横溝正史シリーズ 犬神家の一族(参) 京マチ子主演 工藤栄一監督作品 | 俺の命はウルトラ・アイ

横溝正史シリーズ 犬神家の一族(参) 京マチ子主演 工藤栄一監督作品

『横溝正史シリーズ』
 
『犬神家の一族』 全五回
テレビドラマ トーキー 
各60分枠 五回計239分 カラー
 
放送日
昭和五十二年(1977年)
四月二日
四月九日
四月十六日
四月二十三日
四月三十日
 
製作国 日本
製作言語 日本語
 
企画 角川春樹事務所
    毎日放送
 
原作 横溝正史
 第一回
 
  昭和二×年 建物の屋上で椅子に腰かけて
いた青年は逆立ちをする。下宿のおばさんが「汽
車が出る」と知らせる。おばさんは青年に仕事の
依頼が来たから溜まった家賃を払ってもらえると
喜ぶ。
 二人の居る建物には探偵事務所と書かれてい
る。
 
 青年の名は金田一耕助。職業は探偵である。
彼は汽車で那須市に向かった。
 
 那須市では信州財閥の巨頭犬神佐兵衛が危篤
状態にあった。
 
 

 長女松子・次女梅子とその夫寅之助、三女梅

子とその夫幸吉、竹子夫婦の息子佐武・娘小夜

子、梅子夫婦の息子佐智が病床にあった。

 

 佐兵衛にとって恩人の娘野々宮珠世は、老人

の回復を祈っていた。

 

 松子は父に遺言について聞く。佐兵衛は弁護士

古舘を指す。古舘は遺言状を託されていることを

告げ、ビルマの戦地に従軍していた、松子の息子

佐清の復員した日に公開されることを告げる。

 

 松子・竹子・梅子は異母姉妹で、佐兵衛が三人

の愛人に産ませた娘達であった。姉妹の仲は厳

しく対立していた。

 古館弁護士はもし佐清の身に危険な事態が迫

っていたら、佐兵衛翁の一周忌に遺言状が発表

されることになっていることを説く。

 

 財産目録を古舘が読み始めると、三人の娘と

次女・三女の夫たちと子供達は佐兵衛老人の病

臥を離れて弁護士のもとに集まる。

 

 佐兵衛は珠世を呼んでレコードをかけさせる。

裸一貫で事業を起こし莫大な財産を得た佐兵衛

は生涯を想起し涙を流し、犬神家の家宝である

「斧 琴 菊」(よき こと きく)を呟いて死亡する。

 

 金田一耕助は依頼人の所属の古舘法律事務所

を尋ねた後、約束の地のホテルで依頼人の若林

豊一郎を待つ。

 湖で珠世がボートを漕ぐ。ホテルの女中キヨか

ら美人と評判の珠世の情報を聞いた耕助は双眼

鏡で見つめる。

 珠世が下男の猿蔵に守られながらボートを出て

自動車に乗るが、自動車に爆発物が仕掛けられ

ていた。耕助は二人を救出に向かう。二人は命を

取り留めていた。耕助が宿へ帰ると、尋ねてきた

若林が毒入り煙草を吸って毒殺されていた。

 

 

 犬神家に佐清が復員してきたという知らせが届

く。遺言状公開の場に、耕助も同席を許されるが、

佐清はビルマ戦線で顔に大きな傷を負い、かつて

の容姿とよく似たゴムマスクを被っていた。竹子や

梅子は本人であるかどうかも確認できないことを

指摘し、仮面を取ってもらわないと分からないと疑

問を提起する。松子は怒りつつも佐清にマスクを

半分めくるように指示する。仮面が半分めくられる

と、佐清の顔の大怪我が現れ、犬神家の人々は驚

愕する。

 

 古館弁護士は佐兵衛の遺言状を開封し、「犬神家

の全財産、並びに全財産の相続権を意味する斧琴

菊」が、一定条件の下において「野々宮珠世に譲ら

れる」ことが発表される。

 

