武士道残酷物語 | 俺の命はウルトラ・アイ

武士道残酷物語

 

 『武士道残酷物語』

 映画 123分 トーキー 白黒

 昭和三十八年(1963年)四月二十八日公開

 

   製作国 日本

 製作言語 日本語

 製作会社 東映京都撮影所

 配給 東映

 企画 辻野公晴

 原作 南條範夫 『被虐の系譜』

 脚本 鈴木尚之 

    依田義賢

 

 撮影 坪井誠

 美術 川島泰三

 音楽 黛敏郎

 編集 宮本信太郎

 助監督 山下耕作

 

 

 

 出演

 

 中村錦之助(板倉次郎左衛門

       板倉左治右衛門

       板倉久太郎

       板倉修蔵

       板倉進吾

       板倉修 

       板倉進)

 

 発端 昭和三十八年

 

 三田佳子(人見杏子)

 西村晃(山岡部長)

 

 

 第一話 慶長十五年から寛永

 

 

 東野英治郎(堀式部少輔)

 那須伸太朗(松平信綱)   

 明石潮(家臣)

 青木義朗(家臣)

 中村錦司(家臣)

 長島隆一(家臣)

 和崎俊也(家臣)

 徳大寺伸(浅井嘉兵衛)

 

 

 

 第二話  寛永十五年

 

 

 渡辺美佐子(やす)

 織田政雄(吾平)

 波多野博(六助)

 片岡栄二郎(寺田武之進)

 北竜二(北沢弥左衛門)

 東野英治郎(堀式部少輔)

 

 

 第三話 元禄年間

 

 岸田今日子(萩の方)

 澤村精四郎(七三郎)

 香川良介(上月源左)

 荒木道子(しげの)

 鈴木金哉(家臣)

 東恵美子(堀丹波守の妻)

 

 第四話 天明三年

 

 

 山本圭(野田数馬)

 松岡紀公子(さと)

 江原真二郎(堀式部少輔安高)

 河原崎長一郎(村の若者)

 島村徹(十次郎)

 水野浩(江戸家老)

 国一太郎(佐野政言)

 柳永二郎(静田権之進)

 松浦筑枝(老女)

 有馬宏治(田沼の側用人)

 成瀬昌彦(田沼意知)

 佐藤慶(近藤三郎兵衛)

 

 

 第五話 明治四年

 

 丘さとみ(ふじ)

 木村功(井口広太郎)

 川合伸旺(下田)

 小田部通麿(巡査)

 加藤嘉(堀高啓)

 

 

 第六話 昭和二十年

 

 原田甲子郎(指揮官)

 蜷川幸男(特攻隊兵士)

 花上晃(特攻隊兵士)

 牧口徹(特攻隊兵士)

 

 第七話 昭和三十八年

 

 三田佳子(人見杏子)

 小川虎之助(木原重役)

 山本緑(初子)

 杉義一(緊急病院の医師)

 西村晃(山岡部長)

 

 その他

 阿部九州男

 赤木春恵

 尾形伸之介

 倉丘伸太郎

 唐沢民賢

 堀正夫

 中村時之介

 遠山金次郎

 

 森雅之(堀丹波守宗昌)

 有馬稲子(板倉まき)

 

 

 

 監督今井正

 

 ☆

 鈴木尚之=鈴木尚也

 

 小川錦一→初代中村錦之助

      =小川矜一郎

      →初代萬屋錦之介

 

 

 本庄克二=東野英治郎

 

 

 澤村精四郎→二代目澤村藤十郎

 

 香川良介=香川遼

 

 

 松岡紀公子→松岡きっこ

 

 蜷川幸男→蜷川幸雄

 

 牧口徹→坂口祐三郎→坂口徹

    →坂口徹郎→坂口祐三郎

 ☆

 鑑賞日時場所

 

 平成二十一年(1999年)十月十日

 京都文化博物館

 

 平成二十七年(2015年)十月十七日

 京都文化博物館

 ☆

 引用画像は『講座 日本映画』第六巻から

引用している。

 

 『仇討』中村錦之助

 

 と表示されているが誤植と思われる。

 

 本作第四話のクライマックスシーン画像

である。

 ☆

 

 

