弥市・熊倉 山本麟一 『昭和残侠伝』シリーズにおける名演 | 俺の命はウルトラ・アイ

弥市・熊倉 山本麟一 『昭和残侠伝』シリーズにおける名演

 『昭和残侠伝』シリーズにおける

山本麟一の名演を尋ねたい。

 

 山本麟一は昭和二年(1927年)一月二

十六日に誕生した。

 昭和六十年(1985年)十月十六日五十三歳

で死去した。

 

 2020年9月19日・2015年2月16日発表記事

を再編し、『昭和残侠伝』シリーズ二傑作の

山麟の芸を語りたい。

 

 

『昭和残侠伝 唐獅子牡丹』

映画 トーキー カラー シネマスコープ

昭和四十一年(1966年) 一月十三日公開

製作国 日本

言語 日本語

製作 東映東京

 

企画 俊藤浩滋

    吉田達

 

脚本 山本英明

    松本功

 

撮影 林七郎

音楽 菊池俊輔

美術 藤田博

録音 加瀬寿士

照明 川崎保之丞

 

主題歌 『昭和残侠伝』

作詞 水城一狼

    佐伯清

作曲 水城一狼

歌 髙倉健

 

出演

 

髙倉健(花田秀次郎)

 

三田佳子(秋山八重)

岡崎二朗(助川武)

津川雅彦(清川周平)

 

芦田伸介(田代栄蔵)

水島道太郎(左右田寅松)

菅原謙二(秋山幸太郎)

 

花沢徳衛(金子直治)

山本麟一(左右田弥市)

城野みき(武の恋人)

三島ゆり子(清川くみ)

今井健二(左右田徳三)

 

田中春男(宮田留吉)

沢彰謙(田代忠七)

潮健児(寅松の子分)

穂積ペペ(秋山和夫)

利根はる恵(清川千恵)

 

関山耕司(左右田宗二)

織本順吉(田代安川)

北山達也(田代幹治)

室田日出男(寅松の子分)

日尾孝司(子分)

伊達弘(子分)

植田灯孝

八名信夫(寅松の子分)

 

久保一(子分)

河合絃司(労働者)

相馬剛三(労働者)

清見淳

山之内修

吉田武彦

二宮恵子

佐川二郎

沢田浩二

水城一狼

打越正八(労働者)

 

 

池部良(畑中圭吾)

 

監督 佐伯清

 

髙倉健=高倉健

 

津川雅彦=加藤雅彦

      =沢村アキヒコ

      =マキノ雅彦

 

水島道太郎=水島三千男

 

菅原謙二→菅原謙次

 

潮健児=潮健志

     =泉正夫

令和二年(2020年)九月十六日

出町座にて鑑賞

 

 昭和初期宇都宮において侠客花田秀次郎は

左右田組の客人の身であったが、舎弟の清川

周平とその恋人くみの愛を成就してあげたいと

希望していた。左右田組の親分寅松は石材採掘

請負業の実力者で、その息子弥市がくみの横恋

慕していた。

 くみの母千恵が娘と周平を逃がすが、弥市と

その子分に囲まれ、秀次郎は二人の想いの熱さ

を強調し許してやって欲しいと頼む。

 

 寅松は秀次郎に二人の恋を許してやるが、お前

さんにはやるべきことをやって貰うぜと命じる。

 

 石材採掘作業のライバル榊組の親分秋山幸

太郎を刺殺せよという過酷な任務であった。

 幸太郎に会った秀次郎は、何の恨みもありま

せんが渡世の義理で勝負してやっておくんなさ

いと語り、幸太郎は承諾してドスを抜く。

 二人は戦い秀次郎が幸太郎を斬り、幸太郎は

「良い腕だ」と讃えて絶命する。弥市らは幸太郎

の遺体に傷をつけようとして秀次郎に叱責される。

 

 三年の刑期を終えた秀次郎は幸太郎の墓に参

る。幸太郎の妻八重と息子和夫がお参りに来てい

た。

 

