本日十八時三十分 BSテレ東 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け 放送 | 俺の命はウルトラ・アイ

本日十八時三十分 BSテレ東 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け 放送

『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』

 

映画 トーキー 109分 カラー

昭和五十一年(1976年)七月二十四日公開

製作国 日本

言語 日本語

製作 松竹 

 

出演

 

渥美清(車寅次郎 車船長)

 

倍賞千恵子(諏訪さくら)

 

太地喜和子(芸者ぼたん)

 

下條正巳(車竜造)

三崎千恵子(車つね)

前田吟(諏訪博)

 

太宰久雄(桂梅太郎)

佐藤蛾次郎(源公)

中村はやと(諏訪満男)

桜井センリ(サトウ観光課長)

 

久米明(龍野市市長)

東郷春子(池ノ内青光の妻)

西川ひかる

笠井一彦

岡本茉利(池ノ内家お手伝い)

佐山俊二(守衛)

 

加島潤

城戸卓

長谷川英敏

羽生昭彦

江藤孝

原大介

高木信夫

土田桂司

谷よしの

光映子

統一劇場

 

寺尾聰(ワキタ観光係員)

佐野浅夫(鬼頭)

大滝秀治(太雅堂の主人)

榊原るみ(志乃家のお手伝い)

 

笠智衆(御前様)

岡田嘉子(志乃)

 

宇野重吉(池ノ内青観 かずお)

 

製作 名島誠

企画 高島幸夫

    小林俊一

 

脚本 山田洋次

    朝間義隆

撮影 高羽哲夫

 

美術 出川三男

音楽 山本直純

 

録音 中村寛司

調音 松本隆司

照明 青木好夫

編集 石井巌

スチール 長谷川宗平

監督助手 五十嵐敬司

 

装置 小野里良

装飾 町田武

衣装 松竹衣装

現像 東京現像所

進行 玉生久宗

製作主任 内藤誠

 

主題歌  「男はつらいよ」

クラウンレコード

作詞   星野哲郎

作曲   山本直純

歌    渥美清

 

協力  ブルドックソース

     柴又神明会

 

原作 監督 山田洋次

 

山田洋次=山田よしお

 

志村妙子→太地喜和子

 

榊原るみはノークレジット

平成二十四年(2012年)九月二十三日

南座にて鑑賞

令和五年(2023年)七月二十九日

十八時三十分 BSテレ東にて放送

 

 海には人食い鮫が居た。海水浴場の楽しい

場に襲い掛かり沢山の人々を殺傷した鮫。

 車船長は「あいつ」と鮫を呼び、糸を垂らして

「あいつ」との闘いの時を待つ。

 源公の下半身は食いちぎられ、おいちゃん・

おばちゃん・満男も鮫に食い殺された。さくらは

満男の死に涙を流す。

 夕方。さくらは精神が錯乱し、おいちゃん・お

ばちゃんの声が聞こえると叫びだす。車船長は

必死に止めるが、さくらは海に向かっておいちゃ

んによびかける。その時鮫が襲い掛かった。

 さくらは食い殺され、車船長は妹の足を掴み

無残に食いちぎられた遺体の両足に恐怖の

叫び声を挙げた。

 

 車船長は妹・甥・叔父夫婦・舎弟の仇である鮫

を待ち、船での対決の時を望んだ。鮫が襲いかか

ってきた。牙に車船長は恐怖の声を挙げる。

 

 車寅次郎は釣り場で熟睡していたが、同じく釣

りを楽しむ少年から声をかけられ、起床した。糸に

は小さな魚が食いついていた。寅次郎は魚に触れ

ていたが、「噛みつきやがった」と叫び声を挙げる。

 

 柴又葛飾のとらやの食卓では満男の入学祝い

の食事をおばちゃんつねが作っていた。

 桂梅太郎社長はお祝いをする。おいちゃん車竜

造とつねは喜ぶ。

 寅次郎が帰ってきて、「叔父貴の真似事」として

満男の小学校入学のお祝いのお金をあげることに

して、「五百円という訳にいかねえな」と注意する

が、おいちゃん・おばちゃんは気持ちが嬉しいと

喜ぶ。

 

