破れ太鼓 | 俺の命はウルトラ・アイ

破れ太鼓

『破れ太鼓』

 

映画 トーキー 109分 白黒

昭和二十四年(1949年)十二月一日封切

製作国 日本

製作言語 日本語

製作 松竹

配給 松竹

製作 小倉浩一郎

脚本 木下惠介

   小林正樹

撮影 楠田浩之

音楽 木下忠司

照明 寺田重雄

録音 高橋太郎

美術 小島基司

演奏 松竹管弦楽団

助監督 小林正樹

    倉橋良介

進行担当 森伸三郎

装置 長谷川信三

装飾 不破敏夫

衣裳 中村つま

床山 井上力三

結髪 木村よし

整理 野村政七

記録 小西英廣

スチール 三浦専三

演技事務 保瀬英二郎

宣伝事務 平井敏

撮影助手 加藤正幸

     中村富哉

照明助手 冨田保二

録音助手 奥村泰三

美術助手 逆井清一郎

製作助手 永井信

後援 いすゞ自動車

   東京オルゴール

   KFSファッションスクール

 

出演

 

阪東妻三郎(津田軍平)

 

村瀬幸子(津田邦子)

森雅之(津田太郎)

桂木洋子(津田春子)

 

木下忠司(津田平二)

大泉滉(津田又三郎)

小林トシ子(津田秋子)

 

小沢栄(木村)

大塚正義(津田四郎)

賀原夏子(女中うめ)

永田光男(花田輝夫)

澤村貞子(素子)

 

青山宏(洗濯屋)

山崎敏夫(リーゼントの社員)

村上記代(女中つゆ)

桑原澄江(女中きみ)

中田耕二(洋服屋)

大川温子(事務員)

向井弘子(学生)

玉島愛造(火見櫓番人)

 

滝沢修(野中直樹)

東山千栄子(野中伸子)

宇野重吉(野中茂樹)

 

監督 木下惠介

 

田村傳吉=沢村紀千助=阪東藤助

    =阪東要二郎=阪東妻三郎

    =岡山俊太郎

 

小沢栄=小沢英太郎=小沢栄太郎

 

鑑賞日時場所

令和五年(2023年)一月十三日

京都文化博物館 フィルムシアター

 うめは津田家で家政婦として働いていた

が、友人に仕事を辞め津田家から出たこと

を報告する。津田家当主軍平の我儘について

いけなかったことが原因だ。

 

 軍平とその妻邦子には長男太郎・二男平

二・三男又三郎・四男四郎・長女秋子・次女

春子の六人の子供が居る。

 土建屋社長軍平は若き日肉体労働者として

働いていた。裸一貫から努力精進で土建屋社

長になった。家庭では独裁的な暴君であった。

一方で肉体労働者時代からカレーライスを愛し

御馳走と感謝している。

 太郎は父軍平の会社で働いている。平二は

音楽家である。医学生又三郎は顕微鏡での観

察に夢中だ。

 

 春子はウィリアム・シェイクスピアの戯曲

『ハムレット』舞台化公演で主演することが

決まり、主人公ハムレット役の台詞を練習し

ている。

 

 帰宅した軍平は太郎に「器量」の事で「贅

沢言わず早く嫁を貰え」と結婚をせかし、平

二は定職に就いていないことから「生活能力

の無い者は飲んではいかん」と注意する。四

男四郎は中学生である。秋子は軍平の決めた

婚約者花田輝夫との結婚を嫌がっている。花田

の家は軍平にとって出資者なのだ。

 

 軍平・秋子は満員電車に乗り、画家野中茂樹

の絵は軍平に傷つけられ破れる。茂樹は抗議し

軍平は開き直る。

 秋子は茂樹に謝罪する。

 

 野中家ではパリで学んだ父直樹と母伸子が

知的に藝術について語り合う。そのムードに

秋子は心打たれる。茂樹は秋子を愛していた。

秋子も茂樹に惹かれる。

 

 太郎はオルゴール作りに熱意を燃やし父から

の独立の意志を語り軍平に殴られ叔母素子のも

とに行く。

 

 秋子は茂樹との恋に燃えていた。軍平は怒る。

夫の横暴に耐えていた妻邦子が抗議した。

 

 子供達は平二を残して津田家から母と共に去

る。

 

 花田家は結婚破断で津田家への出資を断る。

 

 失意の軍平は肉体労働者時代同僚の労働者

から川に放り込まれたことを思い出す。

 

 平二に『破れ太鼓』の曲を歌い踊るように軍

平は頼む。

 

 実は子供のことを可愛いと思っているのでは

と平二が父軍平に問う。

 

 「自分の子供が一番可愛いに決まってるだろ」

と軍平は述べる。

 

 太郎は心底父軍平を嫌悪・憎悪している訳で

はなかった。オルゴール商法は好調であった。

 

 軍平とその妻子に和解の時が熟しつつあった。

 

 ◎津田軍平を熱く生きた田村傳吉◎

 

 阪東妻三郎は明治三十四年(1901年)十

二月十四日東京府に誕生した。本名は田村

傳吉である。別名義の芸名に沢村紀千助・

阪東藤助・阪東要二郎・岡山俊太郎がある。

 昭和二十八年(1953年)七月七日京都府

京都市において死去した。五十一歳。

 日本活動大写真・映画を牽引し支えた大

スタア・大名優である。

 

 

 木下惠介は大正元年(1912年)十二月

五日に誕生した。本名は木下正吉で後に木下

惠介に改めた。平成十年(1998年)十二月

三十日、八十六歳で死去した。

 