 寅松の榊組に対する妨害と圧迫は凄まじかった。

石材採掘業務を奪おうとする寅松は攻撃を続け、

子分達に榊に対する嫌がらせを命じた。

 

 余りの酷さに秀次郎は寅松一家の横暴を制止し、

八重・和夫母子を助ける。いつしか秀次郎は八重

への愛と和夫への父性愛を感じ始めていた。和夫

もお父ちゃんになって欲しいと頼む。

 

 一家の重鎮直さんこと直治や留吉、組合の実力

者田代が八重を支えるが、見積書提出で八重の

通行さえも妨害する左右田の汚さに秀次郎は怒り、

体調不良を起こした八重を介抱する。

 

 秀次郎は八重に「親分さんを斬った花田秀次郎

はあっしです」と告白し謝罪する。

 

 榊組組員であった圭さんこと畑中圭吾が中国大

陸の仕事を経て帰国した。

 圭吾は親分の仇として秀次郎に勝負を挑むが、

秀次郎はドスを抜かない。八重が止めに入る。

 

 直さんは飲み屋で圭さんに、「姐さんに惚れてた

な」と察する。圭さんは俺が勝手に惚れて勝手に

振られて勝手に出て行っただけだと強調するが、

八重の苦境を察していた。

 

 「石を命」とする寅松は榊組を攻撃し、ダイナマイト

を仕掛け、直さんは爆弾を止めようとして左右田組

組員に刺され爆死する。

 

 遂に我慢の限界に達した秀次郎は雪の夜にドス

を持って出た。

 

 圭さんが傘を差して現れる。

 

 二人はそれぞれのやらねばならない事を察し歩

み出す。

 

 ☆背中で泣いてる☆

 

 髙倉健は義に生きる男を勤める。銀幕に輝く大

英雄である。

 

 『昭和残侠伝』第二作であるが、ドラマの骨子は

此処で確立したと見れる。健さんの役は本作で勤

めた花田秀次郎が大人気であり、『昭和残侠伝』

を代表する名前となっていく。

 

 任侠道を大切にしている純粋で熱いやくざが、極

悪やくざの弱い者虐めや悪事に耐えて耐えて耐え

忍び、愛する女性への恋を胸にしまい、遂に堪忍

袋の緒を斬ってドスを握る。敬意を抱き合っている

やくざが現れ、二人は悠々と歩んで斬りこみに行く。

 

 相棒のやくざを池部良が勤め、男と男の義が静か

に示され、目と目で呼応し合う二人は命がけの戦い

の友として歩み共に戦う。

 

 髙倉健と池部良の二大スタアが夜道を歩み、ドス

を抜く。任侠映画の名場面に観客は自分達が痛み

苦しみ悩んでいる社会矛盾や不合理への怒りと

抵抗を確かめ、心の中で拍手を送る。

 

 東映任侠映画の偉大さは、観客の悩みや悲しみ

に敏感であったことが挙げられる。日々の苦しみや

悩みを思い出しつつ、巨悪に立ち向かう健さんや良

さんのやくざの斬りこみに勇気を学び心で声援を送

る。

 

 任侠映画全盛時の映画館では、健さんの斬りこみ

に「待ってました」と掛け声がかかったとも聞く。

 

 『昭和残侠伝 唐獅子牡丹』の基盤は、長谷川伸の

名作戯曲『沓掛時次郎』であろう。やくざが義理から何

の恨みもない人を斬り、その妻子を助け、妻に恋心、

子供に親子愛を感じるが、二人の幸を静かに祈る。

 

 三田佳子の八重は気品豊か美しい。

 

 穂積ペペの和夫は可愛さが光っている。

 

 菅原謙二後の菅原謙次の幸太郎は男の渋さが輝

いている。

 

 花沢徳衛の直さん、田中春男の留さんがいぶし銀

の魅力を見せる。

 

