祇園祭 新吉の夢 | 俺の命はウルトラ・アイ

祇園祭 新吉の夢

 

祇園祭 山内鉄也作品

『祇園祭』

映画 168分 トーキー カラー

昭和四十三年(1968年)十一月二十三日公開

製作国  日本

製作 日本映画復興協会

 

企画 伊藤大輔

 

製作 小川一郎

    久保圭之助 

    浮田洋一

    遠藤嘉一

    茨常典

    中岡清

    加藤晃

 

原作 西口克巳

    

 

脚本 鈴木尚也

    清水邦夫

撮影 川崎新太郎

音楽 佐藤勝

美術 井川徳道

照明 中山治雄

録音 野津裕男

スチール 鈴木一成

編集 河合勝己

 

出演

 

中村錦之助(新吉)

 

岩下志麻(あやめ)

 

田村高廣(助松)

御木本伸介(丹波屋伝蔵)

 

 

志村喬(恒右衛門)

小沢栄太郎(門倉了太夫)

藤原釜足(源蔵)

下本勉(山科言継)

香川良介(文助)

滝沢修(語り)

 

永井智雄(河合又四郎)

大木晤郎(平太)

尾形伸之介(岩十)

岩田直二(近江屋甚左衛門)

小川吉信(源太)

大里健太郎(常七)

鈴木晴雄(職人)

大東良(職人)

片岡半蔵(彦爺)

中村時之介(関所の役人)

玉生司郎(宰領)

関根永二郎(祇園社神宮)

堀正夫(頭領)

山口俊和(文七)

市川裕二(百姓)

加藤浩

田中浩

河村満和(侍)

春路謙作(白髪爺)

橋本仙三(佐助)

伊藤寿章(細川晴元)

浮田左武郎(泉屋徳太夫)

 

 

佐藤オリエ(お鶴)

斎藤美和(お兼)

沢淑子(およし)

鈴木悦子(とよ)

滝花久子(いち)

 

木暮実千代

中村光輝

中村米吉

 

 

北大路欣也(虎一)

中村賀津雄(町衆)

 

 

田中邦衛(権次)

大辻伺郎(秀太)

松山英太郎(六)

 

 

渥美清(伊平)

伊藤雄之助(赤松政村)

 

高倉健(巽組代表)

美空ひばり(町衆)

 

三船敏郎(熊左)

 

監督 山内鉄也

 

鑑賞日時場所

平成十二年(2000年)七月十七日

京都文化博物館

映像ホール

 

令和三年(2021年)七月十六日

京都文化博物館

フィルムシアター

 

 伊藤大輔=伊藤葭=呉路也

 

 小川錦一=初代中村錦之助=小川一郎

      →初代萬屋錦之介

 

 鈴木尚也=鈴木尚之

 

 小沢栄太郎=小沢栄

 

 藤原釜足=藤原鶏太

       =安恵一臣=藤原秀臣

 

 香川良介=香川遼

 

 伊藤寿章=澤村敞之助=澤村昌之助

 

   中村光輝→三代目中村又五郎

 

  中村米吉→五代目中村歌六

 

  中村賀津雄→中村嘉葎雄

 ☆

 京の都は応仁の大乱で荒れていた。農村では

土一揆が起こる。

 ある夜に染物職人新吉は笛の音に引かれて美女

あやめと出会い、二人は恋におちる。

 新吉の母は土一揆に殺される。町は戦火に包まれ

る。

  京の町民と農民の争いが激化する。新吉は農民

に助力する馬借の熊左と争う。熊左の猛攻で長老

恒右衛門が犠牲になる。

 新吉は町民と農民の争いは為すべきではないと

考え、争っていた熊左とも和解し、町衆の団結を明示

するものとして三十年間為されていなかった祇園祭

を復興することを夢見た。

 

 大群衆が動く。新吉の情熱は町衆の熱気と呼応

する。

 

