首 ビートたけし主演 北野武監督 観客を笑わせる悪がない | 俺の命はウルトラ・アイ

首 ビートたけし主演 北野武監督 観客を笑わせる悪がない

『首』

 

 

映画 トーキー 131分 カラー

令和五年(2023年)十一月二十三日 封切

製作国 日本

製作言語 日本語 スペイン語

 

製作会社 KADOKAWA

配給 東宝

   KADOKAWA

 

原作 北野武

製作 夏野剛

プロデューサー 福士聡司

ラインプロデューサー 宿崎恵造

撮影監督 浜田毅

照明  髙屋齋

美術  瀨下幸治                                                                                                                                                                                                                                                                        音楽  岩代太郎

サウンドデザイナー 柴崎憲治

衣裳デザイナー 黒澤和子

録音  高野泰雄

編集  太田義則

VFXスーパーバイザー 小坂一順

助監督 足立公良

特殊メイク 特殊造形スーパーバイザー 江川悦子

装飾 島村篤史

殺陣師 二家本辰己                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             

スクリプター 吉田久美子

キャスティング 椛澤節子

製作担当 根津文紀、村松大輔

能楽監修 観世清和

 

出演

 

羽柴秀吉 ビートたけし

 

明智光秀 西島秀俊

 

織田信長 加瀬亮

 

難波茂助 中村獅童

黒田官兵衛 浅野忠信

 

羽柴秀長 大森南朋

荒木村重 遠藤憲一

斎藤利三 勝村政信

 

般若の佐兵衛 寺島進

曽呂利新左衛門 木村祐一

服部半蔵 桐谷健太

本多忠勝 矢島健一

宇喜多忠家 堀部圭亮

蜂須賀小六 仁科貴

滝川一益  中村育二

丹羽長秀 東根作寿英

安国寺恵瓊 六平直政

清水宗治  荒川良々

間宮無聊 大竹まこと

森蘭丸 寛一郎

織田信忠 中島広稀

弥助 副島淳

為三 津田寛治

遣手婆マツ 柴田理恵

茂助の父 日野陽仁

丁半博打の客 劇団ひとり

多羅尾光源坊 ホーキング青山

丁次 アマレス兄

半次 アマレス太郎

 

徳川家康 小林薫

 

千利休 岸部一徳

 

監督・脚本・編集 北野武

 

北野武=ビートたけし

鑑賞日時場所

令和五年(2023年)十二月一日

Tジョイ京都 シアター11

 天正年間安土時代。合戦により川には

戦士の死体が流れている。首無し死体を

蟹が食べる。

 

 天下人織田信長は反乱者荒木村重に対し

厳しい制裁攻撃を加えた。信長は村重を重

用していたが、嫡男信忠の補佐役を任じた

ところ「子守」とする拒否にあった。

 

 饅頭を刀に差して喰うように信長は村重

に命じた。村重が食べると信長は刀を動かし

村重の口を傷つけ流血させた。

 

 

 

 村重の恋人でもある明智光秀は狂える主

君信長を諫め逆鱗に触れ、主君から虐待

される。残虐な信長は村重の妻子は全て

処刑するようにと厳命する。

 

 六条河原で光秀は友・恋人村重の妻子・

家来たちを斬首する。

 

 反乱を起こした村重は曽呂利新左衛門に

捕縛される。

 

 信長は家臣達を集め村重捕縛に成功した

家臣に自身の跡目を譲ると約束し、我が子

信忠や信孝の器量では天下は治まるまいと

予測した。

 

 曽呂利から村重の身柄を預かった羽柴秀

吉は弟秀長や軍師黒田勘兵衛と図り、村重

の身柄を明智光秀に託し、新左衛門を甲賀

に派遣する。

 

 百姓の難波茂助は日吉様が侍大将羽柴秀

吉様に成られた事実に憧れ農民を辞め羽柴

軍に参加し武士になりたいという野望を燃

やす。「敵の大将の生首さえ取れば大名に

なれる」という夢に向かって茂助はいかなる

手段も選ばぬ男となる。

 

 信長は跡目相続を家臣達に確約したが、

信忠への手紙では家臣共を抑えるか斬る

かして天下を治めよと認めていた。

 

 秀吉はこの手紙を読み、文面でも猿・

猿公と侮蔑する内容に怒りを燃やす。

 

 更に内密に光秀にも信長の手紙を読ま

せる。

 

 「魔王と思って仕えていたが我が子可

愛さに迷う男だったか!」と光秀も落胆

し、これまで殴られ損だったと内面から

怒った。

 

 秀長・勘兵衛・茂助も野心に燃えてい

る。

 

