緋牡丹博徒(参) | 俺の命はウルトラ・アイ

緋牡丹博徒(参)

『緋牡丹博徒』

 映画 98分 カラー

 昭和四十三年(1968年)九月十四日公開

 製作 東映京都

 企画 俊藤浩滋
    日下部五朗
    佐藤雅夫



 脚本 鈴木則文
 音楽 渡辺岳夫
 美術 雨森義充
 撮影 古谷伸
 照明 和多田弘
 編集 宮本信太郎





  出演 藤純子(緋牡丹お竜こと矢野竜子)



     若山富三郎(熊坂虎吉)



     待田京介(富士松)
     清川虹子(おたか)
     沼田曜一(蛇政)
     堀政夫(武井)
     金子信雄(岩津源蔵)
     大木実(加倉井剛蔵)



     高倉健(片桐直治)



 監督 山下耕作
 
 ☆
 俊藤純子=藤純子→寺島純子→富司純子

 奥村勝=若山富三郎=城健三朗→若山富三郎
 ☆
 祇園会館にて鑑賞
 ☆
 2014年12月1日発表記事・2021年12月1日
発表記事を再編している
 ☆


緋牡丹博徒



 明治時代。

 賭場で壺振り蛇政のイカサマを見破った
女侠客お竜は親分武井に落とし前をつける
ことを求める。

 蛇政はいかさまで沢山の人々を苦しめて
いたのだ。武井は蛇政に指を詰めさせる。

 怒った蛇政はお竜を襲撃するが、剣の達人
お竜は見事に叩きのめす。

 侠客片桐直治が諌めに入る。

 お竜は直治の実直で優しい人柄に出遭い、
侠客になった事情を打ち明ける。

 彼女の父はやくざだったが、娘を堅気に
したいと願い育てて、堅気の男性との縁談
も決まっていた。

 だがに父は辻斬りに襲撃され金を奪われ
殺害される。縁談が破談になった後、お竜
は犯人を探索しながら渡世人として生きて
きたのだ。

 熊坂虎吉親分と乾分の富士松は「十両が
横綱に喧嘩売ったる」という勢いで大親分
の岩津との戦いを決意するが、お竜が留め
に入る。そのきっぷの良さに惚れた女親分
おたかの人柄もあって、話がまとまり手打
ちが決まる。

 おたかが「あんた、わしを口説いとった
じゃろが」と昔話をおたかに明かされ、岩
津は苦笑する。

 お竜の美しさに熊虎は一目惚れする。

 片桐は大阪の大親分となった舎弟加倉井
と再会する。だがお竜の父を惨殺した犯人
は加倉井だった。

 そのことを隠す加倉井は悪逆の限りを尽
くし、お竜や片桐の命を狙う。

 加倉井の非道に堪えていた堪忍袋の緒が
切れて、遂に片桐は立ちあがる。

 お竜も片桐に協力し加倉井一味と戦う。

 ◎おんな侠客◎


 藤純子は昭和二十年(1945年)十二月一
日和歌山県に誕生した。本名は俊藤純子であ
る。
 父は後に東映プロデューサーとなる俊藤
浩滋(1916年11月27日ー2001年10月13日)
である。

 昭和三十八年にスカウトされ藤純子の芸名
でデビューした。スカウトしたのはマキノ雅
弘監督であり、演技においても指導をされ、
純子との師弟の絆は篤い。

 山下耕作は昭和五年(1930年)一月十日
生まれ。将軍の愛称で親しまれた名匠である。
 平成十年(1998年)十二月六日に死去した。

 鈴木則文は昭和八年(1933年)十一月二十
六日生まれ。東映の任侠路線・時代劇・現代
やくざ物語・喜劇作品の脚本家・監督として
活躍した。
 平成二十六年(2014年)五月十五日に死去
した。
 

 昭和三・四十年代東映はやくざ映画を大ヒッ
トさせ一時代を築いた。義侠心に燃えるヤクザ
が、極悪人のヤクザの冷酷非情な仕打ちを耐
えに耐えるが、大切な人を殺害され、遂に仇討
のドスを抜く。

 ほとんどの作品がこの物語の骨法を踏まえて
語られる。作り方・見せ方を変えて一本一本が
忍耐や涙を熱く語り描いて観客の心に共鳴を呼
んだのだ。

 1960年代・1970年代の激動の時代、沢山の
若者達が映画館に通って、青春の苦闘や挫折を
抱えつつ、銀幕の中で鶴田浩二や高倉健の主人
公が悪玉の仕打ちに耐えて耐えて耐えきれず遂
にドスを振う姿に我慢劇の根本を学び拍手を送
った。

