人間の條件 第五部 死の脱出篇 第六部 曠野の彷徨篇 | 俺の命はウルトラ・アイ

人間の條件 第五部 死の脱出篇 第六部 曠野の彷徨篇

『人間の條件 第五部 死の脱出篇 第六部 曠野の彷徨篇』 

 

 映画 トーキー 190分 白黒

 昭和三十六年(1961年)一月二十八日封切

 

 製作国 日本

 製作言語 日本語

      中国語

      ロシア語

 

 製作 にんじんクラブ

    文芸坐

 

 配給 松竹

 

 製作 若槻繁

    小林正樹

 原作 五味川純平

 脚色 松山善三

    稲垣公一

    小林正樹

 

 撮影 宮島義勇

 美術 平高主計

 録音 西崎英雄 

 音楽  木下忠司

 照明 青松明

 編集 浦岡敬一

 

 製作補 清水俊男

 スチール 梶原高男

 製作主任 森山善平

 助監督 稲垣公一

 

 中国語監修 黎波

 ロシア語監修 小泉健司

 演出助手 吉田剛

      大津侃也

 撮影助手 内海収六

 照明助手 三浦禮

 録音助手 松本隆司

 レリーフ 佐藤忠良

 美術助手 戸田重昌

 装飾  山崎鉄治

 衣装  田口良二

 美粧   三岡洋一

 演技事務 上原照久

 撮影事務  石和薫

 現像 東洋現像所

 録音技術 アオイ・スタジオ(R・C・Aサウンドシステム)

 協力 富士製鉄室蘭製鉄所

    株式会社日本製鋼所室蘭製作所

    小西六写真産業(さくら磁気録音フィルム)

 

 

 

 出演

 

 仲代達矢(梶)

 新珠三千代(美千子)

 

 中村玉緒(避難民の少女)

 川津祐介(寺田二等兵)

 笠智衆(避難民の長老)

 

 内藤武敏(丹下一等兵)

 岸田今日子(竜子)

 瞳麗子(梅子)

 諸角啓二郎(弘中伍長)

 清村耕次(匹田一等兵)

 

 金子信雄(桐原伍長)

 須賀不二男(永田大尉)

 石黒達也(洞窟隊長)

 北村和夫(北郷曹長)

 高原駿男(朝鮮へ行く兵長)

 

 山内明(吉良上等兵) 

 二本柳寛(野毛少佐)

 林孝一(皆川通訳)

 御橋公(老教師)

 上田吉二郎(石炭屋)

 坊屋三郎(雑貨屋)

 成瀬昌彦(朝鮮人男性)

 陶隆(小椋隊長)

 

 菅井きん(道路の避難民)

 中村美代子(雑貨屋の妻)

 南美江(老教師の妻)

 石本倫子(石炭屋の妻)

 真藤孝行(避難民の少年)

 北原文枝(部落の避難民)

 永井玄哉(兵隊A)

 福原秀雄(兵隊B)

 

 広沢忠好(井出一等兵)

 溝井哲夫(歩哨)

 南大治郎(一軒家の労農夫)

 大杉莞次(畑の中の農民)

 平田守(福本上等兵)

 広沢英雄(兵隊C)

 拓殖隆雄(兵隊D)

 平沢公太郎(脱走する兵隊A)

 兼松正敏(脱走する兵隊B)

 

 菊池勇一(氏家上等兵)

 丸山釟郎(通訳)

 木村晃(中国人の若者)

 南八洲男(長沼中尉)

 安芸秀子(避難民の女性)

 鈴木幹子(避難民の女性)

 小栗由美子(避難民の女性)

 平野和子(避難民の女性)

 渡辺芳子(避難民の女性)

 林洋子(避難民の女性)

 近藤冨美子

 エド・キーン(ソビエト連邦軍将校)

 ロナルド・セルフ(チャパーエワ)

 ポール・ラファロ(討伐隊の指揮官)

 ウィリアム・バッスン(刺殺される歩哨)

 ヘンリー・バン(饅頭屋)

 劇団あすなろ

 

 高峰秀子(避難民の女性)

 

 

 監督 小林正樹

 

 ◎

 仲代元久→仲代達矢

 

 中村玉緒=林玉緒

 

 ◎

 鑑賞日時 場所

 昭和六十年(1985年)三月十四日

 京都府立文化芸術会館

 