 だが、満男と共に帰宅したさくらは泣いて帰って

きた。

 「お兄ちゃん、私、悔しい」と語るさくらは、先生が

「諏訪満男君」と呼んだ後、「君、寅さんの甥御さ

ん?」と聞き、一斉に笑われたと報告する。

 怒った寅次郎は、受け持ちの教師を代えろと学校

に言えと主張し、満男には明日から学校に行かず、

おじちゃんが別の学校を見つけると宣言する。

 「総理大臣の甥と言われて誰も笑わないけど、寅

さんの甥と言われて笑われるなら、笑われるほう

が悪いわな」と社長が大笑し、寅さんは激怒し「この

蛸」と怒り殴る。さくらは必死に止める。おいちゃん

は「悔しいが、笑われるお前が悪い」と寅次郎を

厳しく注意する。おばちゃんは折角の満男の入学

祝いなのにと号泣する。怒った寅次郎は飲み屋に

出かける。

 鞄をとらやに忘れた寅次郎は、さくらに明日発つ

から源公に上野駅に届けに来るようにと指示を

伝えた。さくらは、お兄ちゃんに申し訳ないことを

したと謝り、博さんとも相談して「総理大臣が偉

くて、お兄ちゃんが駄目ということはない」と確

かめしばらく滞在してと頼む。

 

 寅次郎はさくらの誠実な言葉を聞き、しばらく

の滞在を決めて、飲み屋の電話を切った。

 みすぼらしい衣装の老人が飲み喰った後、「本

郷の池ノ内だから」と名乗り、家の者が届けに

来るからと言い、この場は払わず帰ろうとする。

店の女性は怒り、無銭飲食はゆるさないので

警察を呼ぶと宣言し、老人に店に居るようにと

命じた。

 寅次郎は、姉ちゃん、国はどこだいと聞く。女

性は北海道出身と答える。国じゃあれくらいの

年格好の父っあんがおめえの事心配して、鍬

抱えて働いてるんじゃねえかと寅次郎は問う。

 父っあんが金持たずに来たのも何か理由が

あっての事だろうし、貧乏人どうし労わりあおう

やと呼びかける。

 店の女性は現金払いで商売ですからと店の

決まりを確かめる。

 「金払えば文句ねえんだろ?俺が払う」と寅

さんは申し出て、無銭飲食したみすぼらしい

服装の老人の飲食代と自身の飲食代の全額

を多目に払い、「釣りはいらねえよ」と宣言し、

店の女性は感謝する。

 

 飲みなおそうと寅さんは老人を誘うが、深夜

にとらやに帰宅し、おいちゃん・おばちゃんに

爺を泊めてやってくれと頼みこむ。老人は泥酔

して階段で用を足そうとしておばちゃんに注意

される。寅次郎も強かに酔っぱらっている。

 「ルンペン連れて来たな」とおいちゃんは怒る

が、「しょうがない!泊めてやれ」と宿泊は許可

する。

 翌朝寅次郎は売(バイ)に出るが二日酔いで

巧く口上が言えず、お猿玩具の売を源公に頼

む。

 

 みすぼらしい服装の老人は熟睡した後、おば

ちゃんに梅干し入りの茶を煎れるようにと語り、

風呂を沸かせと命じた。社長が注意しに行くと

老人は放屁し、「布団を片付けろ」と命じた。

 竜造は隣席に老人が座ってきたので怒り退席

し店の準備を始めた。

 博がとらやに来ると、老人は満男を「良い子だ」

と褒めて、「君がてて親か」と博に聞く。博は、はい

と答えるが、おばちゃんに誰ですと問い、おばちゃ

んは寅ちゃんに聞いとくれと返事をした。

 

 夜のとらやで寅次郎はおいちゃん・おばちゃん

夫婦から外出した老人の横柄で傲慢な態度を

聞かされる。やるね、爺と感心する寅次郎は、借

家住まいで冷たい息子の嫁に虐められているの

ではないかと予測する。

 老人は強かに酔ってとらやに帰ってきて、家に

帰るのは面倒なのでもう一晩泊まると宣言する。

 おじさんが食べた鰻の飲食代六千円を払って

欲しいと飲食店店員が要求し、寅次郎・博が払う。

 おいちゃんは怒り心頭に達するが、寅さんや

さくらや博が懸命に制止する。

 

 翌朝寅次郎は老人に泊めてやるけど、鰻の料

金を此処の老夫婦に払わせたりしちゃいけない

よと優しく注意し、帰った後、菓子折りの一つでも

持ってくりゃここの人間は感激するよと伝え、「宿

屋じゃないんだから」と確認する。

 

