新必殺仕置人 元締無用 | 俺の命はウルトラ・アイ

新必殺仕置人 元締無用

『新必殺仕置人』「元締無用」
(『新・必殺仕置人』「元締無用」)
 

テレビ映画 トーキー カラー(一部白黒)

54分  

カラー(一部白黒)

昭和五十二年(1977年)六月三日放送

朝日放送系

 

製作国 日本

製作言語 日本語

 

 オープニングナレーション

 のさばる悪を なんとする

 天の裁きは 待ってはおれぬ

 この世の正義も あてにはならぬ

 闇に裁いて 仕置する

 南無阿弥陀仏

 

 

 検校道海は借金を払わずに死んだ商家

の主人の宅に部下と共に乱入し、亡き主人

の妻に借金未払を理由に身体を要求し迫る。

 

 仕置人さそりの弥八は蟹に毒を仕込んで標

的を刺す技を為していた。弥八は道海を狙う

が商家に騒ぎが起こり仕損じる。

 

 逃走中に弥八は足を挫いた。

 

 念仏の鉄は弥八父っあんの足を治療する。

道海仕置を最後に仕置人から足を洗いたい

と弥八は望んでいた。

 

 寅の会において弥八がその望みを虎に伝

えると、指物師の仕置人猫の勘兵エが強く

反対した。

 もし引退を許可したら、元仕置人として弥

八が喋り俺達も奉行所に捕縛され、寅の会は

潰れるかもしれねえと勘兵エは危惧を述べた。

 

 鉄は父つぁんは仕置人を辞めて大丈夫なの

かと弥八の将来を危惧した。

 弥八は俺達に染み付いた血の匂いは消えね

えと語る。

 

 南町奉行所同心達が現れ、弥八を仕置人の

容疑で捕縛した。鉄は捕手として現れた中村

主水に「どういう事なんだ?」と問う。主水

はタレコミがあったんだと報告した。

 

 年老いた弥八は蝋燭攻めの拷問を同心から

受けるが必死に堪える。主水は同僚の拷問に

対して止めなさいと諫める。

 

 弥八の娘おしんが着物を奉行所に届けに来

た。父の仕置人疑惑をおしんはきっぱりと否

定する。

 

 主水は商家の息子清吉との縁談がおしんに

進んでいることを思い、娘の将来の為にも弥

八は危ない稼業を辞めようと望んだ気持ちを

思った。

 

 

 寅の会では仕置人弥八が奉行所に捕らえら

れた事で闇の俳諧師達は動揺する。

 

 勘兵エは「俺が奉行所にたれこんだ」と自ら

述べ、足を洗いたいという弥八をこのままにし

ておけねえという厳しい方針を打ち出した。

 「昼行燈の同心に金を渡してある」と述べる

勘兵エは「弥八が吐けば同心から俺に知らせが

ある。勿論その同心も生かしちゃおけねえ」と

述べた。

 

 鉄は勘兵エが主水を買収していることを悟っ

た。

 

 弥八は次の寅の日までに道海仕置をするのは

無理だからいずれにしても、粛清すべきだと勘

兵エは強硬に冷厳な意見を言い放った。

 

 虎をも脅かし、寅の会の新しい元締になること

が勘兵エの野望であった。

 

 鉄は「弥八の父っあん」が道海仕置で何者かに

騒がれたそうだと告げた。「それは知らねえな」

と勘兵エはとぼける。

 観音長屋で本業の鋳掛仕事をしていた己代

松はおていに「儲からねえ仕事はやってられ

ねえ」と自棄になって中止する。おていは張

り切る正八の様子を紹介する。正八は米で骨

はずしの練習をなし、「一度仕置やらせて」

と松に頼む。松は桶を叩き潰してみろと提案

し、正八が鉄拳を突く前に早業で桶を潰した。

 

 清吉はやくざ者に「おしんの親爺は奉行所

に捕まったから縁談は破談にしろ」と迫られ

殴られた。正八は止めに入って殴られる。

 

 やくざ者の遊び人達は清吉・正八を殴った

後去り、勘兵エの手下から礼金を貰った。

 