 珠世自身も、犬神家の人々も驚く。珠世が相続権

を得る為には、佐清・佐武・佐智の三人のうちから

配偶者を選ぶこと、珠世が三人を全て選ばず、他の

配偶者を選ぶ場合は相続権を失うこと、もし珠世が

遺言状開封以後三か月に死亡したり、相続権を失

った場合は、財産は五等分され、佐清・佐武・佐智

がそれぞれ五分の一、青沼菊乃の一子静馬が残り

五分の二を相続することが発表される。菊乃は佐兵

衛の愛人で、静馬は息子であった。

 

 松子・竹子・梅子の実父に対する怒りは更に熱く

なる。仲の悪い三姉妹はかつて菊乃を折檻し、静馬

が佐兵衛の子でないと無理矢理嘘を認めさせ、幼

児の静馬の身に火傷を負わせるという残虐な行為

を犯していた。

 

 犬神家の人々は血を吹く遺言状で更に確執と憎悪を

深め合う。

 

 佐武は仮面の佐清を贋者と見て殴り倒して正体を

聞き出そうとする。仮面の男はじっと黙する。

 

 那須市に一人の男性が復員してきた。

 

 第二回

 

 珠世は仮面の佐清に懐中時計の修理を頼むが

返される。

 那須神社に出征前の佐清の手形が奉納されて

いることを確かめた佐武・佐智は、耕助と共に尋

ねて神主大山から借りて、仮面の男に手形を押

させて照合すると主張し、松子は猛反対をする。

佐武も怒り、仮面の男を佐清と認められないと厳

しく言い放ち殴ろうとするが、仮面の佐清は佐武

を跳ね返す。

 

 怒れる佐武は珠世も財産も必ず手に入れると

豪語する。

 

 翌朝耕助は古館から犬神家の菊畑に来るように

呼び出される。菊畑の人形の一つを見て、人形の

首である場所に佐武の生首が置かれていることに

驚愕する。

 

 何者かが佐武を殺害し、首を斬って菊畑に置いたの

だ。警察の捜査で遺体が発見される。

 事件は鉄筋コンクリートの建物の展望台で起こった。

 橘はブローチを見つけ、珠世の持ち物であることを確

かめる。署長の尋問を受けた珠世は、事件当夜十一時

に佐武を呼び出し、仮面の佐清が触れた懐中時計を渡

し、奉納手形と対応されればと勧めた事を証言した。

 佐武に挨拶して部屋に帰ろうとしたら、彼に抱きすくめ

られ、強姦されそうになった事を告白し、ブローチはそ

の時飛んだのだと思うと述べ、危機を秘かに警護して

くれていた猿蔵に助けられたと報告する。

 

 竹子の激怒と悲痛は極限状態になる。

 

 仮面の佐清は母松子に手形を自ら押したいと申し出

て、松子も手形押しに立ち合い、藤崎正一鑑識員が奉

納手形と照合し、同一の物であることを確認し、松子は

安堵する。

 

 珠世は佐清に犬神家の人々が金の亡者になった

ことを嘆く。佐智が放った銃弾が仮面の佐清を狙う

が外れる。

 

 第三回

 

 佐智は交際している小夜子から強く結婚を求め

られ焦る。湖においてボートで休憩していた珠世

はモーターボートで現れた佐智に騙され、眠り薬

を嗅がされ拉致される。佐智は豊畑村の犬神家

の廃屋に珠世を監禁するが、復員兵の男が珠世

を救出に現れる。佐智は、復員兵の顔を見て、「君

は!」と驚く。

 

 猿蔵は復員兵から電話を受け、監禁された珠

世を救出に行くが、縛られた佐智が強姦目的で

誘拐したことに怒りをぶつける。

 

 佐智は何者かに絞殺される。

 

 第四回

 

 佐智の死体を見た梅子と夫幸吉は深く悲しむ。

耕助は現場に麝香の匂いを確かめる。

 

 耕助は松子から鏡の部屋を見せられ、佐兵衛

が愛人たちをこの部屋で弄んだことを知らされる。

 

 仮面の佐清に耕助は質問をなげかけるが、仮

面の佐清は「俺は知らん」と厳しく語った。

 

 珠世は湖畔で佐清と楽しくデートした日々を

想い起こす。

 

 松子は仮面の佐清が亡き青沼菊乃の写真

を大事にしていたことを知る。仮面の男に扮し

ていた人物は、菊乃の着物も大切にしていた。

 

