新必殺仕置人 解散無用   | 俺の命はウルトラ・アイ

新必殺仕置人 解散無用  

『新必殺仕置人』第四十一話「解散無用」

(『新・必殺仕置人』第四十一話「解散無用」)

 

 テレビ映画 トーキー 54分 カラー(一部白黒)

 昭和五十二年(1977年)十一月四日

(金曜日)二十二時放送

 

製作国 日本

 製作言語 日本語

 

    オープニングナレーション

 

   のさばる悪をなんとする

 

   天の裁きはまってはおれぬ

 

   この世の正義もあてにはならぬ

 

   闇に裁いて仕置きする  

 

   南無阿弥陀仏   

 ◎

 感想文では研究学習の為ドラマの結末に

言及します。

 本作未見未視聴の方は閲覧御注意下さい。

ドラマをご覧になってから当記事をご高覧

頂きますようお願い申し上げます。

 

 凄惨・残酷な描写について言及します。

女性の方・十八歳未満の方・お食事中の方

は御注意下さい。

 ◎

 歌舞伎『藤娘』の舞台が上演されている。

 

 仕置人己代松は役者田村十三郎を竹鉄砲

で狙撃し殺害した。

 

 潜んでいた同心諸岡佐之助が配下の者達

に己代松を囲ませ捕えた。

 

  諸岡「己代松。神妙にしろ」
 

 正八は己代松が奉行所に捕えられた事を

知り、直ちに仲間の念仏の鉄・おていに知

らせる。鉄は正八に注意するように指示す

る。

 

 おていと松が恋仲だったことが明かされた。

 

 鉄は「俺達の稼業わかってるだろうな?」

と問う。おていは何時松が獄門首になるかわ

からないことを確かめる。

 

 それでも惚れた男の安否が気になる。

 

 南町奉行所同心中村主水が現れる。

 

 尾行者を警戒する主水は同心としておて 

いに「掏摸の嫌疑で奉行所に来い」と命じた。

おていは掏摸で捕まえるのは現場を抑えな

いと駄目ですよと機転を効かせて抵抗の声

を演じる。

 

 主水はおていを奉行所に呼んだ。諸岡は己

代松を拷問にかけ虐待する。松の苦しむ姿に

恋人おていは悲しみを抑えられない。

 

 

 「せめて一目松に引き合わせてやりたい」

という主水の心遣いであったが、おていの

心はショックを受ける。

 

 冷酷非情の諸岡は残虐な拷問を楽しむ。

 寅の会。

 

 元締虎は「本日をもって寅の会を解散」

すると厳かに宣言した。

 

 鉄は仲間が奉行所に捕えられたので、落

とし前をつけるようにと要求する。

 仕置人辰蔵は「鉄さんの言う通りだ」と

語り、虎にけじめをつける事を求める。

 

 

 虎の腹心の部下吉蔵は「辰蔵さん、言葉

が過ぎるぜ」と辰蔵の野心を看取して牽制

する。

 

 虎は「私がつけると言ってるんだ」と改

めて語った。

 

 辰蔵は「俺が辰の会を作ったっていい訳

だな?」と語り野望の計画を語り始める。

 

  吉蔵「あんたが何を考えているか、元

     締はお見通しだ」


 

  虎「金の為に見境無く人殺しをする

    外道は許さねえ。そのことはわ

    かっているぜ、辰蔵さん」

 

 辰蔵は虎と吉蔵に野心を見透かされ、悔

しさを見せた。

辰の会

 観音長屋に武士達が籠を持って現れる。

 

 屋根の男は大名の若様で駕籠に乗り城に

帰った。

 

 

 鉄が石段を降りていると、辰蔵とその配下

の道八・弥之吉・義助が接近した。

 辰蔵は「おめえさんが承知してくれれば、

己代松を解き放つ事も出来るんだが」と持ち

かけた。

 

 鉄は虎のけじめを見守る心を述べた。

 

 虎は長屋で子供達と遊んでいた。鉄が尾行

し家の中に入って行くと、虎は木像を彫って

いた。

 

