獄門島 昭和五十二年八月二十七日封切版 | 俺の命はウルトラ・アイ

獄門島 昭和五十二年八月二十七日封切版

『獄門島』

映画 トーキー 147分 カラー

昭和五十二年(1977年)八月二十七日封切

製作国 日本

製作言語 日本語

 

原作 横溝正史

制作者 市川崑

    田中収

 

脚本 日高真也

   市川崑

 

音楽 田辺信一

テーマ曲 「愛のテーマ」「獄門島のテーマ」

演奏 東宝スタジオオーケストラ

 

撮影 長谷川清

美術 村木忍

録音 矢野口文雄

照明 佐藤幸次郎

編集 池田美千子

   長田千鶴子

チーフ助監督 岡田文亮

製作担当者 徳増俊郎

整音 大橋鉄矢

スチール 橋山直己

合成 三瓶一信

錦絵製作 竹内邦夫

舞踏振付 西川りてふ

効果 東宝効果集団

記録 土屋テル子

録音 アオイスタジオ

現像 東洋現像所

 

出演

 

石坂浩二(金田一耕助)

 

司葉子(勝野)

 

大原麗子(鬼頭早苗)

 

草笛光子(お小夜)

太地喜和子(鬼頭巴)

坂口良子(お七)

浅野ゆう子(鬼頭月代)

 

加藤武(等々力警部)

大滝秀治(鬼頭儀兵衛)

松村達雄(村瀬幸庵)

 

上條恒彦(清水巡査)

ピーター(鵜飼章三)

内藤武敏(鬼頭与三松)

稲葉義男(荒木真喜平)

 

三谷昇(復員詐欺の男)

辻萬長(阪東刑事)

池田秀一(了沢)

小林昭二(竹松)

 

一ノ瀬康子(鬼頭花子)

中村七枝子(鬼頭雪枝)

荻野目慶子(勝野 少女時代)

荻野目洋子(勝野 少女時代)

東静子(勝野の母)

武田洋和(鬼頭千万太)

仲野裕

早田文治

沼田カズ子(清十郎の女房)

 

三木のり平(床屋の清十郎)

東野英治郎(鬼頭嘉右衛門)

 

佐分利信(了然)

 

監督 市川崑

 

ピーター=池畑慎之介

 

市川崑=市川秋六=市川根作

鑑賞時期

封切時代(恐らく昭和五十二年八月

二十八日)京都宝塚

 感想文では「きちがい」「気狂い」の

言葉を用います。

武 恒彦 浩二

 昭和二十一年九月笠岡港において探偵金田一

耕助は友人から預かった遺書を釣鐘の積み込み

を見届けに来た獄門島の荒木村長・千光寺了然

和尚・幸庵医師に渡した。千光寺の釣鐘は戦時

期に供出されたが取り壊されることなく返還さ

れることとなった。

 

 遺書を認めた鬼頭千万太は戦地から復員す

る際に病に罹り、自分が帰らないと三人の妹

が殺されると案じていたという。

 

 千万太の従兄弟一(ひとし)が生存している

という情報が村長・了然・幸庵に伝えられた。

 

 鬼頭家は獄門島の網元で亡くなった千万太の

祖父嘉右衛門は絶大な権力を誇り太閤に譬えら

れる存在だった。

 

 千万太の妹月夜・雪枝・花子は鬼頭家で来客

を覗いていることを和尚に注意され耕助に挨拶

するが、耕助は三姉妹の美貌に感嘆する。女中

のように鬼頭家で働く勝野は一の妹早苗から篤い

信頼を寄せられていた。

 三姉妹の父与三松は心の病があり、座敷牢に

監禁され、娘達から嘲笑されている。嘉右衛門

は『京鹿子娘道成寺』が得意な役者お小夜と息

子が結婚することに強く反対していた。

 

 鬼頭家本家は分鬼頭(わけきとう)と張り合

っていた。当主儀兵衛の若い妻巴は「淀君」と

言われていた。

 巴の世話を受けている美青年鵜飼に、鬼頭三

姉妹は夢中になり、姉妹間で恋のさや当てを為し

ていた。

 

