菅原伝授手習鑑 道行詞の甘替 安井汐待の段 令和五年五月十四日 国立劇場小劇場 | 俺の命はウルトラ・アイ

菅原伝授手習鑑 道行詞の甘替 安井汐待の段 令和五年五月十四日 国立劇場小劇場

『通し狂言 菅原伝授手習鑑』

第二百二十四回 文楽公演
令和五年(2023年)五月十四日 国立劇場小劇場
 
二段目
道行詞の甘替(みちゆきことばのあまいかい)
 
桜丸 豊竹希太夫
斎世親王 竹本小住太夫
苅屋姫 竹本碩太夫
 
ツ   竹本聖太夫
レ   竹本文字栄太夫
 
    鶴澤清志郎
    鶴澤清丈'
    鶴澤燕二郎
    鶴澤清允
    鶴澤清方
 
安井汐待の段
 
豊竹睦太夫
野澤勝平
 
《人形役割》
桜丸  吉田玉佳
里の童 吉田玉征
里の童 桐竹勘昇
苅屋姫 吉田蓑志郎
斎世親王 吉田玉勢
里の娘  吉田蓑悠
判官代輝国 豊松清十郎
立田の前  吉田一輔
 
 
 
 桜丸・斎世親王・苅屋姫は河内國土師
の里への道を歩むに当たって飴売りに扮し
ていた。
 飴の売買によって桜丸は買いに来た人々
の会話から菅丞相が筑紫に流される身とな
り現在摂津國安井に居ることを聞く。
 養父が無実の罪を着せられることとなった
因は自身にあると感じた苅屋姫は謝りたいと
望む。親王・桜丸と共に姫は安井に向かう。
 
 安井の港において判官代輝国が丞相を警
護している。桜丸は親王・姫と共に現れた。
菅丞相に謝りたいと親王と姫は頼む。
 輝国は丞相にかけられた嫌疑は養女を天皇
の妃にしようとするものであるから、親王は
苅屋姫と縁を切るべきであると説く、桜丸は
自責の念をこめて親王に想いをきるべきと
語る。
 苅屋姫への恋は篤いが尊敬する菅丞相の潔
白証明の為に、斎世親王は無念の別れを姫に
告げる。
 
 菅丞相の叔母覚寿の娘で苅屋姫の姉立田の
前が現れて、一家の暇乞の為菅丞相に土師の
里で一泊して頂きたいと頼む。輝国は快諾す
る。苅屋姫は同行を望む。姉立田の前は拒否
する、輝国は桜丸に斎世親王の警護を命じて
立田前には苅屋姫を覚寿に預けるようにと述
べる。
 愛し合う心を秘めて苅屋姫と斎世親王は
別れを甘受する。
 
 『道行詞の甘替』はこの令和五年(2023年)
五月十四日国立劇場小劇場が初鑑賞である。
 原作浄瑠璃を岩波文庫版で読み長く見たいと
願っていた。ようやく文楽公演で見聞し感無量
である。
 
 爽やかで明るくて晴れ晴れとした空間から始
まる。
 
 重く厳しい「築地の段」の直後で観客の心に
ほっと息をつかせてくれるものがある。
 
 飴売りに扮した桜丸は美男で素敵だ。
 
 子供達の人形が可愛い。
 
 飴売りに変装しての斎世親王・苅屋姫の恋の
逃避行には浪漫と緊張がある。
 
 吉田玉佳は桜丸の忠義と配慮を遣う。
 
 吉田蓑志郎は苅屋姫の一途さを遣う。
 
 吉田玉勢は斎世親王の悩みを繊細に遣う。
 
 『安井汐待の段』もこの令和五年(2023年)
五月十四日国立劇場小劇場上演舞台が初鑑賞
である。
 
 この段は丞相の駕籠に苅屋姫が詫びたいと
真剣に望む貴重な場であり、立田前との姉妹
再会の場という点においても大事である。
 
 「親子の生き別れ」「姉妹の別れ」という後
の主題に連関している。
 
 書割の青い空のと広い海辺が丞相の置かれて
いる厳しさとの対照になっている。自然の豊か
な光景の中で無実の人が罪を着せられている。
 舞台の一秒一秒がドラマを無言で語ってい
る。
 
 豊竹睦太夫の語りは重厚であった。
 
 野澤勝平の三味線は鋭い。
 
 豊松清十郎が情の人判官代輝国を厳かに遣う。
 
 吉田一輔は立田前の厳しさを繊細に遣う。妹
苅屋姫を愛しているが故に菅丞相への義理から
厳しく接さざるを得ない。この厳しい心根を一
輔が鮮やかに遣う。
 
 平成十四年四月 国立文楽劇場『通し狂
言 菅原伝授手習鑑』においては吉田清之助時代
の豊松清十郎が苅屋姫を遣った。この月の十日
に観劇した。
 
 平成二十六年 四月国立文楽劇場公演
『通し狂言 菅原伝授手習鑑』においては
吉田一輔が苅屋姫を遣った。この月の七日・
二十一日に観劇した。

菅原伝授手習鑑 第一部 平成二十六年四月七日 国立文楽劇場

 

 過去の名舞台で苅屋姫を遣った清十郎は

輝国、一輔は立田前を遣う。蓑志郎にとって

も緊張感は凄まじいものであったと思う。

 

 これまでの通しでカットされることが多か

った『道行詞の甘替』の牧歌的な魅力や『安井

汐待の段』の緊張感は貴重な名場面であること

を学んだ。

 

 筋が分かりやすく学べるというだけでなく、

一段一段が照応しあって「親子の別れ」という

大いなるテーマを紡いでいることが察せられた。

 

 技芸員達の気迫の至芸により『道行詞の甘替』

『安井汐待の段』の尊さを学んだ。

 

 国立劇場に「七代目竹本住太夫生誕百年・国立

文楽劇場開場四十年の来年令和六年(2024年)

国立文楽劇場において『通し狂言 菅原伝授手習

鑑』全段通し上演を複数公演に亘って上演して頂

きたい」とメールを送った。

 「通し狂言を希望する声は多く寄せられていま

す」というお返事を頂いた。

 夢の実現を祈っている。

 

                    合掌