 虎は「とうとう見られましたね」と語った。

 

 元締として仕置した人間達を弔い、哀悼の

心をこめて木像を彫っていたのだ。

 

  「例え悪党でも、死ねば仏です」

 

  「私は仕置人の外道は許さない」

 

 元締虎の言葉は、鉄の心に深く響く。


 

 虎は諸岡の元に自首して、鋳掛職人で己

代松の親代わりと名乗り出る。諸岡は虎と

元締を見た瞬間名前も察知していた。

 

 「己代松の身柄を引き取りたい」と願い

出た虎は、「私をお縄にして下さい」と申

し出て頼むが、諸岡の態度は厳しい。

 己代松解き放ちを頼み、自分自身は獄門

台にかかろうということかと諸岡は虎の決

意を問いつつ、「おめえさん、俺を甘く見

過ぎてんのじゃねえのかい」と問い返して

茶を地べたに捨てる。

 

 虎の交渉が諸岡に拒否された事を主水は

確認する。

 

 鉄・正八・おてい・主水は対策を相談する。

正八は「辰の会に入るのならば、松を助けて

やる」という辰蔵の提案に乗るべきだと主張

しするが、煙管で煙草を吹かす鉄は「気取る

訳じゃないがな、俺は外道にだけはなりたく

ないんだ」と自己の生きる道を明かす。

 「いいじゃん。俺達人殺しなんだからさ」

と正八は外道になっても松さん救出の為に

辰の会に四人揃って入るべきだと力説する。

鉄は「てめえにこんな稼業は似合わねえ。辞

めちまえ」と厳しく述べた。

 

 絵草子屋を出た鉄は辰蔵の部下の仕置人

が尾行していたことに気付き彼を捕え、辰

蔵の居場所に案内させる。

 

 

 辰蔵の家に来た鉄は、「辰の会に入るから

松を助けてくれ」と頼む。辰蔵は「鉄さんと

松さんと刃物を使う仕置人」の三人全員が揃

わないとこの話はご破算だと語り、鉄の申し

出を断る。

 

 鉄は仲間の主水を辰の会に巻き込むこと

を避けた。主水は鉄にとって最後の切り札

であった。

◎ここから物語の核心に言及します。未見

の方は御注意下さい◎

 元締虎の家に辰蔵の部下道八・弥之吉・

義助とその仲間の刺客が侵入した。虎は刺

客達に背後から刺された。刺客の一人を虎

は凝視する。虎を刺した辰蔵の部下達と睨

まれた男は逃げ去った。


 

  鉄がかけつけ虎を抱き起す。

 

 

  致命傷を負った虎は財布を取りだして

仕置を鉄に頼む。

 


 

  虎「鉄さん。外道を頼む。」

 

 寅の会最後の仕置を鉄に頼み、彼の腕の中

で元締虎は息絶えた。

 
 

 辰蔵の家では虎を刺殺した男の一人を、諸岡

と辰蔵が讃える。

 

  諸岡「虎にあんなに信頼されてたのに、

     あんた悪党だな!」

 

  辰蔵「この人は俺の片腕ですよ。」

 

 

 辰蔵と組み虎を刺殺した内応者は、吉蔵であ

った。

 正八は吉蔵の裏切りを鉄・主水・おていに報

告する。

 

 

 

 

 主水は鉄に辰の会に入り、顔を晒すと宣言

する。

 

  主水「俺はおめえが辰蔵の元に

     何しに行ったかわかってるぜ」


 

  鉄「おめえは切り札だ。

    俺がしくじった時は

    おめえに任すぜ」


 鉄は単身辰蔵の家に潜入し、厠から出てき

た辰蔵を脅し、「己代松を渡せ!さもねえと

おめえをぶっ殺すぞ。どうなんでえ?」と迫

るが、辰蔵はこの襲撃を計算していた。待っ

ていた部下達が鉄を襲い拉致監禁して拷問に

かけて納戸で右腕を焼く。

 

