新必殺仕置人 妖刀無用 | 俺の命はウルトラ・アイ

新必殺仕置人 妖刀無用

『新必殺仕置人』「妖刀無用」
(『新・必殺仕置人』「妖刀無用」)

テレビ映画 トーキー 

54分  カラー(一部白黒)

昭和五十二年(1977年)八月五日放送

 

 

製作国 日本

製作言語 日本語

 

 オープニングナレーション

 

 のさばる悪を なんとする

 天の裁きは 待ってはおれぬ

 この世の正義も あてにはならぬ

 闇に裁いて 仕置する

 南無阿弥陀仏

 

 池田左母次郎は公儀刀剣試御用役を勤め

る武士である。死刑囚の斬首を数多く為し

ている左母次郎は「首斬り左母次郎」の異名

で恐れられている。

 

 三田村家に仕える村瀬又十郎の妻登勢は

新刀試し斬りの課題を池田家を尋ね左母次

郎に伝えた。

 

  「そのほう、年は幾つじゃ?」

 

 左母次郎は登勢の美貌に惹かれ自室に拉致

し強姦した。

 

 登勢は深い悲しみを覚える。

 

 南町奉行所では命乞いをする死刑囚達が、

左母次郎の刀で首を斬られる。

 

  「見とけよ、おめえもああなるんだ。」

 

 中村主水は仲間の絵草子屋の正八に注意

した。

 

 観音長屋を歩む登勢を見て、己代松は人妻と

知りつつ想いを感じる。

 

  「武家の女房も良いなあ」

 

 仲間の念仏の鉄が声をかけた。

 

 三田村家の当主采女は刀の鋭さに魅せられ

た男であった。自身の着物を血で汚すのは嫌

で左母次郎に人斬りをさせて刀の切れ味を見て

喜んでいる。名刀陸奥守忠吉を見た采女の眼

光は鋭いものとなっていく。切れ味を見たい

という采女の言葉に用人西尾孫太夫は震える。

 

 又十郎は三田村家家宝の皿を割ったという

濡衣を着せられた。これには采女とその配下

久蔵の奸計があった。采女の面前で又十郎は

左母次郎に斬殺される。

 登勢は泣き崩れる。孫太夫も登勢と共に又

十郎の死を嘆く。

 

 観音長屋で左母次郎の財布を掏ろうとした

おていは捕まる。正八がその光景を見て心配

する。衆人監視であったこともあり、左母次

郎はおていの足のみ傷をつけ、命は助けた。

 

 

 

 己代松は登勢の悲しみを察し支えたいと思

うが事情が分からない。

 

 中村家では主水が義母せんの誕生日を祝い、

人形を贈った。綺麗な人形に若き日を想起し

たせんは、母や祖母や曾祖母が長寿であった

ことを語った。婿殿よりも私は長く生きます

とせんは宣言する。

 人形の首が折れる。せんは怒る。りつは夫

主水に訳を聞く。人形売りから八割の値段で

買ってくれと頼まれたことを主水は語り、り

つに注意される。

 

 又十郎の弟市之進は亡兄の仇討ちに燃え、義

姉登勢と共に雨中の日に左母次郎に挑む。

 

 左母次郎は、一刀のもとに市之進を斬殺し、

登勢を再び強姦する。

 登勢は左母次郎の非道に怒るが、左母
治郎は人足の男達に登勢を放り投げ、「こ
の女をくれてやる」と宣言する。男達は
登勢を得て驚喜する。
 
  「地獄に堕ちろ!
   俺も地獄の声を聞いている。」
 
 これまで斬った数々の被害者の恨みを、
左母次郎は痛感し、地獄の苦しみを味わっ
ていることを確かめる。
 
 正八と鉄が蕎麦を食べていた。蕎麦屋に
は上方から出てきた仕置人清五郎がいた。
「おまはんには貸があったな」と清五郎は
昔の仲間鉄に注意した。
 
 寅の会では清五郎が左母次郎仕置を競り
落とした。
 
 だが清五郎と二人の仲間は左母次郎の刀
に無残に斬殺された。
 
 左母次郎仕置は鉄が請け負うこととなっ
た。
 
 己代松は愛する登勢を犯した恨みもあり、
「左母次郎は俺に殺らしてくれ。」と鉄・
主水に頼む。
 「そうはいかねえや。」と主水は断り、
竹鉄砲で短時間で左母次郎を死なせる事
はねえと明言し、「刀の痛みを味あわせ
なきゃいけねえ」と自ら左母次郎殺しを
為すと名乗りでる。
 
