必殺仕置人 流刑のかげに仕掛あり | 俺の命はウルトラ・アイ

必殺仕置人 流刑のかげに仕掛あり

『必殺仕置人』第十一話

「流刑のかげに仕掛あり」

テレビドラマ トーキー 55分 カラー

放送日 昭和四十八年(1973年)六月三十日

放送局 朝日放送 TBS系

製作国 日本

製作言語 日本語

 

 

 のさばる悪をなんとする

 

 天の裁きはまってはおれぬ

 

 この世の正義もあてにはならぬ

 

 闇に裁いて仕置きする  

 

 南無阿弥陀仏    

 

 ☆

 

 物語の核心に言及します。未見の方は

ご注意下さい。

 物語の要約・台詞の引用は、研究・学

習の為です。

 

 

 朝日放送様・松竹様におかれましては

御理解・ご寛恕を賜りますようお願い申

し上げます。

 画像・台詞は、『必殺仕置人』DVD vol.

4より引用しています。

 ☆

 

 奉行和泉守は栄屋殺しの罪で高田屋吉右

衛門に死罪を宣告する。

 

 岡っ引き岩蔵は煙管を銜えつつ、「気に

いらねえな」と吉右衛門が落ち着き薄笑い

を浮かべていることに不審を抱く。小伝馬

町の牢に入った当たりからだと岩蔵は想い

出す。

 

 岩蔵が高田屋を捜索し納戸の血染めの刃

物を証拠に捕縛した際吉右衛門は無罪を懸

命に主張した。

 

 和泉守に結構なお裁きと岩蔵が語ると、そ

ちの働きだと労う。岩蔵は鬼と呼ばれる岡っ

引きで無罪の者に罪を着せてでも捕え己の

手柄にする男だ。

 

 吉右衛門は斬首され血が飛ぶ。

 

 同心中村主水は八丁堀の七不思議の一つ

と言われる女湯に刀掛けの習慣で人のいな

い女湯に浸り姑のいびりや退屈な勤務の

の疲れを癒していた。

 

 岩蔵が現れ主水は逃げるように湯舟を

出ると臀部を叩かれた。

 

   中村さん。仕置人てのを知ってな

   さるか?

 

 鬼の岩蔵の問いに主水は怯える。他人様

の怨みを銭で晴らすと大それた事を嘯いて

いる野郎達でさと岩蔵は鋭く解説する。主

水は知らないと述べる。

 

 「同じ十手持ちだ。小耳の一つくらい挟

んでるかと思ったが、相変わらずだね」と

岩蔵は主水を軽侮する。

 

 念仏の鉄と棺桶の錠は仕置の計画を立て

る。相手に近付こうとするとバラバラに斬

られると警戒する。

 

 有明屋番頭清吉が観音長屋で金を撒き

仕置人について尋ねる。

 

 鉄砲玉のおきんが鉄・錠に知らせる。

 

 主水は鉄・錠・おきん・おひろめの半

次を船底の隠れ家に集め鬼岩が仕置人を

調べていることを告げる。下手に動くと

俺達の首があぶねえと主水は注意し、鉄

は手立てを考え直す必要があると述べる。

 

 錠は棺桶を作り、長屋の子連れの女か

ら音がうるさくて子供が寝れないと叱ら

れ謝る。清吉が錠に仕置人について聞き、

錠は知らねえなと告げる。

 

 おきんは鉄の恋人お島に清吉を調べ

るように頼む。

 

 鬼岩の手下政は親分の居場所を仲間の

辰に問うと、辰は有明屋のおかみが来て

ると知らせた。

 

 有明屋おかみ甲は金を出して岩蔵に迫

られる。栄屋殺しの下手人はお甲の夫孝

兵衛で自訴したのだ。

 俺が高田屋をお縄にして高田屋が死罪

になったから下手人は高田屋だと岩蔵は

捏造を押し通し、「自訴等しやがって」

と孝兵衛に怒る。「それほど女に飢えちゃ

いねえ」とお甲を離し口止め料を納めつ

つ二度と自訴するなと孝兵衛に伝えろと

釘を刺した。

 

 政と辰は有明屋孝兵衛をお甲に引き渡

す。だが、孝兵衛は自責の念から悩んで

いる。

 

 鉄は政達に追われるが逃げる。

 

 辰は配下の者に追い詰めるだけでいいん

だと強調し親分が一人で悪党共をお縄にな

さると確かめる。

 

 岩蔵は鎖で煙草盆を引き寄せる。

 

 奉行所で同僚から岩蔵が仕置人を捕えた

と聞き主水は動揺し茶をこぼし茶碗を割る。

 