    

 平成十三年(2001年)五月二十六日

 京都文化博物館

 『人間の條件 第五部 死の脱出篇』98分

  上映・鑑賞

 

  平成十三年(2001年)五月二十七日

 『人間の條件 第六部 曠野の彷徨篇』92分

 上映・鑑賞

 

 物語の要約において暴力シーン・性暴力シーン

について言及します。

 

 物語の結末まで語ります。未見の方は御注意

下さい。

 ◎

 ソビエト連邦・満州国国境で梶所属の部隊は

ソビエト軍の猛攻を受けた。弘中伍長・寺田二

等兵、そして、梶の三人が生き残り部隊はほぼ

全滅した。

 

 三人は南に向かって只管歩行した。避難民の

老教師夫妻・慰安婦の竜子・匹田一等兵と出会

った。梶は彼らを率いて歩むが疲労困憊した人

達は倒れる。

 

 密林を抜け出た時に永田大尉率いる一個中隊

と遭遇した。永田達は梶のグループを女性連れと

して軽侮侮辱し食糧を与えない。

 だが、丹下が偶然にもその隊にいて秘かに乾

麺包を梶に届けた。

 

 丹下・梶・弘中・寺田・竜子・匹田の六人は

丘陵地帯を歩む。人間が居ない農家で休息し豚を

煮て食べた。だが、民兵の急襲に遭って竜子が

殺される。麦畑が燃えて弘中は焼死する。

 

 ソビエト連邦軍のトラックは強姦殺害した日本

人女性達の死体を道路に遺棄する。

 

 避難民の女性達と梶は出会い、日本人女性が

性暴力の被害に遭っていることを聞かされ、美

千子が心配になる。桐原伍長と梶は行動を共に

することとなった。

 

 少女少年の姉弟に出会った梶は二人が南満洲

行きたいと聞き、一緒に行こうと提案する。二人

は家への帰還を熱望した。桐原と匹田が二人を送

ると述べた。

 

  帰ってきた桐原は少女を「適当に扱った」

と強姦したことを述べ、梶は激怒し彼を追い出

す。

 

 森林の伐採道路をソビエト連邦兵士と民兵が

進む。

 

 丹下は降伏を決意し梶と別れる。

 

 梶は老人や女性達の開拓部落に出会う。

 

 日本兵は食糧を奪い強姦を為す。住民にとっ

てはソビエト連邦軍のほうがましに感じられた。

 

 ソビエト連邦軍が現れ梶は全身で構えるが、

女性は「此処で戦争しないで」と懇願する。梶

は銃を捨てて降伏しソビエト連邦軍捕虜となっ

た。

 

 桐原はソビエト連邦軍に入り民主主義者に豹

変していた。捕虜の管理の任務につく桐原は寺

田の大豆窃盗を知り彼を殴る。寺田は高熱を発

した。

 

 梶は寺田を助けたいと感じ食糧を漁る。桐原

の密告により梶は重労働を命じられ札付きファ

シストと呼ばれる。

 

 森林軌道の撤去作業に梶は従事した。

 

 寺田は桐原に殴り殺された。だが、桐原は罪

に問われない。

 

 梶は寺田が殺された便所に桐原を呼び出す。

 

 桐原は復讐に燃える梶の暴力に怯え逃げよう

とする。だが、梶は逃がさず桐原を撲殺する。

 

 

 梶は捕虜収容所の網を抜け出て脱走する。

 

 

 飢餓に悩み厳寒の荒野を梶は彷徨う。

 

 罵声を浴びせられ殴られたがただ一つ得れた

饅頭を大切にして美千子への土産にするため、

梶は手にしっかりと握った。

 

 ◎厳冬強風大雪の中で願いを燃やす◎

 

 

 

 仲代達矢(なかだい・たつや)は昭和七年

(1932年)十二月十三日東京府東京市目黒区

に生まれた。

 本名・前芸名は仲代元久である。少年期に

戦争を体験した仲代達矢は平和希求を芸道の

原点にしている。

 

 『人間の條件』全六部作で主人公梶を生き

た。

 

 部隊敗戦の後何とか生き延びようと苦闘し

仲間の苦悩を癒そうとするが果たせず捕虜収

容所で厳しい生活を強いられ仲間の死に怒り

を露わにして脱走者として大雪の中に倒れる。

 