 松子は亡父佐兵衛の遺影の前で菊乃の写真

を燃やす。

 

 那須湖畔に両足の突き出た男の死体があった。

 

 第五回

 

 警察と耕助は両足の突き出た死体を調べた。

「ヨキケス」の文字が書かれていた。男は仮面

の佐清であった。

 

 鑑識が死体の男と手形合わせの指紋を調べ

ると一致しなかった。死体となった仮面の佐清

は本物の佐清ではなかった。

 

 その正体は静馬であった。警察は佐清本人の

身柄を確保する。

 

 犬神家に松子・竹子・梅子・寅之助・幸吉・小夜

子と捕縛された佐清が集結し、橘署長・古館弁護

士の立ち合いのもと、耕助は連続殺人事件を解き

明かす。

 

  キャスト

 

  京マチ子(犬神松子)

 

  月丘夢路(犬神竹子)

 

  小山明子(犬神梅子)

 

  四季乃花恵(野々宮珠世)

 

  田村亮(犬神佐清 青沼静馬)

 

  岡田英次(犬神佐兵衛)

 

  松橋登(犬神佐智)

  成瀬正(犬神佐武)

  丘夏子(犬神小夜子)

 

  ハナ肇(橘署長)

 

  野村昭子(探偵事務所のおばさん)

  井上聡子(キヨ)

  吉本真由美(青沼菊乃)

 

  西山辰夫(犬神寅之助)

  堀内一市(犬神幸吉)

  遠山欽(木村)

  田中弘史(藤崎)

  新海丈夫(猿蔵)

 

  堀北幸夫

  加茂雅幹(若林豊一郎)

  山口哲郎

  小林泉(トヨ)

  ナレーター 津島道子

 

  石原須磨男(志摩久平)

  北原将光(野々宮大弐)

  溝田繁(大山)

  田中学(若き日の佐兵衛)

  玉川和子(野々宮晴世)

  倉谷礼子(女中)

 

  西村晃(古舘恭三)

 

  古谷一行(金田一耕助)

 

  スタッフ

  

  プロデューサー  青木民男

              香取雍史

              西岡善信

 

  脚本         服部佳

 

  撮影         森田富士郎

  照明         山下礼二郎

  美術         西岡善信

  

  録音         大谷巌

  整音         林士太郎

  音響効果      倉嶋暢

  編集         山田弘

 

  助監督       奥家孟

  俳優事務     内海透

  製作主任     静川和夫

             丹波邦夫

 

  色彩技術     川勝基次

  記録        野口多喜子

  擬斗        楠本栄一

             美山晋八

 

  装置        馬場正芳

  装飾        清水与太吉

             藤谷辰太郎

  製作主任     西村伊三男

  衣装        伊藤なつ

  美粧        竹村浩二

  結髪        石井スエ

 

             京都衣装

             山崎かつら

             高津商会

             京阪商会

 

  現像        東洋現像所

  衣装協力     鈴乃屋

 

  音楽        真鍋理一郎

 

 

  主題歌      「まぼろしの人」

  作詞        寺山寿和

  作曲 唄     茶木みやこ

  ハーベストレコード(徳間音楽工業)

 

  企画担当    溝口勝美

            細井保伯

 

  製作担当    徳田良雄

 

  監督       工藤栄一

 

  制作       毎日放送

            大映京都

            映像京都  

 

 ☆

 成瀬正→成瀬正孝

 

 服部佳=服部佳子=服部ケイ

 ☆

 

 

 ☆犬神松子役 京マチ子の妖気と美貌☆

 

 京マチ子(きょう・まちこ)

 

 大正十三年(1924年)三月二十五日大阪府大阪市

 生まれ。

 本名 矢野元子

 

 

 昭和十一年(1936年)松竹少女歌劇団に入団。

昭和二十四年(1949年)大映に入社。同社の映画

スタアとして大活躍し、戦後日本映画界を支え牽引

する。

 

 伊藤大輔監督作品には『春琴物語』で主演を勤

め、『地獄花』『いとはん物語』『女と海賊』で

ヒロインを演じた。

 

 令和元年(2019年)五月十二日死去.。九十五歳。

 

