊作)

 宍戸大全(又八)

 

 天王子虎之助(了然)

 山口幸生(与力)

 マキ(屋根の男)

 

 北村光生(吉蔵)

 藤沢薫(闇の俳諧師)

 原聖四郎(闇の俳諧師)

 堀北幸夫(闇の俳諧師)

 沖時男(闇の俳諧師)

 秋山勝俊(闇の俳諧師)

 

 菅井きん(中村せん)

 

 白木万理(中村りつ)

 

 

 

 

 山崎努(念仏の鉄)

 

 


 スタッフ
 

 制作      山内久司(朝日放送)

         仲川利久(朝日放送)

         桜井洋三(松竹)

 

 脚本          野上龍雄

 

 

 音楽          平尾昌晃

 編曲          竜崎孝路

 

 撮影          藤原三郎

 製作主任        渡辺寿男

 

 美術          川村鬼世志

 照明          中島利男

 録音          木村清治郎

 調音          本田文人 

 編集          園井弘一

 

 

 助監督        服部公男

 装飾         玉井憲一

 記録         野口多喜子

 進行         静川和夫

 特技         宍戸大全

 

 装置          新映美術工芸

 床山結髪        八木かつら

 衣装          松竹衣裳

 小道具         高津商会

 現像          東洋現像所

 

 殺陣          楠本栄一

             布目真爾

 題字          糸見渓南

 

 ナレーター       芥川隆行

 

 オープニング 

 ナレーション作     早坂暁

 エンディング作     野上龍雄

 予告篇ナレーター    野島一郎

 

 主題歌          「あかね雲」

 作詞           片桐和子

 作曲           平尾昌晃

 編曲           竜崎孝路

 唄            川田ともこ

 東芝レコード

 

 

 制作協力        京都映画株式会社

 

 監督          高坂光幸

 

 

 制作            朝日放送

               松竹株式会社

 

 

 ◎

 藤田まこと=はぐれ亭馬之助

 

 中村賀津雄→中村嘉葎雄

 

 二瓶康一→火野正平

 

 河原崎建三=河原崎健三

 

 

 白木万理=松島恭子=白木マリ

 

 山崎努=山﨑努 

 

 

 山内久司=松田司

 

 野口多喜子=嵯峨忍

 

 平尾昌晃=平尾昌章

 

 ◎

 早坂暁はノークレジット

 ◎

 念仏の鉄 山崎努

 

 この字幕は起こしで表示される。

そのムードを想い、大きな活字で

表記してみた。

 

 ◎愛への燃焼 死神の道◎

 

 第四十話「愛情無用」は野上龍雄脚本、高坂光

幸監督が悲しみと切なさを極めた。

 「愛情無用」を前篇・第四十一話「解散無用」

を後篇として最終回は構成されているとも見れる。

 

 虎の厳粛な統制の下統率されていた殺し屋組織

寅の会が柱を失い崩壊していく。その激しい流れ

に視聴者の心身は熱くなり驚きを感じる。

 

 殺人マシーンとして仕置を冷厳に為す事だけを

命の課題としてきた死神は、恋人お徳を仕置人参

次に殺され仇を討ち愛を明かした。

 愛情に目覚め涙を流す。生物・人間の情に覚醒

したことが、師匠・師父元締虎を窮地に追いやる。

 

 命を捨ててお徳の仇討ちに全てを挙げて取り

組んだ。

 

  

 死神の悲しみを友正八が見つめる。『想い出

は風の中』を正八自ら歌う。高坂光幸は火野正平

の曲『海』を鮮やかにドラマ内で奏でる。

 

 陽光をいっぱいに浴びる樹の下で仕置人参次

が無残にお徳を殺す。

 

 惨劇に正八は「可哀相なことをしやがる」と

悲しみを抑えられない。

 

 火野正平の優しさはドラマ全篇に光っている。

 

 お徳の遺体埋葬を了然和尚に頼む際に己代松と

正八が騙ってしまったことが、奉行所に追われる

松という事態を惹起してしまう。

 

 強欲で守銭奴の長次を名優戸浦六宏が粘り強く

演じる。

 

 参次役の黒部進が悪党を憎たらしさいっぱいに

演じる。

 

 八木孝子はお徳の悲劇を熱演する。

 

 中川梨絵がお仙を陽気に魅せる。

 

 死神は正八に愛してくれているお仙を大事に

するようにと正八に告げる。野上脚本は愛に目

覚めた男死神を鮮やかに描く。

 

 念仏の鉄の骨接ぎ教室の描写に、十歳だった

わたくしは感嘆した。

 

 悲しい物語にあって、お仙の陽気さと鉄の骨

接ぎ教授の明るさが息をつかせてくれる。

 

 野上龍雄の脚本は緻密・完璧である。

 

 正八がうっかり了然和尚に喋った嘘から、己代

松にお徳殺しの嫌疑がかかる。

 

 天王寺虎之助は三度目の出演で初めて死なない

役になった。

 

 鉄・松・主水に正八が殴られるシーンは、山

﨑努・中村嘉葎雄・藤田まことが火野正平を本気

で殴っているように見える。

 

 夜の森の小屋周囲で長次・伊作・又八と鉄・松・

主水は大決戦を為す。

 

 高坂光幸監督の戦闘描写に全身で緊張した。

 

 黛康太郎は『必殺仕置人』「いのちを売ってさら

し首」から鉄・主水物語に出演している。

 寅の会崩壊劇前篇である本作に悪役で出たことに

縁を感じた。

 

 特技を担当する宍戸大全が俳優としても凄みを

見せる。

 

 長次が松に勝ったと思い込み銃口を向けて、鉄

に襲われ殺害される。

 

 戸浦六宏が勝利確信から激痛苦痛への変化を鋭

く現した。

 

 死神とはこれまで仕置相談で心を通わし合った

鉄だが敵対関係になると死体を見ても冷たい反応

を浮かべた。

 

 野上龍雄・高坂光幸は仕置人の非情を確かめる。

 

 回想場面で若き日の黒髪の寅が船で赤ん坊の死

神を抱きしめる。

 

 高坂光幸は死神の死を映した後、乳幼児時代の

死神を映す。

 

 その鋭さに痺れる。

 

 俳優藤村富美男の無言の存在感に圧倒される。

 

 寅の会は元締護衛・監視役という大黒柱死神の

自殺で大きく傾く。

 

 野上龍雄脚本・高坂光幸演出が重厚に描く崩壊

劇に十歳であったわたくしは緊張し息を呑んだ。

 

 これは思い出やノスタルジーではないのだ。

 

 四十六年二か月二日経った今、私の心身を熱く

する事柄なのだ。

 

 

 河原崎建三が愛に全てを燃やす死神を演じき

った。

 この回が『新必殺仕置人』ラスト出演となった。

 

 

 悲しいドラマに胸が熱くなったが、悲劇を通

して命の尊さや愛の暖かさを学んだ。

 

 「仲良くしろよ」と死神・お徳の髪の毛に

語った正八は暖かい。

 

               南無阿弥陀仏