必殺仕置人 悪いやつほどよく見える | 俺の命はウルトラ・アイ

必殺仕置人 悪いやつほどよく見える

『必殺仕置人』「悪いやつほどよく見える」

テレビ映画 トーキー 55分 カラー

放送日 昭和四十八年(1973年)七月十四日

放送局 朝日放送 TBS系

製作国 日本

製作言語 日本語

 

 

 のさばる悪をなんとする

 

 天の裁きはまってはおれぬ

 

 この世の正義もあてにはならぬ

 

 闇に裁いて仕置きする  

 

 南無阿弥陀仏    

 

 岩木藩女中加世は路上に眠っていた。

当身を食らわされたのだ。起きた加世は

藩内武士の死骸を見て恐怖を覚える。

 

 守っていた家老の娘冴が郷士多田兵助

に誘拐された。兵助は冴に当身を食らわせ

肩に乗せ侍を斬った刀をきらめかせ油問屋

相生屋に立て籠る。街の人々が斬られた。

 相生屋は手前の家をどうするおつもりで

すと聞くが兵助は戸を閉め油を床に零した。

 

  

 

 冴の父榊原主膳は藩の実力者である。主

君を老中職に就けたいと狙う主膳は与力原

田に内々にして下されと頼み大金を家来永井

甚内に届けさせた。

 

 原田は中村主水を召して五十両の賞金で

多田兵助を斬り冴を救出せよと命じた。おぬ

し中々腕が立つそうではないかと剣術に触れ

つつここいらで手柄を立てろと急き立てる。

 主水は詰腹料として五十両が払われたこと

を察した。

 

 半次は油屋に立て籠る兵助を恐れて何も

できない目明しの態度に不満を覚える。

 おきんは江戸の名物喧嘩を見物しようと

語る。

 

 鉄は馴染みの女と遊ぶ日だが、患者の男

が来たので治療しようとするが、男はおき

んの話を聞いて喧嘩見物に行く。「どいつ

もこいつも軽薄だねえ」と鉄は嘆く。

 

 錠に五両借りに行くが錠は金が無いと断

る。金が無けりゃ遊びにいえねえと鉄は嘆く。

「どんな女だろうな?」と錠は問う。「おめ

えに言うのも何だが色白で丸ぽちゃの」と

鉄が馴染みの女について語りだすと「人質

の女だよ」と錠は関心事を述べた。

 

 

  「来るなら来い。貴様等の出方次第

   によってはこの辺り一面火の海に

   してやる!」

 

 兵助は油を語り投降を勧める奉行所同心

を威嚇した。「父上に頼みそなたが無事に

済むように頼みます」と冴は懇願するが、

「お前にできることは有りはしない」と

兵助は威嚇する。

 

 鉄と錠に主水は五十両の仕置料を話し、

仕事の相手はかどわかし野郎だと述べる。

 

  主水「要するに俺の詰腹料が五十両

     だ」

 

 錠は惚れた女と一緒になりたい男の想い

通りにさせてやったらどうだと提案する。

主水はそうは世の中通らねえと説く。

 

  錠「通らねえ世の中が悪いんじゃねえ

    か」

 

  鉄「見事男をバラして娘を救い出して

    やろうじゃねえか」

 

 半次は相生屋を探索していたが兵助に見

つかり瓦版の取材と語り命乞いをして許さ

れる。

 

 おきんが裸踊りを語って男達を誘惑し

その隙に鉄・錠が相生屋に入る。

 

 岩木藩は飢饉続きで重税に苦しめられる

百姓達が江戸へ来て死を賭して直訴しようと

したが岩城藩士に捕らえられて主膳の命令

で斬殺された。

 

 兵助は郷士の身で見るに見かねて抗議の

心で惚れた冴を誘惑し主膳を焦らせる作戦

に出た。

 

 二年前「そなたと二人で会いたい」とい

う冴の言伝を聞き信用して出向いた兵助は

冴に仕える侍達に袋叩きにされ、冴殿の伝

言として「下郎風情に見られるのも汚らわ

しい」と言われた事に傷ついた。

 

 錠は兵助に「侍が嫌いだ。つまらない奴

の為に死のうと思わないでくれ」と頼む。

 

 鉄とおきんは女中加世を問う。事件の日

兵助は冴をかどかわし藩士と切り結び侍を

斬ったが、道行く人々を斬ったのは藩士で

あり、主膳に口止めされていたことを加世

は証言した。

 

 鉄と錠は百姓達を虐殺した悪人は家老で

あることを確かめ、主膳と永井の仕置に向

かった。

 

 

 キャスト
 

 山崎努(念仏の鉄)

 

 

 沖雅也(棺桶の錠)

 

 

 野川由美子(鉄砲玉のおきん)

 

 

 林ゆたか(多田兵助)

 高樹蓉子(榊原冴)

 

 

 津坂匡章(おひろめの半次)

 

 渥美国泰(榊原主膳)

 笠原玲子(加世)

 

 守田学哉(永井甚内)

 田畑猛雄(与力原田)

 神戸飄介(目明し)

 

 川口喬(相生屋清衛門)

 森章二(同心)

 松田明(患者)

 

 吉田聖一(同心)

 五十嵐義弘(同心)

 松尾勝人(藩士)

 

 

 