 

 松は正八が助けようとした清吉が商家の跡

取り息子と聞き、正八と共に清吉の家に行く。

清吉の父は御詫びとして治療代を松と正八に

渡した。「そんなつもりじゃねえんだよ」と

言いつつ松は金を懐にしまう。

 おしんは愛する清吉から別れ話を切り出された。

「許嫁の父が奉行所に捕まったのならば婚礼は出

来ない」と冷厳に清吉は言い放って去る。

 

 傷ついたおしんは勘兵エの部下から「お父っあん

を酷い目に遭わせた奴がいる」という言葉を聞く。

 

 包丁を用意したおしんは、中村主水が弥八を仕置

人であると決めつけ捕らえたという贋情報を聞かされ

たことにより、主水を襲うが跳ね返される。主水は

「お父っあんは仕置人の嫌疑が晴れれば牢から出れ

るんだ」と強調した。おしんは詫びつつ去る。

 

 家に戻ると主水は表札が中村ではなくて、田中に

なっていることに驚愕する。間違えたと思ったが、

中から妻りつ・義母せんの声を聞いた。借金取り

の追求を交わす為に表札を田中にした妻と姑の作戦

であった。

 せんは主水の不甲斐なさを嘆く。主水はわたく

しのような頼りない婿がいることこそ、母上の長

寿の妙薬と述べた。

 

 勘兵エは主水に一両渡し、寅の会のこの日一日

に「弥八を牢から出さないようにしてくれ」と頼

む。主水は承知しつつもう一両望んでしっぺ返し

を喰らう。

 

 南町奉行所に医師順庵が弥八の往診に来た。弥

八の胃にしこりがあり、持って三か月の命と順庵

は診断している。主水は牢の前で弥八に何故健康

問題を言わなかったかと注意し解き放しを決める。

 

 弥八は既に牢内の抜け穴から脱出していた。布

団に入っていたのは寅の会の仕置人監視役死神で

あった。 

 

 元締虎と死神は弥八に道海仕置の機会を設け

たのだ。

 

 鉄は勘兵エの指物の店を探る。勘兵エは部下

からおしん出産時の産婆の証言で、彼女の実父

は元締虎であることを聞いた。

 

 虎は実の娘おしんを弥八に預けた。弥八は血

の繋がらないおしんを実の娘として育て溺愛し

ていた。おしんも弥八が実父と思い込んでいた。

弥八の引退を虎が快諾したことを、勘兵エはお

しんの安全な未来の為と見る。

 

 おしんは家の外から弥八の声を聞いた。家に

入れない弥八は外に出てくれと河原の小舟での

再会を頼む。

 

 夜の河原で弥八とおしんは再会を果たした。

弥八は自身が仕置人容疑で捕まったことで、お

しんの縁談が破断になったことを彼女に詫びる。

 

 「いいの」とおしんは笑顔で答えた。

 

  「お父っあんが仕置人であろうがなかろう

   が、あたしにとってはたった一人のお父

   っあん。あたしにだけは本当の事を言っ

   て。

   お父っつあん、仕置人なの?」

 

 娘の愛情あふれる言葉にさそりの弥八の心も

熱くなる。

 

   「おしん。お父っあんは仕置人

    なんかじゃねえ。」

 

 父の力強い言葉におしんは安堵する。

 

 弥八はこれからどうしてもしなきゃいけね

え仕事が一件あるので、両国橋で待っていて

くれとおしんに頼み、その後親子二人で暮ら

そうと提案した。おしんは承知し両国橋に向

かった。

 

 

 弥八は道海の潜む屋敷の前まで来たが、待

ち受けていた勘兵エ一味に襲われ刺され致命

傷を負う。

 

 勘兵エ一党は逃げる。死神は弥八を支えた。

一人の娘の身体を奪おうとしていた道海は、弥

八が放った蟹の毒で死亡した。

 

 弥八は死神に支えられながら虎が隠れる小舟

に向かう。致命傷から血が滴り落ちていた。

 

 断末魔の弥八は「元締」と再会した虎に語り

かけて倒れる。虎は弥八の腕を握る。元締に腕

を握られながら弥八は息絶えた。

 