 日本映画の底力を示そうという課題のもと、「祇園

祭をフランス革命のように描きたい」と伊藤大輔は

超大作『祇園祭』の企画を進めていた。

 昭和二十五年(1950年)立命館大学教授林屋辰

三郎が主軸を荷って紙芝居『祇園祭』を製作し、大

輔はその台本を入手する。

 

 昭和三十六年(1961年)西口克己が紙芝居台本

を基盤にして小説『祇園祭』を発表する。大輔はこ

の小説を原作として、初代中村錦之助を主演の映

画版の製作の企画を東映に提出した。

 

 莫大な製作費が必要になるという事で製作中止

となる。『源氏九郎颯爽記 秘剣揚羽の蝶』につい

て大輔が語った言葉に、「会社に出した企画が通ら

ず」とあるが、『祇園祭』の企画であったと思われる。

 

 『徳川家康 第二部』の企画が東映で通らな

かった。伊藤大輔と初代中村錦之助は東映を離

れる決意を固める。

 

 竹中労が京都府に府政百年事業として京都府に

企画を持ち込み、昭和四十二年(1967年)七月に

映画化企画が再浮上した。

 

 

 

 大輔・錦之助は東映を退社し、日本映画復興協会

の名の下に製作体制が再結成された。

  

 

 蜷川虎三知事(当時)を始め、京都府・京都市の

協力を得て、企画は前進したかに見えた。だが、ス

タッフは巨額の製作費を集めることに苦労し、脚本を

進める歩みも難航した。

 脚本は鈴木尚之(鈴木尚也)・清水邦夫が担当する

こととなった。鈴木尚之は昭和四年(1929年)十月五

日生まれで、初代中村錦之助とは『宮本武蔵』五部作

で完璧なチームを組んでいる。

 

 清水邦夫は昭和十一年(1936年)十一月十七日生

まれの劇作家である。

 『祗園祭』の製作状況は資金面を初め様々な事柄

で困難に直面し、鈴木尚之・清水邦夫と大輔は脚本

未完成のまま、撮影を開始せざるを得なかった。竹中

労・八尋不二・加藤泰がスタッフから降板した。

 鈴木尚之の脚本を大輔が改変しようとして京都市

から監督を降ろされたという説がある。

 

 伊藤大輔は監督を降ろされ、弟子の山内鉄也に交

代する。

 

 公開当時の広告を引用したように、「監督伊藤大輔

山内鉄也」としている資料もある。

 又、堀川組米屋主人に藤山寛美が出演予定だった

という資料もある。

 

 本作の製作過程の資料を読むと、様々な困難と

厳しい試練を経て、産み出された超大作である事

が窺える。

 

 昭和四十三年(1968年)頃伊藤大輔は『キネマ

旬報』において降板問題を書き関係者を糾弾した

と聞いてる。当時の『キネマ旬報』を所持してお

らず内容が分からないので何とも言えないのだが

是非読みたい。

 

 山内鉄也は新吉・あやめの美男美女の恋愛を主軸

に置き、新吉・熊左の友情を横軸にしてドラマを進

めた。

 

 初代中村錦之助・岩下志麻・三船敏郎の三大ス

タアが中心に物語を引っ張り、志村喬・小沢栄太

郎・香川良介・滝花久子・伊藤雄之助ら大ベテラ

ンが脇を固め、渥美清・北大路欣也・高倉健・中

村嘉葎雄・美空ひばりといった大スタアが僅かな

時間に登場するという超豪華な作品となった。

 

 

 自分は上記平成十二年(2000年)七月十七日

京都文化博物館の上映で鑑賞した。

 初代中村錦之助・岩下志麻の美しさは印象的で

二人が笛の音で出会い結ばれるシーンは幻想的で

あった。

 

 

 岩下志麻が超絶的な美しさを見せる。被差別民

の悲しみをあやめは語る、

 

 三船敏郎の熊左が、志村喬の恒右衛門を合戦で斬る

シーンは迫力豊かであった。これは、『七人の侍』に

対する大輔・鉄也師弟の応答だろうか?