 鉄が気を失って倒れると諸岡が現れ、松が

遷延性意識障害の状態になったことを述べた。

 

  辰蔵「鉄も己代松も仕置人

     としてはもうおしま

     いですな。」

 

 正八は鉄が捕まり拷問にあった状況を見

て、匕首を取りに行って、辰蔵への報復を

企てる。主水は「てめえみたいなガキに何

ができる」と叱責した。「俺がしくじって

からでも遅くはねえ」と主水は正八に匕首

を投げ渡す。


 

 中村家においてせん・りつに対して主水

は「離縁して頂きたい」と望む。

 りつは夜に不満がないことを述べる。せ

んは、はしたないと注意しつつ貴方のよう

な頼りない婿がいてくれたからこ長生きで

きたと告げ離縁を思い留まるように頼む。

 主水は「石よりも鉄よりもカチカチに固

い」と離縁の意志を述べ歩みだした。

 

 拷問に遭う松・鉄を思って主水は歩む。

 

 

 奉行所で主水は「諸岡様の御命令」と称

して己代松の身柄を引き取るが、松は遷延

性意識障害で仲間の主水が誰であるかもわ

からなかった。

まつ

 正八とおていが松を大八車に乗せた。

 

  主水「己代松のこと、頼むぞ」

 

  正八「松っあんもつれて行って

     やってくれよ。仕置人な

     んだからさ」

 辰蔵の家に主水が現れ、諸岡に「申し訳ありま

せん」と謝罪し、「厠に行っている間に己代松に

逃げられました」と伝えた。諸岡は己代松が逃げ

れる筈はないと否定した。
辰 諸岡

  諸岡「おめえ夢でも見てるん

     じゃねえのかい?

     己代松は生ける屍だ。」

 

 辰蔵は三人目の仕置人が逃がしたかもしれ

ませんと述べ、諸岡の注意を呼び起こした。


 諸岡は同意し家の外にでる。

◎ここからドラマの結末に言及します。

未見の方は御注意下さい◎

  諸岡「待て待て中村、

     お前どうして俺がここに

     いるとわかった?

     まさかお前・・・・・・?」

 

 

 主水「そう、あんたの思った通りだよ。

    諸岡さん。」

 

 諸岡は刀を抜いて主水に斬りかかる。主水

は諸岡に刀を振り下ろし斬り、刀を突き刺し

て、刺したまま辰蔵の家の戸を諸岡の体で突

き破った。

 道八ら辰蔵の子分達は諸岡の遺体を見てか

けより、主水に対し刀・匕首を抜く。

 

  「おめえが三人目の仕置人か!?」

 

 辰蔵は現れた仕置人主水を見て驚く。主水

は道八・弥之吉・義助を一気に斬殺する。辰

蔵は納屋へ吉蔵は町へそれぞれ逃げた。

 

 逃げる吉蔵を大八車の正八・おてい・己代

松が追いかける。正八が車を進め、荷台に座

る松におていが支えて竹鉄砲を持たせた。吉

蔵は懸命に逃げる。

 おていは吉蔵に狙いを定めて己代松の指

を動かして引き金を弾かせた。

 

 弾丸は的中し裏切者吉蔵は絶命した。

 

  「やったあ!松っさん。」

 

 正八は己代松の仕置を讃える。

 

 

 

 

 辰蔵は納戸に入った。

 

 鉄は黒焦げになった右腕を動かし立ち

上がった。

 

 匕首を振るう辰蔵。

 

 念仏の鉄は命を捨てる決意で辰蔵に挑む。

 辰蔵は鉄の左手を刺す。

 

 鉄は押し倒されるが辰蔵を蹴る。

 

 辰蔵は匕首を抜き鉄の腹を刺し致命傷を

与える。

 

 

 鉄は辰蔵の身体を左手で引き寄せ、焼かれた

右手で辰蔵の骨をはずす。

 辰蔵は悲鳴を挙げて息絶えた。

 