 雨の日。おしんは弥八の葬儀を勤める。

 

 虎が参列しおしんに頭を下げた。

 

   「連句会では

    父がお世話に

    なりました。」

 

 おしんの言葉が響いた。虎は彼女をじっと見つ

める。

 虎はおしんの家から出る。傘を掲げ雨から虎を

守る仕種をする勘兵エは「あんたの娘の命、いつ

でも貰いに行ける」と脅かす。

 

   「私には娘はいない!」

 

 虎は一喝する。

 

 鉄がその会話を聞いた。

 

 雨があがりつつあった。

 

 歩む鉄の後ろから死神が「鉄さん」と呼んだ。

 

 隠れ家の小舟に鉄を呼んだ虎は、十七両で仕置

を頼みたいと望んだ。鉄は頼み人はと聞く。虎は

鉄の肩を叩いた。鉄は承知した。

 

 絵草子屋の隠れ家で鉄は仲間達に虎が頼み人

であることを告げる。

 

 「どうだっていいんだよ。そんなことは」と

松は冷徹に語り小判を納めた。

 

 主水は夜の船着場で呑み、「真面目にやって

られねえ」と悲しみを語る。「昼行燈、よくも

裏切りやがったな」と勘兵エが怒鳴る。

 

 主水は刀を抜き、勘兵エの部下の一人を斬

る。

 

 勘兵エの部下の拳法の使い手は、鉄と対決

し彼の足を攻撃する。

 

 鉄は激痛の足を自ら骨接ぎで治療する。松

が現れ、凄腕の拳法使いの仕置人を竹鉄砲で

仕置する。

 

 

 勘兵エは鉄の腹に乗り取り出した匕首で

刺そうとしたが、鉄は制止して勘兵エを骨

はずしで殺害した。

 

 晴れた日の両国橋。

 

 

 おしんは父弥八を只管待っている。橋の

上で物品を売る商売を為していた。

 

 虎がその光景を見ていた。

 

 死神はおしんの側に近付き風呂敷包みを

置いて立ち去った。包みの中から沢山の小

判が出てきた。

 

 「あの!」とおしんが問うた時、死神の

姿は無かった。

 

 鉄は釣竿を持って河原に現れた。

 

 虎は子供と釣りに興じていた。

 おしんは河原で川の流れをじっと見つめ

た。

 

 キャスト

 

 

 藤田まこと(中村主水)

 

 

 中村嘉葎雄(巳代松)


 

 

 火野正平(正八)

 

 

 中尾ミエ(おてい)


 

 河原崎建三(死神)

 

 

 川合伸旺(猫の勘兵エ)

 三浦リカ(おしん)

 

 天王寺虎之助(道海)

 三好正夫(同心 真木)

 三浦徳子(おさと)

 

 

 

 藤村富美男(元阪神タイガース)(元締虎)

 

 

 島米八(伊之吉)

 暁新太郎(東次郎)

 瀬川昌治(清吉)

 伊東亮英(惣右エ門)

 

 北村光生(吉蔵)

 市川男女之助(医者順庵)

 町田孝子(おかみ)

 八代郷子(おしげ)

 

 美樹博(遊び人)

 松尾勝人(遊び人)

 広田和美(遊び人)

 扇田喜久一(遊び人)

 大迫ひでき(与一)

 末永直美(女)

 

 藤沢薫(闇の俳諧師)

 原聖四郎(闇の俳諧師)

 沖時男(闇の俳諧師)

 秋山勝俊(闇の俳諧師)

 伴勇太郎(闇の俳諧師)

 

 

 菅井きん(中村せん)

 

 

 白木万理(中村りつ)

 

 

 

 

 

 山崎努(念仏の鉄)


 

 

 

 スタッフ

 

 制作      山内久司(朝日放送)

         仲川利久(朝日放送)

         桜井洋三(松竹)

 

 脚本      村尾昭

 

 

 音楽      平尾昌晃

 編曲      竜崎孝路

 

 撮影      藤原三郎

 製作主任    渡辺寿男

 

