新必殺仕置人 解散無用  四十六歳 | 俺の命はウルトラ・アイ

新必殺仕置人 解散無用  四十六歳

 

『新必殺仕置人』第四十一話「解散無用」

(『新・必殺仕置人』第四十一話「解散無用」)

 テレビドラマ トーキー 54分 カラー

 放映日 昭和五十二年(1977年)十一月四日

    (金曜日)二十二時

 製作国 日本

 製作言語 日本語

放送局  朝日放送系

 

   のさばる悪をなんとする

 

   天の裁きはまってはおれぬ

 

   この世の正義もあてにはならぬ

 

   闇に裁いて仕置きする  

 

   南無阿弥陀仏   

 

 

 歌舞伎『藤娘』の舞台が上演されている。

 

 仕置人己代松は役者を竹鉄砲で狙撃し殺

害した。

 

 潜んでいた同心諸岡佐之助が配下の者達

に己代松を囲ませ捕える。

 

  諸岡「己代松。神妙にしろ」
 

 正八は松つあんが奉行所に捕えられたこ

とを知り、直ちに仲間の念仏の鉄・おてい

に知らせる。鉄は正八に注意するように指

示する。

 

 おていと松が恋仲だったことが明かされた。

 

 鉄は「俺達の稼業わかってるだろうな?」

と問う。おていは何時松が獄門首になるかわ

からないことを確かめる。

 

 それでも惚れた男の安否が気になる。

 

 もう一人の仲間南町奉行所同心中村主水

が現れる。尾行者を気にして、同心として

おていに「掏摸の嫌疑で奉行所に来い」に

強く命じて奉行所に呼び諸岡に虐待されて

いる松を見せた。

 

 諸岡から凄惨な拷問を受ける己代松は懸

命に堪える。

 おていの胸に悲しみが溢れる。

 

 「せめて一目松に引き合わせてやりたい」

という主水の心遣いであったが、おていの

心はショックを受ける。

 

 冷酷非情の諸岡は残虐な拷問を楽しむ。

 

 寅の会。

 

 元締虎は「本日をもって寅の会を解散」

すると厳かに宣言した。

 

 鉄は仲間が奉行所に捕えられたので、落

とし前をつけるようにと要求する。

 仕置人辰蔵は「鉄さんの言う通りだ」と

語り、虎にけじめをつける事を求める。

 

 

 虎の腹心の部下吉蔵は「辰蔵さん、言葉

が過ぎるぜ」と辰蔵の野心を看取して牽制

する。

 

 虎は「私がつけると言ってるんだ」と改

めて語った。

 

 辰蔵は「俺が辰の会を作ったっていい訳

だな?」と語り野望の計画を語り始める。

 

  吉蔵「あんたが何を考えているか、元

     締はお見通しだ」


 

  虎「金の為に見境無く人殺しをする

    外道は許さねえ。そのことはわ

    かっているぜ、辰蔵さん」

 

 辰蔵は虎と吉蔵に野心を見透かされ、悔

しさを見せた。

辰の会

 鉄が石段を降りていると、辰蔵とその配下

の者が接近し、辰蔵は「おめえさんが承知し

てくれれば、松を解き放つことも出来るんだ

が」と提案する。

 

 鉄は虎のけじめを見守る心を述べた。

 

 虎は長屋で子供達と遊んでいた。鉄が尾行

し家の中に入って行くと、虎は木像を彫って

いた。

 

 虎は「とうとう見られましたね」と語った。

 

 元締として仕置した人間達を弔い、哀悼の

心をこめて木像を彫っていたのだ。

 

  「例え悪党でも、死ねば仏です」

 

  「私は仕置人の外道は許さない」

 

 元締虎の言葉は、鉄の心に深く響く。


 

 虎は諸岡の元に自首して、「己代松の身柄

を引き取りたい」と願い出て、「私をお縄に

して下さい」と申し出て頼むが、諸岡は茶を

地べたに捨て拒絶する。

 

 鉄・正八・おてい・主水は対策を相談する。

正八は「辰の会に入るのならば、松を助けて

やる」という辰蔵の提案に乗るべきだと主張

しするが、煙管で煙草を吹かす鉄は「気取る

訳じゃないがな、俺は外道にだけはなりたく

ないんだ」と自己の生きる道を明かす。

 

