男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎 | 俺の命はウルトラ・アイ

男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎

『男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎』

映画 トーキー 102分 カラー

昭和五十九年(1984年)八月四日封切

 

製作国 日本

製作言語 日本語

製作  松竹

 

出演

 

渥美清(車寅次郎)

 

倍賞千恵子(諏訪さくら)

 

中原理恵(木暮風子)

 

下條正巳(車竜造)

三崎千恵子(車つね)

前田吟(諏訪博)

 

太宰久雄(社長)

佐藤蛾次郎(源公)

吉岡秀隆(諏訪満男)

 

秋野太作(川又登)

関敬六(ポンシュウ)

文野朋子(風子の叔母きぬ)

 

人見明(理容店 ヒロシマ店主)

谷幹一(黒田)

笠井一彦(松田)

マキノ佐代子(ゆかり)

中川加奈(川又俱子)

 

志馬琢哉(口上の男)

高木信夫(結婚式司会者)

竹下佳男

村上記代(理髪店の妻)

 

秩父晴子(ご近所さん)

水木涼子(社長の妻)

川井みどり(ウェイトレス)

露木幸路(備後屋)

谷よしの(釧路の旅館仲居)

 

統一劇場(結婚式の参列者)

ギグレオートバイサーカス

小林清志(夢 語り)

 

笠智衆(御前様)

加藤武(金吾)

 

佐藤B作(福田栄作)

美保純(桂あけみ)

 

渡瀬恒彦(トニー)

 

 

製作 島津清

    中川滋弘

 

企画 小林俊一

 

脚本 山田洋次

    朝間義隆

 

撮影 高羽哲夫

音楽 山本直純

美術 出川三男

調音 松本隆司

照明 青木好文

編集 石井巌

スチール 長谷川宗平

 

主題歌 「男はつらいよ」

作詞 星野哲郎

作曲 山本直純

唄  渥美清

 

原作・監督 山田洋次

 

秋野太作=津坂匡章

 

 

山田洋次=山田よしお

鑑賞日時 場所

令和二年(2020年)

九月二十六日 大阪ステーションシティ

 シネマ シアター8

 『第三の男』の音楽が流れる場において

寅次郎は宿敵のギャングを追いそこで美人

歌手マリーと出会う。ギャングのボスは寅

次郎暗殺に失敗した子分に「ドジ踏みやが

って」と叱り寅を狙い撃ちマリーは盾になり

自己を犠牲にして寅を守る。寅はボスを撃ち

ボスは倒れる。

 

 許しを乞うマリーを看取った寅次郎の心

に淋しさがよぎる。

 

 寅次郎は目覚め盛岡でバイをする。華や

かな祭が開催される。川又登は娘を連れて祭

を見るがテキヤ時代の兄貴寅次郎をみて喜ぶ。

 

 舎弟だった登の挨拶を受け寅次郎も感動す

る。食堂店主となった登は店に寅次郎を案内

し、妻俱子に魚を買ってきてと頼み、「今日

は店を閉めて魚を食って飲もう」と宴会を催

そうとする。

 寅次郎は、「魚買ってこい?店を閉めろで

堅気の商売が勤まるのか?」と注意し、敢え

て突き放し、「俺はお前の元気な顔を見れり

ゃ嬉しい。お客さんだぞ」と来店したお客の

注文を聞くようにと伝え去っていく。

 登は兄貴を歓待しようとして厳しく注意さ

れ去られることに淋しさを覚える。

 

 俱子は帰路につく寅次郎に「親分さん」と

声をかける。「親分という程のもんじゃござ

んせん」と寅次郎は返答し、「登を頼みます」

と俱子に語る。

 

 北海道釧路で寅次郎は理髪店の美人店員

風子と出会い恋におちる。二人は意気投合

する。風子が転職を繰り返し寅次郎と旅に

出ることを寅自身は心配する。

 

 寅次郎・風子は妻に去られた会社員福田

の悲しみを聞く。

 