 

 

 『犬神家の一族』昭和五十二年・1977年テレビ

版との出会いは衝撃的だった。わたくしにとって

は、横溝正史世界との出会いの作品だった。

 

 京マチ子との出会いになったドラマでもある。

 

 昭和五十一年(1976年)十月十六日市川崑監督

の映画版『犬神家の一族』が公開され、大ヒットを

記録した。

 半年後、毎日放送系で横溝正史の名作推理小説

六本が毎週土曜日二十二時に「横溝正史シリーズ」

として放送されることとなった。第一弾が『犬神

家の一族』である。

 

 

 横溝正史(よこみぞ・せいし 本名よこみぞ・まさし)

は明治三十五年(1902年)五月二十四日に兵庫県

神戸市に誕生し、昭和五十六年(1981年)十二月二

十八日に東京都で七十九歳で死去した。

 

 『犬神家の一族』は横溝正史が四十七歳から四十

八歳の作品で昭和二十五年(1950年)一月から二十

六年(1951年)五月迄雑誌『キング』に掲載された。

 原作小説はドキドキ緊張する推理作品で、読む度

に怖さで震えさせてくれる。一行一行一文字一文字

に怖さが詰まり溢れて居り、読み進める時に震えが

起こってくるのだ。

 

 毎日放送版では脚本を服部佳、撮影を森田富士郎、

美術を西岡善信、音楽を真鍋理一郎が担当した。

 映画や舞台でも難しいと思われる名人スタッフ達の

集結である。

 

 制作体制は大映京都・毎日放送・映像京都のチーム

で為された。

 

 

 

 工藤栄一(くどう・えいいち)は昭和四年(1929年)

七月十七日北海道に誕生した。

 昭和二十七年(1952年)東映に入社した。昭和三十八

年十二月七日封切の監督作品『十三人の刺客』で暗殺者

の悲しみを探求する。集団抗争の殺陣は圧巻である。

 テレビドラマ監督としても活躍し、昭和四十五年(19

70年)『大岡越前』最終回二話の「天一坊事件」(九月

十四日放送)「天一坊事件 <後篇>」を始め数々の傑

作を発表する。

 

 昭和五十二年(1977年)は制作朝日放送・松竹の

テレビドラマ『新必殺仕置人』の「問答無用」(一月

二十一日放送)「情愛無用」(一月二十八日放送)「王

手無用」(二月十八日放送)「元締無用」(六月三日

放送)「約束無用」(七月二十九日放送)「自害無用」

(九月三十日放送)「流行無用」(十月二十一日放送)

の監督を勤めている。

 

 この年の工藤栄一の充実に感嘆する。

 

 『光と影 映画監督 工藤栄一』(工藤栄一 ダーティ

工藤共著 2002年5月1日発行ワイズ出版)において工藤

栄一は内田吐夢と語り明かしたことを確かめている。

 

   吐夢さんが京都から東京に行く時に、お別れ

   パーティーがあって僕も呼ばれたんだ。それ

   で夜中の一時頃かなあ、みんな帰る時に、ガッ

   とあの人のごつい手につかまれて「君は残って

   なさい」ってね(63‐64頁)

 

 吐夢は朝九時頃までまたり明かして転げて飲むという

豪快な飲み方を為した。

 

 『宮本武蔵 巌流島の決斗』の吐夢平和論に栄一が飲

み会で反発を語り、「何を」と言いつつ吐夢は後輩栄一

の意見を真っ向から受けたという。

 

  ー横溝正史さんはお好きですか

 

  工藤 好きだね、ああいう変なこと考えてる人は、

     江戸川乱歩もそうだけど、大正、昭和にか

     けて怪奇小説を書く人ってのは面白いよね、

     古い日本の土着性みたいなとこに、ちょっと

     ヨーロッパ的センスを入れるという面白さ

     があったね。横溝さんの場合、やってみて

     わかったんだけれども、乱歩より田舎臭い

     リアリティがあったね。

  

 (『光と影 映画監督 工藤栄一』159‐160頁)

 

 

 工藤栄一は横溝正史小説を好み、日本の古い風習や

伝承にヨーロッパ的感性を注入したと分析する。

 