 帰宅しせんとりつが心配する。

 

 かわら版で半次が来る。主水は捕まった

のは念仏か棺桶かおきんかと問うがいずれ

も違っていた。

 

 鬼岩はお島を捕え拷問にかけた。

 

 隠れ場所で男達が黙っていることをおき

んは問う。自責の念で彼女は悩み、鬼岩に

捕らえられ拷問に遭ったら舌を噛み切って

死んでやると決意表明をする。

 

 錠はお島を見殺しにする気かと主水に

問い八丁堀は頷く。

 

  あんたの言う事はいつも「仕方がね

え、無理だ。たまにゃやるって言えねえ

のか」と錠は怒る。

 

 鉄は肝心の仕事に取り掛かろうぜと

提案する。

 

 孝兵衛は栄屋を口論え刺殺した罪に怯え

る。

 

 「仕置人です」と名乗る鉄は孝兵衛に栄

屋殺しを糾弾し威嚇する。孝兵衛は恐怖の

余り声をあげる。

 

 お甲と清吉は鉄と錠が用意した棺桶に軟

禁された孝兵衛を助け出す。

 

 おきんはお島一人を苦しめられないと名

乗り出て岩蔵から拷問を受ける。

 半次はおきんを自首させないように見張り

を命じられていたが失敗した事で有明屋殺し

下手人をかわら版に書くように鉄・主水に強

いられる。

 主水は三日後窯掃除の日だと鉄に知らせる。

 

 半次は岩蔵に捕らえられ、拷問の苦しみを

堪えるおきんにあと二日堪えるんだと告げる。

 

 岩蔵はお甲を呼び出し亭主が仕置人に喋っ

たのよと半次のかわら版を証拠にして怒る。

 

 鉄は孝兵衛に岩蔵の旦那に明日の晩九つ

に女湯に来てくれと伝え来なきゃおめえさん

のやったことを全部ばらすと警告する。

 

 主水が鉄を逃がす。

 

 「仕置人に殺られるくらいなら直訴した

ほうがましだ」と孝兵衛は叫ぶ。

 

 おきん・おしまは岩蔵の厳しい拷問で

衰弱した。

 

 半次は二日経ったことを告げる。

 

 岩蔵はおきんの足から十手を押し込み

堪え切れなくなったおきんは「言うよ」

と覚悟を決める。

 

 政・辰の駕籠に乗り、「念仏の鉄・棺桶

の錠、それに中村主水。まとめてお縄にし

てやるぜ」と鬼岩は宣言する。

 

 鉄は浴衣を羽織り、錠は笑顔を浮かべる。

 

 二人は女湯に向かう。

 

 奉行和泉守は夜九つ前の主水の来訪に怒

る。

 

 九つ女湯では岡っ引き・同心達が張り込み、

政と辰は親分はお一人でお縄にされるでと解

説する。

 

 主水は政と辰を呼び出し斬る。

 

 鉄と錠は女湯に入り、湯舟前で待つ鬼岩に

「仕置っせてもらうぜ」と告げ「俺達始めから

あんたを狙っていらんだ」と鉄が告げた。

 

 高田屋吉右衛門が従容と処刑された訳を

鬼岩は知った。

 

  おめえさん。一人になるのは雪隠か風呂

  かお縄にすると聞いたからね

 

 鉄が語る。

 

 

  馬鹿野郎。初めからおめえたちお縄にし

  ようと思ってた俺だ。狙われようが狙わ

  れまいが同じ事よ!

 

 岩蔵は受けて立つ。

 

  「お互い自身満々だ。こいつは気持ちが

良いや」と鉄は喜び錠は微笑み、鬼岩と湯舟

で戦う。

 キャスト
 

 山崎努(念仏の鉄)

 

 

 沖雅也(棺桶の錠)

 

 

 野川由美子(鉄砲玉のおきん)

 

 

 白木万理(中村りつ)

 

 三島ゆり子(お島)

 

 穂積隆信(有明屋孝兵衛)

 木村元(手先政)

 

 

 津坂匡章(おひろめの半次)

 

 永野達雄(高田屋吉右衛門)

 柳川清(和泉守)

 時美沙(お甲)

 

 古川ロック(清吉)

 滝譲二(手先辰)

 森章二(同心)

 

 八代郷子(おちか)

 堀北幸夫(同心)

 美樹博(同心)

 藤川準(栄屋)

 

 菅井きん(中村せん)

 

 今井健二(鬼の岩蔵)

 

 

 藤田まこと(中村主水)

 

 

 

 

 スタッフ

 

 制作      山内久司 

          仲川利久 

          桜井洋三

 

