新必殺仕置人 同情無用 | 俺の命はウルトラ・アイ

新必殺仕置人 同情無用

『新必殺仕置人』「同情無用」
(『新・必殺仕置人』「同情無用」)

テレビ映画 トーキー カラー(一部白黒)

54分  

カラー(一部白黒)

昭和五十二年(1977年)五月二十七日放送

朝日放送系

 

製作国 日本

製作言語 日本語

 

 オープニングナレーション

 のさばる悪を なんとする

 天の裁きは 待ってはおれぬ

 この世の正義も あてにはならぬ

 闇に裁いて 仕置する

 南無阿弥陀仏

 

 呉服問屋で奉公す女中おようは年下の美

男鋳掛屋礼二郎を愛し貢いでいた。礼二郎

は出会い茶屋で金をくれるおように礼を言

いつつ「二両要るんだ」と金を欲しがり、

おように頼む。おようは厳しい状況で金策

することを約束し愛する礼二郎に抱き着い

た。

 

 二人の情事を隣室の念仏の鉄が覗く。鉄の

相手の娘が注意する。生卵を飲んで鉄は娘に

抱き着く。遊びがばれると「お父っあんに怒

られる」と娘は警戒する。そこへ娘の父が怒

鳴りこむ。

 

 娘の父は「傷ものにされた」と怒り、鉄を

手籠めの罪で告発し北町奉行所に訴えた。

 奉行所で同心服部左内は鉄を悪い事をしそう

な坊主だと見て殴る。鉄は牢内に入れられる。

 

 鉄の顔が見えないことを己代松・正八・お

ていは不審に思う。松が鋳掛屋仕事をしている

と羽振良くしている礼二郎が鋳掛仕事を鮮やか

になし、「こんな商売してられねえ」と語り、

良い金蔓が出来たんだと豪語する。礼二郎に

誘われたが松は同行を断る。

 南町奉行所同心中村主水は旧友左内を見つけ、

派手に袖の下を取るべきではないと忠告する。

「俺は北町、あんたは南町。お互い昼行燈」と

左内は二人の立場を確認する。給金も挙がらず

出世も厳しい身としては賄賂集めくらいしか楽

しみはないと服部は述べる。奉行所を首になれ

ば袖の下も取れねえと主水は重ねて注意する。

 おようは主人に気に入られていたが、思わず

店の金二両を盗んで隠す。その様子を番頭喜兵

エに見られた。

 喜兵エは服部左内に仕える岡っ引き辰三に密

告する。服部は礼二郎を捕える。辰三はおように

「礼二郎を助けたかったら三十両を服部様に届け

るんだ」と告げた。舟宿で服部におようは何とか

金策した三十両を届けた。服部は、おようと礼二

郎の二人ぶんの目こぼし両で、もう三十両要ると

要求する。

 中村家ではせんが火災を告げ、主水が慌てて

一番大事な置物を持ってりつ・姑と逃げようと

した。りつは訓練であることを告げた。せんは

主水が大事にする置物にへそくりがあることを

見破り金を奪った。

 

 礼二郎は牢内に居られる。鉄は牢名主として君

臨していた。茶屋で礼二郎を見た事を想起した鉄は

彼から事情を聴く。

 

 喜兵エは三十両をおように渡し返礼として彼女

に身体を要求し無理矢理奪った。おようは喜兵エ

が服部や辰三の仲間であることを悟った。

 

 鉄は礼二郎に、おようが同心達に脅されてるぞ

と注意する。

 

 牢内に「あかねこ」の火が近付き、鉄・礼二郎

を含む囚人達は一晩解き放たれ、翌日回向院に戻

れば罪一等を減じ、遅れれば死罪と同心に告げられ

夜に牢を出る。

 

 主水・松・正八・おていが語り合う隠れ場所に

鉄が帰ってくる。翌日は寅の会であった。主水は

服部の悪事を知り愕然とする。

 

 寅の会では服部・辰三・喜兵エ仕置の句を虎

が詠む。鉄が競り落とした。主水は旧友服部左

内の仕置に迷う。鉄は服部に恨みがあるから、

「てめえが殺らねえなら俺がやる」と宣言する。

 

 主水は「必ず俺が斬る」と意志を示す。

 

 おようは一日のみ解き放たれた礼二郎と再会

し、お金を盗んだ事を旦那様に正直に述べると

告げた。流石の礼二郎も反省し、俺も牢を出た

ら必ず真面目に働くと確約する。二人は抱きしめ

あって再会を約してそれぞれの道に向かう。

 

 だが、礼二郎の行く手には服部左内が待って

いた。

 

 おようは辰三に捕らえられた。

 

  

 

 キャスト

 

 

 藤田まこと(中村主水)

 

 

 中村嘉葎雄(巳代松)


 

 

 火野正平(正八)

 

 

 中尾ミエ(おてい)


 

 河原崎建三(死神)

 

 

 池波志乃(およう)

 

 

 佐藤仁哉(礼二郎)

 清水綋治(辰三)

 

 

 

 藤村富美男(元阪神タイガース)(元締虎)

 

 

 高野真二(喜兵エ)

 西川ヒノデ(想右衛門)

 

 北村光生(吉蔵)

 日髙久(娘の父親)

 倉谷章子(娘)

 宮川珠季(同心)

 

 松尾勝人(手代)

 滝譲二(囚人)

 東悦次(囚人)

 伊波一夫(茶屋の主人)

 

 

 藤沢薫(闇の俳諧師)

 原聖四郎(闇の俳諧師)

 沖時男(闇の俳諧師)

 秋山勝俊(闇の俳諧師)

 伴勇太郎(闇の俳諧師)

 

 

 犬塚弘(服部左内)

