助け人走る 御生命大切(参) | 俺の命はウルトラ・アイ

助け人走る 御生命大切(参)

 『助け人走る』第五話「御生命大切」

 テレビドラマ トーキー 55分 カラー

 放映日 昭和四十八年(1973年)十一月十七日

 製作国 日本

 製作言語 日本語

 放送局 朝日放送系

 ☆

 平成二十五年(2013年)二月二十五日

発表記事・令和三年(2021年)八月三十

一日発表記事を再編しています。感想内で

は物語の核心に言及します。未見の方はご

注意下さい。

 ☆

 高島藩の侍小山内圭介と太田新八は、

夜道で不逞無頼の浪人衆にからまれる。

 

 浪人衆の首魁笹本虎之助は、「侍のよ

しみ」を理由に「金の無心がいしたい」

と乱暴な要求をしてくる。

 

 太田は一存で払えないので、屋敷に来る

ようにと諭すと、笹本は「有りあわせでいい

んだ」と金を出すように迫る。太田が怒り、

剣を抜くと、笹本は「一、二の三」で号令を

かけて、自身が鞘当をして太田の剣を止めて

仲間の関根らに斬らせる。

 

 圭介は背中を斬られて気を失う。

 

 「太田は辻斬と勇ましく戦い斬殺されたが、

臆病者の小山内は我が身可愛さに背を斬られ

た後気を失ったふりをしたのではないか?」

と藩内で噂が立ち、圭介は嘲笑される。

 

 療養しつつも耐えられない小山内圭介は腹

を切ろうとする。

 

 女中のおこうが止める。彼女は主人圭介を

愛している。

 

 

 おこうは助け人の元締清兵衛に圭介の名誉

回復の実現を依頼する。

文さん

 

 情報係の為吉は、助け人の中山文十郎と辻平

内を夜道に案内する。平内と為吉が待ち伏せて

いると、笹本と仲間が恐喝にやってくる。

 

 平内と為吉は笹本とその仲間に金を要求される。

 

 笹本と仲間が抜刀して脅す。文十郎は笹本の

仲間を斬り、笹本は逃げる。為吉は「一人斬れば

いいんです」と笹本追求を止める。

 

 清兵衛・為吉は、「通行中、辻斬に襲われた

ところ、小山内圭介様に救出して頂き、小山内様

が辻斬りを斬って退治して下さった」と奉行所に

申し出る。

 

 「小山内圭介の辻斬退治」が評判になり、圭介

の働きは高島藩で絶賛され、上士に取り立てられ

る。

 

 喜ぶ圭介はおこうの献身に深謝する。

 

 だが父行介は「早く嫁をもらえ」と進め、おこ

うと別れることを暗に命じる。父に仲を気づかれ

ていたことに驚きつつ、圭介は相思相愛のおこう

と別れるのを嫌がるが、おこうは風呂場で圭介の

背を流しながら、身を引く決意を語る。

 

 文十郎が恋人の芸者お吉と逢瀬を楽しんでいた

ところ、平内が現れ、お吉が押入れに隠れている

とも知らず、辻斬り退治について喋ってしまう。

 

 お吉は、恋人文十郎とその友平内が殺し屋であ

ることを知ってしまった。

 

 笹本は圭介に、「辻斬退治」について「不審之儀

有之(ふしんのぎこれあり)」と認めた手紙を送る。

おこうは手紙を読んで笹本のもとにおもむく。

 

 笹本は仲間三人とおこうに対して乱暴な振舞を

したうえに口止め料金として五十両を要求する。

 

 不逞の浪人衆に乱暴な振舞を受けたことに深く

傷つくおこう。不審を感じた圭介は事情を聞こうと

するが、おこうは圭介だけには「知られたくない」

気持ちから、ゆすられていることを固く秘する。

 

 清兵衛は、文十郎・平内に命じて、お吉を呼び

出し、助け人の裏稼業を知られたことを理由に、「

死んでもらうよ」と冷厳に語る。

 

 お吉は必死に命乞いする。

 

 だが、文十郎・平内は冷たく突き放す。

 

 清兵衛は槍を構える。

 

 お吉は強く語る。

 

 「そうかい、あんたって

 そんな男だったのか。

 あたしが馬鹿だった。

 そんな男とも知らずに

 惚れたあたしが馬鹿

 だった。

 女一人助けられないで

 何が助け人だ。

 さあ、殺せ。

 斬るなと突くなと

 好きにやっておくんない!」

 

