THE LEGEND & BUTTERFLY レジェンド&バタフライ  | 俺の命はウルトラ・アイ

THE LEGEND & BUTTERFLY レジェンド&バタフライ 

『THE LEGEND
    &
  BUTERFLY
 レジェンド&バタフライ』
 
 映画 トーキー 165分 カラー
 令和五年(2023年)一月二十七日封切
 製作国 日本
 製作言語 日本語
 製作プロダクション 東映京都撮影所
 配給 東映
 
 脚本 古沢良太
 音楽 佐藤直紀
 
 製作 手塚治 
    藤島ジュリーK.
    早河洋
    高木勝裕
    金岡紀明  
    與田尚志
    村松秀信
    相原晃
    中山正久
 
 企画プロデュース 須藤泰司

 プロデューサー   井元隆佑

          福島総司

          森田大児

 Co.プロデューサー - 木村光仁

 キャスティングプロデューサー 福岡康裕

 アソシエイトプロデューサー  山本吉應

 音楽プロデューサー    津島玄一

 ラインプロデューサー   森洋亮

            中森幸介

 撮影         芦澤明子

 美術          橋本創

 照明        永田英則

 録音        湯脇房雄

 編集         今井剛

 VFXスーパーバイザー   小坂一順

 装飾         極並浩史

 キャラクターデザイン  前田勇弥

 衣装          大塚満

 メイク      酒井啓介

 床山        大村弘二

 スーパーヴァイジングサウンドエディター 勝俣まさとし

 ミュージックエディター  石井和之

 スチール  菊池修

 スタントコーディネーター  吉田浩之

 監督補    佐野隆英

 助監督  柏木宏紀

 スクリプター    佐山優佳

 製作スーパーバイザー  村松大輔

 製作担当  福居雅之

 プロダクション統括  妹尾啓太

 宣伝プロデューサー  髙橋遥介

           木村徳永

 製作 「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会

   (東映 ジェイ・ストーム テレビ朝日

    ティ・ジョイ 東映ビデオ 東映エージェンシー

    三映印刷 東映ラボ・テック)

 

 出演

 
 木村拓哉(織田信長)
 
 綾瀬はるか(濃姫)
 
  宮沢氷魚(明智光秀)
 
 市川染五郎(森蘭丸)
 
 和田正人(前田利家)
 高橋努(池田恒興)
 浜田学(佐久間信盛)
 武田幸三(森可成)
 本田大輔
 見上愛(生駒吉乃)
 増田修一朗
 斎藤工(徳川家康)
 
 北大路欣也(斎藤道三)
 
 本田博太郎(織田信秀)
 尾美としのり(平手政秀)
 森田想(すみ)
 野中隆光(蜂屋頼隆)
 池内万作(柴田勝家)
 橋本じゅん(丹羽長秀)
 音尾琢真(木下藤吉郎後に羽柴秀吉)
 
 伊藤英明(福富貞家)
 
 中谷美紀(各務野)
 
 監督 大友啓史

 

 ◎

 市川染五郎=八代目市川染五郎

 ◎

 鑑賞日時場所

 令和五年(2023年)三月五日

 AC京都桂川 スクリーン4 L列21番

 ◎

 織田信長と濃姫の婚儀が行われる。尾張
のうつけ者と呼ばれ奇矯な振舞で暴れている
若殿信長は、美濃国主斎藤道三の娘濃姫こと
帰蝶に尊大な態度を取る。信長の傲慢さは
気の弱さの表れと喝破した濃姫は信長を叱り
豊かな尻に敷く。
 
 信長は痛みを覚える。濃姫の侍女各務野は
濃姫の尻を叩いて制止し信長を救う。
 
 信長と濃姫は対立しながらも惹かれ合う。
 
 斎藤道三が息子義龍の反乱によって殺され
る。濃姫は救援に行きたいが行けない。その
無念を信長は察する。
 
 桶狭間の戦いの前に信長は敦盛を舞う。
 
 濃姫は鼓を叩く。
 
 信長は桶狭間に今川義元を倒し、美濃を
攻め斎藤龍興を稲葉山城に倒した。
 
 京に上った信長は天下の一大権力者として
存在感を示す。
 
 河原で濃姫と歩んでいた信長は被差別民衆
と争って彼らを斬った。
 
 比叡山焼き討ちにおいて信長は、僧・僧兵
と共に女子供迄無残に虐殺する。
 
 天正十年(1582年)信長は同盟者徳川家康
の饗応を勤めた明智光秀を打擲する。
 
 六月二日本能寺に宿泊していた信長を光秀が
襲った。
 
 この日信長と別れて暮らす濃姫は病に罹って
いた。
 
 ◎戦国夫婦愛◎
 
 木村拓哉は昭和四十七年(1972年)十一月
十三日に誕生した。五十歳で織田信長の少年期
から四十八歳までを演じた。
 
 綾瀬はるかは昭和六十年(1985年)三月二
十四日に誕生した。三十七歳で濃姫を演じた。
 
 

 北大路欣也は昭和十八年(1943年)二月二

十三日京都府に誕生した。本名は淺井将勝(あ

さい・まさかつ)である。

 父淺井善之助は市川右太衛門の芸名で活躍した

映画スタアである。

 昭和三十一年(1956年)映画デビューを果た

す。

 早稲田大学において演劇を学ぶ。映画・テレビ・

舞台に活躍し時代劇スタアとして存在感を示して

いる。

 七十九歳で斎藤道三を重厚に演じた。

 

 

 臆病で見栄っ張りなうつけ者織田信長が美

しくて気丈で武芸に秀でた妻濃姫こと帰蝶に

叱られ鍛えられ才気を磨かれ野心を刺激され

天下人への道を歩む。

 

 天下布武の野望の邪魔者と見る存在は抹殺

する鬼となる。

 

 木村拓哉が極悪虐殺者織田信長を熱く探究

した。

 

 綾瀬はるかは美しさだけでなく猛々しさが

光っていた。

 

 

 

 大友啓史監督に「そんなことは参考にしてい

ない」と言われれば撤回せざるを得ないのだが、

信長が邪魔者を殺さなければ眠れぬと不安にな

るシーンはMacbethからの学びではないか?