 

 

 菅井きん(中村せん)

 

 

 白木万理(中村りつ)

 

 

 

 

 

 山崎努(念仏の鉄)


 

 

 

 スタッフ

 

 制作      山内久司(朝日放送)

         仲川利久(朝日放送)

         桜井洋三(松竹)

 

 

 脚本      中村勝行

 

 

 

 音楽      平尾昌晃

 編曲      竜崎孝路

 

 撮影      石原興

 製作主任    渡辺寿男

 

 

 

 美術      川村鬼世志

 照明      中島利男

 録音      木村清治郎

 調音      本田文人 

 編集      園井弘一

 

 

 

 助監督     松永彦一

 装飾      玉井憲一

 記録      野口多喜子

 進行      佐々木一彦

 特技      宍戸大全

 

 

 装置      新映美術工芸

 床山結髪    八木かつら

 衣装      松竹衣裳

 小道具     高津商会

 現像      東洋現像所

 

 

 殺陣      楠本栄一    

         布目眞爾

         

 題字      糸見渓南

 

 ナレーター   芥川隆行

 

 オープニング 

 ナレーション作     早坂暁

 予告篇ナレーター    野島一郎

 

 

 主題歌    「あかね雲」

 作詞      片桐和子

 作曲      平尾昌晃

 編曲      竜崎孝路

 唄        川田ともこ

 東芝レコード

 

 

 制作協力     京都映画株式会社

 

 

 監督       松野宏軌

 

 

 制作      朝日放送 

         松竹株式会社

 

 ☆

 藤田まこと=はぐれ亭馬之助

 

 中村賀津雄→中村嘉葎雄

 

 二瓶康一→火野正平

 

 中尾ミエ=中尾ミヱ

 

 河原崎建三=河原崎健三

 

 犬塚弘=ワンちゃん

 

 

 白木万理=松島恭子=白木マリ

 

 

 山崎努=山﨑努

 

 

  山内久司=松田司

 

 中村勝行=黒崎裕一郎

 

 平尾昌晃=平尾昌章

 

 ☆

 早坂暁・野島一郎はノークレジット。

 ☆

 

 

 ◎悲劇美が光る◎

 

 『新必殺仕置人』「同情無用」における悲しみ

を極めるドラマに心身全体で熱くなった。痛まし

くて悲惨な物語である。それを徹底することで、

脚本・演出には悲劇美が光っている。

 

 中村勝行は昭和十七年(1942年)十一月十四

日に誕生した。中村敦夫は兄である。令和四年

(2022年)三月十一日に七十九歳で死去した。

三十四歳で書いた『新必殺仕置人』「同情無用」

は悲劇の傑作である。

 

 「あかねこまねき」で囚人達が一晩解放しに

なるエピソードは『必殺仕置人』「大悪党のニセ

涙」「無理を通して殺された」を継ぐものである。

 念仏の鉄/山﨑努にとって三度目の「あかねこま

ねき」物語であった。娘との遊びをその父親に見

られ叱られ、奉行所で服部に打擲され、牢名主と

して囚人達を支配下に置く。鉄の女好き・役人横

暴への怒り・囚人仲間から受ける尊敬が描かれる。

 山﨑努の迫力に圧倒される。

 

 優しい呉服屋女中おようは恋人礼二郎を養う

が、彼の金への欲求を満たしてやりたいために

二両を盗んでしまい、その罪を強請られ、罠に

嵌る。

 

 池波志乃は昭和三十年(1955年)三月十二

日に誕生した。父は十代目金原亭馬生、祖父は

古今亭志ん朝、夫は中尾彬である。二十二歳で

おようの無償の愛の暖かさを深い芸で明かした。

 

 佐藤仁哉は昭和二十七年(1952年)十二月

二十六日岩手県に誕生した。二枚目の魅力は

礼二郎役に光っている。

 

 犬塚弘は昭和四年(1929年)三月二十三日

に誕生した。

 令和五年(2023年)十月二十六日、静岡県

で死去した。九十四歳。ハナ肇とクレージー

キャッツメンバーとして音楽・コメディで大

活躍を為した。

 映画では山田洋次監督作品に多数出演した。

四十八歳で演じた服部左内は悪役演技が輝い

ている。金欲しさに恋人達を苦しめ強請り刀

を奮う悪徳同心の嫌らしさと悪辣さを粘り

強い芸で現した。

 藤田まこととの悪党同心どうしの演技合戦

は重厚で緊張感豊かだ。

 

 高野真二は中年になって若いおようを狙う

男喜兵エを憎たらしさと哀れさを豊かに見せて

演じる。

 

 清水綋治は昭和十九年(1944年)二月十一

日に誕生した。光る眼光と太い声で表現され

る悪役の怖さは格別である。辰三役の恐ろしさ

は強烈である。この役が清水綋治にとって『新

必殺仕置人』第一回出演となった。

 

 

 ラストにおいて己代松は川辺において悲しい

光景を目撃する。

 

 中村嘉葎雄が目の開け方と口の開き方で松の

驚愕を表現する。一言も語らないが胸の中の大

きな衝撃を無言のうちに伝える。深い芸に感嘆

した。

 

 松野宏軌監督と中村嘉葎雄は共に伊藤大輔の

指導を受けた人々である。

 

 中村勝行脚本・松野宏軌演出が伊藤大輔の悲

劇追求を意識したかどうかは分からない。自分

は照応するものを想像している。

 

 痛ましく悲しいラストを無言無声で語る。

 

 中村勝行シナリオ・松野宏軌演出は共に凄い。

中村嘉葎雄の無言の演技は「悲」の心の無限に

深さを伝えている。

 

 

                文中敬称略

 

 

               南無阿弥陀仏