犬神家の一族 平成十六年四月三日版 | 俺の命はウルトラ・アイ

犬神家の一族 平成十六年四月三日版

 『犬神家の一族』

テレビドラマ  カラー

平成十六年(2004年)四月三日 フジテレビ系放送

製作国 日本

製作言語 日本語

製作 フジテレビ

    共同テレビジョン

 

原作 横溝正史

脚本 佐藤志麻子

企画 荒井昭博

   和田行

   保原賢一郎

プロデュース 稲田秀樹

プロローグ原案 樹林伸

ロケ協力  岡山県

     香川県

     丸亀市

     坂出市

     倉敷コンベンションビューロー

     横溝正史疎開宅

     香川県観光協会

    呉地域フィルムコミッション

    海上自衛隊呉地方総監部 

    他

特殊造型監修  臼井則政

特殊効果  パイロテック

スタント タカハシレーシング

     オフィスワイルド

技術協力 バスク

スタジオ 東宝スタジオ

 

 

出演 

 

稲垣吾郎(金田一耕助)

    

加藤あい(野々宮珠世)

    

 

西島秀俊(犬神佐清 青沼静馬)  

 

平岳大(犬神佐武)

眞島秀和(犬神佐智)

 

赤座美代子(犬神竹子)

佳那晃子(犬神梅子)

 

黒部進(犬神寅之助)

福士誠治(犬神佐兵衛 青年期)

山西道広(犬神幸吉)

 

石橋けい(犬神小夜子)

木村多江(青沼菊乃)

 

岸田今日子(宮川香琴)

 

小日向文世(横溝正史)

羽場裕一(ジャック安永)

長江英和(猿造)

 

塩見三省(橘)

樋渡真司(若林豊一郎)

梅津栄(久保銀造)

 

小橋めぐみ

広岡由里子

矢島健一

井之上隆志

松本じゅん

 

江幡高志(大山)

山谷初男(志摩久平)

 

 

佐藤慶(犬神佐兵衛)

 

 

 

佐野浅夫(古館恭三)

  

 

三田佳子(犬神松子)

 

 

監督 星護

 

 ◎

 佳那晃子=大関優子

 

 江幡高志=江波多寛児

 ◎

 

 昭和二十二年那須市。犬神財閥の創始者で大富

豪の犬神佐兵衛は八十一歳の年齢で重い病に罹り

信州那須湖畔の本宅で床に臥せっていた。

 長女松子・次女梅子とその夫寅之助、三女梅子

とその夫幸吉、竹子夫婦の息子佐武・娘小夜子、

梅子夫婦の息子佐智は厳しい表情で佐兵衛翁を

凝視している。娘夫婦と三人の孫は、佐兵衛

の巨額の財産がどのように分配されるかに強い

関心を抱いているのだ。

 佐兵衛の主筋に当たるの野々宮家の娘世のみ、

老人の重篤を悲しみ、懸命に回復を祈っている。

 

 松子が遺言を問う。佐兵衛は顧問弁護士古館恭

三を指さす。

 古館弁護士は、ビルマの戦地に従軍していた

松子の息子佐清が復員してきた時に遺言状が開

封される事を明かす。

松子・竹子・梅子は異母姉妹で、佐兵衛が三人の

愛人に産ませた娘達であった。姉妹の仲は厳しく

対立していた。

 

 古館弁護士はもし佐清の身に危険な事態が迫っていたら、佐

兵衛翁の一周忌に遺言状が発表されることになっていることを

説く。珠世以外の犬神家の人々は莫大な遺産の配分に想いを

巡らし視線の厳しさを強めた。

 佐兵衛が亡くなる。

 

 那須ホテルにもじゃもじゃ頭でよれよれの袴を着た青年が客

として尋ねてきた。金田一耕助と名乗った青年は、ホテルの主

人と女中はるに職業を聞かれ探偵と答えた。古館弁護士事務所

職員若林から、犬神家に「血みどろの事件が起こる」と予測する

手紙を受け取り、那須ホテルで会って、彼からの相談を聞く約束

であったのだ。

 

 湖そばに在る犬神家豪邸に耕助は驚く。湖を優雅に進むボー

トがあり、オールを操る珠世が、犬神家の関係者であることを美

代から聞かされた耕助は、双眼鏡で彼女を見る。

 

 その時、珠世がボートの浸水に怯え、助けを求めた。耕助

はホテルから駆け出し、必死に救助に向かうが、珠世の下男

猿蔵が彼女を救った。耕助はボートの底に穴が開けられてい

たことを語り、珠世は怯える。客を待たせてしまったかなと思

う耕助がホテルに戻ると、若林は毒入り煙草を喫煙し毒殺さ

れていた。

 

