新必殺仕置人 約束無用 | 俺の命はウルトラ・アイ

新必殺仕置人 約束無用

『新必殺仕置人』「約束無用」
(『新・必殺仕置人』「約束無用」)

テレビ映画 トーキー カラー(一部白黒)

54分  

カラー(一部白黒)

昭和五十二年(1977年)七月二十九日放送

 

製作国 日本

製作言語 日本語

 

 オープニングナレーション

 のさばる悪を なんとする

 天の裁きは 待ってはおれぬ

 この世の正義も あてにはならぬ

 闇に裁いて 仕置する

 南無阿弥陀仏

 

  観音長屋の鋳掛職場で己代松は、

長屋のおかみさんに叱責される。

 直したと思った鍋はすぐ穴が開いて

しまった。叱られても松は言い返す。

おかみさんから更に厳しい叱責の声が

浴びせられた。

 

 松はふて寝する。

 

 長屋に懐かしい顔を見て仰天する。

 穴蔵師の仙三だ。仙三は友己代松の名を
呼ぶ。
 佐渡の流刑時代の親友と再会し己代松は
驚喜・感動する。
 
 正八は留守と思った己代松の部屋で可愛い
おしんと逢引した。二人は接吻をかわす。と
ころが留守と思った己代松は居た。仙三とと
もに一献傾けていた。おしんは落胆して出て
行く。
 
 正八は仙三に挨拶する。己代松は島の苛酷
な暮らしに耐えかねて脱獄を図った。暴風雨
の日に仲間加助と脱獄することを決めた。
 仙三は流人小屋の頭を勤めていた。島抜け
を図る己代松を身体を張って諫めた。役人た
ちが加助を捕えた。
 加助は死罪になる。己代松は命の恩人とし
て仙三に感謝している。仙三は地下に穴を掘
る穴蔵師でその腕前は卓抜したものであった。
 
 回向院裏の女郎おとよに己代松は恋してい
た。病に苦しむおとよと将来所帯を持ちたい
と松は真剣に考えている。おとよは昔情夫に
騙されて遊里に売られた。男に対する怨念は
深いものであった。
 
 寅の会の競りで句を詠む仕置人吉蔵は「不
出来でございます」と述べる。
 「不出来でも」言ってもらいましょうと仕置
人念仏の鉄は句読みを頼む。
 
  「島抜けの穴蔵つくり仙蔵や」
 
 吉蔵から仕置料が二分と聞かされ鉄は落胆す
る。「不出来と申し上げました」と吉蔵は再確
認する。美人仕置人梶は落ち着いて二分を料金
に掲げ、虎は梶の競り落としを宣言した。
 
 己代松が西瓜を食べていると仲間鉄が来て、
仕置は穴蔵師の仙三という男が標的だが、二
分の安値で降りたという報告を聞く。
 友仙三の危機を聞いた己代松は震える。誰
が競り落としたのかと松は問う。「二十六、七
の渋皮の剥けた良い女だ」と鉄はお梶の印象
を語った。
 
 夜の賭場で仙三は博奕で負けている。お梶は
駒をまわしましょうかと提案する。仙三は喜び、
後で会いたいとお梶を誘惑する。
 己代松は、仙三から良い女を口説いてこれから
二人で遊ぶ予定であると告げる。「二十六、七
の渋皮の剥けた良い女だ」と仙三の言葉を聞き、
己代松は制止する。
 
 己代松の部屋で仙三は遊びを止められ、一緒に
伊勢参りに行こうと言う友の提案に怒る。
 
 中村主水は帰宅すると妻りつ・姑せんが畳をあげ
穴蔵作りをしようとしている光景を見る。
 りつは鋳掛屋の男性から話を持ち掛けられたこと
を主水に告げた。仙三が穴蔵作りの作業を為した。
 