 松は采女の部下久蔵を竹鉄砲で射殺し
た。
 
 三田村家の蔵において采女は鎧を着た
鉄に捕らえられた。鉄は采女の骨をはずし
て殺害する。
 
 池田家に入った主水は左母次郎を見て
刀で傷つけた。
 
 剣士左母次郎は抵抗奮戦する。だが、
主水に刺された傷の痛みがあった。
 
  「痛えか?すぐ死なねえように刺し
   たんだ。」
 
 主水は左母次郎の傷口に塩をすりこむ
ように戦法を語った。
 
 左母次郎は主水に挑むが、主水の剣法
に倒され遂に膝を屈した。
 
 首斬り左母次郎は最期の時を感じ、自ら
の介錯を仕置人主水に託したようだった。
 
 
 主水は刀を振り上げ左母次郎を斬る。
 

 

 尼となった登勢は三田村家の亡き
夫又十郎と義弟市之進の菩提を弔う。

 己代松はすれ違った登勢の姿を静かに
見守る。
 
 

 キャスト

 

 

 藤田まこと(中村主水)

 

 

 中村嘉葎雄(巳代松)


 

 

 火野正平(正八)

 

 

 中尾ミエ(おてい)

 

 

 

 河原崎建三(死神)

 
 
 
 大木実(池田左母次郎)
 
 
 
 緑魔子(村瀬登勢)
 
 
 袋正(三田村采女)
 マキ(屋根の男)
 
 
 

 藤村富美男(元阪神タイガース)(元締虎)

 

 

 不破潤(久蔵)

 小林芳宏(村瀬市之進)

 柳原久仁夫(村瀬又十郎)

 

 溝田繁(西尾孫太夫)

 山口幸生(清五郎)

 山本一郎(牢同心)

 

 

 北村光生(吉蔵)

 鈴木義章(金五郎)

 丸尾好広(与力) 

 横堀秀勝(佐助)

 

 

 藤沢薫(闇の俳諧師)

 原聖四郎(闇の俳諧師)

 沖時男(闇の俳諧師)

 秋山勝俊(闇の俳諧師)

 遠山欽(闇の俳諧師)

 

 

 菅井きん(中村せん)

 

 

 白木万理(中村りつ)

 

 

 

 山崎努(念仏の鉄)

 

 スタッフ

  

 

 

 制作      山内久司(朝日放送)

         仲川利久(朝日放送)

         桜井洋三(松竹)

 

 脚本     和久田正明

 

 

 

 音楽      平尾昌晃

 編曲      竜崎孝路

 

 

 

 撮影      藤原三郎

 製作主任    渡辺寿男

 

 

 

 美術      川村鬼世志

 照明      中島利男

 録音      木村清治郎

 調音      本田文人 

 編集      園井弘一

 

 

 助監督     服部公男

 装飾      玉井憲一

 記録      野口多喜子

 進行      佐々木一彦

 特技      宍戸大全

 

 

 装置      新映美術工芸

 床山結髪    八木かつら

 衣装      松竹衣裳

 小道具     高津商会

 現像      東洋現像所

 

 

 

 殺陣      美山晋八

         布目眞爾

 題字      糸見渓南

 

 ナレーター   芥川隆行

 

 

 

 オープニング 

 ナレーション作     早坂暁

 

 

 主題歌     あかね雲

 作詞      片桐和子

 作曲      平尾昌晃

 編曲      竜崎孝路

 唄        川田ともこ

 東芝レコード

 

 

 制作協力     京都映画株式会社

 

 監督      松野宏軌

 

 

 制作      朝日放送 

         松竹株式会社

 ◎

 藤田まこと=はぐれ亭馬之助

 

 中村賀津雄→中村嘉葎雄

 

 二瓶康一→火野正平

 

 

 中尾ミエ=中尾ミヱ

 

 河原崎建三=河原崎健三

 

 マキ=真木勝宏

 

 山本一郎→結城市朗

 

 白木万理=松島恭子=白木マリ

 

 山崎努=山﨑努 

 

 

 山内久司=松田司

 

 野口多喜子=嵯峨忍

 

 平尾昌晃=平尾昌章

 

 ◎

 早坂暁はノークレジット

 ◎

 念仏の鉄 山崎努

 

 この字幕は起こしで表示される。

そのムードを想い、大きな活字で

表記してみた。

 ◎

 妖刀地獄

 ◎

 第二十八話「妖刀無用」は和久田正明の

緻密なシナリオ、松野宏軌の重厚な演出が

光る傑作である。

 

 藤原三郎のキャメラは冒頭から恐ろしい

怪奇映像で左母次郎を映し出す。

 

 大木実の深遠な芸が、刀に生きて血を流す

左母次郎に命を吹き込んだ。

 