 サラリーマン飯倉進は恋人杏子が自殺

未遂をしたことを聞いて驚愕し病院に向

かい看護する。

 進と杏子はそれぞれライバルの会社に

所属している。

 進は部長に杏子との結婚式の仲人を頼

むが、部長は杏子がタイピストと聞き、入

札情報が知り得ないかなと色気を見せた。

 進は杏子に無理を頼んでしまった。

 

 進は自身の家飯倉家が戦国時代から昭和

に至るまで、受難の歴史があったことを思

う。

 先祖の如く愛する者を苦しめまいとして

苦しめてしまう道に自分も入ってしまった

と自責の念を覚える。

 

 飯倉次郎左衛門 

 慶長年間から寛永年間。

 主家の不名誉を詫びて犠牲になるもののふ

であった。

 

 

 飯倉佐治衛門 

 島原の乱から三年。次郎左衛門の一子佐治

衛門は近習に取り立てられた。主君堀式部

少輔を案じ献身的な世話を為す。だがその

事がが仇になり、佐治右衛門は疎まれる。

 

 

 飯倉久太郎

 美男の久太郎は主君堀宗昌に寵童になる

ことを命じられ、身体を奪われる。

 

 その上側室萩の方との関わりを睨まれ、

二人が愛し合う光景を宗昌に見られてしま

う。二人は投獄された。「自害は許さん」

と語る宗昌は「生き地獄」として、久太郎

の男性×器を切るという残忍な刑罰を与え、

その後萩を与えた。萩は久太郎と愛し合った

時に身籠っており子供を出産する。

 

 飯倉修蔵

 剣の達人修蔵は愛妻まきとの間に娘・息子

に恵まれた。闇の太刀は藩主安高からも絶賛

された。娘さとと弟子野田数馬は婚約が決まり

修蔵は幸福感を実感していた。

 

 その飯倉の家に主君安高の魔の手が襲いか

かる。暴君の安高は村の百姓の男を無残に弓

で射殺す。藩を抜け出した農家の五人が田沼

意知に訴えた。

 

 安高は家老の勧めでさとを意知に「生き人

形」として献上することを決める。

 意知は「田舎大名にしてはよく出来ておる」

と堀家を気に入り、修蔵の娘さとを愛妾にす

る。

 

 五人の農夫を鋸引きの刑で処刑した安高は

まきの身体を狙う。まきは覚悟を決める。

 

 田沼意知が暗殺されさとはようやく帰れ

たが、数馬との再会に激怒した安高によって

不義密通の罪で数馬と共に捕えられる。

 

 修蔵は陣屋に赴き堀家の非道を諫言する。

 

 安高は罪人二人を闇の太刀で斬首すれば

許してやろうと修蔵に提案する。

 

 飯倉進吾

 明治の書生進吾は旧藩の主君で頭の病気に

罹った堀高啓の世話を献身的に行い、下宿に

住まわせる。

 高啓が進吾の恋人おふじに襲いかかり無残

にも身体を奪う。気の弱い進吾は涙を飲んで、

婚約者ふじに高啓様の相手をするように頼む。


 

 飯倉修

 進の兄修は神風特攻隊隊員として三人の隊員

とともに出撃しようとしていた

 

 

 指揮官は「天皇陛下から盃を賜る」と語り、

四人に裕仁からの盃を四人に与えた。

 特攻隊兵士四人は最後の一杯を飲み出撃す

る。

 

 板倉進

 先祖・兄の犠牲を思いつつ、進は杏子に迷惑

をかけたことを反省する。

 

 ◎忍苦の系譜◎

 

 初代中村錦之助は昭和七年(1932年)十一月

二十日東京府に三代目中村時蔵・小川ひな夫妻

の息子として誕生する。

 本名は小川錦一である。昭和十一年(1936年)

十一月初代中村錦之助の芸名で初舞台を踏む。

 昭和二十八年(1953年)十一月十五日に『鬼一

法眼三略巻』における虎蔵実は牛若丸を勤めた

後、映画俳優に転身する。

 時代劇映画を中心に出演する錦之助は大ス

タアとなる。

 

 三十歳の中村錦之助は板倉家七代七役の苦闘

を重厚に演じた。

 

 