 

 美術      川村鬼世志

 照明      中島利男

 録音      木村清治郎

 調音      本田文人 

 編集      園井弘一

 

 助監督     高坂光幸

 装飾      玉井憲一

 記録      野口多喜子

 進行      佐々木一彦

 特技      宍戸大全

 

 

 装置      新映美術工芸

 床山結髪    八木かつら

 衣装      松竹衣裳

 小道具     高津商会

 現像      東洋現像所

 

 

 殺陣      楠本栄一    

         布目眞爾

  

 題字      糸見渓南

 

 

 ナレーター   芥川隆行

 

 

 オープニング 

 ナレーション作     早坂暁

 予告篇ナレーター    野島一郎

 

 

 主題歌     あかね雲

 作詞      片桐和子

 作曲      平尾昌晃

 編曲      竜崎孝路

 唄        川田ともこ

 東芝レコード

 

 

 制作協力     京都映画株式会社

 

 

 監督      工藤栄一

 

 

 制作      朝日放送 

         松竹株式会社

 

 ☆

 藤田まこと=はぐれ亭馬之助

 

 中村賀津雄→中村嘉葎雄

 

 二瓶康一→火野正平

 

 中尾ミエ=中尾ミヱ

 

 河原崎建三=河原崎健三

 

 花沢徳衛=花澤徳衛

 

 川合伸旺=河井信旺

 

 市川男女之助=市川男ノ子

       =市川龍之助

 

 白木万理=松島恭子=白木マリ

 

 

 山崎努=山﨑努

 

 

  山内久司=松田司

 

 村尾昭=但島栄

 

 平尾昌晃=平尾昌章

 

 ☆

 中村嘉葎雄・早坂暁・野島一郎は

 ノークレジット。

 ☆

 ◎おしんの二人の父 弥八 虎◎

 

 『新必殺仕置人』第十九話「元締無用」

は脚本の完璧さ、演出の深さ、演技の重み

によって、永遠不滅の大傑作となった。

 

 数多くの傑作を放映してきた『新必殺仕

置人』の中でも強烈な存在感を放っている。

 

 藤村富美男(ふじむら・ふみお)は大正

五年(1916年)八月十四日に広島県呉市

に誕生した。

 大正中学を経て大阪タイガースに入団し

た。

 昭和十一年(1936年)四月二十九日、タ

イガースにとって最初の公式戦であり、第一

回日本職業野球大会の対名古屋金鯱戦で開幕

投手として登板し一安打完封勝利を為した。

この年初代本塁打王に輝いた。

 翌昭和十二年(1937年)から二塁手に転向

する。

 昭和十四年(1939年)から昭和十七年(19

42年)兵役の為野球試合に出れなかった。

 

 昭和十八年(1943年)夏に野球に復帰した。

チーム名は阪神軍になっていた。

 

 戦後強打者として大活躍を為した。昭和三十

年(1955年)から選手兼監督を勤めた。

 昭和三十一年(1956年)選手を引退し、昭和

三十二年(1957年)から監督に専任することと

なった。

 この年優勝争いを為したが監督解任を球団か

ら告げられる。

 昭和三十三年(1958年)選手復帰を果たした

が先発出場は一試合のみでこの年引退を決め、昭

和三十四年(1959年)三月二日対巨人のオープン

戦が引退試合となった。

 

 引退後解説者を経て国鉄スワローズ・東映フ

ライヤーズのコーチを勤めた。

 

 昭和五十二年(1977年)一月二十一日から十

一月四日まで本作『新必殺仕置人』において元締

虎を演じ俳優として重厚な芸を見せてドラマ全四

十一回を締めた。

 

 平成四年(1992年)五月二十八日、兵庫県の

病院において七十五歳で死去した。

 

 藤村富美男の選手・監督時代の略歴はウィキペ

ディアを始めとする資料で学んで記した。

 

 昭和四十二年(1967年)七月二十五日生まれの

わたくしは、藤村富美男プロ野球タイガース選手・

監督時代やスワローズ・フライヤーズコーチ時代は

勿論全く知らない。

 阪神タイガースを支えた偉大な方とは聞いていた

が、本作『新必殺仕置人』に引用される打撃映像で

その大いなるバッティングを見て感嘆した。

 

