新必殺仕置人 訴訟無用 | 俺の命はウルトラ・アイ

新必殺仕置人 訴訟無用

『新必殺仕置人』「訴訟無用」
(『新・必殺仕置人』「訴訟無用」)

テレビ映画 トーキー 

54分  カラー(一部白黒)

昭和五十二年(1977年)七月一日放送

 

製作国 日本

製作言語 日本語

 

 

 オープニングナレーション

 のさばる悪を なんとする

 天の裁きは 待ってはおれぬ

 この世の正義も あてにはならぬ

 闇に裁いて 仕置する

 南無阿弥陀仏

 

 蝋燭問屋辻屋の内儀みよは万引きを抑

えられない女性であった。八百屋から胡瓜

を、絵草子屋から絵草子一冊を盗む。

 

 瓦版屋の伝次は絵草子屋の正八に窃盗被

害に遭ったことを告げるが正八は落ち着い

ている。「辻屋のおかみさんはしょっちゅう

で旦那さんが後で金を届けてくれる」と正八

は損をしていない事を語った。

 

 辻屋にみよが帰宅する。夫で主人の仙蔵

は万引を疑い胡瓜一本を八百屋で買うかと

問い詰める。父善兵エ・弟与吉も心配する。

みよは万引犯行を認め悲しみ謝罪する。

 

 伝次は仙蔵にかけあい、公事師の長十郎

に頼るように勧める。南町奉行所同心達と

親しくしている長十郎は奉行所への出入りも

許されている身で、おみよを訴える訴状を

奪う。

 

 おみよへの訴状を仙蔵に見せた長十郎は

礼を受ける。その見事な手腕に感嘆した仙

蔵は一つの計画を長十郎に頼む。

 

 善兵エは我が子与吉を溺愛しその真面目

な性格に篤い期待を寄せている。

 

 みよの万引の癖が納まるように仙蔵と田舎

暮らしをしてはどうかと善兵エは考えていた。

 

 仙蔵は短期間暮らしの提案とはいえ、自身

とみよが田舎で暮らせば店を支える役目は与

吉に移る事を感じていた。

 

 与吉は長十郎の罠に嵌り、彼を尋ねた際に

気絶されられ監禁される。

 

 やくざ者達が観音長屋で争い、一人のやく

ざが五十両を己代松の仕事場で落とした。松

は奉行所に届け、落とし主が現れない場合は

二割貰えると聞き、十両獲得の可能性に喜ぶ。

 落としたやくざは闇の金を落として拾われ

届けられたことを長十郎に相談する。長十郎

は奉行所に掛け合い、危険な金を拾った者は

面倒に巻き込まれるという事を掲げて、己代

松に金を諦めよと説く。

 

 

 長十郎は、与吉と年格好がよく似た囚人

丑松が牢内に居る事を知る。牢に来た長十

郎は処刑の日引き廻しで私の店の前に私が

立っているから「厠に行かせて下さいと頼

むんだ」と告げる。

 

 伝次は丑松の妻に「亭主を助けて欲しか

ったら身を売りな」と持ちかけ、丑松の妻

は甘受する。

 

 死刑執行の日、丑松は長十郎の店の前で

彼を見て、役人に厠に行かせて欲しいと頼

み、長十郎は「手前の店をお使い下さい」

と役人に申し出る。長十郎の店の中で丑松

は逃れ、身代わりに眠らされた与吉が出され

た。

 

 与吉は刑場で丑松の代わりに処刑された。

 

 全ては仙蔵が描いた陰謀であった。長十郎

は丑松・与吉身代わりが衆人監視で誰にもば

れなかったことを再確認する。

 

 辻屋主人の座を脅かす存在が居なくなった

ことを仙蔵は喜び、長十郎に礼を言う。長十

郎は辻屋の売上の半分を頂きますと迫った。

 

 寝込む善兵エに仙蔵は、「与吉さんが囚人

の身代わりで処刑されました」と涙を流して

報告し、「公事師長十郎と伝次の企みです」

と語った。

 

 怒った善兵エは寅の会に長十郎・伝次の仕置

を依頼する。

 虎は長十郎・伝次仕置の句を書き、吉蔵が読

みあげた。

 