 

  伊藤大輔監督作品『斬人斬馬剣』を参考にして、

黒澤明は、百姓が野武士と戦う物語『七人の侍』を

橋本忍と書いたとも言われている。だが、黒澤

明自身はその事に言及していない。「黒澤明君の

作品に惹かれる」と語る大輔は、敬意をこめて、

『七人の侍』で活躍した三船・志村を対立する役

柄で起用し、両者の激突を描いたのであろうか?

 

 三船敏郎の熊左は『七人の侍』の菊千代が中年に

なったと思わせる人物で三船の豪放磊落さが光って

いる。

 

 

 錦兄の美男の新吉、三船敏郎の凄み豊かな熊左。

 

 ポスター広告では三船敏郎は二番手表記だが、本

篇では堂々一枚タイトルで留めである。

 

 二人の激突が素晴らしい。

 

 田中邦衛は権次の役で鋭い存在感を見せる。

 

 本作は、錦兄・健さんの最後の共演作品でもあ

る。巽組代表の高倉健は、権力への抵抗を表現す

る。

 

 渥美清は静の芝居を徹底している。

 

 お嬢は掛け声をかけるワンシーンのみの出演だが、

存在感を鮮やかに見せる。短い出番でポスター留め

は美空ひばりの人気を反映している。

 

 

  

 伊藤雄之助は静かな演技で視線の凄みを見せ

る。

 

 熊左は支える輿に新吉が乗り祇園祭が開かれる。

 

 町衆たちが平和の祭典を挙行しようとする。

 

 大詰めで新吉に襲い掛かる悲劇が唐突で、自分は

納得していない。

 

 この点が残念で脚本構成の粗さも気になる。

 

 自分が誕生した時期に、『祇園祭』が京都府の

協力を得て企画が大きく進んだということに、個人

的な事柄だが、縁を感じている。だが紆余曲折が

あり、企画当初から中心人物であった竹中労が

降板せざるを得なくなる。竹中は著書で完成版を

手厳しく批評している。

 

 「フランス革命のような民衆の立ち上がりとして

祇園祭を描きたい」という大輔の夢。尊敬するヴ

ィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』へのオマ

ージュでもあったのだろう。

 

 

 

 完成版を見ると所々に未整理や粗雑さがあり、

大輔・鉄也のシャシンにしては、首を傾げざるを

得ない点が見受けられる。

 

 随所に雄大なショットが見られることはうれしい

のだが、筋・構成の編集・整理が荒っぽいので、

ドラマとしての美が無い。

 

 伊藤大輔の弟子として生きたい。これは自分の

生涯の願いである。だが、師の作品を全て絶賛

する訳ではない。

 

 本作は松竹セントラルを始め松竹の外国映画

上映映画館で封切られ、興行的には大ヒットを

記録した。五社協定の縛りを破り、超豪華なスタア

達の共演を具現した事の功績は大きい。 

 ウィキぺディアによると、上映権利を所有している

京都市は五万円でフィルム貸し出しに応じている

という。

 京都文化博物館では毎年祇園祭の時期に上映

してくれる。フィルムの修復が、文化博物館ス

タッフの尽力によって為された。

 だが、本作の権利は複雑に絡み合っているよう

でソフト化・テレビ放映は現在無理という状況であ

る。

 京都文化博物館以外の近年の映画館上映では

新・文芸座でなされている。

 フィルムの権利を握る京都市は頑な姿勢を改め、

全国での上映やソフト化について考慮すべきであ

る。

 

 初代中村錦之助と三船敏郎は、五社協定の

束縛を超えて、豪華配役の大作を作ろうと苦闘

していたが、その最初の成果が本作であった。

岩下志麻をヒロインに迎え、渥美清・北大路欣也・

田中邦衛・中村賀津雄・伊藤雄之助・高倉健・美

空ひばりが僅かな出番であるにも関わらず出て

くれた。

 この流れが、後の『風林火山』『幕末』と言った

時代劇大傑作に繋がっていったことは確かであろ

う。

 

 製作時の諸問題から、様々な粗さがあること

は残念ではあるが、未完成のまま生まれて在る

と見受けられる『祇園祭』だが、その存在感は

大きい。

 

 

 