 信長は同盟者徳川家康の知恵を恐れて

倒さねばならぬと警戒する。家康は温厚

な表情を浮かべ野心を隠す。

 

 堺の商人で茶人千利休は織田家の政商

として活動する。

 

 家臣森蘭丸との男色や黒人家臣弥助を

虐待する信長の行動は益々荒んでいく。

 

 秀吉や光秀の内面にも、暴虐主君信長を

倒し天下を取りたいという野望が湧いて

くる。

 

 ☆公開中なので物語要約はここまでと

 する☆

 

 ◎悪党達の本能寺変物語だが、笑わせる

  悪が不在◎

 

 

 

 ビートたけしは昭和二十二年(1947年)一

月十八日に誕生した。本名・監督名義は北野

武である。原作・監督・脚本・編集・主演の

五役を本作で担当している。世界の北野であ

り、お笑い・俳優の大御所であるたけしが、

戦国大名達の謀略を探求する。

 残酷・流血の強烈な描写には様々な意見が

あると思うが、わたくしは北野武監督の表現

として支持する。

 

 

 西島秀俊は昭和四十六年(1971年)三月二

十九日に生まれた。

 世界的に活躍する二枚目俳優である。

 

 悪辣な大名達が暴虐主君信長に仕えてい

る。

 主君は冷酷非情の殺戮天下人だが、家臣

達も悪知恵に長けた大名達である。

 

 この人間関係で本能寺の変はどのように

起こったか?

 

 着眼点は鋭い。

 

 北野武は記者会見で戦国時代男色は行われ

ていたもので、NHK大河ドラマでは隠蔽され

ているが『首』ではしっかり描写すると語って

いた。

 

 織田信長が小姓森蘭丸を寵愛していた事は

有名である。

 

 本作でも加瀬亮と寛一郎が男性と男性の関係

を持つシーンが描かれる。信長(加瀬亮)が弥

助(副島淳)を虐待するシーンもある。

 

 光秀と村重のラブシーンもあり、西島秀俊

と遠藤憲一が上半身裸で演じていた。

 

 

 殺人鬼信長を加瀬亮が凄み豊かに演じる。

狂気が燃えていた。

 

 羽柴秀吉の強かさをビートたけしがじっくり

演じている。

 

 悪ではあるが真面目で友思いの優しさも持つ

光秀を西島秀俊が繊細に演じる。

 

 野望に燃えつつ罪の意識にも苛まれる茂助を

中村獅童が体当たりで演じる。

 

 狂言回しの存在でもある曽呂利新左衛門を

木村祐一が渋く勤める。

 

 小林薫は温厚な表情で狸親父家康を現す。

 

 岸部一徳が政商利休を重厚に演じる。

 

 名優達が悪人を演じているが、個々の悪

は描写されても、悪人たちの激突劇になっ

ていく掛け算の魅力が無かった。悪の探求

は、主要登場人物において一人ずつ描かれ

ているが、描写が並列的になされている。

悪党と悪党の知恵比べの謀略戦の表現が弱

いのである。

 

 最大の弱点は悪の表現で観客を爆笑させ

るところが無かったことだ。

 

 巨悪の狡さや老獪さや人間臭さで観客を

笑わせるところが欲しかったし、これだけの

顔ぶれが揃えば期待するのは当然の望みだ。

 

 特に主役のビートたけしには秀吉の老獪

さの探求で大いに笑わせて欲しかった。

 

 「NHK大河ドラマ」のような綺麗事では

なくて闇を尋ねる映画としての課題が打ち出

されているのだから、笑いによる悪の探求

はどうしても欲しかった。

 

 因みにNHK大河ドラマの『黄金の日日』

の緒形拳は嫌らしさ、『独眼竜政宗』の勝

新太郎は凄み、『功名が辻』の柄本明は強

かさでそれぞれに豊臣秀吉を演じたが、三者

三様に人間臭さで視聴者をニヤリとさせて

くれたぞ。

 

 ビートたけしも名優である。

 

 秀吉の怖さと共に笑わせる個性も魅せて欲し

かった。

 

 映画ファンの巨星の落語家師匠から酷評を受

けた。わたくしは愚作・駄作とは見ない。

 

 流血描写は迫力がある。

 

 だが、繰り返しになるが、悪で笑いを呼ばな

かったことが痛かった。

 

 惜しい作品である。

 

 世界の北野は次回作ではやってくれると期

待する。

 

 色々残念に感じたことを書いたが、ラストの

終わり方は鋭かった。くどくなくていいね。

 

 タイトルの問題が浮かび上がる終幕であっ

た。

 

                  合掌