戦争と人間 完結篇(七)「責任を持って選択した事」 | 俺の命はウルトラ・アイ

戦争と人間 完結篇(七)「責任を持って選択した事」

『戦争と人間 完結篇』

 映画 トーキー 187分 カラー 

 白黒映像・染色映像有り

 昭和四十八年(1973年)八月十一日公開

 製作国 日本

 製作言語 日本語 

      中国語

 製作会社 日活

 

 

   出演者

 

   芦田伸介(伍代喬介)

   荒川常夫

   粟津鯱(フルヤ)

   飯島正明

   石井弘三(島貫武治)

   伊豆見英輔(おたふくの客)

   市原久(民間企業代表 フルヤに面会に来る父親)

   市村博(中国人兵士)

   伊藤孝雄(標拓郎)

   井上博一(種田)

   井上正彦(東條英機)

   上田耕一(憲兵)

   江原真二郎(灰山浩一)

   大庭泉

   近江大介

   萩原実次郎(植田憲吉)

   小沢弘治(兵士)

   笠井一彦(運転手)

   加地健太郎(中隊長)

   桂小かん(おたふく主人)

   川副博敏

   加藤嘉(雨宮公一郎)

   金親俊雄(兵士)

   柿沢英二(憲兵)

   河合英二郎(中国人)

   神部作蔵(寺田雅雄)

   木島一郎

   北大路欣也(伍代俊介)

   北上忠行(兵士)

   木俣定雄

   久遠利三(萩洲中将)

   倉田地三

   小林尚臣(星野二郎)

   小林亘(苫の同僚)

   小杉勇二(伍代産業調査室員)

   小宮山玉樹

   佐々木雄二

   佐藤正夫(小島正一)

   佐藤了一

   里見たかし

   沢田正

   島村謙次(苫の同僚)

   清水幹生(カラサワ)  

   下川辰平(特高刑事)

   白井鋭 

   菅原義雄(おたふくの客)

   鈴木瑞穂(田島)

   千歩憲生

   高橋明(稲田正純)

   高橋悦史(伍代英介)

   高橋英樹(柘植進太郎)

   高山彰

   滝沢修(伍代由介)

   谷文夫(隊長 兵士)

   田畑善彦(憲兵)

   田村幹人(労務係)

   長弘(岩畔豪雄)

   露木護(秘書)

   手塚実(片桐衷)

   中平哲什(耕平の上官)

   西島悌四郎(陸軍大佐)

   野村隆(上官) 

   畠山麦(兵士)

   波多野憲(武井弘通)

   原田清人(少佐)

   久松洪介(結婚披露宴出席者)

   百良雄(服部半四郎)

   氷室政司(兵士)

   藤岡重慶(板垣征四郎)

   藤原釜足(苫の父)

   アドルフ・ヒトラー

   裕仁

   古川信勝(兵士)

   細井雅男

   松井石根

   三上剛(伍代産業社員)

   三浦威

   水木京一(郵便局配達員)

   三宅康夫

   ベニート・ムッソリーニ

   村岡章

   八代康二(小松原道太郎)

   山本圭(標耕平 ノモンハン事件死体)

   山本麟一(辻政信)

   吉田勇雄(中国人)

   吉田真

   吉田次昭(標耕平 少年時代)

   吉田朗人  

   力石民穂

   和田昌治(磯谷康介)

   渡部猛(関東軍参謀)

 

   浅丘ルリ子(伍代由紀子後に雨宮由紀子)

   市川亜矢子(芸者ウメヨ)

   絵沢萠子(女給)

   大谷木静子(仲居)

   片桐夕子(女学生)

   加納愛子(結婚披露宴客 中国人女性)

   佐藤萬里(伍代順子 少女期)

   堺美紀子(雨宮公一郎夫人)

   坂巻洋子(美容師)

   佐川明子(美容師)

   高山千草(苫の同僚)

   田中筆子(苫の母)

   夏純子(苫)

   二篠朱実(看護師)

   水戸光子(滝)   

   茂木みゆき(中国人少女)

   山科ゆり(喬介秘書)

   吉永小百合(伍代順子)

 

   協力

   俳優座

   文学座

   劇団民芸

   

 ナレーター  鈴木瑞穂

 

 監督 山本薩夫

 原作 五味川純平

 企画 大塚和

     武田靖

     宮古とく子

 脚本 山田信夫

     武田敦

 