 清兵衛はお吉の気風と根性に感嘆し、「い

いねえ」と絶賛する。「助け人の裏稼業を知

った者は口封じに殺すことが掟だが、仲間に

入るならば命は助ける」という規則があるこ

とを語った清兵衛はお吉を仲間に誘い、お吉

も助け人の仲間に加わる。

 

 虎之助はおこうを呼び出し、「おめえの主人」に

「五十両」を出せば、「全部忘れてやる」と口止め

料でゆすりを止めてやると居丈高に振る舞う。

 

 「おめえ、今時こんな有り難い話があるか」と述べ

金を差し出せば許してやるのだと恩着せがましく居

直る。

 

 口入屋に扮したお吉が現れ、おこうが身を売った

金の五十両を渡したいが、笹本の仲間全員が揃っ

た場でないと、「金を渡せない」と述べ、笹本は渋々

承諾し、お吉・おこうを仲間のいる潜伏先に案内す

る。

野川さん

 潜伏先は荒れ果てている。

 

 笹本・関根を始めとする浪人衆の妖気も凄まじい。

 

 お吉は、前金の五両を払った後、おこうを連れて

帰り、残りの四十五両は後日取りにくるようにと告げ

る。

 

 笹本とその仲間四人は、お吉・おこうを強姦しよう

とする。

 

 お吉は「こう見えてもあたしは世の中の泥水飲んで

きた女さ!舐めるんじゃないよ!」と気丈に言い放つが

屈強の男四人の暴力により捕まえられ、乱暴を受け

そうになる。

 

 笹本は女たちを虐める喜びを実感し「いいなあ」と

叫んで笑い出す。

笹本
 

 

 そこへ、文十郎が飛び込んで、お吉・おこうを

救出し、三人の不逞浪人を叩き斬る。


 

 文十郎の凄腕に恐れをなした笹本は逃げる。

 

   「騙しやがったな!卑怯な野郎だ。死ぬ気

    になりゃ何だって出来るんだィ!」

 

 おこうとお吉に騙され罠に嵌ったと感じた笹本

は逃走しつつ激怒し報復に圭介辻斬魔退治の

嘘を密告することを決める。

 

 高島藩の上屋敷におもむき、「圭介辻斬退治

の件は、全て大嘘」であることを報告しようとする。

 

 笹本は門を激しく叩く。

 

 門番は何故か、煙草を吸っており、笹本は煙草

の煙にむせる。

 

津川雅彦 虎之助
 

 「小山内圭介が辻斬を斬ったのは真っ赤な嘘」

と叫ぶ笹本。

 

 「どうしてそれをご存知なんで?」


 

 門番と思いきや、男は笹本が知っている坊主頭の

男であった。

toranisuke

 笹本は斬りかかるが、坊主頭の男は着物を被せ

て迷わせ、座り込んだ笹本から衣類を取る。

平内 中谷

 平内はにっこり微笑む。

 

 笹本に一服いかがと煙管を示して喉元に刺

し込んで殺害する。

 

 清兵衛は文十郎・平内・お吉に礼を言う。

 

 お吉は頼み料はお吉さんが払ったがどうや

って大金を稼いだかと考え、身を売ったのか

と想像する。

 

 一日の仕事を終えた圭介を清兵衛が尋ね、

一通の手紙を届ける。

 

 手紙を書いた人はおこうだった。

 

 

 ☆安倍徹郎が探求する絶対愛☆ 

 

 田村高廣は昭和三年(1928年)八月三十一

日に誕生した。父は阪東妻三郎である。田村俊

麿・田村正和・田村亮・水上保広は弟である。

 

 おこう・お吉を救出し、笹本一味と戦うシー

ンで追い詰められて見つめ返すた文さんの眼力

は鋭い。

 

 平成十八年(2006年)五月十六日に七十七歳

で死去した。

 

 中谷一郎(なかたに・いちろう)は昭和五年

(1930年)十月十五日に誕生した。本名は中村

正昭である。早稲田大学を経て俳優座に入り演

劇・映画・テレビで活躍した。本作『御生命大

切』では笑みでサディスト平さんの怖さを見せ

た。

 平成十六年(2004年)四月一日に死去した。

 

 野川由美子は昭和十九年(1944年)八月三

十日京都府京都市に誕生した。本名は同じで、

結婚後山縣由美子を名乗った。鋭く深い演技

で日本の映画・テレビの歴史において観客・

視聴者の心に強烈な印象を焼き付ける大女優

である。

 本日七十八歳お誕生日一日である。

 