 匕首を抜いた鉄は納戸を出て歩みだした。

 

 主水はかけつけ念仏の鉄が歩む光景を見つ

める。

別れ

 腹部の激痛を堪えた鉄は遊里で女郎と遊ぶ。

 

 酒を飲んだ鉄は、布団の中で女郎と戯れる。

 布団を被っていた女郎は驚き飛び起きた。

 

 鉄は死んでいた。

 

 おていは大八車に己代松を乗せ、「あたしが

必ず治すから」と正八に宣言した。

 

 観音長屋で中村主水は町人達から賄賂を催促

する。

 

 町人の一人が紙包みを渡す。

 

 金と期待して紙包みを開けると空だった。

 

 中村主水は自嘲しつつ笑う。

 

 キャスト

 

 

 藤田まこと(中村主水)

 

 

 中村嘉葎雄(己代松)

 

 

 火野正平(正八)

 

 

 中尾ミエ(おてい)

 

 

 佐藤慶(辰蔵)

 

 

 清水綋治(諸岡佐之助)

 山崎清三郎(田村十三郎)


 

 藤村富美男(元締虎)


 

 北村光生(吉蔵)

 唐沢民賢(道八)

 高並功(弥之吉)

 

 マキ(屋根の男)

 東悦次(義助)

 森みつる(女郎)

 

 平井靖(小者)

 伊波一之(侍)

 美鷹健児(侍)


 

 藤沢薫(闇の俳諧師)

 原聖四郎(闇の俳諧師)

 沖時男(闇の俳諧師)

 堀北幸夫(闇の俳諧師)

 秋山勝俊(闇の俳諧師)

 

 

 菅井きん(中村せん)

 

 白木万理(中村りつ)

 

 

 

山崎努(念仏の鉄)

 

 

 

 スタッフ

 

 制作 山内久司(朝日放送)

    仲川利久(朝日放送)

    桜井洋三(松竹)


 

 脚本 村尾昭


 

 音楽 平尾昌晃

   編曲 竜崎孝路

 

 撮影 藤原三郎

 製作主任 渡辺寿男

 

 

 美術 川村鬼世志

 照明 中島利男

 録音 木村清治郎

 調音 本田文人

 編集 園井弘一

 

 助監督 服部公男

 装飾 玉井憲一

 記録 野口多喜子

 進行 静川和夫

 特技 宍戸大全

 

 装置 新映美術工芸

 床山結髪  八木かつら

 衣装 松竹衣装

 小道具 高津商会

 現像 東洋現像所

 

 殺陣 楠本栄一

    布目真爾

 題字 糸見渓南

 

 ナレーター 芥川隆行

 

 

 オープニングナレーション作   早坂暁

 

 

 主題歌

 あかね雲

 作詞 片桐和子

 作曲 平尾昌晃

 編曲 竜崎孝路

 唄  川田ともこ

 東芝レコード

 

 制作協力 京都映画株式会社
 

 監督 原田雄一

 

 制作 朝日放送

    松竹株式会社

 

 

 ☆

 藤田まこと=はぐれ亭馬之助

 

 

 中村嘉葎雄=中村賀津雄

 

 

 二瓶康一→火野正平

 

 中尾ミエ=中尾ミヱ

 

 

 

 白木万理=松島恭子=白木マリ

 

 

 山崎努=山﨑努

 

 

 山内久司=松田司

 

 村尾昭=但島栄

 

 野口多喜子=嵯峨忍

 

 平尾昌晃=平尾昌章

 ◎

 早坂暁はノークレジット

 ◎

 念仏の鉄 完に燃える命

 ◎

 山﨑努(やまざき・つとむ)は昭和十一年

(1936年)十二月二日千葉県に誕生した。本

作は山崎努の表記である。

 

 三十六歳で『必殺仕置人』主人公念仏の鉄

を勤めた。四十歳で『新必殺仕置人』の念

仏の鉄を勤めた。凄みに視聴者は震える。地

球映像の歴史において不滅の輝きを放ってい

る。

 

