アレクサンダー大王 テオ・アンゲロプロス監督作品 | 俺の命はウルトラ・アイ

アレクサンダー大王 テオ・アンゲロプロス監督作品

『アレクサンダー大王』

Μεγαλέξανδρος

O MEGALEXANDROS

 映画 トーキー 208分 カラー

1980年ギリシャ公開

昭和五十七年(1982年)三月三十日日本封切

製作国 ギリシャ

    イタリア

    西ドイツ

製作言語 ギリシャ語

製作会社 RAI

     ZDF

     テオ・アンゲロプロスプロ

配給   フランス映画社

 

脚本   テオ・アンゲロプロス

脚本協力 ペトルス・マルカリス

製作    ニコス・アンゲロプロス

音楽   クリス・トドゥルス・ハラリス

撮影   G・アルヴァ二ティス

美術    M・カラピぺレス

録音    T・アルヴァ二ティス

 

出演

 

オメロ・アントヌッティ(アレクサンダー大王)

 

エヴァ・コタマ二ドゥ(The Stepdauter 大王の継娘)

 

グリゴリス・エヴァンゲラドス(先生)

ミハリス・ヤナトゥス

K・ネザール(シェレピス)

 

監督 テオ・アンゲロプロス

 

鑑賞日時場所

昭和五十九年(1984年)四月二十日祇園会館

平成十八年(2006年)一月十六日第七藝術劇場

 

  ギリシアのレジスタンス男性が本作の主人公

である。

 

 1899年12月31日。ギリシャの刑務所から20

数名の囚人が脱走した。彼らの頭領は「アレク

サンダー大王」と名乗るレジスタンス男性であ

る。

 

 この日アテネ王宮では1900年元旦を祝うパーテ

ィーが開催された。イギリスの実力者が陸軍大臣

にシェレピスという地主の土地における採掘許可

を頂きたいと求める。シェレピスは農民の抵抗に

遭っていると語る。パーティーに参加したマンカ

スターは女性達を伴って日の出を見に行くが、ア

レクサンダー大王に誘拐される。

 

 シェレピスの元に大王からの要求が届く。土地

は農民のものであり、恩赦を頂きたいと国王・政

府・英国大使に要求書を送った。大王は出生の地

北ギリシャに向かうがこの道で五人のアナーキスト

が参加した。

 

 

 

 自身の家に久々に戻ったアレクサンダー大王は

亡き妻の花嫁衣装に「今戻った」と挨拶する。

 イギリス貴族を拉致し共産主義集団を形成し

土地闘争において政府から主張を通させ勝とうと

大王は理想に燃えていた。

 

 大王が帰ってきた村は「先生」と呼ばれる存在

が指導する共産主義の村であった。

 

 大王の部下達は村の共有主義が厳しいことに不

満を感じ所有できない事を悲しむ。羊が殺される。

 

 村の指導者は集団の理想を追求し、急進的グル

ープの意見も語られ、土地に熱い想いを抱く農民

達の意向も提示され、大王を始め

とする義士的民衆蜂起グループは悩む。

 ギリシャ政府軍は大王達を包囲し、恩赦に応じて

あげることは無理だが形式的裁判を開き諸君を許そ

うと提案する。シェレピスは政府の勧めもあり土地

を返すが、先生は悩みをアナーキストたちに訴える。

 

 村では争いが起こり共産主義体制は危殆に瀕し

イタリア人は殺された。

 

 大王は裁判の進行に激怒し検事を射殺し怒りの

矛先は人質にまで向かい尊い命が奪われた。

 

 政府は人実が殺害されたことにより大王達に

猛攻を加える。

 

 大王は政府軍に囲まれる。

 

 ◎人間から神話的存在への道◎

 

 

 テオ・アンゲロプロス

 テオドロス・アンゲロプロス

 Θόδωρος Αγγελόπουλος

テオ

 映画監督・脚本家

 1935年4月27日ギリシアアテネに誕生。

 2012年1月24日映画撮影中にトンネル内

においてオートバイに跳ねられ、頭部を強打

し、搬送先の病院において死去。76歳。

 

 テオ・アンゲロプロス監督の映画は歴史の

深さをワンシーンワンカットの長回し技法で

語った。

 

 

 『アレクサンダー大王』は41歳の若さで演出

した超大作である。

 

 レジスタンスアレクサンダー大王は農民の土地

を地主に返して欲しいと訴える。仲間の囚人を脱獄

させイギリス貴族を人質に取り義戦を挑む。

 

 アレクサンダー大王が祈りを捧げるように峻厳さ

を見せ馬に乗って進む。

 

 ワンシーンワンカットは長回しで映り歴史の歩み

が語られる。

 

 16歳のわたくしは「これはなんや」という驚きを

こころの中に感じつつ山が動き巨大な建築物が歩んで

いるかのような錯覚を銀幕内の映像に感じた。

 

 アンゲロプロスの広大無辺の映像に息を呑んだ。

 

 オメロ・アントヌッティ Omero Antonuttiは

1935年8月3日イタリアに誕生した。2019年11月

5日84歳で死去した。

 アレクサンダー大王は45歳で勤めた役である。重

厚深遠で厳かな芸に風格を感じた。

 

 

 自身の家に久々に帰還し亡き妻の花嫁衣裳に「今、

帰った」と挨拶する絶対愛をオメロは重厚に表した。

血縁関係の無い娘と愛情を感じ合い抱きしめ合うが

それ以上は進めない。その禁欲的で真面目で亡妻への

義を貫く。オメロが大王の純情を探求した。

 『旅芸人の記録』でヒロインエレクトラを熱演した

エヴァ・コタマ二ドゥが継娘を熱演する。

 