 脚本      淺間虹児

 

 音楽      平尾昌晃 

 撮影      石原興

 

 美術      倉橋利韶

 照明      染川広義

 録音      武山大蔵

 調音      本田文人

 編集      園井弘一

 

 助監督     家喜俊彦

 装飾      玉井憲一

 記録      野口多喜子

 進行      鈴木政喜

 特技      宍戸大全

 

 

 装置      新映美術工芸

 床山結髪   八木かつら

 衣裳      松竹衣裳

 現像      東洋現像所

 

 製作主任   渡辺寿男

 殺陣      美山晋八

 題字      糸見渓南

 

 

 ナレーター  芥川隆行

 

 オープニングナレーション作 早坂暁

 エンディングナレーション作 野上龍雄

 予告篇ナレーション      野島一郎

 

 制作協力   京都映画株式会社

 

 

 主題歌 「やがて愛の日が」

 作詞   茜まさお

 作曲   平尾昌晃

 編曲   竜崎孝路

 唄    三井由美子

 ビクターレコード

 

 監督  国原俊明

 

 

制作    朝日放送

      松竹株式会社

 

 ☆

  山崎努=山﨑努

 

 

 

 津坂匡章→秋野太作

 

 今井健二=今井俊一=今井進二

 

 

 早坂暁・野上龍雄・野島一郎はノークレジット

 ☆

 最強の敵 鬼岩

 ☆

 今井健二は昭和七年(1932年)三月三十一

日神奈川県鎌倉市に誕生した。本名・旧芸名

は今井俊一である。今井進二の芸名でも活動

した。

 昭和三十年(1955年)東映ニューフェイス

でデビューした。

 悪役名優として時代を築き歴史を開いた。

鋭い眼光を見せ凄みを豊かに利かせる。今井

健二の悪役は観客を本気で怖がらせてくれる。

 

 東映の任侠路線・現代やくざ路線・実録

路線で冷酷非情な悪役で存在感を見せた今井

健二は照れテレビドラマ・舞台でも活躍し

た。

 「必殺シリーズ」においても多彩な悪役を

演じ大活躍を為した。

 第一作である『必殺仕置人』第十一話「流

刑のかげに仕掛あり」における鬼岩こと鬼の

岩蔵は永遠不滅の当たり役である。

 

 その後の名演も悪役の憎たらしさが光って

いるが、『必殺シリーズ』出演は鬼岩一役に

絞って欲しかったと思う程の光輝を放ってい

る。

 

 野心家・自信家・剛腕で大敵に挑戦心が湧出

する。

 

 無実の人間を罪に陥れて手柄にする悪人だが

殺し屋仕置人との決戦に血肉脇踊り闘魂が燃え

る。

 

 鬼岩には悪党の浪漫がある。

 

 女湯で主水を小馬鹿にしつつ怪しいと睨み臀

部を打擲する。

 

 主水の恨みが静かに燃える。

 

 二人の智謀戦はこの時から激化する。

 

 淺間虹児の脚本は完璧である。

 

 国原俊明の演出は繊細・緻密である。

 

 視聴者は自身満々の岡っ引き鬼岩と仕置

人達が戦うことを予想するがどのように両

者が出会い激突するかという過程に引き込

まれる。

 

 第十一話は倒叙ミステリーの名作でもあ

る。

 

 高田屋吉右衛門の無実、真犯人孝兵衛の

苦悶、お甲・清吉の献身、捕縛され拷問を

堪えるお島・おきん・半次の忍耐というエ

ピソードが呼応し合い、クライマックスの

鉄・錠対鬼岩の二対一の風呂場湯舟の大激

闘に集約されていく。

 

 主演は山崎努だが、第十一話の主役は鬼

岩で今井健二がドラマの中心である。

 

  「弱いもんにとっちゃ

   住みくにくい世の中

   でも、おいらにとっちゃ

   楽しい世の中なんで」

 

 鬼岩は鉄と錠の顔を湯に押し付け窒息さ

せようとして豪語する。

 

 強さを誇示し他者を虐待し勝ち誇る事に

全てを賭ける。

 

 今井健二自身1980年代の『ザ・テレビ

ジョン』「必殺シリーズ特集」のインタ

ビューで岩蔵を「生々しく覚えています」

と語った記事を読んだ事がある。鬼岩は

悪のヒーローである。

 

 これほど豪快な悪役を他に見た事がない。

 

 今井健二は鬼岩役で湯舟の中に悪の華を

満開に咲かせた。

 

 穂積隆信没後四年・五回忌命日

 令和四年(2022年)十月十九日

 

 

            南無阿弥陀仏