 照明 熊谷秀夫

 録音 古山恒夫

 美術 横尾嘉良

     大村武

 編集 鈴木晄

 音楽 佐藤勝

 助監督 岡本孝二

       佐藤俊夫

 製作担当者 天野勝正

          青木勝彦

 色彩計測  田村輝行

 軍事指導  木島一郎

 協力監督 河崎保

      二キタ・オルロフ

 協力 アエロフート

    ソ連航空

 現像 東洋現像所

 ☆

 アドルフ・ヒトラー、裕仁、ベニート・ムッソ

リーニ、松井石根は引用映像出演。

 

 山本圭は、耕平の他にノモンハン事件の死体

役で出演したとインタビューで語っている。

 

 ☆

 

 平成二十七年(2015年)九月七日

 シネ・ヌーヴォにて鑑賞

  ☆

 台詞の引用、シークエンスの考察は研究・学習

の為です。

 日活様におかれましては、ご寛恕を賜りますよう

お願い申し上げます。

 

 本篇に従い「支那」の用語を引用します。ご了承

下さい。

 ☆

 昭和十二年(1937年)十二月裕仁統帥大日本帝国

軍隊は中華民国を侵略し、南京を占領し同月十三日

から市民を虐殺した。

 

 日本国内では南京陥落が祝福された。

 

 由起子は柘植進太郎と別れ東亜銀行頭取雨宮の息子

と結婚した。

 

 由介は娘の美しい花嫁姿に感嘆する。

 

 順子は俊介の協力を得てクラスメートの女友達と旅

行すると偽って召集令状を受けた耕平と秘かに結婚し

新婚旅行に出かけた。

   ◎

 「約束して帰ってくるって」と順子は夫耕平に懇願

し耕平は美しい妻を抱きしめる。二人は固く抱きしめ

合った。

 

 

 俊介は東北で山をスケッチしていると馬車を挽く女

性苫とぶつかりそうになり転ぶ。苫は野性的でありつ

つ可愛い女性で道の真ん中で絵なんか描いている奴が

あるかと俊介を叱りつつなんつう顔してんだと笑う。

 

 工場で美人苫は叔父さん工員から「五十銭でやらせ

ろ」「裸になれや」「儂六十銭出すぞ」「おめえ売ら

れる身だろ」とセクハラを受け抱き着かれるが撃退す

る。

 

 灰山浩一は苫の工場同僚であった。仲間のプロレタ

リアート絵画の画家達が軍国主義に協力する絵を描

いて生計を立てるのを見てそこまで妥協できないと

工場労働を選んだのだった。俊介は便乗しない灰山

さんは希少価値ですよと生き方を讃える。

 苫を呼ぶ灰山は、彼女は家計の厳しさから売られ

ようとしているので、君のお家で雇ってあげてもらえ

ないかと頼む。

 

 

 苫の給料は五十五銭で大家族が暮らして行くのは

厳しい。俊介に苫は遭遇した際こかしたことを詫び

る。

 

 俊介と灰山は苫の家に行き、苫の父はしっかりした

御家ですかと聞き、灰山が確言し、苫の父は娘を売り

たくないが農家の暮らし厳しく二百円を業者に提示し

てもらったことを語り、苫は二百円は働いて送金する

と述べ、父は娘を雇って貰えるなら給料を前借したい

と土下座する。

 

 陸軍佐藤賢了中佐は戦局厳しく陸軍の財政も苦しい

ので企業の皆様にお力を貸して頂きたいと資金援助を

由介を始めとする財閥当主達に頼むが断られる。

 

 伍代家の豪華なサラダを女中として雇われた苫が運

ぶ。

 

 英介は伍代だけでも陸軍の頼みを受けるべきでした

よと父の決断に不満を述べる。

 

 苫は食器を左から出して、由介から「右から出すも

のだよ」と注意される。

 

 由介は戦争を初めておいて物資や資金が続かずで商

売人として陸軍は失格と厳しく指摘し南京攻略等はす

るべきではなかったと評す。

 

 俊介はさっと左から出すようにと苫に受ける手を

出してサラダを貰う。

 

  喬介「戦争は簡単に終わりはせんよ。慎重論も結

     構だが、馬鹿と鋏は使いよう、軍人さんも

     使いようだ。黙って手をこまねいている事

     はあるまいに!」

 