 企画伊藤大輔、製作主演初代中村錦之助、脚

本清水邦夫、助演田中邦衛の映画『祗園祭』は、

演出脚本に粗さや強引さがあり、残念な点はある

ものの、群衆シーンの迫力には大輔の熱意が漲

っている事を強調したい。

 

 

 

 伊藤大輔にとって、長年の夢の企画であり、紆

余曲折があり、残念な点も多いものの、スケールの

大きさは発揮されている。

 

 

 

 令和三年(2021年)七月十六日京都文化博物館

フィルムシアターにおいて『祇園祭』二度目の鑑賞

を為した。前回は平成十二年(2000年)七月十七日

であった。ほぼ二十一年ぶりに同じ場所で鑑賞し感

慨無量であった。

 

 二十一年の歳月が経っており、忘れている部分

や新発見のときめきがあった。

 

 冒頭の京の戦乱の迫力は凄まじかった。

 

 滝沢修のナレーションは短いものの風格がある。

 

 殺陣の流血や残酷描写は強烈だった。

 

 伊藤大輔は無声映画時代から壮絶な斬り合いを

演出した活動屋だが、昭和四十年代から流血シーン

に力を傾注している。

 

 三船敏郎の熊左が志村喬の恒右衛門老人を無残

に刺し致命傷を与えるシーンは壮絶である。

 

 佐藤オリエのお鶴が可憐だ。中村錦之助に語る「お

兄ちゃん」の声に可愛さが光る。

 封切当時テレビ版『男はつらいよ』が放送されて

いた。

 車寅次郎役者と坪内冬子役者が鉾近くで同じショ

ットに映る。伊藤大輔・山内鉄也の粋な演出に痺れ

る。

 

 小沢栄太郎の門倉と共に浮田左武郎の泉屋が世故

に長けた総代の凄みを粘り強く見せる。

 

 祇園祭の民衆達の躍動は圧巻である。

 

 初鑑賞時、大詰において新吉に襲い掛かる悲劇に疑

問を感じたことは過去記事に書いた。その感覚は二回

目鑑賞においても感じた。

 町人達を纏め、馬借たちと和解し、武士の暴力・脅迫

にも屈しない新吉の精神を、悲劇ではなくて、祭への情

熱で見せて欲しかったという想いはある。

 

 「酷すぎるのではないか」という気持は抑えられない。

 

 だが、伊藤大輔・山内鉄也は弓を放たれ矢で刺され

命を傷つけられても、暴力に屈さない精神を語りたか

ったのであろう。

 

 戦争や疫病に苦しむ民が、平和と生命に感謝する

営みとして祭がある。命を賭けて平和の祭典祇園祭

を復興しようとする新吉と日本映画復興に命を賭け

て尽力する初代中村錦之助が照応している。

 

 『祇園祭』の感想投稿は、(一)を令和二年二月

十六日テーマ伊藤大輔、(二)を令和三年四月十九

日テーマ初代萬屋錦之介(初代中村錦之助)、(三)

を令和三年七月十四日テーマ初代萬屋錦之介(初代

中村錦之助)、他に関連記事を三度テーマ初代萬屋

錦之介(初代中村錦之助)で記した。

 

 今回七度目の投稿になるのだが、まだまだ尋ねた

い課題は数多いので学び続けたい。

 

 

 ドラマの展開に疑問があるのだが、スケールの

大きい殺陣・合戦シーンは迫力豊かで伊藤大輔・

山内鉄也師弟の演出力に痺れる。

 

 祇園祭を牽引してきた新吉は鉾の前に立ちはだか

る武士一団を見てもひるまず直進する。突然襲い掛

かってくる弓矢一本が新吉の身体に刺さる。苦しみ

の中で新吉は介抱する熊左らに歩みを説く。

 

 巨大権力から暴力弾圧を受けても屈せず道を歩む。

 

 初代中村錦之助の新吉は時を超えてフィルムにお

いて光っている。

 

 

 田村高廣九十五回目の誕生日

 令和五年(2023年)八月三十一日

 

 

                   合掌