 『必殺仕置人』で登場した念仏の鉄は、『新

必殺仕置人』で命を燃焼させ最終回で死んだ。

 

 『必殺仕置人』『新必殺仕置人』全六十七話

に念仏の鉄役を山﨑努は生きた。旧・新の『仕

置人』物語で一人一役で全話出演した存在は山

﨑努唯一人である。それ故に旧・新の『仕置人』

物語の主人公は念仏の鉄で、主演は山﨑努であ

る。

 

 高鳥都著『必殺シリーズ秘史 50年目の告
白録』(令和四年九月十九日発行 立東舎)
は山﨑努とスタッフ達が『必殺シリーズ』を
熱く語った大インタビュー集であり、貴重な
映像史記録である。

 山﨑努は幼年期に赤い襦袢を着ていたお乞
食さんに恐怖感を抱いていたが、靴を川に落
とした時にそのお乞食さんが拾ってくれた事
を確かめる。



 お乞食さんは鉄役演技のモデル・原風景であ
るようだ。



 「沖はプライベートでぼくの家に遊びに来
るくらい仲良くなってね」(366頁)の言葉
に胸が熱くなった。

 

 

 中村嘉葎雄は昭和十三年(1938年)四月二十

三日に三代目中村時蔵と小川ひなの五男として

誕生した。本名は小川加沙雄で、最初の芸名は

初代中村賀津雄である。

 二代目中村歌昇(四代目中村歌六)・四代目

中村時蔵・初代中村獅童・初代中村錦之助後の

初代萬屋錦之介は兄である。

 昭和十八年(1943年)九月歌舞伎座公演『取

替べい』において中村賀津雄の芸名で初舞台を

踏む。

 兄錦之助に続いて映画の世界に入り、昭和三

十年(1955年)松竹製作『振袖剣法』で銀幕デ

ビューを為した。

 後に芸名を中村嘉葎雄に改めた。三十八・三十

九歳で鋳掛屋の己代松を勤めた。

 最終回では諸岡の拷問に遭い、仲間の名を売れ

と迫られ唾を吐き、虐め抜かれ生ける屍となる。

 中村嘉葎雄が己代松の極限的苦悩を演じた。

 

 

 

 藤田まこと(ふじた・まこと)は昭和八

年(1933年)四月十三日に東京府に誕生し

た。本名は原田眞(はらだ・まこと)であ

る。芸名別名義にはぐれ亭馬之助がある。

 平成二十二年(2010年)二月十七日、七

十六歳で死去した

 四十三・四十四歳で仕置人中村主水を演じ

た。

 虎は殺され、己代松は拷問にかけられ、鉄

は右手を焼かれた。仲間の無念を思い、闘志

を胸にして、上司諸岡に挑む。藤田まことの

鬼気迫る演技に震える。

 

 

 村尾昭(むらお・あきら)は昭和八年

(1933年)五月十六日、兵庫県に誕生し

た。

 平成二十年(2008年)十一月五日に七

十五歳で死去した。

 

 東映において数々の任侠映画の傑作シナ

リオを書いた。凄惨で残酷な物語を熱い筆致

と緻密な構成で描いた。作品は惨たらしい

流血を打ち出すことで逆説的に命の尊さを

明かしている。現代ギャング映画『ギャング

対Gメン』は但島栄名義でシナリオを書いて

いる。

 

 

 『新必殺仕置人』は七作品のシナリオを

担当した。いずれも凄惨・残酷で強烈な印象

を与えてくれる。惨たらしくて痛ましい。

 ドラマを見聞した視聴者は、村尾昭筆残酷

物語に出会い、ただ一度の人生の尊さと今こ

の瞬間生命を生きている事の有難さを痛感す

る。

 冷血漢の外道仕置人は虎を潰し辰の会結成

に野望を燃やす。部下の道八・弥之吉・義助

も凄腕の仕置人だ。同心諸岡・仕置人吉蔵を

仲間に入れ、虎の組織と鉄のチームを辰蔵は

攻撃し崩す。

 