 英介は叔父さんの言う通りですよと賛成する。俊介

は陸軍の戦争に反対し、英介から甲種合格のお前が安

穏としておられるのも叔父さんのお蔭でそうでなけれ

ば標同様丸坊主でえっちらおっちらだと注意される。

 

 その通りですと俊介は認め軍隊に入るのが嫌さに叔

父さんやお父さんの力に頼ったと認める。

 

 順子が帰宅し只今と挨拶する。

 

  喬介「由起子は嫁に行く。おぬしは旅に行くで兄

     貴が淋しがっとったぞ。」

 

 順子は由介にお話がありますと改まって挨拶する。

 

 二階の部屋において由介は順子の言葉を俊介・滝と

共に聞いた。

 

  由介「標耕平君と結婚したと言うんだね?」

 

  順子「今日まで大事に育てて頂いて有り難いと思

     っています。」

 

 俊介は役場へは僕が届けましたと正直に報告する。

 

 自分の幸せは自分で決めたいのでお姉様のように

はできませんでしたと順子は恋愛結婚を選んだ事を

告げる。

 

  由介「クラスメエトと旅へ行くと言ったのも嘘

     だったんだね?お父さんを騙してでも耕平

     君と結婚したかっただね?」

 

 由介は椅子に座り直し自分自身に言い聞かせるよう

に背いた愛娘に語り聞かせる。

 

 

   「他の事ならともかく標はこの社会を破壊する

    立場に立っている人間だ。どんな事があって

    も私にはそれだけは認める事はいかない。順

    子が責任を持って選択した事に対して今更私

    が云々してもどうなる事もなかろう。」

 

 俊介は「僕にも責任があります」と告げる。

 

  由介は厳かに語る。

 

   「今夜は此処に泊って明日此処を出て行きなさ

    い。」

 

 滝は「そんな酷い事を!順子様に出ていけなんて」

と悲しむ。

 

  由介「標順子として生きて行きなさい。」

 

  順子「はい。」

 

 滝はお嬢様に旦那様にお謝りをと求めるが、順子は

いいのよと述べる。

 

 苫は雨宮の来訪を受けた。

 

 雨宮は国家総動員法の写しを得て由介・喬介に見せ

「支那との戦争」だけでなく「対露対英米戦争」の準

備を政府が決めたのではないかと予測し、喬介はやっと

腰をあげたかと喜ぶ。

 

 「伍代さんとうちとは一心同体」と雨宮は笑み、由

介は雨宮さんのお蔭で歴史の回転軸に遅れる所を助

かりました礼を述べ、秘書武居を呼び一週間のスケジ

ュウル変更を頼み陸軍要人との面会を日程に入れる。

 

 ☆父由介 視線の心☆

 

 セクハラ感想になって申し訳ないが、耕平との初夜

のラヴシーンで順子が流す涙に強烈な色気を感じる。

 やはり吉永小百合は永遠の清純派である。助平ファン

の自分のような者が想像で緊張するから順子のラヴシ

ーンは名場面の極りであり、平和祈念の愛の映像であ

る。

 

 山本圭は二枚目美男役者だ。

 

 東北の大自然の絶景で富豪絵描き青年俊介と百姓娘

苫が出会う。

 

 惹かれ合い後に愛し合う二人の出会いのシーンに山

本薩夫の演出が光る。

 

 美男で繊細な欣也と元気一杯の強い美人純子が二人

の惹かれ合いを鮮やかに表現する。

 

 灰山から東北農家大家族の娘苫が身売りされようと

しているので伍代家で雇ってあげてもらえいないかと

頼み俊介は受ける。

 

 江原真二郎が平和主義芸術家灰山浩一を繊細に演

じる。

 

 東北農家の父親を藤原釜足が重厚に演じる。

 

 陸軍の経済は厳しく由介は軍事拡大に反対する心も

あり援助に冷ややかで英介や喬介の反発を受ける。

 

 芦田伸介が「馬鹿と鋏は使いよう。軍人さんも使い

ようだ」の台詞を鮮やかに語る。

 

 英介が甲種合格徴兵免除になった俊介の平和論を

嘲笑する。高橋悦史が嫌味たっぷりに冷酷な英介を

演じる。

 

 俊介は戦争に行きたくなかった事から叔父さんや

お父さんの力を頼ったと正直に述べる。親友・義弟

耕平が徴兵されている事に心を痛めている。

 