 古館は若林に代わって、事件の調査を改めて依頼する。

 

 犬神家に佐清が復員してきたという知らせが届く。遺言状

公開の場に、耕助も同席を許されるが、佐清はビルマ戦線で

顔に大きな傷を負い、かつての容姿とよく似たゴムマスクを

被っていた。竹子や梅子は本人であるかどうかも確認でき

ないことを指摘し、仮面を取ってもらわないと分からないと

疑問を提起する。松子は怒りつつも佐清にマスクを半分め

くるように指示する。仮面が半分めくられると、佐清の顔の

大怪我が現れ、犬神家の人々は驚愕する。

 

 古館弁護士は佐兵衛の遺言状を開封し、「犬神家の全財

産、並びに全財産の相続権を意味する斧琴菊」が、一定条

件の下において「野々宮珠に譲られる」ことが発表される。

 珠世自身も、犬神家の人々も驚く。珠世が相続権を得る

為には、佐清・佐武・佐智の三人のうちから配偶者を選ぶ

こと、珠世が三人を全て選ばず、他の配偶者を選ぶ場合

は相続権を失うこと、もし珠世が遺言状開封以後三か月に

死亡したり、相続権を失った場合は、財産は五等分され、

佐清・佐武・佐智がそれぞれ五分の一、青沼菊乃の一子

静馬が残り五分の二を相続することが発表される。菊乃

は佐兵衛の愛人で、静馬は息子であった。

 

 松子・竹子・梅子の実父に対する怒りは更に熱くなる。

仲の悪い三姉妹はかつて菊乃を折檻し、静馬が佐兵衛

の子でないと無理矢理嘘を認めさせ、乳幼児の静馬の

下半身に火傷を負わせるという残虐な行為を犯してい

た。

 

 犬神家の人々は血を吹く遺言状で更に確執と憎悪を

深め合う。

 猿蔵が手入れをする菊畑の側に仮面を付けた佐清

が立つ。珠世が現れて、壊れた懐中時計を渡し、昔し

て下さったように直して頂けませんかと頼むが、佐清

は時計に触れた後、彼女に返した。

 

 佐武・佐智は那須神社に出征前の佐清の手形が奉

納されていることを確かめ、耕助と共に尋ねて神主大

山から借りて、仮面の男に手形を押させて照合すると

主張し、松子は猛反対をする。佐武も怒り、仮面の男

を佐清と認められないと厳しく言い放った。

 

 翌朝耕助は古館から犬神家の菊畑に来るように呼び

出される。菊畑の人形の一つを見て、人形の首である

場所に佐武の生首が置かれていることに驚愕する。

 

 何者かが佐武を殺害し、首を斬って菊畑に置いたの

だ。警察の捜査で遺体が発見される。

 事件は鉄筋コンクリートの建物の展望台で起こった。

 橘はブローチを見つけ、珠世の持ち物であることを確

かめる。署長の尋問を受けた珠世は、事件当夜十一時

に佐武を呼び出し、仮面の佐清が触れた懐中時計を渡

し、奉納手形と対応されればと勧めた事を証言した。

 佐武に挨拶して部屋に帰ろうとしたら、彼に抱きすくめ

られ、強姦されそうになった事を告白し、ブローチはそ

の時飛んだのだと思うと述べ、危機を秘かに警護して

くれていた猿蔵に助けられたと報告する。

 

 仮面の佐清は母松子に手形を自ら押したいと申し出

て、松子も手形押しに立ち合い、藤崎鑑識員が奉納手

形と照合し、同一の物であることを確認し、松子は安堵

する。

 

 珠世の部屋に復員服の男が乱入し荒らした。

 

 ボートを湖に浮かべ休息していた珠世は佐智慧に眠り

薬をかがされ拉致され、犬神家がかつて所有していた廃

屋に監禁され、佐智に衣類を剥がされる。

 

 復員服姿の男が入って来て佐智を殴って気絶させる。

猿蔵は謎の男性から電話を貰い、お嬢様が廃屋に監禁

されている事を知らされ救助する。

 

 佐智は絞殺され犬神家で琴の糸を首に巻きつけた死体

となって発見される。

 

 

 耕助は、佐智が紐で絞殺された後に、首に琴の糸が

巻かれた事を確かめる。佐武の死体は菊、佐智の死体

は琴の見立てとなっていた。

 

 青沼菊乃が松子・竹子・梅子三姉妹に暴行を受け、嬰児

時代の静馬迄火傷を負わされた際に「よきこときく」の言葉

を呪った事を、耕助は聞かされた。

 佐兵衛は少年時代に那須神社神官野々宮大弐に助け

られ、大弐の妻晴世に恋心を抱いており、大弐・晴世夫妻

の孫珠世をこよなく愛し、自身の養女にした。

 