 第五部・第六部は梶の戦地・収容所の激闘

と雪の中の衰弱を鋭く見詰め戦争の恐ろしさ

を語る。

 

 新珠三千代(あらたま・みちよ)は昭和五年

(1930年)一月十五日奈良県奈良市に誕生した。

本名は戸田馨子(とだ・きょうこ)である。平

成十三年(2001年)三月十七日七十一歳で死去

した。

 美千子役の美しさは輝いている。

 

 

 昭和三十四年(1959年)から昭和三十六年(1

961年)にかけて、松竹は小林正樹監督の演出に

より、五味川純平の大作小説『人間の條件』を全

六部の映画として製作・発表した。

 

 『人間の條件 第一部純愛篇 第二部激怒篇』

 昭和三十四年(1959年)一月十五日公開

 

 『人間の條件 第三部望郷篇 第四部戦雲篇』

 昭和三十四年(1959年)十一月二十日公開

 

 『人間の條件 第五部死の脱出篇 

        第六部曠野の彷徨篇』

 昭和三十六年(1961年)一月二十八日公開

 

 金子信雄は大正十二年(1923年)三月二十七

日に東京府に誕生した。俳優・料理研究家として

活躍した。

 三十七歳で桐原を演じた。憎たらしさと嫌らし

さは輝いている。悪役名演の藝術である。寺田を

苛め抜いて殺す桐原の蛮行に観客は本気で悲しみ

を覚える。大詰で梶の復讐に遭って命乞いしなが

ら殺されるシーンでは悪党も尊い命を生きている

ことを教えてくれた。 

 平成七年(1995年)一月二十日金子信雄は七

十一歳で死去した。

 

 

 内藤武敏(ないとう・たけとし)は大正十五年

(1926年)六月十六日に誕生した。平成二十四年

(2012年)八月二十一日に八十六歳で死去した。

 丹下が梶との別れを示すシーンに切なさが溢れ

る。内藤武敏の深い芸に感嘆した。

 

 

 

 川津祐介(かわづ・ゆうすけ)は昭和十年(1

935年)五月十二日に誕生した。

 二枚目俳優として大活躍を為した。純粋で真面

目な寺田を清新に演じきった。桐原の暴力に寺田

が殺されるドラマは痛ましい。戦争の悲劇を川津

祐介が熱い芸で探求した。

 令和四年(2022年)二月二十六日、八十六歳

で死去した。

 

 

 高峰秀子は大正十三年(1924年)三月二十七日

に誕生した。出生名は平山秀子である。松山善三と

結婚し本名は松山秀子となった。

 平成二十二年(2010年)十二月二十八日八十六

歳で死去した。

 

 無声映画から出演しトーキー時代に大スタアと

して日本映画史を支えた。

 しかし、本人にとって女優は不本意な仕事で日本

芸能界のトップスタア・名優という名声に固執しな

かったようである。

 エッセイは気さくな文であり、それでいて鋭く

ピリッと辛い。

 名演を銀幕やブラウン管や舞台に残すが自ら誇ら

ない。

 

 三十六歳で避難民の女性を演じた。戦争の恐ろしさ

を静かな話法で語った。それが一層観客に戦争の残酷

さを強く伝える。

 夫が脚色で妻が避難民女性役で参加し本作は松山

善三・高峰秀子夫妻が活躍した。

 全六部作三本の出演者紹介字幕で主演仲代達矢は

新珠三千代や佐田啓二と共に二枚タイトルの連名で

表示されるが、高峰秀子は一枚タイトルで堂々の留

めである。

 昭和三十六年(1961年)一月二十八日日本映画の

大スタアとしての存在感がクレジットからも窺える。

そして、避難民女性の穏やかな表現に戦への悲しみを

現した名演は観客に平和の尊さを伝える。

 

 五味川純平は大正五年(1916年)三月十五日満

洲大連に生まれた。本名は栗田茂である。平成七年

(1995年)三月八日七十八歳で死去した。

 大学卒業の後満洲の製鉄会社で労働し召集され

関東軍敗北後はソビエト連邦軍捕虜となって大日本

帝国敗戦・終戦を迎えた。

 厳しい軍隊に召集され地獄の戦場を生き抜き捕

虜生活の苦労を味わった。

 戦争の苦しみを経て在る命において波瀾の人生を

確かめつつ小説を書いた。

 主人公梶には五味川純平自身の人生が投影されて

いると想像する。

 