 『必殺シリーズ』第一作では芸者おぎん、

第二作『必殺仕置人』では掏りの仕置人鉄

砲玉のおきんで名演を発表した。本作では

文十郎の恋人芸者お吉役で、第五話「御生

命大切」はお吉が文十郎の裏稼業を知り仲

間に勧誘され殺し屋の一人となるエピソー

ドである。

 

 

 『必殺シリーズ』の歴史において、絶対

愛を明かした大傑作は本作『助け人走る』

「御生命大切」である。

 

 

 

 脚本の安倍徹郎は昭和三年(1928年)八

月二十九日に生まれた。生年月日は田村高広

の二日前である。早稲田大学・大映を経て池

波正太郎の指導を受ける。

 

 池波正太郎から篤き信頼を寄せられていた。

自身の小説の映像化に厳しい視線を注いだ池

波正太郎にとって名匠安倍徹郎は安心して作

品を任せられる脚本家であったことは間違い

ない。

 

 平成二十八年(2016年)二月二十三日、

八十七歳で死去した。

 

 『必殺シリーズ』では『必殺仕掛人』から

重厚・繊細な大傑作を数多く発表し黄金時代

を築いた。

 

 田村高廣初出演の歴史的大傑作『必殺仕掛

人』「地獄花」の脚本を書いたシナリオライ

ターも安倍徹郎である。

 

 人間関係の中で、人それぞれの心に思いが

あり、他者から理解されない世界がある。誰

しもこのことは遭遇することであるとも思う。

 

 安倍徹郎はこの関係性の中での孤独と切な

さを、『必殺シリーズ』や『鬼平犯科帳』や

『剣客商売』の脚本において見つめた。

 

 その営みと共に、安倍徹郎が主題にしてい

た事柄に「愛」の探求であった。

 

 おこうは、小山内圭介の恋人・愛人であっ

たが、彼を思う心は、絶対的な愛情である。

自身を犠牲にしてでも圭介だけは、立派な

武士として育てあげたい。この献身と母性が

彼女の生き方の根底にある。

 

 女性の暖かい母性に支えられて、男性は生

きていけるという事柄も教えられる。

 

 安倍徹郎脚本において、弓恵子は繊細な心

理を完璧に体現してくれる女優であったこと

が窺える。

 

  偶然だが、安倍徹郎(1928年生まれ)・

野川由美子(1944年生まれ)・田村高廣

(1928年生まれ)は、8月29・30・31日

の一日違いの誕生日である。

 

 弓恵子の笑顔が、視聴者の心を熱くする。昭

和十一年(1936年)十月二十二日に誕生した弓

恵子の本名は柴田瑛子である。結婚後安藤瑛子

となった。

 伊藤大輔監督作品『女と海賊』に出演し、弓

恵子の芸名を名付けられた。

 

 圭介を守る為に、不逞浪人達に乱暴な振舞を

され、脅されても隠し通し、圭介に知られない

ままに、脅迫から彼を守りきる。

 

 笹本は殺人・強盗・性暴力加害・恐喝を為す

大悪党である。

 

 だが、彼の心理では、「金を出せば、忘れて

やる」ということは、圭介・おこうにとって「有

り難い話」として感謝せねばならない事柄なのだ。

 

 笹本は金と性欲の追求にのみ人生を費やし不

逞浪人として暴れまくり遊び回る。

 

 初期「必殺」は「人間の屑」と言うべき大悪

党を鮮やかに表現した。

 

 笹本を粘り強く勤めるのは、津川雅彦である。

昭和十五年(1940年)一月二日に誕生した。本

名は加藤雅彦である。

 

 

 沢村マサヒコの芸名で子役としてデビューし、

伊藤大輔監督作品において名演を発表した。

 

 

 二枚目俳優として活躍した津川は、悪役を演

じるべきかどうか悩んでいた。

 

 松本明監督は、「フランスでは、『太陽がいっ

ぱい』で二枚目アラン・ドロンが悪役を演じてる

やないか」と薦め、そのアドバイスを受け、『必

殺シリーズ』では、悪役を勤め、強烈な名演を発

表した。

 

 松本・津川のコンビで、初期は傑作物語が制作

されたのである。

 

 この「御生命大切」は、松本監督の華麗な映像

と津川の粘り強い嫌らしさと憎たらしさにより、

不滅の傑作となっている。

 

 笹本の薄汚さと粘り強さとしつこさと好色の探

求は凄まじい。

 

 「悪役の猛毒」の表現は圧巻である。

 

 視聴者に「怖い」「悪い」「憎たらしい」

と痛感させる。

 