 宿屋じゃないと聞いて老人は吃驚仰天し、寅次郎

は俺の叔父夫婦がやってるケチな団子屋さと

説明する。

 老人はお礼をしなきゃいかんなと語り、紙と筆

を持ってきてくれと寅さんに頼む。寅次郎は画用

紙と筆と硯を用意し、老人は汚い筆だと嘆きつつ

筆の先をなめて香炉の絵を描く。神保町の古本

屋太雅堂に持っていくと海坊主のような顔の主人

がいくらか融通してくれる筈だと老人は語った。

 寅次郎は半信半疑で売のついでに神保町の太

雅堂に行く。海坊主のような主人が居て、「爺が

持っていけと言うんだよ」と老人が描いた絵につ

いて話す。主人は折角来たんだから見せなさい

と勧める。寅次郎は帰ろうとするが主人の言葉も

あり、老人が描いた絵を見せる。

 主人は「青観とは日本画の最高峰で色紙の類

は一切描かない先生なんだ」と述べ「青観の名を

騙るならそれくらいの事は知ってなきゃ」と笑うが

絵を見ると青観作と見ざるを得ず、本物の青観

の絵と判断し、寅次郎に売りたい額を聞く。寅さん

は指一本示すが、主人は高いとして、部下の吉田

に七万円の領収書を切るようにと指示し、寅次郎

は吃驚する。

 

 寅次郎は七万円を持ってとらやに帰る。

 

 さくらは七万円を見て兄が悪い事で得た金と勘

違いして返すように説得する。寅次郎は爺は有名

な絵描きで画用紙に筆で描いたら古本屋で七万円

で売れたと話す。

 さくらは、あのお爺さん見たことある、池ノ内青

観よと告げ、日本画最高峰と言われている著名

な画家であったことに気付く。

 寅次郎は爺の尻を叩いて絵を描かせ贅沢暮らし

をして毎日天婦羅・鰻を食おうと未来の夢を語り、

博は印刷工場、おいちゃんは団子屋を辞めろと

勧める。

 おばちゃんは、爺さんやっと帰ったよと報告し、

寅さんはなんで帰したと残念がり追いかけるが

おばちゃんは二時間前に出たから追いつかな

いよと注意する。

 

 青観は池ノ内家に帰宅し妻に二日間家を開け

たことを謝罪する。

 

 とらやでは青観が偉い画家であったとは気付

かなかったと語り合う。みすぼらしい服装で飲み

屋で無銭飲食をする青観は大金持ちでも心の中

に不幸や寂しさがあるのかもしれないと博は想像

する。社長は一筆七万円と聞き、真面目に働くの

が馬鹿馬鹿しくなったと嘆く。おいちゃんはしょうが

ねえと諭す。

 満男はおじいちゃんが描いてくれたと青観から

貰った絵をさくらに見せる。寅さんと社長がその絵

を引っ張り合って破れてしまう。「弁償しろ!七万

円だぞ」と責め、工場売ってでも金を作るよと社長

が謝罪するが寅次郎は社長の顔を掴み、あの工場

が七万円で売れるかといたぶる。博は言い過ぎです

と注意し、おいちゃんも寅が悪いと叱る。社長は泣

いて破れた絵を更に細かく破る。寅さんは反省の

旅に出ようとしてさくらが止めるが、兄の心は固か

った。

 

 池ノ内家を尋ねたさくらは青観の妻に、七万円も

の大金を頂くようなおもてなしはしておりませんと

語り、このような大金は頂けませんと告げてお金を

返し菓子折りを贈る。青観の妻はその丁寧な姿勢

を讃える。さくらが先生の現在地を尋ねると、妻は

龍野に仕事ですと答えた。

 

 兵庫県龍野市では市の公用車で青観が市のサ

トウ観光課長とワキタ職員の案内を受けていたが、

車の前に男性が歩みクラクションを鳴らした。偶然

にも寅さんで、「人のケツの後ろからうるせえな」と

怒るが、青観の姿を見て「おじさん」と喜ぶ。青観も

喜び二人は語り合う。観光課長は宜しかったらご

一緒にどうですと車外に出て寅さんを誘う。寅さん

は喜んで車に乗り、運転手が車を発進し、課長は

走る。あのおじさん、いいのかいと寅次郎が聞き、

ワキタは慌てて車を止めさせる。課長は前の席に

乗り、ワキタを叱る。

 市役所に着き、龍野市市長が青観先生に挨拶

する。「車寅次郎君です」と青観先生が紹介し、

市長は寅さんも恭しく挨拶し名刺を渡す。「うちの

爺がお世話になってます」と寅次郎も挨拶する。

 

