十二・十三日二十一時 ラピュタ阿佐ヶ谷 必殺仕置人 仏の首にナワかけろ 上映 | 俺の命はウルトラ・アイ

十二・十三日二十一時 ラピュタ阿佐ヶ谷 必殺仕置人 仏の首にナワかけろ 上映

『必殺仕置人 仏の首にナワかけろ』

 テレビ映画 トーキー 55分 カラー

 昭和四十八年(1973年)五月十九日

 朝日放送 TBS系 放送

 

 令和五年(2023年)七月十二日・十三日 

 二十一時 ラピュタ阿佐ヶ谷上映

 

 製作国 日本

 製作言語 日本語

 

 のさばる悪をなんとする

 

 天の裁きは待ってはおれぬ

 

 この世の正義もあてにはならぬ

 

 闇に裁いて仕置する

 

 南無阿弥陀仏


 

 ☆感想記事の中で一部卑猥な表現をそのまま

  用いますが、お許し下さい☆

 

 風車が風を受けて回転する。観音長屋で商売を

するのも怖い地回りが目を付けているので大変だ。

 

 

 芋屋の安蔵は行き倒れになっていたところを茶屋

の主人徳次郎に救出され、彼の店の隣に土地を借

りて店を出していた。

 

 徳次郎と妻お米の娘お春に向かって、安蔵が挨拶

する。

 

 やくざの親分黒達磨の大八の乾分達から所

場代を要求され暴行を受けた安蔵を鉄が救う。

 

 二人は流刑地佐渡で苦労を共にした仲だった。

 

  鉄「おい安蔵。俺だ。お前の穴兄弟だ。」

 

  安蔵「念仏の兄ィ。助けてくれ。助けて

    くれ。」

 

 鉄が佐渡で事故に遭った時に、命がけで救出し

てくれた恩人が安蔵だった。

 

 大八はおきんを人質に取って安蔵を引き渡すように

命じるが、鉄は拒絶し二人は対立する。

 

 主水は喧嘩を静め、鉄に金で話を付けるようにと

進言する。

 

 

 安蔵は黒達磨の親分に殺されることを思い恐怖感

から「兄貴、助けてくれよ!」と哀願する。

 

 鉄は「当たり前じゃないか」と確かめ、佐渡で命

を助けてもらった借りは返すと明言する。

   

 安蔵が女郎と遊んでいる光景を鉄が合わせ鏡で覗

こうとすると、安蔵はいきなり襖を開けて「助けて

くれよな」と重ねて頼む。

 

 雨の夜、徳次郎は芋屋の領域が広がっているこ

とを知って、安蔵を詰問する。安蔵は徳次郎が出

した証文を雨水につけて開き直る。態度の豹変に、

徳次郎は安蔵のもうひとつの顔を見て震え怒り、

骨接ぎの先生事鉄に報告することを宣言する。

 安蔵はニヤリと微笑み、徳次郎を絞殺する。

 

 翌朝何事も無かったように安蔵は、お春を

励まし徳次郎を捜索する。

 

 半次は、拉致の下手人が大八と思い込み獅

子舞に化けておきんと共に追求する。

 

 安蔵は錠から棺桶を購入する。下駄屋のおか

みさんの葬儀の為に購入すると安蔵は語り、商

売も休んで自ら棺桶を荷い葬儀に参列する。

 

 鉄はケチの安蔵が商売を休んだことを疑問に

思う。

 

 主水は、安蔵の過去の手口を念入りに調べる。

娘の簪を盗んだ際は、その娘を堀に突き落とし

て助けるふりをして飛び込んで盗んだことを指

摘する。

 

 佐渡で鉄を救ったのも、鉄が褌に隠した金が

目当てだったのではないかと問う。

 

 鉄は思い当たる節があるが、命を救ってもら

ったことから、安蔵を信頼したいという気持ちを

捨てきれない。

 

 夜。

 

 お米は、土地に芋屋ののぼりを広げている安

蔵を見て糾問する。

 

 お米「あんたがうちの人を!?」

 

 安蔵はニヤリと笑って、お米を絞殺する。

 

 お米が木に首を吊った遺体となって発見される。

安蔵は首吊り自殺にみせかける工作をしたのだ。

 

 号泣するお春。安蔵は協力するふりをして近づき、

お春に言い寄った。

 

