浪人街 RONINGAI | 俺の命はウルトラ・アイ

浪人街 RONINGAI

『浪人街 RONINGAI』

映画 トーキー 117分 カラー ワイド 

平成二年(1990年)八月十八日封切

 

 

製作 山田洋行ライトヴィジョン

   松竹

   日本テレビ放送網 

配給 松竹

製作国    日本

製作言語   日本語

 

製作     鍋島壽夫

       足達侃三郎

       務台猛雄

企画     鍋島壽夫

プロデューサー 山崎義人

        野村芳樹

        垂水保貴

 

原作     山上伊太郎

脚本     笠原和夫

 

音楽     松村偵三

撮影     高岩仁

美術     内藤昭

照明     美間博

録音     加藤一郎

編集     谷口登司夫

監督補佐   南野梅雄

助監督    月木野隆

       原田徹

       田中幹人

       辻裕之

殺陣     宇貫仁三

       山口博義

音響効果   帆苅幸雄

MA     アオイスタジオ

現像     東京現像所

       IMAGICA

協賛     三井ファイナンスサービス

製作協力   京都映画

       映像京都

       松竹第一興行

 

出演

 

原田芳雄(荒牧源内)

 

樋口可南子(お新)

 

石橋蓮司(母衣権兵衛)

 

杉田かおる(おぶん)

 

伊佐山ひろ子(お葉)

藤崎卓也(佐吉)

絵沢萠子(おとく)

 

中村たつ(おなか)

紅萬子(お仙)

賀川雪絵(おつや)

 

外波山文明(小幡伝太夫)

津村鷹志(同心柏木)

青木卓司(権三)

甲斐道夫(柴森九之丞)

中田譲治(松井作兵衛)

天本英世(琵琶法師)

 

水島英太郎(太兵衛)

中尾彬(小幡七郎右衛門)

 

佐藤慶(伊勢屋)

長門裕之(二蕎麦麦屋)

 

田中邦衛(土居孫左衛門)

 

勝新太郎(赤牛弥五右衛門)

 

特別協力 宮川一夫

総監修  マキノ雅広

 

監督 黒木和雄

 

絵沢萠子=松田友絵

 

賀川雪絵=賀川ゆき絵

 

勝新太郎=二代目杵屋勝丸

 

マキノ正博=牧野正博=マキノ正唯=マキノ陶六

       =牧陶六=牧野正唯=牧野正雄

       =牧野陶六=マキノ雅弘=マキノ雅広

封切当時朝日シネマにおいて鑑賞

 画像はインターネットより拝借引用して

いる

 ◎

 

 まる太は江戸下町のはずれの一膳めし屋

である。

 浪人荒牧源内と浪人赤牛弥五右衛門が争う。

店の払いで対立する二人を陣内と過去に縁が

あった浪人母衣権兵衛が仲裁する。母衣は源

内の女お新を秘かに愛していた。思いを告白

し金を出した権兵衛は、一度だけ拙者の相手

をしてくれないかとお新に頼む。

 陣内は母衣を嘲笑う。

 

 長屋に繊細な浪人土居孫左衛門と可愛い妹

おぶんが住んでいる。土居兄弟の夢は仕官だ

が百両と言う大金が要るので厳しい。

 おとくを始め夜鷹たちが旗本小幡七郎右衛

門らに斬殺される。

 

 まる太主人太兵衛が小幡らに斬殺される。

赤牛は小幡の剣を恐れ土下座して彼に迎合し

部下になる。

 

 赤牛を含む小幡一等はお新を捕える。

 

 豪商伊勢屋の妾お葉はおぶんから相談を受け

ていた。小幡の為に伊勢屋は百両をたてかえ奉

行に送るとお葉から情報を得た孫左衛門は同心

柏木を斬り百両を得た。小幡はお葉を斬るがそ

の剣を恐れる伊勢屋は逆らえない。

 

 赤牛の大らかさに二蕎麦屋は感嘆する。

 

 

 小幡は赤牛から手形の盗人は源内と聞かされ、

お新を捕え牛裂きの刑に処すると決める。

 

 おぶんからお新の危機を聞いた源内は十数本

の剣を身体に括りつけて百二十人の小幡一党に

挑戦し斬りこむ。母衣が応援にかけつける。

 

 小幡の前に背を向けた赤牛が立った。

 

 ☆浪人・夜鷹抵抗ドラマの描写方法☆

 

 原田芳雄(はらだ・よしお)は昭和十五年(1

940年)二月二十九日に誕生した。平成二十三年

(2011年)七月十九日、七十一歳で死去した。

荒牧源内を野性味溢れる個性を豪快に表した。

 

 樋口可南子は昭和三十三年(1958年)十二月

十三日新潟県に誕生した。捕らわれても闘志を

失わないお新を力強く演じた。

 

 石橋蓮司(いしばし・れんじ)は昭和十六年(

1941年)八月九日東京府に誕生した。凄腕で一徹

な母衣権兵衛を鋭い個性で演じた。剣の名手だが

愛するお新に寝て欲しいと懇願する心の恥ずかしさ

と陣内にからかわれる屈辱感の表現に震えた。

 

 

 田中邦衛は昭和七年(1932年)十一月二十三日

に誕生した。

 令和三年(2021年)三月二十四日八十八歳で

死去した。

 繊細で強者に怯えつつ耐えに耐えて抵抗を選ぶ

孫左衛門を粘り強く現した。

 