 旅館梅玉で龍野市主催の歓迎会が催され、素敵

な料理が並び、綺麗どころの芸者衆も出席する。

 龍野市長は池ノ内青観先生という欧米でも有名な

大芸術家をお呼びして、先生の故郷龍野市の美し

い景色を描いて頂き、風景は芸術として永遠に残

る事を喜ぶ。

 寅次郎は市長の長い挨拶に飽きて、芸者ぼたん

に合図を送り、ぼたんもアイコンタクトで同意する。

煮物を畳の上に落として箸で追う寅さんにぼたん

は吹き出す。

 課長とワキタとぼたんと寅さんは食べ飲んだ。ぼ

たんはワキタさんのご先祖は殿様で課長さんのご

先祖は足軽と述べる。寅さんは民主主義の世の中

と述べ、課長が一曲歌うと熱心に食べていたワキタ

が笑い転げる。

 

 翌朝サトウ課長とワキタは寅さんを龍野市名所に

案内する。「忠臣蔵で有名な山崎街道です」と課長

は解説し龍野の美しい山を青観先生に描いて頂き

たいと希望する。

 素麺を食べながら課長は、寅さんに池ノ内先生へ

の絵のお礼は如何程でしょうかと尋ねる。寅さんは

高いよと述べ、先生が画用紙にちょろちょろと描いた

ら、七万円だよと解説する。課長は怯える。

 痩せの大食いワキタはもう一杯食うてもかまへん

かと問い、課長は許可し、ワキタは素麺をさらに一

杯注文する。

 偶然にもぼたんが来店し、寅さんは喜び、一緒に

昼食を食べる。

 

 池ノ内青観は昔からの知人志乃の店を尋ね、お

手伝いの女性に挨拶する。お手伝いさんに先生と

呼ばれている志乃は、青観との再会を喜び、彼の

前名であるかずおの名を大事にして「かずおさん」

と呼び、京都の個展を拝見しましたと挨拶する。

 

 夜。寅さん・ぼたん・課長・ワキタは宴会に興じ、

課長が芸で笑わせる。

 

 

 

 青観・寅次郎が龍野を発つ日が来た。ぼたん

が挨拶に来る。「何時か一緒に所帯を持とうな」

と寅さんは語り、「嘘でも嬉しいわ」とぼたんは

笑顔いっぱいに返事する。課長は汽車の時間

があると言い出立を急ぐ。

 

 

 題経寺でさくらは、兄は龍野で贅沢暮らしを

して毎晩御馳走を食べ、綺麗な芸者さんとお酒

を飲んでいたそうですと御前様に報告し、御前

様は「いかん」と寅さんの在り方を注意する。

 さくらはその芸者さんの一人を好きになったと

思うと鋭く見る。

 とらやでおばちゃんがおからを作ってくれる。

寅さんは、おからってのは兎の餌じゃなかった

かいと問い、おばちゃんは怒る。おいちゃんと

カップ麺をすする社長は呆れる。

 寅さんは龍野では毎晩新鮮な刺身を頂き、

茶碗蒸しが出ることもあったと懐かしがり、酒

は灘の生一本よと酒席を讃える。綺麗どころ

の芸者衆が来てくれたと夢見心地を思い出し、

ぼたんの名を呼ぶと、とらやにぼたん本人が

尋ねてきた。

夕焼け小焼け 清 喜和子

 

 ☆完璧大傑作☆

 

 山田洋次は昭和六年(1931年)九月十三日大阪

府豊中市に誕生した。『男はつらいよ』シリーズは

江戸ッ子のあったかさと粋な情味を伝えるドラマで

東京出身の大名優・天才渥美清の至芸で生命が

息吹いた。だがホンを書き演出したひと山田洋次

は浪花っ子で大阪人の視線があり、それが渥美

清の芸と見事なバランス関係を築いたのだ。

 山田洋次の父は満鉄のエンジニアで洋次は二歳

で満州に渡り、昭和二十二年(1947年)一家で大連

から日本に引き揚げた。

 東京大学法学部を経て松竹に入り脚本家・助監

督の後昭和三十六年(1961年)『二階の他人』で第

一回監督作品を発表する。

 

 映画版『男はつらいよ』は昭和四十四年(1969年)