 
 

 ☆「知っているのは念仏だけ」☆



 

 第五回「仏の首にナワかけろ」は名優山田吾

一が笑顔で安蔵の極悪を鮮やかに探求する。

 山田吾一は昭和八年(1933年)二月二十日に

北海道に誕生した。平成二十四年(2012年)十

月十三日、七十九歳で死去した。

 

 

 

 『必殺シリーズ』の「笑い」の深さを示すエピ

ソードである。

 

 山田隆之の脚本は緻密な構成で描かれたミステ

リーの傑作である。

 

 冒頭で風車を映す。風車は観音長屋の人々の

バイタリティーの象徴でもある。

 

 安蔵が優しい笑顔を浮かべながら、お春に挨拶

するシーンも印象的だ。


 

 藤田弓子は細かな仕種で、お春が内心で安蔵に

不審を抱いているのではないかと思わせる動きを

明かしている。

 

 鉄が安蔵を救出し、「穴兄弟」の再会となる。

命の恩人の安蔵と出会えた感動で、鉄の心に恩返

しの気持ちが広まる。

 

 女郎との遊びでも、「助けてくれよな」と頼む

安蔵の気の弱さを脚本は強調する。臆病・不安を

たっぷり見せておいて裏に潜んでいる殺人鬼の顔

が明かされる。

 

 

 

 雨の夜。

 

 覚醒して微笑む安蔵は怖い。

 

 加害者が被害者をいたぶり、苛め抜き被害者

に恐怖感を味わせながら、その苦痛を見て喜び、

絞め殺す過程を楽しみながら浮かべる笑みであ

る。

 

 山田吾一の迫真の名演に震える。

 

 被害者徳次郎役の永田光男は伊藤大輔監督

作品『おぼろ駕籠』では愛する女性を奪われ

自刃する小野田数馬を勤めた。

 

 

 

 安蔵はお米を絞殺するシーンにおいても「笑

い」を浮かべて視聴者の心に恐怖感を起こす。

 

 大熊邦也監督の演出は推理小説のムードで物

語はじっくりと進める。

 

 お米が首吊りし自殺にみせかけられて一本の

木に吊るされるシーンは、静かな描写なので痛

ましさが視聴者の心に痛切に響く。

 

 

 遠藤辰雄の大八親分が貫録豊かで圧倒的な存在

感を示す。

 

 

 煙草のくゆらし方も素晴らしい。

 

 安蔵は弱者の自己が強者の大八親分に脅かされ

ているというイメージを他者に植え付ける過程を、

山田吾一が粘り強い演技で語る。

 

 

 主水が安蔵の巧妙・狡猾な手口と怖さを指摘し、

「利用されているのではないか?」と鉄に指摘す

るシーンも忘れられない。

 

 回想シーンは制止画像になるが、鉄の臀部を探

りつつ、隠された金を執拗に探索する安蔵の執念を、

山田吾一が鋭い視線で表現する。

 

 

 

 鉄は心の奥底で疑惑を覚え、「欲得ずくだって

いいじゃねえか」と結果論として自身の命の恩人

となった安蔵をかばうが、この時山﨑努は心の動

揺を笑顔で表現するところも圧巻である。

 

 この深い「笑い」もまた、「必殺」の「笑い」

なのだ。

 

 藤田弓子が可憐なお春役を熱演する。

 

 安蔵に体を奪われ、両親を殺された悲しみを一

筋の涙で表現する。

 

 徳次郎夫婦を殺しその娘を強姦し土地乗っ取り

と性欲を満たすと言う安蔵の凶悪さに震える。

 

 

 お春が鉄に希望を託す視線の光も印象的であ

る。


 

 「俺の知ってるのは念仏だけでね」

 

 山﨑努が鉄の生き方のテーマを重く深く語る。


 

 

 

 『必殺仕置人』の「仕置」は悪人を即時的に殺害

せず、苦しめいじめ抜いて処刑するが、第五回にお

ける首吊りの恐怖を味あわせながらいたぶり抜く描

写は圧巻である。

 

 「極悪人の殺人鬼を苛め抜いて苦しめ抜き苦痛を

味合わせて罰する」という表現に放送当時から賛否

があったようだが、私は物語描写として絶賛する。

凶悪殺人鬼もただ一つでかけがえのない生命を生き

ていることを学べるからだ。

 