 

 鉄は辰蔵のもとに行き、「辰の会に入る

から松を助けてくれ」と頼むが、辰蔵は「鉄

さんと松さんと刃物を使う仕置人」の三人全

員が揃わないとこの話はご破算だと語り、鉄

の申し出を断る。

 

 鉄は仲間の主水を辰の会に巻き込むこと

を避けた。主水は鉄にとって最後の切り札

であった。

 

 元締虎の家に何者かが侵入し、虎を襲撃

した。


 

  鉄がかけつける。


 

  虎「鉄さん。外道を頼む。」


 

 辰蔵の家では寅の会から内応してきた者

に、諸岡と辰蔵が声をかける。

 

  諸岡「悪党だな」

 

  辰蔵「この人は俺の片腕ですよ」

 

 主水は鉄に辰の会に入り、顔を晒すと宣言

する。

 

  主水「俺はおめえが辰蔵の元に

     何しに行ったかわかってるぜ」


 

  鉄「おめえは切り札だ。

    俺がしくじった時は

    おめえに任すぜ」


 鉄は単身辰蔵の家に潜入し、厠から出てき

た辰蔵を脅し、「己代松を渡せ!さもねえと

おめえをぶっ殺すぞ。どうなんでえ?」と迫

るが、辰蔵はこの襲撃を計算していた。待っ

ていた部下達が鉄を襲い拉致監禁して拷問に

かけて納戸で右腕を焼く。

 

 鉄が気を失って倒れると諸岡が現れ、松が

遷延性意識障害の状態になったことを述べた。

 

  辰蔵「鉄も己代松も仕置人

     としてはもうおしま

     いですな」

 

 正八は鉄が捕まり拷問にあった状況を見

て、匕首を取りに行って、辰蔵への報復を

企てる。主水は「てめえみたいなガキに何

ができる」と叱責した。


 

 中村家においてせん・りつに対して主水

は「離縁して頂きたい」と望む。

 りつは夜に不満がないことを述べる。せ

んは、はしたないと注意しつつ貴方のよう

な頼りない婿がいてくれたからこ長生きで

きたと告げ離縁を思い留まるように頼む。

 主水は「石よりも鉄よりもカチカチに固

い」と離縁の意志を述べ歩みだした。

 

 拷問に遭う松・鉄を思って主水は決死の

覚悟で戦いを挑む。

 

 奉行所で主水は「諸岡様の御命令」と称

して己代松の身柄を引き取るが、松は遷延

性意識障害で仲間の主水が誰であるかもわ

からなかった。

まつ

 正八とおていが松を大八車に乗せた。

 

  主水「己代松のこと、頼むぞ」

 

  正八「松つあんもつれて行って

     やってくれよ。仕置人な

     んだからさ」

 辰蔵の家に主水が現れ、諸岡に「己代松

に逃げられました」と伝えた。
辰 諸岡

  諸岡「おめえ夢でも見てるん

     じゃねえのかい?

     己代松は生ける屍だ」

 

 辰蔵は三人目の仕置人が逃がしたかもしれ

ませんと述べ、諸岡の注意を呼び起こした。


 諸岡は同意し家の外にでる。

 

  諸岡「待て待て中村、

     お前どうして俺がここに

     いるとわかった?

     まさかお前・・・・・・?」

 

あんたの

 

 主水「そう、あんたの思った通りだよ。

    諸岡さん。」

 

 主水は諸岡に決戦を挑む。

 

 その剣の壮絶さに恐怖を抱いた辰蔵は

納戸に逃げるが、そこには右腕を焼かれた

鉄が居た。

 

 匕首を振るう辰蔵。

 

 念仏の鉄は命を捨てる決意で辰蔵に挑む。

 

 

 

鉄 最後の戦い

 男が仲間を救うために、自身の命を犠牲

にして戦う。

 

 念仏の鉄の集大成ドラマである。

 

 村尾昭先生の脚本は精緻・緻密な戦いの

物語であるが、全篇灼熱で情の炎が燃えて

いる。

 

 平尾昌晃の音楽が心の底に響く。

 

 原田雄一監督の演出の深さは限りが無い。

 

 全てが完璧である。

 