 帰宅した順子が「お父様お話があります」と決意

表明をするシーンに吉永小百合の超絶美が輝く。

 

 驚きつつ微笑む由介を滝沢修が風格豊かに演じる。

 

 ここで注意しべき点は順子が「クラスメイトの友

達と旅行に行くと申しましたが、実は標耕平さんと

結婚しました」と父由介に報告する場面を切っている

事である。

 

 名場面になるであろう所を思い切って斬り、「標

耕平君と結婚したと言うんだね?」という由介の驚愕

をキャメラは映す。

 

 素晴らしい省略に息を呑む。

 

 最愛の娘順子が資本家の自己にとって破壊者である

共産主義者の青年と結婚した。

 

 「今日まで大事に育てて頂いて有難いと思っていま

す」という順子の挨拶を目を開いてじっと聞く由介。

 

 大名優滝沢修の重厚で深遠な芸に息を呑む。

 

 最愛の娘に背かれた事を悲しみつつ、娘が責任を持

って人生の選択をして自身の生き方を貫こうとしてい

る事を知る。揺れ動く心を無言の眼で滝沢修は語り表

す。

 

 これほど深い演技を他に知らない。

 

 昭和四十八年(1973年)に、リア/滝沢修、コーディ

リア/吉永小百合で『リア王』を上演して欲しかった。

 

 北大路欣也のエドガーは実現したそうである。

 

 吉永小百合は舞台を断り続けているそうだが、この

時期コーディリアを演じなかった事は残念無念だ。

 

 滝沢修のリアも実現してないようだ。不思議であ

る。

 

 父と娘は戦争推進と平和祈願という全く違った立

場にそれぞれ立ち、それぞれの道を歩む。

 

 一晩泊って伍代を出て標順子として生きなさいと

いう言葉は順子にとって望むことでもあり、父は

理解を示してくれた事を知る。

 

 由介は厳しい道でも最愛の娘順子が選ぶならばそ

こを歩ませてあげたいと父性愛を選ぶ。

 

 滝は旦那様が厳しすぎるし酷いと嘆くが順子は

お父様は判って下さったと受け止める。

 

 水戸光子の母性愛も素敵だ。同時に「そんな」の

叫びはずっと女中として仕えている滝が由介に事実

上の後妻であることを示している言葉とも読めない

か?

 

 滝沢修の大いなる父性愛演技に感嘆した。

 

 由介・喬介・雨宮が国家総動員法原案を見て大日

本帝国政府の対支那・露英米大戦争方針を知り儲け

ようとする場面に怖さを感じる。

 

 本作公開四十九年後の現代、日本国憲法が破壊さ

れ、天皇元首・戦争放棄に自衛隊明記による自衛戦

争可能化・緊急事態条項独裁によるファイザー社・

モデルナ社危険薬物接種強制・民財産人権剥奪の自

民党草案に改編されようとしている。

 

 マスコミ・日医連も自民党・公明党・日本維新の

会・国民民主党・立憲民主党・NHK党の改憲を応援

している。

 

 日本共産党・社民党・れいわ新選組は戦争反対だ

が天皇制・ワクチン接種に反対していない。

 

 山本薩夫監督が現在の日本共産党を見たらどれ

程落胆するか?

 

 本作クライマックスではノモンハンの俊介の台詞

で裕仁の戦争責任を改めて追求している。

 

 このまま平和憲法第九条戦争放棄の改変や放射能

汚染水起用投棄を許したら山本薩夫監督や滝沢修先

生に対して申し訳ない。

 

 国家総動員法原案のシーンに緊急事態条項を感じ

怖くなる。

 

 戦争は絶対にしてはいけない。

 

 ウクライナに平和を。

 

 戦争放棄を日本は絶対に破ってはいけない。

 

 

 滝沢修は演劇によって平和・平等を探求し大日本

帝国政府によって投獄された。自身を弾圧した勢力

の黒幕である財閥を演じる名演は凄まじい。

 

 戦争推進の首魁である由介の順子への父性愛を

暖かく無言で演じるから観客は堪らない。

 

 山本薩夫・滝沢修は現代日本・現代地球を見つめ

ている。

 

 

               文中一部敬称略

 

 佐藤勝九十四回目の誕生日

      令和四年(2022年)五月二十九日

 

 

                    合掌