 鉄の「男は死に時が肝心だぞ!」の台詞は重い。

 

 

 残酷な仕置は、極悪人安蔵まで気の毒に思わせる程

壮絶な迫力を以て視聴者に伝えられる。

 

 

 

 山田隆之脚本・大熊邦也演出・山田吾一至芸は「笑

い」で人間探求を為した。 

 

 

 

 鉄が悲しみを堪え、その鬱憤を大八一家との戦いに

ぶつけるシーンも迫力豊かだ。

 

 ◎

 昨日本作を絶賛する映画ファンの大先輩の

方のアメーバブログコメント欄に「安蔵(山

田吾一)が微笑んで徳次郎(永田光男)を絞

殺するシーンが怖かった」と書いたら、コメ

ント欄から「不適切な表現」と規制がかかっ

た。「絞殺」を「罪を犯す」に変えたらコメ

ントは反映された。

 「絞殺」と言っても実際の「絞殺」犯行

じゃなくてテレビ映画物語内の「描写」で

ある。

 サイバーエージェントは機械で規制して

いるのかもしれないが、「言葉狩り」にも

ならない不当な「言葉強奪」であり、表現

の自由に対する侵害である。

 別のブログでは「被差別部落」の言葉が

コメント欄から書けなかった。

 

 徳川時代に「士農工商穢多非人」という

身分差別があった。言葉を言って書かなき

ゃ説明が成り立たない。

 

 今流行のAI技術で規制してるのかな?

 

 『必殺仕置人』「仏の首にナワかけろ」を

見聞し絞殺の恐怖に怯える安蔵を見て命の尊

さを視聴者・観客は学ぶのだ。

 「絞殺」がいかに残酷なことか学ぶのだ。

 

 「被差別部落」という言葉を使わせないこと

は部落差別を助長している。 

 

 

 

 『必殺仕置人』「仏の首にナワかけろ」は

当時日本で放送が為されていた『刑事コロンボ』

を意識して作られたのかもしれない。倒叙ミス

テリーの大傑作である。

 

 関東『必殺』ファンの皆さん。

 

 迷わずラピュタ阿佐ヶ谷に行かれるべきで

す。

 

 大熊邦也演出の推理ドラマは永遠である。

 

 キャスト

 

 山崎努(念仏の鉄)
 

 沖雅也(棺桶の錠)

 

 

 野川由美子(鉄砲玉のおきん)

 

 

 遠藤辰雄(大八)

 正司照枝(女郎)

 

 
 津坂匡章(おひろめの半次)

 

 

 永田光男(徳次郎)

 吉川雅恵(お米)


 美樹博(子分佐平)

 古川ロック(三ン下)

 大橋壮多(三ン下)

 

 馬場勝美(三ン下)

 安藤仁一郎(三ン下)

 花岡秀樹(宿直の侍)

 

 

 藤田弓子(お春)


 

 山田吾一(安蔵)


 

 藤田まこと(中村主水)


 

 


 スタッフ

 

 プロデューサー 山内久司

            仲川利久

            櫻井洋三

 

 脚本      山田隆之 

 

 音楽       平尾昌晃

 撮影       中村富哉

 

 

 

 美術  倉橋利韶

 照明  中島利男

 録音  二見貞行

 調音  本田文人

 編集  園井弘一

 

 助監督 家喜俊彦

 装飾  稲川兼二

 記録  野口多喜子

 進行  黒田満重

 特技  宍戸大全

 

 

 装置      新映美術工芸

 床山結髪    八木かつら

 衣裳      松竹衣裳

 現像      東洋現像所

 

 製作主任    渡辺寿男

 殺陣      美山晋八

 題字      糸見渓南

 

 

 ナレーター  芥川隆行

 

 オープニングナレーション作 早坂暁

 エンディングナレーション作 野上龍雄

 予告篇ナレーション      野島一郎

 

 

 主題歌    「やがて愛の日が」

 作詞       茜まさお

 作曲      平尾昌晃

 編曲      竜崎隆路

 唄        三井由美子


 

 

 

 制作協力 京都映画株式会社

 

 監督  大熊邦也

 

 
 制作      朝日放送

         松竹株式会社


 画像出典     『必殺仕置人』DVD vol.2
 

                     文中敬称略

              

  

  

 

                   南無阿弥陀仏