 仲間己代松を捕縛され拷問にかけられ、元

締虎を殺された鉄は命を擲って強敵辰蔵に挑

み松を救出しようとする。

 

 佐藤慶が極悪非道の仕置人辰蔵に命を吹き

込んだ。悪役の決定版である。

 

 

 清水綋治(しみず・こうじ)は昭和十九

年(1944年)二月十一日に誕生した。光る

眼光と太い声で冷酷非情の同心諸岡佐之助を

演じきった。

 

 

 藤村富美男の至芸は圧巻であった。プロの

俳優ではないプロ野球人が、重厚な名演を明

かした。俳優としても藤村富美男は大いなる

星であった。

 

 寅の会は崩壊し、鉄チームは大将格の鉄が

戦死する。

 

 

 「解散無用」は村尾昭崩壊劇の集大成であ

る。

 

 平尾昌晃の音楽が心の底に響く。

 

 村尾昭の壮絶脚本を原田雄一が炎の演出で

撮った。

 

 

 昭和五十二年十一月四日(金曜日)二十二

時になった瞬間、青年が疾走し「必殺シリー

ズ」の字幕が表示された。このオープニング

は再放送・ビデオ・DVDに収録されていない。

 

 リアルタイム小学四年生視聴者として青年

疾走のオープニング映像があったことを述べて

おきたい。

 

 仕置人達が命を賭けて戦う物語に全身全心

で緊張した。

 

 番組終了後ドラマの中の出来事を心の中で

繰り返し反芻した。

 

 「好き」なんて感情は微塵も覚えない。そ

んな素敵な心地じゃない。

 

 ただ、恐ろしくて怖かった。夜のベッドの

中で震えていた。小学四年生男子児童は翌1

977年11月5日学校に通いつつ番組の衝撃で

心は興奮していた。

 

 

 高鳥都編著『必殺仕置人大全』(令和五年

十月四日発行 かや書房)によると、村尾昭

脚本と完成版映像には違いがあるようだ。

 

 おていは己代松の子供を身籠っていた。奉

行所で松は苦しみながらおていと再会し微笑

を浮かべる設定であったという。

 

 虎の最期も本篇とは違うようだ。吉蔵に刺

され致命傷を負った虎は鉄に自身のとどめを

刺すように頼み、鉄が骨を外して虎を殺す。

 

 鉄が辰蔵に匕首で刺されて死ぬ。

 

 村尾昭脚本では主水と正八が鉄の遺体を

水葬にするラストであったという。

 

 

 本篇54分に身も心も緊張し震えた。

 

 仕置人鉄は仲間の救出を課題として命を捨

てて戦った。右手を焼かれた鉄は骨はずしを

為せる力は殆ど無かった。納戸に逃げてきた

辰蔵は刺客主水を恐れている。もし主水の追

跡から逃れれば辰蔵は納戸から出て鉄を死んだ

存在・倒れた存在として無視して出て、鉄は

一命を取り留めたかもしれない。

 しかし、鉄自身の仕置人としての矜持と意地

と闘魂が右手を焼いた辰蔵に最期の抵抗を為さ

しめたのだ。

 

 『必殺仕置人』「いのちを売ってさらし首」

で棺桶の錠に「世の為人の為なんて言ってたら

すぐにへたばっちまう」と我が身可愛さを第一

に仕置をしないと生き残れない事を説いた。

 

 その鉄が辰蔵の金欲しさに殺戮を犯す手法に

怒り抵抗した。最後に外道にだけはなりたくね

えという意地から命を捨てて徹底抗戦し刺され

て焼かれた右手で辰蔵を骨はずしで殺す。

 

  ー最終回の演出は原田雄一監督。もとのシ

   ナリオから変更されて鉄は女郎屋で最後

   を迎えます。

 