 藤田まこと(中村主水)

 

 

 

 

 スタッフ

 

 制作      山内久司 

          仲川利久 

          桜井洋三

 

 脚本     淺間虹児

 

 音楽     平尾昌晃

 撮影     中村富哉

 

 美術      倉橋利韶

 照明      染川広義

 録音      武山大蔵

 調音      本田文人

 編集      園井弘一

 

 助監督     家喜俊彦

 装飾      玉井憲一

 記録      牛田二三子

 進行      鈴木政喜

 特技      宍戸大全

 

 

 装置      新映美術工芸

 床山結髪   八木かつら

 衣裳      松竹衣裳

 現像      東洋現像所

 

 製作主任    渡辺寿男

 殺陣      美山晋八

 題字      糸見渓南

 

 

 ナレーター  芥川隆行

 

 オープニングナレーション作 早坂暁

 エンディングナレーション作 野上龍雄

 予告篇ナレーション      野島一郎

 

 制作協力   京都映画株式会社

 

 

 主題歌 「やがて愛の日が」

 作詞   茜まさお

 作曲   平尾昌晃

 編曲   竜崎孝路

 唄    三井由美子

 ビクターレコード

 

 監督  松野宏軌

 

 

 制作    朝日放送

      松竹株式会社

 

 ☆

  山崎努=山﨑努

 

 林温=林ゆたか

 

 津坂匡章→秋野太作

 

 藤田まこと=はぐれ亭馬之助

 

 山内久司=松田司

 

 平尾昌晃=平尾昌章

 

 

 早坂暁・野上龍雄・野島一郎はノークレジット

 ☆

 

 

 ◎刀 油 哀切◎

 

 侍が血塗られた刀を掲げ眠らせた美女を

肩に抱きあげ立て籠る。

 テロリストは怖い男で凶悪犯罪者かと見

せる。

 多田兵助は冴を人質に取って油屋に入っ

たテロリストである。油が床に流れる。火

災への恐怖が視聴者の心に湧く。

 

 兵助の悪を見せつつ、彼よりも巨大な悪

は主膳であったことを語って行く。

 主膳の百姓斬殺に心を痛めつつ、その娘

冴への恋慕が監禁という行為になって行く。

 

 淺間虹児の脚本・松野宏軌のドラマ作り

は鋭い。

 

 林ゆたかは昭和二十二年(1947年)二月

二月二十四日に誕生した。本名は林温である。

二十六歳で勤めた多田兵助は当たり役だ。

 抵抗と片想いをこめて精一杯のレジスタンス

を試みる。挫折感と哀愁の表現が鋭い。

 

 高樹蓉子は昭和二十四年(1949年)八月

二十三日に誕生した。二十三歳で勤めた冴

はお嬢様の気品が光っている。高樹蓉子の

清純な美貌が冴役に光っている。誘拐され

て下手人の男の想いを聞きつつ父主膳の所業

に心を痛める。恐怖と苦悩の表現が深い。

 

 渥美国泰は昭和八年(1933年)一月一日

に東京府に誕生した。平成二十一年(2009

年二月五日、七十六歳で死去した。

 俳優座・劇団雲・劇団円において活動し

映画・テレビ・ラジオにおいても活動し美

術評論家として研究を発表した。

 冷酷非情な悪役の冷たさは絶品で、榊原

主膳の酷薄さは輝いている。

 

 主水が詰腹料に五十両渡されたことを確

かめ、錠は兵助の想いが叶わぬ世の中の厳

しさを嘆き、鉄は冴救出の課題を掲げる。

 

 三人が夜の観音長屋を歩むが松野宏軌監

督が心の声で台詞を響かせている演出を見

せる。

 

 粋で素敵だ。

 

 鉄が主膳の背後に潜み骨外しを予告する。

 

 入って来た家来に「永井か」と問う渥美

国泰の震えの声に痺れた。汗を流しつつ鉄

に脅されている恐怖感から永井に命じる言葉

に震えが響く。渥美国泰の台詞術に感嘆した。

 

 鉄が主膳に骨外しを為し、錠が永井を手

槍で刺す。

 

 二つの殺しが同時に進行する演出は鋭い。

 

 主水は兵助に主膳の死を知らせる。

 

 「形こそ違えども拙者の目的は達せられた

も同然」という兵助の言葉にはレジスタンス

の道を感じさせてくれる。

 

 課題が成った兵助は騒ぎを起こした責任

を取り自身を裁く。

 

 兵助を見つめる冴の視点が鋭い。

 

 林ゆたかが兵助の怒りと悲しみを鋭く探求

した。追い詰められて暴力意外に抵抗方法が

ない若者の悲憤があった。

 

 高樹蓉子の知的な美貌は大詰の冴の厳しい

視線に溢れていた。

 

 ラストは錠の失恋と鉄とおきんの会話、

半次と主水の語り合いが示される。

 

 第十三話は抵抗と悲哀の物語の傑作である。

 

 『必殺仕置人』放送五十年記念日の令和

五年(2023年)四月二十一日に高鳥都著

『必殺シリーズ 27人の回想録』が立東

舎から刊行される。

 

 火野正平・中村敦夫・中尾ミエインタ

ビューが収録されているという。

 

 今緊張している。

 

             南無阿弥陀仏