八月二十七日に第一作が封切られた。本作『男は

つらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』はシリーズ第十七

作である。

 三木露風の『赤とんぼ』の夕焼け小焼けをタイトル

に頂き、露風の出身地龍野で画家青観と昔の恋人

志乃の絆と芸者ぼたんと寅さんの愛を語る。

 

 山田洋次・朝間義隆の脚本は完璧・完全であり、

暖かく美しい喜劇を緻密・精緻に描きだす。

 

 山田洋次の演出も完全無欠であり、男女の愛と

人情の優しさを深く尋ね明かしている。

 

 冒頭の夢は、『ジョーズ』の影響あろうか、人食い

鮫と戦う車船長の哀しみを描く。源公は下半身を食

いちぎられ、真っ二つになった遺体の腹に血が溢れ

ている。愛息三男と叔父夫婦を鮫に喰われ、さくらは

号泣する。家族を殺され錯乱するさくらを倍賞千恵

子が迫真の演技で伝える。

 さくらも犠牲になり、車船長は妹の食いちぎられた

両足を掴み驚愕する。ショッキング描写に震えが止

まらない。車船長も鮫に襲われ、喰われたかという

ところで寅さんの見ていた夢だったと知らされる。

 

 熟睡していた寅さんは、釣り糸が引いていて小魚

を釣るが噛みつかれて叫び声をあげる。

 ここでオープニングとなる。

 

 土手の騒動では子供達におもちゃの刀で叩き泣

かし親に叱られる。お茶目で悪戯好きの寅次郎の

暴れ方が描かれる。

 

 とらやでは満男の小学校入学を祝って、おばちゃ

んが鯛料理を作り、おいちゃん・社長も祝福し、帰宅

した寅さんは叔父貴の真似事をしたいと言ってお金

を贈ることを決める。甥の優しさに竜造・つねも喜ぶ。

 

 そこへさくらが泣いて帰宅し、満男は「君寅さんの

甥御さん?」と先生に問われ、児童とその親たちに

笑われたことを報告する。寅さんは激怒し、社長が

爆笑し喧嘩になり、おいちゃんに「笑われるお前が

悪い」と叱責され怒り心頭に達し飲みに出かける。

 

 山田洋次・朝間義隆は甥に気遣いしても巧く行か

ず、とらやの家族・友人と喧嘩してしまう寅さんの孤

独を鋭く見つめる。悲しみを抱く寅さんだけに、飲み

屋で無銭飲食を為すみすぼらしい老人に深い同情

心が湧き助けたくなる。

 

 池ノ内青観役の宇野重吉の滋味と情感と枯淡は、

年輪の至芸である。演技道における深海の境界と

申したい深さがある。

 宇野重吉は大正三年(1914年)九月二十七日生

まれ。本名を寺尾信夫と申し上げる。昭和十八年

(1943年)応召し兵士として従軍する。後のインタビ

ューで宇野は「僕ら左翼の人間は戦争の最前線に

立たされました」と回顧していた。ボルネオで終戦

を迎えた宇野は帰国後、劇団民藝の創設者の一人

となる。

 青観は八十代くらいの老人に見えるが、宇野自身

は本作公開時六十一歳である。

 

 

 寅さんと青観の飲み屋の出会いに、山田洋次の

筆が冴える。

 みすぼらしい服装の老人を助けてとらやの人々

は、横柄・傲慢な老人の態度に不満・憤懣を抱き、

寅さんが注意し、老人は宿屋と勘違いしていた事

を告げる。お礼に絵を描いて古本屋で金を融通し

てもらってくれという老人の言葉に、寅さんは半信

半疑で古本屋太雅堂に行くと、絵は七万円で売れ

た。

 

 山田洋次は、劇団民藝の宇野重吉と下條正巳

の共演シーンを敢えて、深夜青観とらや来訪と

朝の青観起床と竜造の怒りの二シーンに凝縮

している。

 

 青観の絵を太雅堂主人が鑑定し七万円の値打

ちと感嘆するシーンにおいても、宇野重吉・大滝

秀治の競演シーンが無い所が凄い。師弟それぞ

れに名演を明かし、心と心で尊敬しあっている関

りが会わない形で一層強烈に示される。

 

 みすぼらしい服装の浮浪者に見えた老人が、

実は大芸術家で大金持ちの富豪でもあり、飲み

屋で出会ったフーテンの寅さんと親友になり、二

人の友情が主題になって行く。

 