 俊藤浩滋は鶴田浩二・高倉健主演の仁侠映画
が隆盛を極めている時代にあって、相手役のヒ
ロインを演じてスターとなっていた娘純子を主演
に女侠客の物語を考案した。

 美しい娘が肌に刺青を掘り、女ごころを胸に
秘めて厳しい侠客の世界で、男どもを相手に侠気
を明かす。
 
 矢野竜子役のオファーを父浩滋から聞かされた
純子は「絶対に嫌です」と否定した。

 このことは京都映画祭のインタビューで富司純
子自身がオファー当時を回顧確認して語った言葉
で、わたくし自身も聴衆の一人として聞いた。


 昭和四十一年(1966年)NHK大河ドラマ『源
義経』で静御前を演じた純子は、静のような女性
像に演じたい役柄を見ていた。

 「何で男勝りの侠客なんか演らなきゃいけない
の?」と苦痛の感覚で勤めたことをインタビュー
で語っていた。 
 
 『緋牡丹博徒』第一作は脚本鈴木ソクブン・コ
ーフン則文、監督山下耕作将軍の最強チームで語
られた。

 物語の骨子は完璧である。

 緋牡丹の花が白・赤に変わる。

 無垢な乙女お竜が、血の世界である侠客道を歩む
ことを象徴的に明かす。

 花の映画監督山下耕作がその演出の在り方を鮮や
かに咲かした。

 藤純子は女侠客の勇気と逞しさと気品を鮮やかな
殺陣とともに演じ切った。貫録・迫力も凄い。当時
満年齢二十二歳の若さである。

 熊虎親分には若山富三郎。お竜さんの女気に惚れ
る親分である。コミカルと迫力を兼ね備えた魅力に
若山先生の腕が光る。後に熊虎の人気が出て、鈴木
則文はスピンオフ作品 『シルクハットの大親分』
を演出する。

 待田京介は演技の天才である。富士松の粋の良さ
も素敵だ。

 清川虹子・金子信雄が大人の笑いを爽やかに伝え
てくれる。

 お竜さんの父を殺害した過去を秘めて親分・実業家
として成功した加倉井を大木実が重厚繊細に勤める。

 兄貴分の片桐の命を狙いつつも、兄弟愛も抱いてい
るという複雑な人物像を鈴木・山下が描き、大木実が
緻密な演技でその人物像を演じ切った。

 お竜さんを愛する片桐に高倉健。

 剛直・勇敢・義侠の人を健さんが熱演する。

 お竜さんの大詰のカッコ良さは言葉で表せない程
素晴らしい。

 映画は大ヒットしシリーズ化された。

 藤純子は複雑な気持ちを抱きながら、演じ続けた。

 だが一変する出来事が起こった。

 純子は深夜の映画館で『緋牡丹博徒』シリーズのオ
ールナイト上映を鑑賞した。

 深夜の映画館でお竜さんが現れた瞬間、客席から
拍手がわき、「お竜さん」の掛け声が飛ぶ。

 純子はこの光景を見聞して、「こんなにも沢山の人
々から愛されている矢野竜子を、わたしは愛せるよう
になりました」と前述の京都映画祭インタビューで
語っていた。

 


 初めは嫌だった竜子役だが映画館の観客の反応を
見て、役を愛する心が生まれた。

 後になって父俊藤浩滋の慧眼の鋭さが純子の胸
を打ったのである。

 藤純子は昭和四十七年(1972年)『源義経』で競演
した四代目尾上菊之助と結婚し、本名は寺島純子とな
った。

 そして富司純子の芸名で女優業を再開した。

 藤純子時代の代表作である『緋牡丹博徒』は勇気・忍
耐・切なさを観客の心に伝え、時と場を越えて限りない
感動を呼んでいる。


竜雲 ソクブン 玉龍 泰
 
 大詰で加倉井は片桐に刺され致命傷を負い
「兄貴」と語って死ぬ。
 
 極悪人加倉井の中に兄貴直治への義が最期
に確かめられる。

 鈴木則文脚本の人間洞察の鋭さに感嘆する。

 大木実の名演に痺れる。

 極悪人も尊い命を生きる生物なのだ。

 「下品こそ花」を大切にした鈴木則文だが、
監督に怒られても、自分は任侠路線の上品な
哀切表現にソクブン監督の真骨頂を見る。

 斬りこみ・殴りこみ・銃撃戦の無い『トラ
ック野郎』シリーズの涙と笑いは確かに巧い
が牙と怨念が無い。自分は『トラック野郎』
シリーズの楽しさに強い違和感を覚える。巧さ
だけでは満ち足りないのだ。

 殴り合いも決戦も流血も無い物語は昭和東
映の本流ではない。

 侠客物語『車夫遊侠伝 喧嘩辰』任侠路線
『明治侠客伝 三代目襲名』と本作の情と哀
に脚本家鈴木則文の華を感じた。

 三作とも大木実が悪役で重厚な個性を見せ
ていることを強調したい。



 『緋牡丹博徒』第一作は女侠客物語の傑作
であり、任侠映画の歴史において燦然と光っ
ている。
 
 



              文中一部敬称略


                   合掌