  山﨑 どうやって死ぬかはぼくもアイデア

     を出したと思うんだけども、あんま

     り撮影で特別なことは覚えてないな。

     印象に残っているのは、ちょうどシ

     ョーケン(萩原健一)があの最終回

     を見てね、死ぬところがえらく好き

     だったらしくて、「山さん、死んだ

     ほうが勝ちよ!」って言ってた(笑)

   (『必殺シリーズ秘史 50年の告白録』

     373頁

     山﨑努インタビュー)

 

 山﨑努は鉄の死にアイデアを言ったと思うが

撮影での特別なことは覚えていないと証言して

いる。

 萩原健一は番組を視聴して、鉄の最期が好き

で、死ぬシーンに「勝ち」を感じ絶賛した。

 ショーケンも鉄のファンであった。

 

 

  ー鉄を刺し殺す役は、俳優座出身の佐藤慶

   さん

 

  山﨑 大先輩です。慶さんは『ザ・商社』

     (80年)もうそうだし、ずいぶん

     共演してるんですよ。『あかね雲』

     (67年)もそう。ぼくがやると必ず

      慶さんが敵役で出てくる、そういう

      コンビみたいでしたね。

  (『必殺シリーズ秘史 50年の告白録』

    373頁

    山﨑努インタビュー)

 

 山﨑努は佐藤慶を大先輩と敬う。主役を演じる

時は脅威となる敵役で佐藤慶が出た。これは1980

年に『ザ・商社』で山﨑努・佐藤慶の再共演を視

聴した時にこのことを感じた。

 

 山﨑努の主人公は、佐藤慶の強敵に挑戦する。

 

 スタッフにとっても二大名優の激突は痺れる時

であったことが窺える。勿論視聴者も緊張し興奮

した。

 

 

 死闘の後、鉄は背後にやってきた主水と口を

きかず、傷口を抑えて遊郭に行く。

 

 無言の主水が鉄を見送った視線に、仲間の最期

を確信した男の悲しみがあった。

 

 

 女郎役は森みつるである。「裏切無用」のお

しま役女優である。

 

 おしまと「解散無用」の女郎が同一人物か

どうかは分からないが、同じ女性と見ている。

 「裏切無用」でおしまは鉄に浮気したら仕

置人に頼んで仕置するわよと鉄に警告した。

 

 仕置人として外道になれないと決めて辰蔵

と戦った鉄は致命傷を深い負うが、気力を振

り絞り大好きな遊里で女郎と遊ぶ。おしまへ

の義理を大事にしたと見ている。

 

 女郎が布団から飛び起きる。

 

 鉄は布団の中で死んだ。

 

 おていが恋人己代松の介護と治癒を正八に

約束する。

 『助け人走る』の音楽が流れる。山﨑努が

ナレーターを勤めた番組である。

 

 観音長屋で賄賂を貰い損ねた主水は微笑む。

 

 『必殺仕置人』「いのちを売ってさらし首」

において賄賂を取って鉄に注意された。

 

 「解散無用」ラストに鉄は居ない。

解散無用

 

 中村主水の笑顔が、念仏の鉄の死への確かめ

となっている。

 

 『必殺仕置人』「いのちを売ってさらし首」

と『新必殺仕置人』(『新・必殺仕置人』)

「解散無用」は円を描き両手を合わせるよう

呼応照応し四年全六十七話の歴史を包み一つ

になる。

 

 

 

 

 

 

 『新必殺仕置人』「解散無用」に四十六年

間ずっと震えて全身で熱くなっている。

 

 糸見渓南が赤で大書した「完」の一字が重

い。

 

 

 虎の無念を思い、己代松の救出に命を捨てて

取組、主水・正八・おていを守る為に強敵辰蔵

に刺されながら骨外しで倒し、女郎と遊び死ぬ。

 

 念仏の鉄の生き方・死に方の完全燃焼があっ

た。

 

 完の一字は、鉄が命を燃やしきって死んで、彼

の人生が終わったことを示している。

 

 終わることで有限の鉄の生命は永遠になった。

 

 

 山﨑努の芸は念仏の鉄に永遠の生命を吹き込

んだ。

            

              南無阿弥陀仏