 昭和五十二年十一月四日(金曜日)二十二

時になった瞬間、青年が疾走し「必殺シリー

ズ」の字幕が表示された。このオープニング

は再放送・ビデオ・DVDに収録されていない。

 

 リアルタイム小学四年生視聴者として青年

疾走のオープニング映像があったことを述べて

おきたい。

 

 仕置人達が命を賭けて戦う物語に全身全心

で緊張した。

 

 番組終了後ドラマの中の出来事を心の中で

繰り返し反芻した。

 

 「好き」なんて感情は微塵も覚えない。そ

んな素敵な心地じゃない。

 

 ただ、恐ろしくて怖かった。夜のベッドの

中で震えていた。小学四年生男子児童は翌1

977年11月5日学校に通いつつ番組の衝撃で

心は興奮していた。

 

 鉄は己代松を守る為に、辰蔵の匕首と戦い、

命を捨てる決意で、黒焦げの右手で骨外しに

全てを賭ける。

鉄 辰蔵

 匕首で左手を刺されても辰蔵を離さず、

技をかける。

 

 

 外道にだけはなりたくない。

 

 仲間の松を助けることが成り立てばそれで

よい。

 

 辰蔵が逃げてきたことで、鉄は主水の襲

撃を察知し、自身が辰蔵を倒せば、主水の役

に立てることを察知したのだろう。

 

 死闘の後、鉄は背後にやってきた主水と

口をきかず、傷口を抑えて遊郭に行く。

 

 主水は静かに鉄の歩みを見守る。

別れ

 涙一滴流すことなく、最初の殺し屋仲間の

歩みを見つめる。

 

 

 キャスト

 

 藤田まこと(中村主水)

 

 中村嘉葎雄(己代松)

 

 火野正平(正八)

 

 中尾ミエ(おてい)

 

 佐藤慶(辰蔵)

 

 清水綋治(諸岡佐之助)

 山崎清三郎(田村十三郎)


 

 藤村富美男(元締虎)


 

 北村光生(吉蔵)

 唐沢民賢(道八)

 高並功(弥之吉)

 

 マキ(屋根の男)

 東悦次(義助)

 森みつる(女郎)

 

 平井靖(小者)

 伊波一之(侍)

 美鷹健児(侍)


 

 藤沢薫(闇の俳諧師)

 原聖四郎(闇の俳諧師)

 沖時男(闇の俳諧師)

 堀北幸夫(闇の俳諧師)

 秋山勝俊(闇の俳諧師)

 

 

 菅井きん(中村せん)

 

 白木万理(中村りつ)

 

 

 

 山崎努(念仏の鉄)



 

 スタッフ

 

 プロデューサー 山内久司

         仲川利久

         櫻井洋三


 

 脚本 村尾昭


 

 音楽 平尾昌晃

   編曲 竜崎孝路

 

 撮影 藤原三郎

 製作主任 渡辺寿男

 

 

 美術 川村鬼世志

 照明 中島利男

 録音 木村清治郎

 調音 本田文人

 編集 園井弘一

 

 助監督 服部公男

 装飾 玉井憲一

 記録 野口多喜子

 進行 静川和夫

 特技 宍戸大全

 

 装置 新映美術工芸

 床山結髪  八木かつら

 衣装 松竹衣装

 小道具 高津商会

 現像 東洋現像所

 

 殺陣 楠本栄一

    布目真爾

 題字 糸見渓南

 

 ナレーター 芥川隆行

 

 

 オープニングナレーション作   早坂暁

 

 

 主題歌

 あかね雲

 作詞 片桐和子

 作曲 平尾昌晃

 編曲 竜崎孝路

 唄  川田ともこ

 東芝レコード

 

 制作協力 京都映画株式会社
 

 監督 原田雄一

 

 制作 朝日放送

     松竹株式会社

 

 

 ☆

 藤田まこと=はぐれ亭馬之助

 

 

 中村嘉葎雄=中村賀津雄

 

 

 二瓶康一→火野正平

 

 中尾ミエ=中尾ミヱ

 

 河原崎建三=河原崎健三

 

 

 

 白木万理=松島恭子=白木マリ

 

 山崎努=山﨑努

 

 山内久司=松田司

 

 