 

 意外と言っては失礼なのだが、美化されてい

ない極悪殺人鬼信長を木村拓哉が粘り強く表現

していて瞠目した。

 

 大友啓史と古沢良太が織田信長を理想的君主

とせず、臆病かつ短気な野心家で暴虐な殺人鬼

であったことを抑えていた。

 

 165分は一気に進み見応えがあった。

 

 織田信長を主人公にした劇映画で極悪虐殺者

であったことを描写した作品は意外に少ない。

 

 全面的に絶賛する訳ではないが、虐殺者信長

を主人公にして美化しないドラマを描いたこと

は画期的である。

 

 大友啓史は敢えて合戦シーンを描かない。

 

 戦の後の屍の山を描写し戦いの酷さを見せる。

 

 これは一つの表現だと思った。

 

 自分の理想を言えば、森一生監督『若き日の

信長』の市川雷蔵や河野寿一監督『風雲児織田

信長』の初代中村錦之助後の初代萬屋錦之介が、

映画織田信長像である。

 

 残忍さまで踏み込んだキムタク信長像よりも、

繊細で内向的青年の雷蔵信長や太陽のように輝く

熱血青年錦兄信長に迫真性を感じるのは何故で

あろうか?

 

 時代劇が黄金時代を迎え役者の芸力がスタッフ

の情熱に呼応し充実していたからであろう。

 

 雷蔵や錦之助の熱気を木村拓哉に求めるのは

酷だと承知している。

 

 時代劇経験が違うし、指導する演出家達の時

代劇血肉化の濃淡も昭和時代と令和時代では全

く違う。

 

 本作の場合短い登場シーンの斎藤道三には

時代劇の重量感があった。

 

 北大路欣也以外の出演者には、心身共に時

代劇に包まれ呼吸している在り方が成り立っ

ているとは言い難いものがあった。

 

 しかし、これはやむを得ない。

 

 時代劇製作本数が現代では少ないからだ。

 

 伊藤大輔監督作品の永遠不滅の大傑作『徳

川家康』において北大路欣也は主役徳川家康

を演じた。巨星大輔の指導を受けた名優北大路

欣也は出てきた瞬間、時代劇を画面に成立さ

せてくれる。

 

 『徳川家康』においてクレジット初めに織田

信長役の初代中村錦之助後の初代萬屋錦之介が

表示される。この映画の信長役は錦兄の熱演に

よって決定版として輝いている。

 

『レジェンド&バタフライ』の木村拓哉を偉大な

市川雷蔵や壮大な初代中村錦之助後の初代萬屋錦

之介と比べることは無理だ。芸の道では比べられ

ないし、比べられる領域には全く達していない。

しかし映像史織田信長役の歴史の研究では比較さ

れることも甘受しなければいけない。

 

 無限の深さを見せる市川雷蔵や野生の強さを

見せた初代中村錦之助はフィルムにおいて信長

の命を燃やしていた。

 

 この深みに木村拓哉が達していないのは当然

であり、そこまでは求められない。だが、これ

からの道では尋ねて欲しいと期待する。

 

 

 森蘭丸/八代目市川染五郎は見たかった配役

で本作で実現した事は嬉しい。

 

 初代萬屋錦之介と八代目市川染五郎は親戚で

ある。八代目市川染五郎の高祖父初代中村吉右

衛門と萬屋錦之介の父三代目中村時蔵は兄弟で

ある。

 

 『徳川家康』から『レジェンド&バタフライ』

まで五十八年二十四日の歳月が流れている。

 昭和四十年(1965年)東映は時代劇を合理化

作戦において切り捨て、『徳川家康』第二部の

企画は中止となった。伊藤大輔や初代中村錦之

助は時代劇が捨てられたことを受けて東映を去

っていった。

 

 『徳川家康』シリーズ化打ち切りは主演北大

路欣也にとってもショックであったと思う。

 五十八年後東映七十年記念で織田信長役者を

トップクレジットに掲げる映画『レジェンド&

バタフライ』が撮られ欣也は蝮の道三役で出演

した。胸中に去来するものを想像するとファン

も様々な感慨がある。

 

 歴史に「もし、たら」は禁句だが、昭和四十

年に東映が時代劇を僅かでも存続して撮り続け

ていたら、今日のような時代劇衰退は避けられた

のではないかという意見は抑えられない。

 

 そんな中で本作は健闘した写真である。

 

 問題点を感じない訳ではないが、大作時代劇

として観客を退屈させず魔王信長の道を語った

ことに自分は敬意を表したい。

 

 信長が首筋を斬って自害するラストに結末を

しっかり描く大友啓史の意志を感じた。

 

 織田信長/木村拓哉は日本銀幕時代劇の歩み

おいて爪痕を残した事は確かめておきたい。

 

 

                  合掌