必殺仕置人 疑う愛に迫る魔手 | 俺の命はウルトラ・アイ

必殺仕置人 疑う愛に迫る魔手

『必殺仕置人』「疑う愛に迫る魔の手」

テレビ映画 トーキー 55分 カラー

昭和四十八年(1973年)九月二十九日放送

放送局 朝日放送 TBS系

製作国 日本

製作言語 日本語

 

 

 のさばる悪をなんとする

 

 天の裁きはまってはおれぬ

 

 この世の正義もあてにはならぬ

 

 闇に裁いて仕置きする  

 

 南無阿弥陀仏    

 

   朝の観音長屋で目覚めた念仏の鉄は静

かさに驚く。

 晦日に大家喜助が家賃支払い催促に来

るので住民達は静かにして姿を隠している

のだ。

 

 浪人大村大膳は喜助に催促されるが用

心棒で長屋の治安を保っていると笑って

ごまかして逃げる。

 

 鉄砲玉のおきんは鉄に一度も家賃を払

っていないと言い、鉄も俺もだと確かめ

ここの連中はみんなそうだと告げる。

 

 大家も年で死ねば長屋はあたしたちの

ものになるとおきんは語るが鉄は何処か

に大家の隠し子がいるかもしれねえぞと

想像する。芝居みたいな事はないだろと

おきんは思うが、棺桶の錠が喜助の親戚

の娘音代を八王子に迎えに行ったことを

語る。

 

 喜助は亡妻おさきの位牌にあの子だけ

は傷つけたくないんだと述べる。

 

 八王子でおさきの葬儀が終り、娘おと

よは錠に案内されて江戸観音長屋に向か

う。母の急死で独りぼっちになったおと

よは親戚の叔父喜助が風車を土産にくれ

たことを思い、喜助の遣い錠を地獄に佛

と感謝する。「俺が佛か」と錠は問い、

「天涯孤独の独りぼっち。それがどんな

味がするか、知らねえほうがいいんだ」

と呟く。

 

 角屋金蔵は高島主膳と組み、観音長屋

を打ち壊し女郎屋を建てて儲けたいと狙

っていた。

 観音長屋に来たおとよに喜助は親戚と

名乗っていたが実父であったことを語る。

 おとよはどうしておっかさんと私を置

いて今まで黙っていたのと抗議する。口

に言えねえ訳があるんだと喜助は謝罪す

る。

 

 悲しむおとよは自活して暮らすことを

宣言し錠を尋ねる。おとよは錠に知って

いたのねと問い、錠は首肯し事情はどう

あれ親子が一緒に暮らすことは素晴らしい

ことなんじゃないかなと問い、今夜はこ

こに泊んなと勧めた。純粋な錠はおとよを

守る。

 

 金蔵は喜助に大泥棒であったことをばら

すぞと脅し、喜助は観音長屋打ち壊しをい

やいやながら甘受する。観音長屋の住民と

おとよは喜助の行為を裏切りと糾弾する。

半次とおきんは喜助の豹変に抗議した。

 

 金蔵は刺客を放ち喜助を刺殺する。

 

 悲しむおとよは金蔵配下の黒駒に捕らえ

られ拷問に遭う。

 

 観音長屋に高島・金蔵一派が現れて住人

を威圧し、大膳は抵抗するが惨殺される。

 

 錠は黒駒に責められるおとよを救出しよ

うとするが既に彼女は責めの苦痛で死亡し

ていた。

 

 おきんと半次は悲しむ。

 

 錠の怒りが高島・黒駒に爆発する。

 

 金蔵は部下を厳しく叱責した後自室にお

いて怪しい動きを感じ鉄砲を構え鉄と対面

する。

 

 

 キャスト
 

 

 山崎努(念仏の鉄)

 

 

 沖雅也(棺桶の錠)

 

 

 野川由美子(鉄砲玉のおきん)

 

 美川陽一郎(喜助)

 瞳順子(おとよ)

 

 守田学哉(高島主膳)

 玉生司朗(黒駒)

 

 

 加藤和夫(金蔵)

 

 

 寺下貞信(為吉)

 古川ロック(大羽大膳)

 

 大橋壮多(長屋の虎)

 松田明(長屋の松)

 小柳圭子(お峰)

 

 津坂匡章(おひろめの半次)

 

 

 

 スタッフ

 

 制作      山内久司 

         仲川利久 

         桜井洋三

 

 脚本      松川誠

 

 音楽      平尾昌晃

 撮影      中村富哉

 

 美術      倉橋利韶

 照明      染川広義

 録音      武山大蔵

 調音      本田文人

 編集      園井弘一

 

 

 助監督    家喜俊彦

 装飾     玉井憲一

 記録     牛田二三子

 進行     鈴木政喜

 特技     宍戸大全

 

 

 装置      新映美術工芸

 床山結髪    八木かつら

 衣裳      松竹衣裳

 現像      東洋現像所

 

 製作主任    渡辺寿男

 殺陣      楠本栄一

 題字      糸見渓南

 