 絵沢萠子(えざわ・もえこ)は昭和十年(1935

年)三月二十八日に誕生した。兵庫県神戸市出身

である。本名は松田智江後に楠智江である。深い

演技で存在感をフィルムに刻み付けた。本作では

犠牲者夜鷹おとくの悲しみと恐怖を鮮やかに明か

した。令和四年(2022年)十二月二十六日、絵

沢萠子は八十七歳で死去した。

 

 中尾彬(なかお・あきら)は昭和十七年(1942

年)八月十一日に誕生した。夜鷹を斬りまる太の

人々を苦しめお新も処刑しようとする冷血漢小幡

を凄み豊かに表現した。猟奇的な小幡の個性を鮮

やかに示した。

 

 勝新太郎は昭和六年(1931年)十一月二十九日

に誕生した。本名は奥村利夫である。ヒーロー役者

勝新が臆病者赤牛に挑んだ。

 

 

 笠原和夫は昭和二年(1927年)五月八日に誕生

した。平成十四年(2002年)十二月十二日七十五

歳で死去した。

 

 黒木和雄は昭和五年(1930年)十一月十日に

誕生した。平成十八年(2006年)四月十二日に

七十五歳で死去した。反戦平和希求映画の巨匠

である。時代劇演出の名人でもある。

 

 マキノ雅広によって『浪人街』のセルフリメイ

クが企画されたが高齢体調不良の為監督を降板し

総監修になり、黒木和雄が監督を後継した。

 昭和三年(1928年)脚本山上伊太郎、監督マキ

ノ正博により『浪人街 美しき獲物』が作られた。

『忠魂義烈 実録忠臣蔵』における浅野長矩役問題

に怒り片岡千恵蔵は日活を出た。

 マキノ正博は南光明・谷崎十郎・根岸東一郎・

河津清三郎といった無名の俳優達を大役に抜擢

した。これが浪人の活躍を描くドラマの凄みを

深めたと言われている。1928年版は現存するフ

ィルムの引用を『ちゃんばらグラフティー 斬る!』

で見たが完全版は分からない。

 

 笠原和夫脚本、黒木和雄監督、原田芳雄・石橋

蓮司・勝新太郎出演ということで熱く期待した。

1990年最強のチームと言っていい。

 

 生意気な物言いになるのだが、どこか首を傾げ

てしまう写真なのだ。

 

 スタッフ・キャストに名人・スタア名優が集い

これ以上の一座は無理と言う理想的なチームが組

まれた。

 

 飯代にも窮する貧乏浪人が、夜鷹斬殺犯・女拉

致犯・残酷刑罰企図者の無法旗本に抵抗する。ド

ラマの骨格は鋭い。

 

 

 源内は義に篤い性格ではなくて銭によって決戦

を決める男である。打算を重視する彼は惚れた女

新の救出でも迷い結局は銭で出撃を決める。

 

 源内・権兵衛対小幡一味の対決は迫力があった。

 

 冷酷非情の旗本の蛮行に貧乏浪人が抵抗の戦を

挑んで打倒する。

 

 1990年原田芳雄はスタア名優、石橋蓮司は

天才名優、勝新太郎は世界のスタアである。

 言わばレジェンドの三人を貧乏浪人三人にオ

ファーしたことは意外性を打ち出す意図があった

のかもしれない。

 

 

 

 奥歯に物が挟まったような曖昧な言い方になり

申し訳ない。

 

 何が言いたいかと言うと、源内/原田芳雄が刃物

を身体に巻きつけて挑めば相手が百二十人でも観客

は負けないだろうと感じるということだ。

 

 勝ち目が無い決戦と分かって強敵に挑むことが

『浪人街』の主眼だろう。

 

 

 

 1928年版脚本で旗本が「寝返ったか」と怒り

赤牛が「表返ったのじゃ!」と語る。深作欣二

は山上伊太郎のシナリオに感嘆した。

 

 

 佐藤慶には臆病者の伊勢屋は似合わない。小幡

より更に残虐で冷酷な無法浪人の殺人鬼役を演じ

て頂きたかった。

 

 原田芳雄・石橋蓮司・勝新太郎の三名優がぶつか

る敵の総大将が中尾彬という構図だが主役三人が挑

む相手として三人より年上のワルを佐藤慶に演じて

欲しかった。

 

 本作では赤牛が小幡を道連れにして無理心中二

人串刺しをする。

 

 勝新太郎の発案と聞いている。

 

 杉の市・座頭市・朝吉といった凄腕の男を当た

り役にしてきたスタア勝新が迷い多く悩める赤牛

に挑んだ。先入観で物を言うなと叱られると思う

が強大な勝新の存在感は臆病で気の弱い赤牛に

見えず逞しい赤牛に映る。

 

 浪人三人や夜鷹のレジスタンスは、強大な旗本

を倒すのだが、本作は自他串刺しで首魁と心中す

る赤牛のドラマになっている。

 

 結論としては勝新太郎写真なのだ。失礼な言い

方になるが黒木和雄監督は喰われた。一観客のバ

イアスだが挑戦ドラマの道筋を黒木監督に思って

欲しかった。

 

 

 ラスト母衣が赤牛の墓に挨拶する場面は心を

打たれる。

 

 全ては巨星勝新のイメージに包まれる。

 

 勝新太郎の生涯において本作が最後の映画と

なった。

 

                   合掌