 お梶は仙三の様子を手鏡で観察する。その動き
に不審を感じた主水は彼女を追う。
 
 夜中村家の穴蔵工事現場から火の手があがり、
近所の人々の協力を得て主水は消化する。
 
 河原の小舟でお梶は仙三を誘惑した。女を夢中
にさせる人と梶は仙三への想いを語る。仙三は自
身に逢いたい思いでボヤ騒ぎ迄起こした梶の大胆
さに驚きつつ彼女を抱きしめる。
 
 死神はお梶を監視する。主水はお梶を追う。
 
 
 お梶は仙三に抱きしめられながら仕置用具の三
味線の糸を伸ばし、彼の首を絞める。
 
 仙三はもがき脱出しようとする。
 
 主水が現れた。お梶は主水を攻撃する。主水は
抜刀し一刀のもとにお梶を斬殺する。
 
 「えらい目に遭ったぜ」と仙三は己代松に美人
が殺し屋であったことを告げた。
 
 仙三を助けるためには十両の金が要ると判断
した松は、鉄に次の仕置は競り落としてくれと
頼む。
 
 お梶が仕損じた仙三仕置は鉄が受けることと
なった。
 
 己代松は夢の中において、鉄が仙三を骨はず
しで仕置する光景を見てうなされる。
 
 横で寝ていたおとよは、うわごとを聞いたよ
と告げた。「仕置される相手が仙三なら助けな
い」とおとよは告げた。松は驚く。おとよは情
夫仙三に貢いでいた。借金のかたに身体を売って
くれと仙三に頼まれた。「あたしはこれから見
知らぬ男達に足を開くから、一日に少しでもあ
たしのことを考えて」とおとよは仙三に懇願し
た。仙三は承知しておとよを売り飛ばした。
 寅の会に二分の料金で頼んだ存在はおとよで
あった。
 
 絵草子屋の地下室で主水は己代松を殴り倒し
た。自身の側で稼業をやらせれば仙三を守れる
と思ったなと主水は激怒して己代松を殴り、松
は血を流した。
 
 鉄は島抜けの日に加助は仙三の密告で役人に
捕縛され処刑されたと告げた。
 仙三が己代松を諌止したのは自身が流人小屋
の頭を勤めていたからだと鉄は解説する。欲得
だけの男と鉄から仙三の正体を知らされた己代
松は、例え仙三に利用されたとしても、命を助
けられたことに感謝している。
 
 鉄は、主水に斬られた仕置人お梶が亡き加助
の妻で、夫の仇討ちの為に仙三を待っていた事
を己代松に告げた。主水は松が一人で仙三殺し
を引き受けるのが仕置の筋だと強調する。
 
 正八が帰ってきた。おとよの部屋の前で張っ
ていた正八は、怒った仙三が乗り込んできて、
「仕置人に頼んだのはお前か」と問い詰め、彼
女を殺害したことを告げた。
 
 おとよの遺体が運ばれた。
 
 
 己代松は「二分もいらねえよ」と述べ、六文銭
のみ握り仙三仕置に向かった。
 
 

 キャスト

 

 

 藤田まこと(中村主水)

 

 

 中村嘉葎雄(巳代松)


 

 

 火野正平(正八)

 

 

 中尾ミエ(おてい)

 

 

 

 河原崎建三(死神)

 

 

 マキ(屋根の男)

 吉本真由美(おしん)

 小柳圭子(おかみさん)

 

 

 藤村富美男(元阪神タイガース)(元締虎)

 

 

 北村光生(吉蔵)

 和田かつら(女胴師)

 三星東美(やり手婆さん)

 

 

 藤沢薫(闇の俳諧師)

 原聖四郎(闇の俳諧師)

 沖時男(闇の俳諧師)

 秋山勝俊(闇の俳諧師)

 

 

 綿引洪(仙三)

 

 

 服部妙子(おとよ)

 

 

 田口久美(お梶)

 

 

 

 菅井きん(中村せん)

 

 

 白木万理(中村りつ)

 

 

 

 

 

 山崎努(念仏の鉄)

 

 

 

 

 スタッフ

  