 悪役陣はボスに水島道太郎、若旦那に山本麟一、

子分に関山耕司・今井健二・潮健児・室田日出男と

豪華である。

 

 津川雅彦・三島ゆり子の周平・くみ夫婦は若さが

溢れている。板前姿の津川雅彦も素敵だ。

 義理から周平は斬りこみに参加してしまうという

ドラマにも切なさを感じた。

 

 元石工でのしあがり、石に命を見出し、利権を独占

しようとする寅松の屈曲と野望を、水島道太郎が粘り

強く表現する。

 

 山本麟一が若旦那弥市の不気味さを鋭く勤める。

意外と言っては失礼なのだが、我儘な金持ちの息

子役も当たり役にしている。

 

 弥市は冷徹な性格でクライマックスで秀次郎

を苦しめる。

 

 大詰めの夜の雪に万感迫るものがある。

 

 秀次郎と和夫の会話に暖かさが溢れており、二人

は血の繋がりがなくても精神的に父子の絆があり、

両者共に心と心で確かめ合っている。

 

 斬りこみの罪滅ぼしとして、勤めを課されている秀

次郎は静かに歩みだす。

 

 髙倉健の目頭に光るものがあり、大粒の涙にならず

目の周囲で溢れていることに気品を感じた。涙目にな

っていることに、秀次郎の八重・和夫母子への深い愛

が窺える。

 

 

 任侠映画は男の生き方の教科書なのだ。

 

 

『昭和残侠伝 死んで貰います』
昭和残侠伝 死んで貰います
 映画 92分 トーキー カラー
 昭和四十五年(1970年)九月二十二日公開
 製作国 日本

 製作言語 日本語
 製作  東映東京
 

 企画  俊藤浩滋
     吉田達
 脚本  大和久守正
 

 音楽  菊池俊輔
 撮影  林七郎
 美術  藤田博
 録音  広上益弘
 照明  川崎保之丞
 編集   田中修
 助監督  澤井信一郎
 スチール   遠藤努



 出演



 高倉健(花田秀次郎)



 藤純子(幾江)





 山本麟一(熊倉)
 津川雅彦



 三島ゆり子(芸者)
 松原光二(花田武史)
 永原和子(お弓)
 八代万智子(芸者)



 加藤嘉(花田清吉)
 荒木道子(花田お秀)
 石井富子(お峰)
 高野真二(早船徳治)
 諸角啓二郎(駒井甚造)



 赤木春恵(芸者屋の女将)
 小倉康子(芸者)
 日尾孝司(望月)
 下沢広之(花田康男)
 南風夕子(小夜)
 小林稔侍(竹七)



 中村竹弥(寺田友之助)
 長門裕之(坂井)



 池部良(風間重吉)



 監督  マキノ雅弘



 ☆

 藤純子→富司純子


 

 下澤広之=下沢広之 

    =真田広之

    =Duke(Henry) Sanada

           =玉川大輔 

 

 

 

 マキノ正博=牧野正博=マキノ正唯=マキノ陶六

       =牧陶六=牧野正唯=牧野正雄

       =牧野陶六=マキノ雅弘=マキノ雅広

 

 ☆
 平成二十年(2008年)十月十二日

 祇園会館にて鑑賞
 ☆

 賭場で花田秀次郎は負けて、熊倉一味

に殴られて負傷し、銀杏の樹のもとで痛

みを感じていた。



 少女幾江が怪我をした秀次郎に優しく

してくれた。





   幾江「お兄ちゃん、どうかしたの?」



   秀次郎「寄るなよ」



   幾江「だって、血が出てる。」



   秀次郎「ひでえあかぎれだな。」

   