 昭和四十六年(1971年)十月歌舞伎座公演

で屋号を萬屋に改める。

 昭和四十七年(1972年)芸名を初代萬屋

錦之介に改めた。

 平成九年(1997年)三月十日六十四歳で死

去した。

 

 今井正は明治四十五年(1912年)一月九日

東京府に誕生した。東京帝国大学に学び中退後

J.O.スタジオに入社し後に監督となり、数々の

反戦平和希求物語を語る。

 日本共産党員で平和祈念物語をダイナミックな

演出で明かした。生涯のライバルに山本薩夫がい

る。

 遺作となった『戦争と青春』は封切日の平成三

年(1991年)九月十四日にわたくしはピカデリー

で鑑賞した。二か月後の十一月二十二日に今井正

は七十九歳で死去した。

 

 

 鈴木尚之(すずき・なおゆき)昭和四年(1929

年)十月五日に誕生した。岐阜県吉城郡国府町出身

である。日本映画史を支えた大脚本家である。内田

吐夢は鈴木尚之を鍛え抜いた。

 平成十七年(2005年)十一月二十六日死去。七

十六歳。

 

 

 依田義賢は明治四十二年(1909年)四月十四日

に京都府京都市に生まれた。京都市立第二商業学校

を経て銀行員として勤務した後、昭和五年(1930

年)日活太秦撮影所に入り、脚本を書いた。

 昭和十一年(1936年)第一映画に入り溝口健二の

指導を受けた。溝口健二の厳しい指導を受けつつ健二

作品のシナリオライターとして大活躍し日本映画の

歴史を牽引した。

 平成三年(1991年)十一月十四日に八十二歳で

死去した。

 

 

 主家を守り主家に忠義を尽くし主家に苦しめられ

血を流す板倉家の人々の苦闘物語は重い。

 

 ウィキペディアによると題名は岡田茂が命名した

という。

 

 発端の昭和三十八年篇の中村錦之助と三田佳子は

美男美女だ。

 西村晃が部長の強かさを粘り強く見せる。

 

 杏子の自殺未遂で進は入札情報を探らせ彼女を

苦しめたことを反省する。

 

 自身の先祖や兄の被虐の歴史の影響を受けてし

まったのかと悩む。

 

 現代の進が家の歴史を想像するという構成で

ある。

 

 

 第一話の次郎左衛門の重厚さを錦兄が厳かに

勤める。

 

 徳大寺伸が冷厳な浅井嘉兵衛役で凄みを利か

せている。

 

 第二話の佐治衛門役で錦之助がもののふの

悲しみを演じきる。

 

 第三話は美少年久太郎役である。美しき寵童

役に息を呑んだ。

 

 森雅之が冷酷非情な変態サディストストー

カーの堀宗昌を深い芸で演じ勤めている。

 憎たらしさ全開の演技に気持ちの良ささえ

覚えた。

 森雅之が初代中村錦之助を追い回し追い詰め

身体を奪うシーンは衝撃的である。

 

 現代も性暴力加害の深刻な事件が起きてい

る。

 

 板倉久太郎は殿様に身体を奪われ、疎まれれ

ば男性×器を無残に斬られるという被害に遭う。

 

 岸田今日子の神秘的な魅力は萩役でも光って

いる。

 

 澤村精四郎時代の二代目澤村藤十郎が七三郎

役で出演している。

 

 現在脳梗塞の治療中で歌舞伎復帰に取り組ん

でいる名優である。

 

 平成二十二年(2010年)七月三日大阪松竹座

公演『弥栄芝居賑』で澤村藤十郎が久々に出演し

口上を述べた。わたくしは下手な掛け声で「紀伊

国屋」と語った。藤十郎の舞台を見たい。

 

 第四話は事実上の骨格の物語である。闇の太刀

の凄腕を褒められる修蔵は娘と妻を権力に奪われ

苦しめられる。

 

 錦之助が痛めつけられ傷つき悲しむ修蔵を熱

演する。

 

 

 

 昭和七年(1932年)四月三日大阪府に有馬稲子

(ありま・いねこ)は生まれた。本名は中西盛子

(なかにし・みつこ)である。現在九十一歳であ

らせられる。

 宝塚歌劇団を経て東宝に入り、美人女優として

人気を博し、岸惠子・久我美子と「文芸プロダク

ションにんじんクラブ」を設立し松竹に入る。

 昭和三十六年(1961年)十一月二十七日、初

代中村錦之助と結婚する。本作で板倉修蔵・まき

の役柄で夫婦競演を為した。昭和四十年(1965年)