 

 

 小林正樹は大正五年(1916年)二月十四日に誕生

した。平成八年(1996年)十月四日に八十歳で死去

した。戦争の時代兵士としてソビエト連邦国境線警備

の任務に就いた。その後抑留生活を送った。

 

  青春を戦争の中で送り、自分の意志に反して戦

  争に協力するという形でしか、あの時代を生き

  延びることが出来なかったという不幸な体験を、

  梶という人間の中でもう一度確かめたかった。

  (『人間の條件』特集上映 プログラム

   平成十三年(2001年)五月

   京都文化博物館)

 

 戦争の時代において平和主義者梶は大日本帝国に

侵略された中華民国の被害者の痛みを思い、彼らの

苦境を上司・国に訴えようとするが跳ねつけられ軍

隊に入れられる。過酷な虐めが横行する軍隊で梶は

虐められる戦友を救えない。

 ソビエト連邦・満洲国国境の戦闘に派遣されて生

き延びるが慰安婦の友人女性や少女や弟のような存

在寺田を救えない。戦争協力者になるしか生き延びる

ことが出来ない。

 

 避難民女性の話を聞き愛妻美千子の安全を祈る。

 

 寺田を嬲り殺しにした桐原に対する怒りは抑えら

れず遂に復讐の戦を挑み殺害してしまう。絶対平和

主義の梶が仇の存在とはいえ桐原を嬲り殺しにする

場面は恐ろしい。平和を愛する人間として自己の命

を確かめ人間の條件を自他の生命への愛を確かめる

事に賭けてきた。だが、その絶対平和主義・生命尊

重の祈りは桐原への憎悪で遂に破れ爆発する。

 

 第五部・第六部は美千子は梶の想像において登場

する。性暴力被害に遭っているのではないかと梶が

悩むシーンでは美千子は泣きながら抵抗している。梶

が愛を告白するシーンではその美しさを見せる。

 

 美千子は地獄の戦場と厳しい捕虜生活において

生きる活力を与えてくれる源であり生き甲斐であ

る。

 

 梶にとっては美千子への愛が命の主題である。

 

   この3年、女房よりも宮島さんや仲代君と会

   っている時のほううが多い。

   (『人間の條件』特集上映 プログラム

   平成十三年(2001年)五月

   京都文化博物館)

 

 小林正樹監督は六部作三本を撮る三年間を確かめ

撮影者宮島義勇や仲代達矢と過ごした時間は妻との

時間よりも多く過ごしたという。

 

 旧満洲の光景を想い、秋田の小坂鉱山・静岡の御

殿場・北海道の網走・苫小牧・大島を撮影の地にして

歩んだ。

 

 ◎ここから結末に言及します。未見の方は御注意

  下さい◎

 

 脱走した梶は飢えと寒さで食を人々に乞うが虐め

られ罵られ顔をふみつけにされる。

 

 饅頭屋から一つの饅頭を貰った。

 

 大雪の中梶は歩み、「美千子。僕は君の所へ帰る

よ。」と心の中で愛妻に語り掛ける。

 

 大日本帝国の侵略戦争で一兵士として生きざるを

得ず、仲間や友を救えず、抵抗の在り方を示し捕虜

となり戦地の残酷さを知り脱走の後ただ一つの饅頭

を握りしめて妻のもとに帰ることを雪に埋められな

が夢見る。

 

 大雪は梶の身体に降り積もり梶の生命は衰える。

 

 雪の中に梶は倒れる。雪は降り積もる。

 

 両目を梶は開ける。

 

 愛しい妻美千子に会いたい。

 

 この夢に全てを燃やしている。

 

 残酷な雪と厳しい寒さの中、願いは熱く燃える。

 

 梶の身体には容赦なく雪が吹き荒び積もって行く。

 

 雪の中で体力は無くなり生命力も萎むが妻美千

子への愛は益々激しく燃える。

 

 梶は厳冬大雪の中で妻美千子への愛に全生涯を

包む愛を燃やした。

 

 仲代達矢は厳冬大雪の中に倒れる梶を勤め演じ、

戦争に押しつぶされても、愛を心の中に確かめる

命を渾身の芸で熱く燃やした。

 

 

 

                    合掌

 

 

                南無阿弥陀仏

 

 

                    セブン