 鉄が競り落とした。

 

 万引の癖がようやく消えつつあったみよが

簪の店に入った。伝次は簪を一本盗み店外で

出てきたみよに押し付け、万引窃盗犯と騒ぐ。

 

 みよは奉行所に捕らえられた。

 

 この件も善兵血縁者を排除したい仙蔵の企

みであった。

 

 正八は仙蔵の陰謀を善兵エに告げる。

 

 牢で善兵エはおみよに仙蔵の恐るべき陰謀

を語った。

 

 鉄は死神から仙蔵仕置も依頼された。

 

 

  

 キャスト

 

 

 藤田まこと(中村主水)

 

 

 中村嘉葎雄(巳代松)


 

 

 火野正平(正八)

 

 

 河原崎建三(死神)

 

 

 マキ(屋根の男)

 

 城所英夫(公事師長十郎)

 北川めぐみ(みよ)

 

 

 藤村富美男(元阪神タイガース)(元締虎)

 

 

 沼田曜一(伝次) 

 須藤健(善兵エ)

 

 三木豊(与吉)

 田畑猛雄(猫八)

 美鷹健児(丑松)

 尾崎弥枝(しず)

 

 北村光生(吉蔵)

 浜田雅史(同心)

 鈴木義章(同心)

 黛康太郎(やくざ)

 美樹博(やくざ)

 

 北見唯一(番頭)

 東悦史(遊び人)

 石原須磨男(鉄の客)

 松尾一人(引廻し同心)

 伊波一夫(牢番)

 

 

 藤沢薫(闇の俳諧師)

 原聖四郎(闇の俳諧師)

 沖時男(闇の俳諧師)

 秋山勝俊(闇の俳諧師)

 伴勇太郎(闇の俳諧師)

 

 

 入川保則(辻屋仙蔵)

 

 

 菅井きん(中村せん)

 

 

 白木万理(中村りつ)

 

 

 

 

 

 山崎努(念仏の鉄)

 

 

 

 

 スタッフ

  

 

 

 制作      山内久司(朝日放送)

         仲川利久(朝日放送)

         桜井洋三(松竹)

 

 脚本      松原佳成

 

 

 音楽      平尾昌晃

 編曲      竜崎孝路

 

 撮影      藤原三郎

 製作主任    渡辺寿男

 

 

 美術      川村鬼世志

 照明      中島利男

 録音      木村清治郎

 調音      本田文人 

 編集      園井弘一

 

 

 助監督     服部公男

 装飾      玉井憲一

 記録      野口多喜子

 進行      佐々木一彦

 特技      宍戸大全

 

 

 装置      新映美術工芸

 床山結髪    八木かつら

 衣装      松竹衣裳

 小道具     高津商会

 現像      東洋現像所

 

 殺陣      美山晋八

         布目眞爾

 題字      糸見渓南

 

 

 ナレーター   芥川隆行

 

 

 

 オープニング 

 ナレーション作     早坂暁

 

 

 主題歌     あかね雲

 作詞      片桐和子

 作曲      平尾昌晃

 編曲      竜崎孝路

 唄        川田ともこ

 東芝レコード

 

 

 制作協力     京都映画株式会社

 

 

 監督       高坂光幸

 

 

 制作      朝日放送 

         松竹株式会社

 

 

 

 ☆

 藤田まこと=はぐれ亭馬之助

 

 中村賀津雄→中村嘉葎雄

 

 二瓶康一→火野正平

 

 マキ=真木勝宏

 

 

 白木万理=松島恭子=白木マリ

 

 

 山崎努=山﨑努

 

 

  山内久司=松田司

 

 

 

 平尾昌晃=平尾昌章

 

 ☆

 早坂暁はノークレジット

 ☆

 

 ◎悪と悪の争い◎

 

 第二十三話「訴訟無用」は豪華な配役に瞠目

した。

 

 初めは真面目な妻思いの夫かと見せて冷酷な

野望を秘めていた仙蔵には、悪の華を咲いてい

た。

 

 

 入川保則は昭和十四年(1939年)十一月十日

に兵庫県神戸市に誕生した。

 本名は鈴木安則である。俳優・声優・司会者

として活躍した。私生活では三度の離婚歴があ

った。

 