 田舎臭いリアリティという指摘も鋭い。

 

 

 月丘夢路の竹子は太っていて底意地が悪い人物

像を粘り強い演技で表現する。

 

 小山明子の梅子は冷酷で美しい中年女性の存在

感を激しい感情表現で見せる。

 

 四季乃花恵の珠世は気品豊かだった。失礼な物言

いになるが、ヒロインの華が欲しかった。

 

 

 

 成瀬正後の成瀬正孝の佐武は憎たらしさが強烈

だった。

 

 松橋登の佐智は人が良さそうに見えて冷酷非情

というキャラクターを鮮やかに見せた。

 

 丘夏子の小夜子は、原作のいじらしく優しい小夜

子とは正反対の冷酷な女性だが、その迫力は豊か

だった。

 

 西山辰夫・堀内一市・田中弘史・溝田繁・新海丈夫

といったベテラン名優達が重みを見せる。

 

 ハナ肇の署長と野村昭子のかねおばさんと井上

聡子の女中キヨちゃんがコミカルな味を見せ、恐怖

感の中で笑いを与えて和ませてくれる。

 

  岡田英次の犬神佐兵衛は風格・貫禄と共に

 品格があった。「よき・こと・きく」の台詞は厳か

 であった。

 

  第一回の回想シーンで佐兵衛が児童静馬を

抱き上げ「強い男になれよ」と激励するシーンは

感動的だ。

 

 

 西村晃が渋く深い演技で古舘弁護士を演じる。

 

 工藤栄一の映像美は光っている。第一回の

犬神家の祈祷の場の炎は怖い。

 

 仮面の男のマスクの恐ろしさは強烈だ。放送

当時毎週怖さで震えた。

 

 今見直すと「人形やなあ」と実感するのだが、

佐武の生首や仮面の男の両足突き出し遺体は放送

当時恐怖感で一杯になった。

 

 成瀬正孝の表情によく似ている生首人形で

ある。

 

 尾上菊五郎家の嘉言「よきこときく」と犬神

家の「斧琴菊」との関連性はカットされた。

 

 琴の師匠は出ない。当然青沼菊乃との関係性

も触れられない。

 

 第三回の佐智と復員兵の争いと蜘蛛の巣の

カットも忘れられない。蜘蛛の巣は、佐智に

捕らえられた珠世の貞操や、犯人に狙われる

佐智の未来を映し出しているようだ。

 

 

 第四回の雨の夜で樋から流出する雨水に血

が混じり、仮面の男の死体が映るシーンの怖さ

は圧巻である。

 

 疑問に思う事は、最終回で犯人が何故佐智

の居場所が豊畑村と知っていたかという事だ。

 

 

 静馬の死体を那須湖畔に捨てたのは、原作の

指定・描写通り犯人なのかもしれないが、ドラマ

内で犯人は静馬を斧で殺害した事は語るが、遺体

遺棄については言及していない。

 

 服部佳脚本と工藤栄一演出の説明不足を感じる。

 

 

 第四回で工藤栄一の鏡の間にはゾクゾク緊張

した。

 

 

 

 田村亮は昭和二十一年(1946年)五月二十四

日に誕生した。阪東妻三郎の四男である。本名

を田村幸照と申し上げる。

 

 青沼静馬の復讐に燃える怒りと犬神佐清の

純粋な優しさを繊細に演じた。

 

 古谷一行の金田一耕助との出会いになったのが

本作である。

 恐ろしい連続殺人の物語にあって、暖かくて逞しい

探偵の存在が、視聴者の心に爽やかな風を送ってくれ

た。

 

 耕助の逆立ちは工藤栄一の「逆立ちできるか」の問

いかけで古谷一行が応えたそうである。

 

 

 

 第四回大詰で父佐兵衛の遺影の前で、異母弟青

沼静馬とその母菊乃の写真を燃やしにっこり微笑む

松子の笑顔は妖しくて美しい。

 

 工藤栄一は京マチ子に精神的に惚れ込み、五十

三歳大スタアの美貌を絢爛と映し出した。

 本年は横溝正史先生生誕百二十年である。その

小説の怖さも熱く語りたい。

 『びっくり箱殺人事件』杉本一文画表紙版を角川文

庫が復刊した。嬉しい。

 