   幾江「修行ですもの。」



 幾江は可愛い容貌を買われて芸者に

なり、修行の日々を送っていた。彼女

はお酒を飲まして秀次郎を寒さから癒す。

 だが、大事なお酒だ。女将さんに煙管
で叩かれることを覚悟する。



 彼女は、女将さんに秀次郎を泊めて貰

うように頼むと言う。秀次郎はその優し

さに深謝しつつ、好意に甘えることは出

来ないと確かめる。



 彼は東京の老舗の料理屋「喜楽」の息

子だったが、父が後妻を貰い、妹が生ま

れた時に家出してやくざになったのだった。



 関東大震災で喜楽に危機が迫るが、店

を支えたのは風間重吉と秀次郎の叔父寺

田だった。



 義弟の武史は一山当てようと狙って相

場に手を出してやくざの駒井に借金をし

てしまう。



 秀次郎は出所後、板前として喜楽に

おいて働く。



 坊やの康男とも心と心で交流する。



 寺田の粋な計らいで、秀次郎と大人

の芸者に成長した幾江は再会し想いを

確かめ合う。

 

 だが、駒井は幾江に横恋慕しており、

彼の横暴を止めようとした秀次郎は重

吉に制される。



 熊倉は駒井のもとに身を寄せていた

が、秀次郎にさしの勝負を挑み、負け

たほうが手を斬ると条件付けるが、幾

江に「夫になる人を傷つけないで」と
頼まれ、「いい女房を貰ったな」と引

き下がる。



 舎弟の坂井は風呂場で再会した秀

次郎と幾江の愛を応援する。



 武史は商売に失敗し、駒井は喜楽を奪

うと宣言する。



 駒井の横暴を止めようとした寺田は駒

井に刺され、「悔しい」と言い残して死ぬ。



 秀次郎はドスを持って歩む。



 重吉がドスを持って斬り込みに行こう

としている光景を見る。



 堅気の重吉を行かせる訳にはいかない。



 だが、重吉の決意は固かった。



 秀次郎は彼の心を知り駒井のもとに

斬り込みに向かった。



 ☆☆マキノ節 弾く 情の道☆☆



 『昭和残侠伝』シリーズの代表作に

して、日本任侠映画最大の傑作の一つ

である。



 脚本・音楽・美術・撮影・演技・演

出の全てが完璧で一分一寸の隙もない。



 賭場で熊倉に嬲られ、銀杏の樹の下で

痛めつけられる秀次郎。



 かけつけた少女幾江との心の交流。



 これは後に深い愛となる。



 高倉健と藤純子は愛の尊さを明かし

てくれた。



 出所後実家喜楽に本名を隠して

板前として働く。



 視力を失ったお秀の肩を揉む秀次郎。



 お秀が義理の息子にすまないと語る。



 心と心で二人の気持ちが触れ合う

名場面だ。



 荒木道子の至芸に震える。



 駒井役の諸角啓二郎の名演は鋭い。

冷酷非情の表現を極めている。

 

 熊倉役の山本麟一の悪役名演は圧巻

である。悪党であると同時に秀次郎に

対する挑戦心に燃えている。

 熊倉と秀次郎は博徒の好敵手として

対決せざるを得ない道に立ってしまった。

 

 マキノ雅弘は私生活でも親しく明治

大学の先輩後輩であった山本麟一・高倉

健の関係を鮮やかに劇中に反映し仇敵で

あるが共に存在感を認め合って戦う男

達を鋭く描き出す。



 康男役の下沢広之が可愛い。



 長門裕之・津川雅彦兄弟が秀次郎幾江

の恋を応援する男達を粋に演ずる。



 池部良の重さんの渋さは完璧である。



 人情の暖かさを極めたマキノ雅弘節が

銀幕に情を
弾く。



 ラスト。



 斬り込みの後自首した秀次郎は警察に

連行される。



 雨の夜だ。



 幾江が上着を着せてやる。



 無言で感謝しつつ秀次郎は引かれて行く。



 感極まる名場面だ。



 高倉健と藤純子は無言で深い愛の世界を

演じ切った。
 

 だが、わたくしにとってはこの大傑作

で一番強烈だったのは熊倉の哀愁なのだ。

 

 山本麟一没後四十二年・四十三回忌命日

 

     令和四年(2022年)十月十六日

 

 

               合掌