 

 

 制作      山内久司(朝日放送)

         仲川利久(朝日放送)

         桜井洋三(松竹)

 

 脚本      野上龍雄

 

 

 音楽      平尾昌晃

 編曲      竜崎孝路

 

 

 

 撮影      藤原三郎

 製作主任    渡辺寿男

 

 

 

 美術      川村鬼世志

 照明      中島利男

 録音      木村清治郎

 調音      本田文人 

 編集      園井弘一

 

 

 助監督     服部公男

 装飾      玉井憲一

 記録      野口多喜子

 進行      佐々木一彦

 特技      宍戸大全

 

 

 装置      新映美術工芸

 床山結髪    八木かつら

 衣装      松竹衣裳

 小道具     高津商会

 現像      東洋現像所

 

 

 殺陣      美山晋八

         布目眞爾

 題字      糸見渓南

 

 ナレーター   芥川隆行

 

 

 

 オープニング 

 ナレーション作     早坂暁

 

 

 主題歌     あかね雲

 作詞      片桐和子

 作曲      平尾昌晃

 編曲      竜崎孝路

 唄        川田ともこ

 東芝レコード

 

 

 制作協力     京都映画株式会社

 

 

 

 監督      工藤栄一

 

 

 制作      朝日放送 

         松竹株式会社

 ◎

 藤田まこと=はぐれ亭馬之助

 

 中村賀津雄→中村嘉葎雄

 

 二瓶康一→火野正平

 

 

 中尾ミエ=中尾ミヱ

 

 河原崎建三=河原崎健三

 

 マキ=真木勝宏

 

 小柳圭子=小栁圭子

 

 吉本真由美=吉本真由み

 

 三星東美子→三星東美

 

 

 綿引勝彦→綿引洪→綿引勝彦

 

 

 白木万理=松島恭子=白木マリ

 

 山崎努=山﨑努 

 

 

 山内久司=松田司

 

 野口多喜子=嵯峨忍

 

 平尾昌晃=平尾昌章

 

 

 ◎

 早坂暁はノークレジット

 ◎

 脚本における物語美の極り

 ◎

 

 野上龍雄は昭和三年(1928年)三月二

十八日、東京府に生まれた。

  平成二十五年(2013年)七月二十日、

八十五歳で死去した。

 

 東京大学文学部仏文科を卒業し、大映脚

本家養成所を経て、シナリオライターとな

った。

 

 東映において数多くの時代劇・やくざ映

画の脚本を書いた。

 

 『必殺シリーズ』を支えた脚本家であり、

『必殺仕置人』は企画会議から参加し、山

内久司・仲川利久・桜井洋三・国弘威雄・

安倍徹郎・深作欣二と語り合った。

 

 念仏の鉄・中村主水を産み出した脚本家で

ある。

 

 巨星野上龍雄の脚本は完璧な構成の大傑作

が多いが、「約束無用」は悲劇美を極めてい

る。一部の隙も寸毫の油断もない厳密さに

よって書かれたシナリオである。

 

 己代松・加助・仙三・おとよ・お梶の男女

五人の人間関係が深く尋ねられ、五人の歩み

が哀しく切ない物語を織り成す。

 己代松と加助は仲間だった。加助は仙三の

密告で殺された。松と仙三は島仲間で親友に

なる。人の良い松が気付かぬうちに、仙三は

飯に茶をかけ暴食し金使いは荒くなり、女も

泣かしている。仙三の隠れた顔が次第に明か

される。

 松はとよに惚れている。とよを騙して売っ

て約束を破った男は仙三であった。

 お梶は仙三を誘惑して絞殺しようとするが、

主水に斬殺される。彼女は亡き加助の妻であ

った。

 

 主水はお梶を斬る。

 

 鉄は松の悪夢の中で仙三を骨はずしで仕置

する。

 『必殺仕置人』『新必殺仕置人』全六十七

話の歴史で唯一鉄の実際の殺しの無いドラマ

である。

 標的は仙三一人で親友松が自身の手で請け

負うこととなる。野上龍雄の構成は完全であ

る。

 