七月二十三日初代中村錦之助・有馬稲子は離婚し

た。

 

 江原真次郎が安高の狂気と残忍さを徹底的に

尋ね、冷酷さを極めている。兎を虐殺して喜ぶ

シーンは怖い。江原真二郎の安高が河原崎長一郎

の若者を弓で虐殺するシーンは当時二人が内田吐

夢作品で主従の絆を演じる関係に在ったから衝撃

的だっと思う。

 

 内田吐夢作品で主従であって親友、今井正作品

で加害者・被害者を演じた事は素晴らしい事であ

る。

 

 佐藤慶の三郎兵衛の落ち着いた冷厳さもたまら

ない。

 

 成瀬昌彦が田沼意知で傲慢さと好色をたっぷり

と魅せてくれる。

 

 悪役名優達の華麗なる冷酷残虐探求が百花繚乱

である。

 

 山本圭と松岡紀公子後の松岡きっこが悲劇の恋人

達を鮮やかに演じる。

 

 『武士道残酷物語』と伊藤大輔監督作品『おぼろ

駕籠の脚本を依田義賢が書いた。


 『おぼろ駕籠』において菅井一郎が沼田隠岐守

を勤めた。沼田隠岐守は田沼意次・田沼意知父子

がモデルと思われる。



 『おぼろ駕籠』で沼田隠岐守に将軍家即室

に選ばれることになった恋人三澤を返して頂き

たいと懇願し拒絶され切腹して果てる青年は

小野田数馬である。永田光男が演じた。

 

 本作の数馬(山本圭)の原型ではないか?

 

 三澤(山田五十鈴)は生き人形として沼田

のもとに顔を見せるが、このエピソードは本

作における田沼意知への生き人形贈呈の人身

御供に通じる。
 

 初代中村錦之助が最愛の人を失う修蔵の悲

しみを全身で演じる。

 

 明治篇では恋人が襲われても堀家の殿様に

抵抗できず差し出してしまう板倉進吾の弱さ

を錦之助が繊細に演じる。

 

 丘さとみが性暴力被害に遭い恋人に裏切ら

れるふじの苦悩を探求する。

 

 堀高啓の変態の狂気を加藤嘉が重厚に演じ

る。これが又凄い。観客を本気で怖がらせる。

 特攻隊修編は修と特攻隊の仲間たちが出撃

するまでの短い時間であるが、戦争への悲しみ

が深く語られる。

 原田甲子郎は指揮官の台詞「天皇陛下から盃

を賜る」を厳かに語る。

 

 今井正は特攻隊兵士を犠牲にした存在は裕仁

であることを明確に語っている。

 特攻隊隊員を演ずる四人は、花上晃・蜷川幸

男・牧口徹・中村錦之助である。蜷川幸男は後

の蜷川幸雄、牧口徹は後の坂口祐三郎である・

 流石は今井正監督で変態蜷川幸男に怒鳴らせ

ずに演技をさせている。昭和三十八年から蜷川

幸男後の蜷川幸雄は棒読みで下手だったことが

分かる。

 花上晃は凛々しい。

 牧口徹後の坂口祐三郎は綺麗だ。

 


 錦之助・祐三郎の競演という意味でも貴重な

一本である。

 

 史上最強の名優初代中村錦之助と宇宙絶対阿呆

蜷川幸男の共演という点でも貴重なシーンだ。

 

 両者の芸力の深さと浅さがはっきり見れる。

 現代昭和三十八年篇では光が差し観客は希望を

持てる。これが大事である。前六篇が重さと悲しさ

は現代篇の光で一層重く観客の心に染みる。

 

 観客は本気で進と杏子の幸を祈る。

 

 今井正の深い演出が光る。


 本作演出において今井正監督は伊藤大輔に時代劇

の事柄について質問したそうである。

 

 白黒映像で堀家や天皇制や商業主義に苦しめら

れる板倉家の人々の悲痛さが映し出される。

 

 今井正監督の受難史物語の決定版であり、初代

中村錦之助が渾身の熱演で応えた。
 

                    合掌