 大正十二年(1923年)十二月十六日、大

阪府堺市に大木実は誕生した。

 平成十七年(2009年)三月三十日、八十五

歳で死去した。

 本名は池田実である。日活多摩川撮影所で

照明技師として勤務し後に俳優になった。

 重厚深遠な芸によって昭和・二十・二十

一世紀の日本映画・日本テレビ映画を支え

た大名優である。

 今月十六日は大木実生誕百年の誕生日で

あった。

 

 左母次郎のような極悪殺人鬼から義に篤く

優しい男まで数々の人間像を深い演技で息吹

かせた。 

 

 映画『明治侠客伝 三代目襲名』の星野軍

次郎、テレビ映画『必殺必中仕事屋稼業』「ど

たんば勝負」の熊谷弥九郎の憎たらしさは強烈

であった。この二作品は村尾昭が脚本を書いた。

村尾脚本における狡猾・老獪な悪役を大木実は

凄み豊かな演技で現した。

 

 

 『新必殺仕置人』には「親切無用」の悪役

極楽屋与三郎に続いて二度目の出演である。

 

 池田左母次郎は血に飢え妖刀による刺殺

事件を繰り返す悪人ではあるが、自ら剣に

よる死に場所を求めているようにも見える。

 

 大木実は五十三歳で池田左母次郎を演じた

が、本名と役名が奇しくも同じ姓という事と

なった。

 

 松野演出・和久田脚本も凄まじい迫力を見

せるが、何と言っても大木実の名演が視聴者

を震わせ本気で怖がらせるものだろう。

 

 強姦・殺人の非道を為し、被害者の怨嗟の

声を感じながら、斬ることに快感を覚える左

母次郎。彼自身地獄の苦痛を味わっている。

 戦うことと斬ることは、左母次郎にとって

死生を超えた主題であった。

 

 己代松に恨まれ、主水からは「すぐに死な

ねえように刺したんだ」と嬲られる。

 

 この場における主水は左母次郎よりも狡猾

で卑劣で嫌らしいワルで、藤田まことが粘り

強く演じた。

 

 極悪人の池田左母次郎は仕置人中村主水の

剣に倒され、遂に介錯人に会えたとも言える。

 

 地獄の苦しみを味わいながら殺戮と強姦を

犯さずにいられない左母次郎は、悪よりも更に

悪い仕置人の刀で命を終えることとなった。

 

 妖刀に全てを賭け拠り所にした左母次郎の

流血人生を大木実が壮大な芸で明かした。

 

 緑魔子は昭和十九年(1944年)三月二十六

日に日本統治時代の台湾台北に誕生した。

 本名は小島良子で、石橋蓮司と結婚して

石橋良子となった。

 

 深い演技で小悪魔や天使のような女性を鋭く

演じている。

 

 悲しみのヒロイン登勢を体当たりで勤めた。

 

 ウィキペディアによると「ゴダールやアンナ・

カリーナが好き」で東映映画に出演している

時代は「芸術性も娯楽性も平然と犠牲にする製

作方針」を掲げた岡田茂の体制に「脱ぐ必要も

無いのに、ただもうやたらに脱がせれば良いと

いう卑しさと次元の低さに失望した」と感じた

という。

 

 ジャン=リュック・ゴダールやアンナ・カ

リーナの映画における繊細さや妖艶さは、確

かに緑魔子の芸風に通じる。

 

 岡田茂方針に厳しい言葉を語っているが、本

作において大女優緑魔子は上半身ヌードを見せ

ている。これが左母次郎に無残にレイプされた

登勢の悲しみを明かすものになっている。

 緑魔子の女優魂を此処に感じる。

 

 袋正は昭和七年(1932年)二月二十一日に

誕生した。本名は同じである。劇団俳優座に所

属し映像作品でも活躍している。

 三田村采女役では血に飢えつつ着物汚れを

嫌がり左母次郎に斬らせて楽しむという残忍

な性格を鮮やかに表した。

 

 鉄が鎧姿で采女を仕置する。

 

 山﨑努の凄みに震える。

 

 本作から二か月後の十月二十九日に封切ら

れる映画『八つ墓村』において山﨑努は殺人

鬼多治見要蔵を迫力豊かに演じる。

 

 「妖刀無用」の鉄は要蔵役に照応するもの

を感じた。

 

 この時期フジテレビのドラマ『女の河』に

おいて山﨑努は二枚目支倉康郎役も演じてい

る。

 

 鉄の頭髪が長くなってきたのは、山﨑努の

多忙なスケジュールが影響したのかなと想像

している。

 

 ラストにおいて登勢に振られつつ、彼女を

静かに見つめる松の想いを、中村嘉葎雄が無言

の演技で伝えてくれた。

 

 

               南無阿弥陀仏