 平尾昌晃=平尾昌章

 ◎

 早坂暁はノークレジット

 ◎

 

 (画像出典

  『新必殺仕置人』DVD vol.11

  『必殺15年の歩み』)

  

 

                

 

 

 佐藤慶は辰蔵の冷酷さ・残忍さ・狡猾さを

鋭く探求する。

 清水綋治は諸岡に悪の華を咲かせた。眼光

は光っていた。

 

 北村光生の吉蔵ドラマの集大成でもあった。

 

 唐沢民賢の悪役存在感も大きい。

 

 藤村富美男の至芸は圧巻であった。プロの

俳優ではなく偉大なプロ野球人で重厚な名演

を明かした。

 

 

 主水の対辰蔵・師岡との決戦の前に『必殺仕

置人』の音楽が流れ、おていの己代松介護への

言葉で『助け人走る』の音楽が流れる。

 山﨑努が鉄役で主演したドラマとナレーショ

ンを語ったドラマである。

  

 辰蔵との激闘の後、鉄は重傷を隠して女郎と

遊ぶ。

 

 女郎役は森みつるである。「裏切無用」のお

しま役女優である。

 

 おしまと「解散無用」の女郎が同一人物か

どうかは分からないが、同じ女性と見ている。

 「裏切無用」でおしまは鉄に浮気したら仕

置人に頼んで仕置するわよと鉄に警告した。

 

 仕置人として外道になれないと決めて辰蔵

と戦った鉄は傷を深い負うが、気力を振り絞

り大好きな遊里で女郎と遊ぶ。おしまへの義理

を大事にしたと見ている。

 

 鉄の様子を女郎が布団から飛び起きる。

 

 おていは己代松を治すことを誓い彼の乗る

大八車を力強く引く。

 

 

 正八が微笑む。

 

 

  観音長屋で賄賂を貰い損ねた主水は微笑

 んだ。

 

 『必殺仕置人』「いのちを売ってさらし首」

において賄賂を取って鉄に注意された。

 

 「解散無用」ラストの主水の笑顔が不在の

鉄を思い出させる。

 

 『必殺仕置人』「いのちを売ってさらし首」

と『新必殺仕置人』(『新・必殺仕置人』)「解

散無用」は円を描き両手を合わせるように四年

全六十七話の歴史を包み一つになる。

 

 四十五年後の今日が金曜日であることにも

感嘆している。

 

 凄惨さを極め尽くし悲しみの果てに仕置人

達の義が滲んでくる。

 

 「いのちを売ってさらし首」において

「世の為人の為なんて言ってたらすぐにへ

たばっちまう」と冷徹に述べたが、「解散

無用」では「外道にだけではなりたくねえ」

と熱き誇りを見せる。

 

 この転換が鉄の生き方を決定付けた。

 

 

 村尾昭脚本・原田雄演出一は完璧完全なラ

ストを描き示した。

 

 

 高鳥都著『必殺シリーズ秘史 50年目の告

白録』(令和四年九月十九日発行 立東舎)

は山﨑努とスタッフ達が『必殺シリーズ』を

熱く語った大インタビュー集であり、貴重な

映像史記録である。

 

 石原興は麻雀中に野上龍雄から「あの台詞

は徹夜で考えたからカットするなよ」と注意

されたことを語っている。

 

 山﨑努は幼年期に赤い襦袢を着ていたお乞

食さんに恐怖感を抱いていたが、靴を川に落

とした時にそのお乞食さんが拾ってくれた事

を確かめる。

 

 お乞食さんは鉄役演技のモデル・原風景であ

るようだ。

 

 「沖はプライベートでぼくの家に遊びに来

るくらい仲良くなってね」(366頁)の言葉

に胸が熱くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 高鳥都氏より「いいね」を賜った。

 

 ありがとうございます。

 

 『新必殺仕置人』「解散無用」に四十六年

間ずっと震えて全身で熱くなっている。

 

 

 仕置人の男が危機の仲間を救うため冷酷・

残忍な敵に挑戦し戦いの後馴染みの女郎に

笑顔で会いに行く。

 

 ここに念仏の鉄の生き方の集大成があった。

 

 

 山﨑努の鉄は史上最強の大英雄である。

            

              南無阿弥陀仏

 

解散無用