 青観先生が満男にあげた絵を社長と寅さんが

引っ張って破けて大喧嘩になるシーンは、山田

洋次の演出の美に震えて怖さすら感じてしまった。

 笑わせつつも哀愁を感じさせるリズムは強烈

である。

 

 山田洋次・高羽哲夫撮影監督が兵庫県龍野

市の美しい自然を記録してくれたことに、兵庫県

出身の小学生であった管理人は深く感謝して

いる。

 

 寅さんと青観先生の偶然の再会に、観客も喜び

を感じる。芸術家・富豪の姿が明らかになっても、

青観は寅さんを大事な友として確かめ行動を共に

する。

 テキ屋の寅さんが青観の友ということで市長や

役人から先生と呼ばれ頭を下げられるところに、

山田洋次の深い洞察がある。

 

 桜井センリのサトウ課長のおかしみは、素晴らし

い。

 

 寺尾聰のワキタの大食漢の不気味な存在感も

笑わせてくれる。喜劇人寺尾聰の代表作であろう。

 

 宇野重吉・寺尾聰の父子競演も珍しく、貴重で

ある。

 

 梅玉の宴会で寅さんとぼたんは出会いすぐに

意気投合する。

 

 太地喜和子の母性は光り輝いている。

 

 ぼたんは終始寅さんを大切に包み一切拒絶して

いない。

 本作においては、寅さんはぼたんに振られ失恋

したとはいえないのではないか?

 

 青観ことかずおが、昔の恋人志乃を尋ねるシー

ンに胸が熱くなる。

 

 志乃役は無声映画時代からの大スタア岡田嘉子

である。

 岡田嘉子は明治三十五年(1902年)四月二十一

日生まれ。演劇・映画で活躍しスタアとなったが、

昭和十三年(1938年)一月三日恋人の演出家杉本

良吉とソビエト連邦に亡命する。ソ連当局から厳し

い取り調べを受けスパイの疑惑を着せられ十年

服役し、杉本は銃殺刑に処せられた。

 嘉子はアナウンサーとしてロシアで活躍し、昭和

四十七年(1972年)十一月十三日日本に帰国し、

「飛行機から富士山を見ると涙が止まらなかった」

と心境を語った。

 この時岡田嘉子を迎えに来た存在が宇野重吉

であった。

 山田洋次監督には、昭和四十七年十一月から

岡田嘉子・宇野重吉で映画を撮る構想があったの

かもしれない。

 

 

 

 演技の道で活躍してきた大御所二人の芸と芸

の競演は、長い時を生きて別れても敬い合う恋

人達の歴史の深さを伝えてくれる。

 

 戦争の過酷さをくぐって演技の道を開いた二人

の生き方が、この名場面を支えている。

 

 題経寺のシーンではもう一人の明治生まれの

スタア笠智衆が「いかん」でおかしみを出す。

 

 寅さんとぼたんの柴又でのロマンスには、愛と

共に男と女の友情も光る。

 

 ぼたんが詐欺師の鬼頭に二百万円をだまし取

られ踏み倒されるドラマは重い。事実上資産家

なのに「一文無しの破産男」と語る鬼頭は妻や

弟の名義で店を経営し借金返済を要求されても

開き直る。

 

 佐野浅夫が憎たらしさ全開で悪役鬼頭を粘り

強く勤める。

 冷厳な鬼頭は、ぼたんから二百万円を騙し取り

裁判でも勝てることを確信しているので、余裕を

見せる。

 

 

 

 とらやを尋ねる青観先生にさくらが挨拶し、柴又

を二人で歩み、東京の方角を確かめ合う場面は

輝いている。

 

 龍野にやってきた寅さんが聞いた事柄に、観客

の心も熱くなる。

 

 

 『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』は暖か

くて優しい。

 

 上是下非・高是低非の観念ランキングに固執する

つもりはないが、『男はつらいよ』シリーズを代表

する一本であり、『下町の太陽』『霧の旗』『家族』

と共に山田洋次監督作品史を包み取る永遠不滅の大

地大傑作と確信している。

 

 ぼたん/太地喜和子の蠱惑的色気は輝いている。

 

 青観/宇野重吉の渋さに痺れる。

 

 ◎令和二年九月十三日発表記事を再編し

 テーマトーキー作品で投稿します◎

 

 

 

                     合掌

 

 

                   南無阿弥陀仏

 

 

                     セブン