 理想に燃えた大王の義戦であったが、共産主義共同

体の中で不和は惹起し内部闘争が激化し流血が起こる。

 

 怒りに燃えた大王は検事を射殺し人質にまで牙を

剥く暴徒に変貌してしまう。

 

 アンゲロプロスは義士からテロリストに変化してし

まう在り方を苦味を感じさせながらも冷静な長回しで

撮り語る。

 

 ◎ここから大詰に言及します。未見の方は御注意

  下さい

 

 馬に乗って走る大王。この動きが壮大である。オメ

ロは銀幕に映った大王そのものである。政府軍に囲ま

れた大王は争う。大王の身体は石になる。

 

 わたくしはビクッと緊張した。

 

 人間が石になることは科学では有りえない。

 

 だがアンゲロプロス作の物語は不思議を語り何かを

問いかけた。

 

 アレクサンダー大王と同じ名前の少年が山を脱出

する。

 

 中年初老アレクサンダー大王は石になり神話的存

在として語られる。その思想や課題は少年に託され

る。

 

 共産主義的共同体を形成し進んでいく事の難しさ

をアンゲロプロスは提示する。

 

 革命思想は少年に伝達されて行く。

 

 オメロ・アントヌッティはアレクサンダー大王の

理想と苦悩を静かに深く尋ねた。

 

 テオ・アンゲロプロス監督との出会いになった本作

は歴史の重さをわたくしに教えてくれた。

 

 師と仰ぐアンゲロプロスの映画作品鑑賞の歩みを

作品発表順に記す。

 

 

 『狩人』 Οι Κυνηγοί

  2006年1月15日 第七藝術劇場

 

 

 『旅芸人の記録』

  1985年6月22日 京都教育文化センター

 

 『シテール島への船出』

  Ταξίδι στα Κύθηρα

     1986年4月6日か13日のいずれか三越劇場

  1987年11月23日祇園会館

 

 『霧の中の風景』 

 Τοπίο στην ομίχλη 

 1990年7月25日 恐らく朝日シネマ

 

 『蜂の旅人』

  Ο Μελισσοκομοσ

  2005年7月27日 神戸アートビレッジセンター

 

 『こうのとり、たちすさんで』

  Το Μετέωρο βήμα του πελαργού

 2005年7月29日 神戸アートビレッジセンター

  

 

 『ユリシーズの瞳』

 Το Βλέμμα του Οδυσσέα

 1996年10月 京都みなみ会館

 

 『永遠と一日』

 Μια αιωνιότητα και μια μέρα

 1999年6月6日 弥生座2

 

 『エレニの旅』

 Τριλογία 1: Το Λιβάδι που δακρύζει

  2005年6月12日 京都シネマ

 

 『エレニの帰郷』

 The Dust of Time
 Η σκόνη του χρόνο

 2014年2月7日 梅田ブルク7

 

 2014年2月27日アンゲロプロス遺作『エレ二

の帰郷』を見聞した後大阪駅は大雪であった。

 約9年後の本日2023年1月24日大阪に行ったが

今日も偶然大雪でJR新快速は途中停車し高槻駅

で缶詰になり、降りて阪急電車に乗り換えた。

 

 

 

 11年前の今日テオ・アンゲロプロス監督がオー

トバイに跳ねられて事故死された。

 

 悲しい出来事だが、今監督が教えて下さった事

に学びたい。

 

  

 テオ・アンゲロプロスは、1992年に来日し読売

新聞の取材に対して次のように語っている。

 

  「ジャン・ルノワールは『大いなる幻影』の中で、

  『忘れちゃいけない、国境というものは人間が

  でっちあげたものだ』とジャン・ギャバンに言わ

  せているが、私もギリシアという国境を受け入

  れることを拒否したい。国境とは外的に存在す

  るものではなく、むしろ自分の内部に存在する

  ものではないのか」

 

  (1992年8月15日 読売新聞夕刊)

 

 『大いなる幻影』でマレシャル中尉(ジャン・ギャバ

ン)は雪に覆われたドイツ・スイス間国境を見て「国境

なんて自然の中に人間が作ったものだ」と友ローゼンタ

ール(マルセル・ダリオ)に語り掛ける。「戦争が終われ

ば」恋人エルザとその娘ロッテを「迎えに行く」と願う

マレシャルにローゼンタールは終戦は「幻影だよ」と嘆く。

 二人は決死の覚悟でドイツ領からスイスへの雪道を歩

む。

 

 恒久平和を祈り第二次世界大戦を映画物語で止めよう

としたジャン・ルノワールの映画『大いなる幻影』にテオ・

アンゲロプロス監督が敬意を抱いていたことに感動した。

 

 ロシア・ウクライナの戦争が続き、猛毒接種強制の暴流

に世界市民は脅かされ寒波に震える。

 

 アンゲロプロス映画は暗闇の現代に命の尊さを語り掛け

てくれている。

 

 アレクサンダー大王は亡き妻に一途な愛を捧げる。

 

 彼の理想は潰えて伝説の存在である石になるが革命の理

想は少年に届けられる。

 

 観客の心にはアレクサンダー大王の思想が歴史という大

河に流されていくことが響く。

 

 テオ・アンゲロプロスは大いなる流れを長回しで撮った。

 

 

                        合掌