 杉本一文の怖い表紙に極まる。

本陣 すずこ

八つ墓村

悪魔の手毬唄

akuma

大道寺智子

幽霊座

幽霊男

白と黒 白黒

仮面舞踏会

病院坂の首縊りの家

金田一耕助 読本

 角川書店は杉本一文表紙版の大復刊を為して

欲しい。

 

 工藤栄一は昭和五十一年封切りの市川崑監督映画

版は「全然見てない」(『光と影 映画監督工藤栄

一』159頁)と語っている。

 

 静馬が復讐鬼、小夜子が驕慢な性格、犯人が犯行

証言の後謝罪というキャラクター描写は明らかに19

76年映画版を踏襲している。これは青木民男・香取

雍史・西岡善信プロデュースや服部佳脚本の案だった

のか?

 

 1976年映画版が「ミステリーの金字塔」という評価

には疑問を持つ自分は、「映画版は名作ではあるが、怖

さでは本作1977年テレビドラマ版の方が凄みがあった」

と主張している。

 

 1976年映画版・1977年テレビドラマ版いずれも名作

なのだが、いじらしくて優しい小夜子や姪珠世との結

婚を拒否して犯人の表情を見て怯えて絞殺される静馬や

宮川香琴と名乗り琴の指導をしつつ息子静馬の死を悲し

む青沼菊乃といった原作小説における人間像が映像版で

表現されていないことは残念であり、未来の課題として

提示したい。

 

 要望はあるものの服部佳シナリオの鋭さは讃えている。

 

 服部佳(はっとり・けい)は昭和七年(1932年)七月

七日生まれ。令和二年(2020年)三月十二日八十七歳で

死去した。

 

 

五瓣の椿 野村芳太郎監督作品

 

 『五瓣の椿』(昭和三十八年十一月二十一日封切 監

督野村芳太郎)において丸梅源次郎を岡田英次が勤めた。

岡田は本作においては犬神佐兵衛を重厚に演じた。

 

 『犬神家の一族』(昭和五十一年十月十六日封切 監督

市川崑)においては三國連太郎が犬神佐兵衛を演じた。

犬神家の一族 1976 10

 『五瓣の椿 復讐に燃える女の怨念』(昭和五十六年四月

二日放送 脚本服部ケイ 演出鶴橋康夫 NTV系放送)にお

いて丸梅源次郎を三國連太郎が演じた。

 

 即ち、丸梅源次郎・犬神佐兵衛を岡田英次・三國連太郎

が映画・テレビで演じたが、テレビドラマ版の脚本はいず

れも服部佳(服部ケイ)のシナリオである。

 

 

 

 

 

 美貌・妖艶・凄みで京マチ子の犬神松子は極付・

決定版であろう。

 

 最終回の喫煙シーンの艶やかさに息を呑む。

 

 京マチ子の妖しい笑顔は、『犬神家の一族』原作の

言葉「女怪」を鋭く表した。

 

 

 ◎

 令和三年(2021年)五月二十四日発表記事・令和

四年(2022年)三月二十五日記事を再編している。

 

 記事内で触れた『宮本武蔵 巌流島の決斗』デジタル

リマスター版のTジョイ京都上映は本日千秋楽である。

 現在上映中の時間だ。

 

 管理人は一昨日十日にデジタルリマスター版を見聞

し、改めて自己の拠り所・生命の大海と感嘆した。

 

 デジタルリマスターの鮮明な画像に圧倒された。

 

 巌流島の海水の鮮やかさは鋭い。

 

 入江若葉七十九歳誕生日の本日千秋楽というTジョイ

京都の上映日程に縁を感じた。

 

 中村錦之助 萬屋錦之介生誕九十年記念上映はこれ

で終わりにせず、引き続き他作品も上映して欲しい。

 

 

 

 今月二十七日『宮本武蔵』第一作は公開六十一年

誕生日を迎える。

 

 『宮本武蔵』全五部作と『真剣勝負』に内田吐夢

と初代中村錦之助の生命が燃えた。

 

 内田吐夢・工藤栄一師弟の映像は壮大である。

 

 

                    合掌

 

 

一行