 己代松メインのドラマは中村嘉葎雄の深い芸

で永遠の大傑作となった。

 仙三との再会の喜びには松の優しさが溢れて

いる。おとよとの愛には松の純情がある。

 鉄が仙三の骨を外す夢を見た松は汗をいっぱい

にかいている。

 

 主水が激怒し己代松を殴り倒す。

 

 藤田まことは本気で中村嘉葎雄を殴ったのか

もしれない。

 

 中村嘉葎雄は出血していた。

 

 愛するおとよを仙三が殺したことを聞き、遂

に松は決意を固める。三途の川の渡し賃と言わ

れる六文銭のみが仙三を仕置する報酬だ。それ

も自身の懐に入れる為ではない。仙三が生から

死へと歩む道に払うべき代金であり、おとよへ

の供養の金であった。

 

 己代松の喜びから悲しみを中村嘉葎雄が深く

豊かな演技で現す。

 

 

 綿引勝彦は昭和二十年(1945年)十一月二

十三日に誕生した。本名も同じである。仙三

時代の芸名は綿引洪(わたびき・ひろし)で

ある。妻は樫山文枝である。

 「必殺シリーズ」では二枚目で女を泣かせ

る色悪の役で存在感を示した。

 優しくて人情味豊かに見えて実は冷酷非情

という穴蔵師仙三を深く重い芸で見せた。一方

で松との再会やお梶の美貌に驚嘆する欲望な

ど明るさや軽快さも素敵だった。

 野上龍雄の完璧な脚本を綿引洪は深い芸で

読み込み、穴蔵師の恐るべき裏の顔が次第に

露わになってくる道をじっくりと見せてくれ

た。

 平成二十六年(2014年)八月四日、中日劇

場公演『だいこん』において綿引勝彦を見た。

大柄で迫力豊かだった。ヒロインつばき(石川

梨華)の握り飯の作り方を試し鍛える客の役

だったが、綿引勝彦の存在感は大きかった。こ

の舞台鑑賞が綿引勝彦との一期一会の出会いで

あった。

 令和二年(2020年)十二月三十日に綿引勝彦

は七十五歳で死去した。

 

 小柳圭子は溝口健二映画で活躍したベテランで

松っあんを叱るお婆さんの迫力を熱い芸で見せた。

 

 吉本真由美はおしん役で可愛さを見せた。正八

は「約束無用」で振られてしまったようだ。

 

 田口久美の色気は凄い。「二十六・七の渋皮の

剥けた良い女」という鉄・仙三の感嘆を現す存在

感をじっくりと見せてくれた。

 

 服部妙子は昭和四十・五十年代、1970年代の

テレビ映画の悲劇のヒロインを代表する名女優で

ある。

 『暗闇仕留人』「仕上げて候」の悲劇のヒロ

インおさよは強烈な印象を与えてくれた。

 おとよの悲劇を服部妙子が繊細に探求した。

 

 見知らぬ男達に抱かれる自分を想って、ほん

の僅かな時でもいいから自分の事を考えて欲し

い。

 おとよはこの心を愛する仙三に語り頼んだが、

その願いは無残に潰され利用され捨てられ殺さ

れる。

 

 クライマックスは寺の穴蔵における己代松と

仙三の関りである。

 

 己代松は、見事な穴蔵を設計し建設した仙三

の腕を確かめる。仙三自身にとっても自慢の穴

蔵であった。その穴蔵に突き落とし蓋を閉めて

松は友仙三を監禁する。

 

 「おとよさんの事を考える」ことを己代松は

仙三に説く。

 

 万感のこころをこめて己代松は穴蔵の中の

仙三に向けて竹鉄砲を向ける。

 

 巨匠工藤栄一が撮った悲しみのドラマは不滅

の輝きを放っている。

 

                文中敬称略

 

 

               南無阿弥陀仏