 日本映画巨星阪妻と愛と平和の名画の若き

俊英監督惠介が初顔合わせを為したのが本作

『破れ太鼓』である。

 

 日本喜劇映画を代表する大傑作である。

 

 頑固・傲慢・我儘の独裁的な親父軍平を阪

妻が情感豊かにたっぷりと演じる。怖いけれ

ども憎めない愛嬌がたっぷりと光っている。

妻さんは喜劇役者としても巨星だったことが

分かる。

 

 家庭喜劇は一気に進む。

 

 木下惠介・小林正樹の脚本は完璧である。津

田家の人々の葛藤と和解の道を暖かい喜劇で語

る。

 反戦・平和の名画の巨匠木下惠介・小林正樹
の師弟コンビのシナリオであるから「固いドラマ
か」と先入観をお持ちの方がいるかもしれない
が軽妙そのもののリズムでスクリーンを駆けてい
る。
 
 日本ミュージカル映画の名画でもあると確信
している。
 
 軍平は愛する子供たちの未来の幸福を思って
厳しくビシビシスパルタ教育で指導する。しか
し、六人の子供達はそれぞれに夢に向かって進
みたいという気持ちがある。
 
 暴君の夫の強引さを耐えに耐えるが我慢しき
れず抗議する邦子を村瀬幸子が深い芸で見せる。
夫を愛しているからこそ子供達への横暴を止めて
と語る心を熱く表現している。
 
 木下忠司の俳優としての参加作品である。映
画音楽の巨星だが、平二役の軽やかな名演を見
ると俳優としての芸ももっと見せて欲しかった
という思いがある。
 
 大泉滉は巧みな話芸で笑わせてくれる。
 
 男装の麗人春子を桂木洋子が清らかに生きる。
劇中劇『ハムレット』のハムレット役は輝いて
いる。
 昭和二十四年(1949年)の日本語シェイクス
ピア劇は綺麗な演劇だったんだなあと感嘆した。
 
 慎重な太郎を森雅之が繊細に演じる。
 
 木村役を小沢栄が粘り強く演じる。
 
 滝沢修と東山千栄子の野中夫妻の藝術愛は素敵
だ。
 
 

 宇野重吉は大正三年(1914年)九月二十七日に

誕生した。本名は寺尾信夫である。

 昭和六十三年(1988年)一月九日、七十三歳で

死去した。

 

 昭和十六年(1941年)日米戦争が近付きつつあ

る時期に、劇団解散を命じられ自身も徴兵されると

感じた宇野重吉は「死のう」と思い、死ぬ前に一本

映画を見るかと考え、フランク・キャプラ監督『ス

ミス都へ行く』Mr.Smith Goes to Washingtonを

鑑賞し「死ぬのを止めよう」と直感した。

 

 後に宇野重吉は山田洋次に「山田君ね。映画って

いうのはね、死のうと思った人間を生き返らせる力

を持っているんだよ」と語ったという。

 

 宇野重吉は生前のインタビューで「僕ら左翼は戦

場では最前線に立たされました」と確かめていた。

 

 戦争から帰ってきて命を生きて演技をする喜びは

茂樹役に溢れている。

 

 茂樹と秋子の清らかな恋はドラマの大切な流れに

なっている。

 

 藝術を尊ぶ茂樹と自己の意志で立つ秋子の恋に軍

平は動かされる。

 

 クライマックスでは人々が津田家の頑固親父を

懐かしがり軍平のもとに集う。

 

 

   「木下惠介先生が撮って下さった『破れ太

    鼓』の津田軍平。あの頑固親父が父の実

    像じゃないかと仰った方がいるんですが、

    違うんです。実際には子供達には言わず

    に周りの方に聞くと言う父親でした。

    わたくしが中学受験をした際に合格発表

    を家族の誰もが怖くて見に行けない。小

    学校の担任の先生が見て来て下さって合

    格していたことを教えて下さったんです。

    父は映画の一シーンのように土下座して

    『ありがとうございました』と先生に御礼

    を申しました。」

 

 記録映画『阪妻 阪東妻三郎の生涯』において

田村高廣は「津田軍平は阪東妻三郎の地ではない

か?」という意見を否定している。子供達には言

わずに、周りの人に聞く父親であったと確かめて

いる。

 高廣の中学受験合格を伝えてくれた先生に土下

座して御礼を言った。

 人間田村傳吉は繊細で純な心を持った男であった

と想像している。

 

 本作との出会いは昭和六十三年(1988年)か平

成初期にレンタルビデオ版による視聴だった。感動

し銀幕客席で見直したいと長く望んでいた。京都文

化博物館でよく上映されているのに数々の機会を見

落としてしまった。令和五年(2023年)一月十三日

京都文化博物館フィルムシアター客席で鑑賞し改めて

感激した。

 

 頑固親父で愛を求める男津田軍平は阪東妻三郎

の熱き芸によって命を吹き込まれた。

 

 木下惠介の演出リズムは明るくて至福の空間を

描いているのだが、流れに切なさと淋しさを伝え

てくれていることも確かめたい。

 

 大詰の津田軍平と野中茂樹の会話に義理の親子

関係の暖かさを感じる。

 

 阪東妻三郎こと田村傳吉が語った「胸がドキド

キだね」の台詞まわしは暖かい。

 

                 

                     合掌

 

 

                 南無阿弥陀仏

 

                    セブン