 根室に着いた風子は叔母に新しい理髪店

を紹介してもらうが生活態度の変革を迫られ

叱られる。

 

 オートバイサーカスで危険なアクションを

為すトニーは夜に風子に出会い惹かれ誘惑す

る。風子はトニーに反発しつつ魅力を感じる。

 

 旅を望む風子の言葉を聞き、寅次郎は過去

に妹から堅気にならないと後悔するわよと叱

責されたと確かめ、昔の仲間は女房を貰って

堅気になったとしみじみ語る。風子ちゃんは

堅気の暮らしをして良い亭主を貰うんだと

寅は告げる。

 

 風子はショックを受けて悲しみ、寅は柴又

とらやに何かあったら来てくれと告げる。

 

 とらやをトニーが尋ねてきた。白の服装を

着るトニーにさくらは堅気じゃないと直感す

る。源公を気に入ったトニーは肩を組む。

 

 寅次郎は柴又に帰郷し風子の行方を探し、

彼女がトニーと同棲していることを知る。

 

 トニーは寅次郎に呼び出される。

 

 寅次郎は「風子と別れてくれ」と渡世人どうし

の関係で単刀直入に頼む。「案外純情なんすね」

とトニーは笑う。

 

 風子は体調を崩すが回復しとらやで寅次郎に

自分の問題に口を出さないでと頼み、トニーを

追って出ていく。

 

 トニーと別れた風子は北海道で別の男性と

出会い結婚し披露宴に寅次郎・さくら・博・

満男を招待する。

 

 会場では中年男性金吾が出席者に挨拶する。

 

 さくら・博・満男は熊が出没することを聞

かされる。

 

 会場に向かう寅次郎に熊が忍び寄った。

 

 

 ◎やくざと堅気◎

 

 渥美清は昭和三年(1928年)三月十日

東京府に誕生した。本名は田所康雄である。

 船乗りを目指したが、肺結核に罹り手術で

右肺を除去し術後に胃腸を患い入院生活を送

った。

 舞台の喜劇俳優として活躍し、映画・テレ

ビに出演し大スタアとなった。

 

 平成八年(1996年)八月四日六十八歳で

死去した。

 

 

 山田洋次は昭和六年(1931年)九月十三日

大阪府に誕生した。父は満鉄のエンジニアで

洋次は二歳で満洲に渡り、昭和二十二年(19

47年)一家で大連から日本に引き揚げた。

 東京大学に学んだ洋次は学生時代、前進座

映画にエキストラとして出演したという。

 松竹に入り助監督として勤務し、脚本家とし

ても活躍した。

 

 昭和三十六年(1961年)十二月十五日公開

『二階の他人』が第一回監督作品である。

 

 

 昭和四十四年(1969年)八月二十七日、渥

美清主演・山田洋次原作・監督の映画『男はつ

らいよ』が公開された。

 

 

 『男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎』

は『男はつらいよ』シリーズ第三十三作で

ある。

 

 

 渡瀬恒彦(わたせ・つねひこ)は昭和十九年

(1944年)七月二十八日島根県に生まれた。

兵庫県に育つ。幼児期はガキ大将であったと

伝えられている。三田学園高校で水泳部に所

属する。

 早稲田大学・電通・広告代理店ジャパー

クを経て、出会った岡田茂から東映に招か

れ俳優になる。

 アクションをスタントマンに任せず自身

で取り組みハードなシーンを体当たりで演

じた。任侠路線・実録路線においては鬼気

迫る名演を見せた。

 平成二十九年(2017年)三月十四日七十二

歳で死去した。

 

 

 渡瀬恒彦はオートバイ乗り芸人トニーの

凄みを見せる。夢のシーンのギャングも迫

力があり怖い。蛾次郎の子分を叱るシーン

に震える。

 寅次郎に撃たれ倒れ転がるアクションも

渡瀬恒彦は果敢に勤める。トニーのオート

バイアクションも自ら演じている。

 