 花子が殺され木に逆さ吊りにされるという

遺体となって発見される。

 

 了然は「きちがいじゃが仕方がない」と呟

く。耕助は心を病んでいる与三松の仕業とす

るならば、何故「気狂いだから仕方がない」と

言わなかったのかと不審に思う。

 

 早苗は花子の遺体から鵜飼が巴の指示で書

いた手紙が落ちるのを見る。復員兵が兄の一

ではないかと見て早苗はその存在に強い関心

を持つ。

 

 千光寺の屏風に「鶯の身をさかさまに初音

かな」「むざんやな冑の下のきりぎりす」「一

つ家に遊女も寝たり萩と月」の宝井其角の一

句と松尾芭蕉の二句と宝井其角の一句を嘉右

衛門が揮毫した。

 

 この三句を耕助が見つめる。島の巡査清水

は耕助を花子殺人事件の容疑者として逮捕し

た。

 

 第二の殺人事件が起こり雪絵が何者かに絞

殺され釣鐘の中に遺体を隠される。

 

 遺体は発見されるが、事故が起こり雪枝の

首が斬られ飛ばされる。

 

 

 月代は妹達を殺された怒りを燃やす。母小

夜子が祈りを捧げた祈祷所で月代は絞殺され

遺体に萩の花を撒かれた。

 

 岡山県警の等々力警部は懸命に捜査するが

犯人は見つからない。

 

 耕助は屏風の三句に事件の糸口があると見

て三つの俳句に譬えた見立て殺人事件と推理

する。

 

 ☆市川崑監督の女性犯人ドラマへの執念☆

 

 正史 崑 浩二

 横溝正史(よこみぞ・せいし)は明治三十

五年(1902年)五月二十四日兵庫県に誕生し

た。本名は横溝正史(よこみぞ・まさし)で

ある。

 昭和五十六年(1981年)十二月二十八日東

京都において七十九歳で死去した。

 昭和二十二年(1947年)一月から昭和二十

三年(1948年)十月まで『宝石』に小説『獄

門島』を連載した。

 

 小説『獄門島』は三つの俳句に見立てた殺人

事件を書いたもので其角・芭蕉の句と『京鹿子

娘道成寺』に関連させたドラマは緊張感豊かで

ある。

 

 親友江戸川乱歩は黒幕が三姉妹に殺意を抱く

ことに疑問の余地を提示しつつもミステリーの

完成度の緻密さで讃えている。

 

 

 市川崑(いちかわ・こん)は大正四年(191

5年)十一月二十日に誕生した。

 平成二十年(2008年)二月十三日九十二歳

で死去した。

 

 日本映画の歴史を支えた名匠である。華麗な

映像で快活なテンポの傑作を数多く発表した。

 

 石坂浩二は昭和十六年(1941年)六月二十日

東京府東京市に誕生した。本名は武藤平吉であ

る。慶応大学在学中から俳優・声優活動を始め

た。『太閤記』では石田三成を演じ、『ウルト

ラQ』『ウルトラマン』ではナレーションを語

った。昭和の二枚目スタアである。

 

 『犬神家の一族』(昭和五十一年十月十六日

封切)『悪魔の手毬唄(昭和五十二年四月二日

封切)に続く原作横溝正史、金田一耕助役石坂

浩二、監督市川崑の推理映画第三弾である。

 

 石坂浩二の金田一耕助と加藤武の等々力警部

は今回も初対面という設定である。

 

 市川崑・石坂浩二の金田一耕助六作品はそれ

ぞれドラマが独立しており連作シリーズとして

製作はされたが、物語は連続しているとは言い

難い。

 

 自分にとっては初めてリアルタイム銀幕で

鑑賞したので、強烈な印象を与えられた。

 

 ウィキペディアに昭和五十二年(1977年)

七月三十日から八月二十日の全四回に渡り

毎日放送で斎藤光正監督テレビドラマ版『獄

門島』が放送されていたことが書かれている。

 