 平成三十年(2018年)八月四日に津川雅彦は

七十八歳で死去した。

 昭和・平成・二十世紀・二十一世紀の悪役名優

として活躍したが、笹本役は代表的名演である。

 

 若くデリケートな青年圭介を熱演したのは池田

秀一である。

 昭和二十四年(1949年)十二月二日に誕生した。

 本作放送の時期池田秀一は青春の悩みをかかえ

ながら、苦闘する若者を当たり役にしていた。

 初期「必殺」では純粋な若者を体当たりで演じ、

強烈な印象を与えてくれた。

 

 「御生命大切」は、脚本の緻密さ・演技の迫

真性・演出の輝きが呼応し合う。


 

 チャータムとシャアの悲恋物語は不滅の大傑

作である。

 

 しかし、おこうは圭介が生きていることに

生の歓喜を感じたから悲恋と呼ぶのはわたくし

の早計であったかもしれない。

 

 お吉はおこうが大金を作ったのは身を売った

からではないかと想像する。

 

 圭介様が幸せならば自分はどんな環境にも耐

えられるし、ずっと圭介様の幸を願っている。

 

 大詰では夕陽・西日の光を受けながら、おこう

の手紙を読む圭介の姿を映す。

 

 おこうの言葉は暖かい。

 

 限りない優しさを探求した安倍徹郎脚本に通

じる心を、現代の作詞家・作曲家・作家児玉雨

子様の作品に実感していることを、『鬼平犯科

帳』「むかしの女」の感想で記した。

 

 平成五年(1993年)十二月二十一日に児玉

雨子氏は誕生した。現在二十八歳である。

 

 ハロー!プロジェクト・Mラインクラブの

楽曲の歌詞を数多く書かれている。雨子先生

の詩には優しさと暖かさがある。

 

 

  「私なら大丈夫です」

  (カントリー・ガールズ

   『VIVA‼薔薇色の人生』)

 

 全編暖かくて優しい詩である。心の芯から身

の隅々まで温めてくれる。

 切なくて哀しい『助け人走る』「御生命大切」

に何が通底するのかと言えば、「私なら大丈夫で

す」という主人公の無限の優しさは、おこうの

無償無限の愛情と照応し通じ合うと見たのだ。

 

 夕日におこうの笑顔がオーバーラップする。

 

 松本明の演出は暖かい。

 

 圭介は涙を流して愛するおこうの名を叫ぶ。

 

 元締清兵衛はじっと見つめる。

 

 安倍徹郎はテレビドラマにおいて無償の愛

を語った。

 

 

  

 

 キャスト

 

 田村高廣(中山文十郎)

 

 中谷一郎(辻平内)

 

 野川由美子(お吉)

 

 佐野厚子(中山しの)

 

 住吉正博(為吉)

 

 弓恵子(おこう)

 池田秀一(小山内圭介)

 

 斎隠寺忠雄(太田新八)

 浜伸二(伊東)

 須永克彦(関根)

 

 柳川清(小山内行介)

 芦田鉄雄(山谷軍平)

 藤沢薫(大東又三郎)

 

 家野繁次(山野)

 森山一夫(大崎)

 滝譲二(同心田村)

 

 原聖四郎(家老武田)

 西原一(門番弥生平)

 乃木年雄(用人)

 

 松田明(門番)

 亀井賢二(門番)

 関真悟(藩士)

 井上茂(藩士)

 

 夏樹博(藩士)

 下元年世(仲間)

 石沢遼(仲間)

 千代田進一(仲間)

 

 津川雅彦(笹本虎之助)

 

 山村聡(清兵衛)

 

 

 スタッフ

 

 制作  山内久司

     仲川利久

     櫻井洋三

 

 脚本  安倍徹郎

 

 音楽 平尾昌晃

 撮影 石原興

 照明 中島利男

 

 

 主題歌「望郷の旅」

 作詞  安井かずみ

 作曲  平井昌晃

 編曲  竜崎孝路

 歌   森本太郎とスーパースター

 コロムビアレコード

 

 ナレーター 山崎努

 

 監督  松本明

 

 制作 朝日放送

    松竹株式会社

 

 ☆

 田村高廣=田村高広

 

 佐野厚子→佐野アツ子

 

 浜伸二→時代吉二郎

 

 加藤雅彦→沢村マサヒコ

       →津川正彦

       =マキノ雅彦

 

 山村聡=山村聰

 

 山崎努=山﨑努

 ☆

 

 

 (画像出典『助け人走る』 DVD vol.2)

 

 田村高廣九十四歳誕生日

   令和四年(2022年)八月三十一日



 

                合掌

文 さん