 松子は佐武・佐智の死を受け、佐清との結婚を珠世に

勧めるが、珠世は拒否する。夜息子を探す松子は、仮面

の佐清が煙草を吸っている事に驚く。仮面の男は、自身

が佐清ではないと告白し、松子は驚愕する。

 

 朝。那須湖畔に男の死体が逆立ちの体位で突き出て

いた。警察が遺体を引き上げると仮面の男であった。

 

 ◎犯人遺言に着目したシナリオは鋭い◎

 

 1976年監督市川崑、主演石坂浩二の名コンビ

によって産み出された『犬神家の一族』は見応え

ある推理映画の名作である。

 

 

 

 様々な意味で後続作品に大きな影響を与えた。

 

 まず、崑・浩二コンビの横溝作品が77→79年に

4本作られ、27年の歳月を経て本2006年版が

作られた。

 

 1976年版『犬神家の一族』における主要登場人

物の性格描写が後の作品に決定的な印象を与え、後

続作品が踏襲していることも特徴的だ。

 

 ヒロイン野々宮珠世のキャラクター描写にその

ことが窺える。原作によると、珠世は「絶世の美

女」と書かれている。この女性は小説ではかなり

厳しく冷たい発言も語っている。だが、市川監督

は映像版で、優しく清純な性格の美女として描

いた。星護演出は崑描写を継承していると言える

だろう。

 

 男性キャラの重要な人物の一人青沼静馬の描

写も市川監督が独自の表現で描いた。

 この静馬像もその後の作品でほぼ忠実に市川

監督の方法が継承されている。

  

 2004年4月3日フジテレビ版は1976年映画版

のリメイクの印象を受けた。

 

 冒頭にオリジナルで『誰も知らない金田一耕

助』というミニドラマがあり、『本陣殺人事件』

原作小説で言及されている事件が映像化された

が不気味さや怖さが感じられなかった。

 

 稲垣吾郎の耕助はまあまあというところだ。

 

 加藤あいは美貌は光る。だが台詞が棒読み

だった。

 

 西島秀俊の佐清は悩める青年像を繊細に

現した。静馬は1976年映画版に近く悪役に

描写されていたが、音声面でも振動のような

声の音響が為されていた。

 珠世に「お前は俺のものだ」と迫るシーン

もあったが、西島秀俊はやるなら憎たらしさ

いっぱいに表して欲しかったという思いがあ

る。

 

 平岳大は暴れてぼっちゃまの高慢さをつっ

こんで欲しかった。

 

 眞島秀和は爪を噛む仕種に原作への読み込み

を感じた。

 

 赤座美代子・黒部進は竹子・寅之助の図太さ

を見せる。

 

 1976年映画版に続き琴の師匠香琴を勤め風格

を見せた。

 

 佳那晃子は1976年映画版において大関優子

名義で菊乃を演じ本作では梅子役で妖しさを

見せた。

 

 「菊乃の呪い」に力点が置かれていた。

 

 

 佐藤慶の佐兵衛は流石に貫禄があった。「菊

乃の呪い」を幻影亡霊として語る。

 この台詞自体には疑問があった。佐兵衛にと

って静馬は愛息であり、静馬が殺されたことに

怒りはあったのではないか?脚本の見解を聞き

たいところだ。

 

 佐野浅夫の古館弁護士は夢の配役の一つで

実現して嬉しかった。関係者を包み込むよう

な視点を注ぎ安穏に事態が進むことを祈りつ

つも止められない弁護士の苦悩を重厚に表現

していた。

 

 

 

 三田佳子の松子は迫力豊かだった。

 

 

 

 佐藤嗣麻子脚本・星護演出が犯人の遺言を

描写した。これは評価する。

 

 これまでの映像版では省略されていたが、

犯人の罪滅ぼしの気持ちがこめられた大切

な台詞であり、星護版がしっかり描き語った

ことに敬意を表したい。

 

 繰り返しになるが1976年市川崑監督映画

版のリメイクという印象は拭えず、映像美は

感じたが、佐藤嗣麻子脚本・星護演出共に

外連味や毒を出して欲しかった。『犬神家の

一族』映像版・舞台版に期待するのは怖さ

であり、爽やかさを感じさせても、違和感

を禁じ得ないのだ。

 

 おとなしい映像版『犬神家の一族』の印象

があり弾けて欲しかったという想いは抑えが

たいのだ。

 

 令和五年(2023年)四月二十二日・二十九

日NHKBSプレミアム放送、脚本小林靖子、演出

吉田照幸、金田一耕助役吉岡秀隆役の『犬神家

の一族』「前編」「後編」の録画はしたが未だ

視聴していない。

 

 

 

                    合掌