 トニーには獣性の魅力が光っている。とらや

でさくらを怯えさせ源公を可愛がる。

 渡瀬恒彦の凄みに痺れる。

 

 

 渥美清対渡瀬恒彦のやくざ役二大スタアの競

演が観れた。これは有り難い。自分の印象では

渡瀬恒彦が先輩大スタア渥美清に配慮して敬意

を表しているように見受けられた。東映時代劇・

任侠路線では入れ違いのような形になり中々競演

が実現しなかった。

 

 寅次郎とトニーというやくざな男ふたりの役

柄で競演を企画した山田洋次・朝間義隆のシナリ

オに敬意を表したい。

 

 中原理恵は二人のやくざな男に愛される風子を

体当たりで演じる。

 

 「渡世人じゃない」と寅を問い質すシーンは迫

力に富む。

 

 やくざと堅気が主題になっている。

 

 盛岡で可愛い舎弟の登の嬉しい祝宴企画を聞くが

堅気になった彼を遊びに向かわせてはあかんと寅次

郎は内省し厳しく突き放す。「登はもうやくざじゃ

ねえ。立派な堅気で俺と遊んじゃいけねえ」という

戒めが寅次郎の心に起こる。

 

 『男はつらいよ 寅次郎夢枕』以来の寅次郎・登

の再会に感動した。

 

 寅次郎の厳しい決断は登を社会人・堅気の人と

見る敬意が起こったものだ。俱子への言葉に登へ

の秘めた兄弟仁義がある。

 

 秋野太作が陽気で優しい登を熱演する。

 

 第三十三作は過去の名作名場面を随所に思い

出させてくれる。

 

 『続男はつらいよ』で焼肉屋で無銭飲食し

た寅次郎・登は店主に注意され、喧嘩を起

こした寅は警察でも厳しく咎められる。

 

 本作で寅次郎は登に宴会を止めて仕事を

するんだと登に叱咤の言葉をかけるが自身

はフーテンを続ける。

 

 『男はつらいよ 望郷篇』でさくらに厳

しく怒られた言葉を想起するシーンは胸が

熱くなる。

 

 昔の仲間登は妻子が居て食堂店主という

立派な堅気になっている。妹の叱責が響く

もやくざな暮らしを止められない。

 

 寅次郎の切ない心がじっくりと示される。

 

 『男はつらいよ』シリーズの中でも情感

描写が光る傑作である。

 

 風子の叔母きぬ役を勤める女優は文野朋

子で昭和三年(1923年)一月五日に誕生した。

本名は神山澄子である。文学座・雲で活躍

された。きぬは風子を思うが故に時に厳しく

接する。文野朋子は『NHKシェークスピア

劇場 十二夜』ではアネット・クロスビー演

じるマラィアの声を吹替で語っている。

 昭和六十二年(1987年)七月十九日六十四

歳で死去した。

 

 令和四年(2022年)七月三十日に小林清志、

十二月九日に佐藤蛾次郎が死去した。

 

 夢のシーンの語りは渋く鋭い。

 

 ギャング子分・源公の存在感は光る。

 

 佐藤忠和は昭和十九年(1944年)八月九日

に誕生した。佐藤蛾次郎の芸名で日本映画・

テレビドラマの歴史において大活躍した。テ

レビ版で雄二郎、映画版四十九作品で源公を

勤め『男はつらいよ』五十一年の歴史を支えた。

 

 寅次郎もトニーも振られて風子は別の男性

と結婚する。

 

 終盤に谷幹一・加藤武が登場する。

 

 熊に襲われて逃げる寅次郎のエピソードは

テレビ版『男はつらいよ』最終回のハブのエ

ピソードの反転版であろうか?

 

 哀愁の心をじっくり語る流れで最後にサス

ペンスを盛り上げる。

 

 山田洋次が語る物語は観客の心を強く掴

み取る。

 

 

 

 

                 合掌