 三十七歳で演じた仙蔵役には冷酷さが光って

いる。

 

 平成二十三年(2011年)二月に直腸癌が全身

に転移していることを医師に宣告されたことを、

入川保則は記者会見で語った。一切の手術や延

命治療を拒み従容と全てを受け入れる姿勢を示

した。

 芸能活動・執筆活動は2011年に精力的にな

された。著書『その時は、笑ってさよなら 俳

優入川保則の余命半年の生き方』が同年6月に

刊行された。

 藤山寛美から遊びの大切さを教わり、一晩160

万円使って遊んだという豪快な在り方が記され

た。謙虚なお人柄だったが、女性にモテたこと

は十分に窺える。

 

 

 平成二十三年(2011年)十二月二十二日入院

していた病院に見舞に来た御長男に「ありがとう」

と入川保則は語った。二十四日ご長男に看取られ

ながら神奈川県の病院において七十二歳で死去

した。

 

 

 実力者の巨悪長十郎を城所英夫が渋い芸で明

かす。

 

 策略家の瓦版売り伝次を沼田曜一が粘り強く

演じる。

 

 沼田曜一は大正十三年(1924年)七月十九日

に誕生した。本名は美甘正晴(みかも・まさはる)

である。新東宝で活躍し東映任侠映画においては

数々の作品で悪役名演を発表した。

 民話の語り部の巨星でもあった。『徹子の部屋』

では民話を暗唱した。

 平成十八年(2006年)四月二十九日、八十一

歳で死去した。

 

 

 入川保則・城所英夫・沼田曜一の三名優の悪

役芸の激突に興奮する。

 

 

 

 与吉が丑松の身代わり・替え玉にされ処刑さ

れるエピソードは『必殺仕置人』第一話「いの

ちを売ってさらし首」を想起する。

 『必殺仕置人』第二十五話「能なしカラス爪

をトグ」で犠牲者内藤和馬を演じた三木豊は、

今回も無残に殺される若者与吉の悲劇を演じた。

 

 

 

 長十郎が辻屋売上半分の上納を要求する。仙

蔵は長十郎殺害を計画する。悪党と悪党の間に

対立が生じる。この点が第二十三話の特徴だろ

う。

 

 わたくしはリアリズム固執でテレビ映画を見な

いようにしているが、伝次が簪を盗んでおみよに

押し付けて万引窃盗犯と騒ぐのは目撃者も店外に

いる可能性もあり、長十郎という後ろ盾が守って

くれるとはいえ、危ない悪事の犯し方ではないか

と感じた。

 

 長十郎・伝次の命を狙いながら女房みよを嵌め

る事に関しては仙蔵が彼らを利用する展開は興味

深い。

 

 入川保則は涙を流して与吉犠牲を岳父善兵エに

訴える仙蔵の嘘泣きを重厚に演じた。

 

 映画で悪役名優として存在感を発揮したベテラン

須藤健が息子を殺され娘を嵌められた父善兵エの

哀しみを涙を流して体当たりで演じる。

 

 鉄は後半に登場する。二十七分経って寅の会の

シーンで初めて山﨑努が映る。二十三話の出番

は短いが、主役の存在感をじっくり見せてくれる。

 

 仕置のシーンは夜の雨で高坂光幸監督は工藤栄

一演出を鮮やかに継承している。

 

 松が傘を用いて雨中に伝次を射殺する。

 

 鉄は怪談で長十郎を骨はずしで殺害する。

 

 首のレントゲンが映る。

 

 夜の大雨における主水と仙蔵の対決は、藤田

まことと入川保則の殺陣が鮮やかに光った。

 

 『その時は、笑ってさよなら 俳優入川保則

余命半年の生き方』において入川保則は「藤田

まこと」と記していた。近畿を地元に演技や芸

に磨きをかけて躍進した二人は、タメに近い関

係だったのであろうか?

 

 主水が仙蔵と激しく戦い斬り倒す。

 

 斬られた仙蔵は気力を振りしぼり主水の短刀

を抜いて逆襲するが、再び斬られ、泥に倒れる。

 

 ワンカットで撮った高坂光幸監督の演出に緊張

した。

 

 

                 南無阿弥陀仏