 テレビドラマ版が先に放送され直後に映

画版が公開され競作になった。

 リアルタイム視聴者の小学四年生であった

身として一言付け加えるとテレビ版『獄門島』

のCMに市川崑監督映画版の宣伝が放送され

た。

 

 斎藤光正監督テレビドラマ版は原作小説に

かなり忠実に製作された。犯人も原作と同じ

人物達である。

 

 市川崑は変化を狙い、美女犯人に拘り、

横溝正史の許可を貰って新たな物語を設定

しヒロインに設定した女性を犯人にした。

 

 もう一人の主犯の人物は原作通りである。

原作の二人の主犯は共犯者として描かれた。

 

 嘉右衛門にレイプされ虐待された女性が

犯行を犯してしまったというドラマが描か

れた。

俳句 事件

 司葉子の儚さに小学四年生であった自分は

心打たれた。

 

 勝野の少女時代を演じた荻野目慶子・洋子

姉妹は素敵だった。

 

 荻野目慶子は昭和三十九年(1964年)九

月四日生まれで当時十二歳で勝野の悲しみを

豊かに表現した。

 

 大原麗子は綺麗だった。

 

 原作では金田一耕助が早苗に愛を告白し

交際を望むが振られる。

 

 市川崑映画版では早苗が耕助に抱き着く。

 

 草笛光子の『京鹿子道成寺』が観れる。こ

れは嬉しい。

 

 花子は『京鹿子娘道成寺』の花子に依る。

 

 浅野ゆう子・中村七枝子・一ノ瀬康子の

月・雪・花三姉妹は綺麗だった。驕慢な性格

とはいえ美女三人が見立てで犠牲になるドラ

マは哀れであると同時に異様な残酷美がある。

 

 太地喜和子の巴は色気が豊かだった。

 

 ピーターこと池畑慎之介の鵜飼の美青年の

個性も艶やかである。現在アメーバブロガーで

あらせられる。

 

 加藤武・大滝秀治・沼田カズ子・辻萬長・

小林昭二・三木のり平といった名優レギュラー

というべき人々の存在感も光っている。

 

 年上の人に失礼な物言いだが、坂口良子が

可愛かった。

 

 上條恒彦の清水巡査が耕助を油断させて

捕らえるシーンは怖かった。

 

 三谷昇が詐欺の男で不気味さを光らせる。

 

 黒幕は遺言で千万太を後継者に望むが、

三姉妹の継承は拒絶し三者に死を望み、一

を跡継ぎ候補にする。

 

 犯人達は黒幕の遺言に従って殺人を犯し

たが、詐欺師に騙され一は戦死しており公報

を受け取り無残な殺人の責めを負って自殺

する。

 

 封切時鑑賞では市川崑が描くヒロインの

悲劇に哀切を感じた。

 

 しかし、後に小説を読むと、「市川崑監

督はいじり過ぎた」という印象を受けた。

 

 俳句による見立て殺人や「きちがい」は

「気狂い」の差別用語の「きちがい」を差し

たものではなかったことや釣鐘・芝居の釣鐘

の関り等を小説では緊張感豊かに書き述べる。

 

 映画版のヒロイン悲劇は失礼な物言いだ

が付け焼刃である。

 

 嘉右衛門が小夜や勝野を乱暴する暴君とし

て登場する。

 

 六十九歳の大名優東野英治郎のパワフルな

芝居を見れたのは嬉しい。

 

 だが、原作は病床の嘉右衛門が俳句に見立

てた計画を告げる所が眼目なのだ。強姦魔・

セクハラ男の設定は安っぽい改変である。

 

 美女犯人哀切ドラマに固執する市川崑の改

変は成功したとは言えない。原作の三人犯人

ドラマの凄みに跳ね飛ばされた。

 

 佐分利信の了然和尚の貫禄は圧巻であった。

 

 銀幕で佐分利信の重厚な存在感に震えた事

は小学四年生夏休みの貴重な思い出である。

 

 

                 合掌

 

1977 6 20