 

 ナレーター  芥川隆行

 

 オープニングナレーション作 早坂暁

 エンディングナレーション作 野上龍雄

 予告篇ナレーション      野島一郎

 

 制作協力   京都映画株式会社

 

 

 

 主題歌 「やがて愛の日が」

 作詞   茜まさお

 作曲   平尾昌晃

 編曲   竜崎孝路

 唄    三井由美子

 ビクターレコード

 

 監督   長谷和夫

 

 

 

 制作  朝日放送

     松竹株式会社

 

 

 ◎

   山崎努=山﨑努

 

  美川陽一郎=美川洋一郎

 

  大橋壮多=大橋洋一=大橋壮太

 

  津坂匡章=津坂まさあき→秋野太作

 

  山内久司=松田司

 

  平尾昌晃=平尾昌章

 

 

 早坂暁・野上龍雄・野島一郎はノークレジット

 

 ◎風車に情あり◎

 

 『必殺仕置人』は二十六話全て大傑作という

驚異的な偉業を成している。

 制作山内久司・仲川利久・桜井洋三を始めス

タッフの情熱が燃えた。

 

 山﨑努・沖雅也・野川由美子・津坂匡章後の

秋野太作の主演スタアの名演は輝いている。

 同時にゲストの存在感も重い。

 

 第二十四話「疑う愛に迫る魔手」は物語と

分かっていても悲惨さに思わず辛さが心に湧

いてくる。

 

 それだけ松川誠の脚本が完璧で鮮やかに映

像化した長谷和夫の演出も強靭であるという

ことなのだろう。

 

 長谷和夫(はせ・かずお)は昭和二年(19

27年)十一月二十一日に誕生した。ウィキぺ

ディアによると日本映画監督公式サイトの物

故者として記されているという。

 松竹京都で酒井辰雄・大曾根辰夫に学び、

溝口健二の指導を受けた。

 

 本作のおとよの悲劇は溝口健二映画から継

承した女の痛みの探求かもしれない。

 

 『必殺シリーズ』においても長谷和夫監督は

活躍したが、本作は代表的傑作であると確信し

ている。

 

 瞳順子(ひとみ・じゅんこ)は昭和三十年

(1955年)二月三日静岡県に誕生した。本名

は渡辺美代子である。十八歳で悲劇のヒロイン

およとを体当たりで熱演した。おとよが黒駒に

責め殺されるドラマは痛ましいが、瞳順子の

悲鳴や痛みの表現は圧巻である。

 

 美川陽一郎は大正七年(1918年)三月二日

に誕生した。本名は三川義一(みかわ・よしか

ず)である。十九歳で新国劇に入団し若き日か

ら老け役を得意にしていたという。

 『必殺仕掛人』第二話「暗闘仕掛人殺し」の

老僧の名演は光っているが、喜助の悲しみも

強烈な印象を与えてくれる。

 

 風車に喜助のおとよへの父性愛が溢れている。

 

 最愛の娘おとよを守ろうとするが、盗人であっ

た過去を金蔵に強請られて殺され、おとよも金蔵

の魔の手に殺されてしまう。

 

 美川陽一郎の重厚な芸に震える。

 

 昭和五十一年(1976年)『必殺仕業人』に同心

島忠助役でレギュラー出演していたが、同年六月

二日肺炎で死去した。五十八歳。

 

 極悪人黒駒を憎たらしさたっぷりに演じた人

は玉生司朗である。京都教育文化センターの

『俺は用心棒』上映会で登壇しトークをされた

 素顔の玉生司朗は少年野球指導をされる優し

いおじ様である。

 

 恐らくは愛していたおとよを守りきれなか

った錠は仇黒駒の咽喉笛に手槍を突き刺すが、

本当に手槍が玉生司朗の喉に刺さっているよ

うに見える。中村富哉の撮影に驚嘆する。

 

 悪の首魁加藤和夫の知的な冷酷さも光っている。

 

 昭和三年(1928年)一月一日生まれの加藤和夫

は文学座・劇団雲・劇団昴において活動しテレビ・

映画でも活躍した。

 妻福田妙子は福田恆存の妹である。

 

 昭和三十五年(1960年)六月産経ホール公演

『オセロー』Othello(作 ウィリアム・シェイク

スピア 訳・演出福田恆存)の公演記録映像白黒

版が平成十年(1998年)にNHKで放送された。

 加藤和夫はデスデモーナの親戚ロドヴィーコー

を気品豊かに演じている。

『オセロー』昭和三十五年六月産経ホール公演記録映像

 山﨑努も福田恆存の指導を受けている。

 

 金蔵と鉄が殺し合う関りで顔を見合わせ一瞬

互いに動揺するクライマックスは悲痛なドラマ

の中の鮮やかな笑いにもなっている。

 

 大詰で大橋壮多の虎が「俺達が勝った」と

力強く語る。観音長屋の住民のパワーを感じる。

 

 ラストで風車を持つおきん姐さんの美しさ

も光っている。

 

 

               南無阿弥陀仏