 虎が裏切者の仕置人を粛清する際や敵対する仕置

人の火の玉にバットを用いることは、スタッフが藤

村富美男の野球選手時代を思って当て書きしたので

あろう。

 

 演技経験は全くの初めてであったと思われるが

その深く重い存在感は圧巻であった。

 

 役者藤村富美男の至芸を深く明かす物語が第十

九話「元締無用」である。

 

 花沢徳衛は明治四十四年(1911年)十月十八日

に生まれた。

 平成十三年(2001年)三月七日、八十九歳で死

去した。

 昭和・平成、二十・二十一世紀の日本映画・日本

テレビドラマを支えた名優である。頑固一徹で愚直

で自他に厳しく優しい老人を当たり役にした。

 日本共産党支持者・党員であった。仕置人さそり

の弥八は「俺達に染み付いた血の匂いは取れねえ」

と悲しみを語る。

 花沢徳衛の台詞回しが渋い。勘兵エの罠に嵌り奉

行所で拷問に遭い、余命三か月の身体で気力を振り

絞って牢を出て、血の繋がらない愛娘おしんとの再

会を為す。

 

 夜の小舟で弥八とおしんが会話する場面は、文字

や言葉を超えた美がある。

 花沢徳衛と三浦リカの名演は視聴者を圧倒する。

 

 おしんは「この世にたった一人のお父っあん。」

と確かめ、本当の事を知りたいと語り最愛の父に

「仕置人なの」と問う。

 「お父っあんは仕置人なんかじゃねえ」と娘お

しんを傷つけまいとする弥八の言葉は重い。花沢

徳衛は鬼気迫る芸を見せる。

 

 勘兵エ一党に刺され致命傷を負った弥八は道

海仕置を果たし、虎の隠れ場所の小舟に向かう。

 

 川合伸旺が勘兵エを憎たらしさたっぷりに演じ

る。昭和・平成、二十・二十一世紀の悪役名優を

代表する方であった。

 

 滴る血に工藤栄一の光と影の美学がある。ハード

なドラマにおいて表現される映像美に監督の感性

が光っている。

 

 花沢徳衛と河原崎建三は森﨑東監督作品『喜劇

女は度胸』『男はつらいよ フーテンの寅』で心

に染みる競演を為した。

 本作の傷ついた弥八と無言の死神の交流は視聴者

の心を打つ。

 

 瀕死の弥八の腕を握るシーンで藤村富美男は虎

の優しさを現した。

 

 おしんが連句会での関わりで父弥八の恩人と

敬い実父と知らず礼を言う。

 このシーンでおしんの挨拶を聞く虎の視線は

無言のうちにおしんへの万感の想いを語ってい

る。

 説明は全くない。

 

 藤村富美男の無言の視線が虎にとってのおし

んを見守る父性を語っているのだ。

 

 工藤栄一は川のせせらぎをおしんの心象風景

として鮮やかに撮っている。

 

 清吉に縁談を破断にされるシーンは川の流れ

が悲しみを映す。

 

 夜の両国橋は暗闇に光る川の煌めきが、父が

仕置人でないと語った言葉を聞く喜びの光とな

っている。

 

 大詰で鉄が釣りを為す虎を見つめるシーンも

情が光っている。

 

 実の娘に父と名乗れぬまま幸を祈る虎の父性

を藤村富美男が無言の演技で語る。

 

 ラストは金を置いた死神の行動がわからぬま

ま考え込むおしんが映る。

 

 川の流れは万感の想いを映す。

 

 おしんは弥八が殺された事を知らない。

 

 最愛の父を待ちつつ、何故自身に金が与え

られたのか?

 

 三浦リカの視線の演技が深い。

 

 万感迫るシーンであるが、おしんの心は視

聴者の想像に委ねられていることはいう迄も

ない。

 

 村尾昭脚本と工藤栄一監督は情を静かに

語った。

 

 

              文中敬称略

 

 

              南無阿弥陀仏