バリー・リンドン | 俺の命はウルトラ・アイ

バリー・リンドン

『バリー・リンドン』

 Barry Lyndon

バリー・リンドン
映画 トーキー 185分 カラー

製作国 イギリス アメリカ

製作言語 英語
1975年12月18日 イギリス・アメリカ公開

昭和五十一年(1976年)七月三日 日本公開

 

 

製作 スタンリー・キューブリック

製作総指揮 ヤン・ハーラン

 

原作 ウィリアム・メーク・ピース・サッカレー

脚本 スタンリー・キューブリック

 

音楽 レナード・ローゼンマン

撮影 ジョン・オルコット

編集 トニー・ローソン
 

出演 

 

ライアン・オニール(レイモンド・バリー後に

          バリー・リンドン)

 

マリサ・ベレンスン(レディー・リンドン)



ゲイ・ハミルトン(ノラ)

レオナルド・ロッシッター(ジョン・クイン大尉)

 

アーサー・オサリバン(フィーニー大尉)

ゴッドフリー・クイグリー(グローガン大尉)

 

フランク・ミドルマス(チャールズ・リンドン)

レオン・ヴィダリ(ブリンドン子爵)

ドミニク・サヴェージ(ブリンドン子爵 少年時代)

 

デイビット・モーリー(ブライアン・パトリック・リンドン)

マーレイ・メルヴィン(サミュエル・ラント牧師)

マリー・キーン(ベル・バリー)
     

パトリック・マギー(シュバリエ・ド・バリバリー)
 

ハーディー・クリューガー(ポツドルフ大尉)



 

 マイケル・ホーダーン(ナレーター)



 

 監督 スタンリー・キューブリック



鑑賞日時
 

平成二十七年(2015年)四月六日

心斎橋シネマート

 感想文では物語の核心に言及し

ます。

 未見の方はご注意下さい。

barry
 

第1部

レイモンド・バリーが如何にして

バリー・リンドンの暮らしと称号を

我が物にするに至ったか


 
 18世紀ヨーロッパ・アイルランドの農家に

レイモンド・バリーは誕生した。
 

 決闘で父を亡くし、母と仲良く暮らしてい

た青年レイモンド・バリーは、愛する従姉妹

ノラを諦めきれない。

 

 恋敵ジョン・クイン大尉に決闘を挑んだ。

 バリーは勝ったように見えたが、実はノ

ラの兄弟の画策で、決闘で用いられた弾丸

は麻玉で、クインは命を取り留めた。

 

 逃走し軍隊に入ったバリーは、七年戦争に

参戦するが、軍人の略奪行為を悲しみ、ゲイの

将校が川で恋人の男性軍人と恋を語り合い情

を交わしている間に、服を盗み脱走する。

 

 

 プロイセン軍ポツドルフ大尉はバリーの正

体を喝破する。バリーは彼の部下になって働

くことで許しを貰う。



 レイモンド・バリーは戦場でポツドルフを救

い讃えられる。

 ポツドルフはスパイ疑惑のあるシュバリエ・

ド・バリバリの調査をバリーに命じる。だが、

バリーはバリバリに惚れ込んでしまい、彼の

もとでイカサマ博奕の手口を学ぶ。

 野望に燃えるレイモンド・バリーは、年老

いた夫を持つ富豪貴族の夫人をゲットし、そ

の夫の死後に夫人と結婚し、財産をせしめて

やろうと狙う。

 元国会議員の老貴族チャールズ・リンドン

は美しい妻と幼い息子バリンドンがいた。

 男前のレイモンド・バリーは性欲・金銭欲・

名誉欲の三つを満たすべく、リンドン夫人を

誘惑してキスした。

 

 

 

第2部

バリー・リンドンの身にふりかかりし

不幸と災難の数々

 

 バリーの計算は的中した。老貴族リンドンが

死亡した。夫人と結婚したレイモンド・バリー

は「バリー・リンドン」となれた。

 

 夫人との間に愛息ブライアンも生まれ、順風

満帆に見えたが、野望成就の後には思わぬ出来

事が待っていた。

 

 ブライアンを深く愛するバリーは放蕩を為し、

夫人と夫人と前夫の息子ブライアンはブリンドン

子爵との関係は厳しくなる。

 

 少年期から厳しい警句を放つブライアンに義父

バリーの怒りが燃え始める。

 

 母ベルからレディー・リンドンが先に死亡した

ら遺産はブリンドンが相続しバリーは貧しい暮らし

になると警告を受けたバリーはパーティーを開き

絵画を買い浪費する。

 

 夫人は借用書への署名で悩み、ブリンドンは母の

身を案じバリーと対立し、バリーから打擲される。

 

 バリーの社交界での評判は失墜する。

 

 ブライアンは馬の事故で急死し、父バリーは失意

から酒浸りになり、母レディー・リンドンは悲しみ

の余り服毒自殺を図るが一命は取り留める。

 

 ベルは家計を持たせる為に家庭教師のラント牧師

を解雇する。

 

 ラントの訴えを聞いたブリンドンはバリーに決闘

を挑む。

 

 ブリンドンがバリーの足を負傷させ、バリーは年

金をブリンドンから貰う事を引き換えにイギリスか

ら去る事を甘受する。

 

 ☆野望から挫折の崩壊美☆

 

 

 ライアン・オニール Ryan O’nealは1941年

4月21日に誕生した。

 兵学校・スタントマン等を経てテレビドラマに

出演し、二枚目の容姿と鍛えられた身体で人気を

博した。

 1960年代二枚目スタアとして世界の人気者と

なった。

 

 美女たちとのロマンスでも有名になった。

 

 34歳で本作の主演に抜擢され、野心家レイモ

ンド・バリーを熱演した。

 

 鍛えられた肉体と甘いマスクで美女を篭絡し、

野望を次々と達成するレイモンド・バリーは当

たり役で代表作である。

 

 第一部で従姉妹ノラとの恋で純情だったレイ

モンドが恋敵との対立、追いはぎのかわしを経

て、七年戦争をくぐり、戦場体験でプロイセンの

ポツドルフ大尉と出会い、軍人としての器量を

磨く。

 

 博奕のイカサマの達人シュバリエ・ド・バリ

バリの魅力に感嘆しイカサマを学び、貴族の家

に潜り込み財産強奪の野望の牙を磨く。

 

 ライアンの鋭い演技は第一部の野望具現の為

に冷酷な計画を進め悪の道を歩むバリーに輝いて

いる。

 

 美貌のレディー・リンドンを見て、性欲と金銭

欲と名誉欲を獲得しようと狙う。ライアンの野心

表現の迫真の演技に息を飲む。

 

 第二部では美女の妻と貴族の称号と財産を得る

が、愛息ブライアンに恵まれ、野望だけではなく

父性愛にも目覚めるバリーが描かれる。

 義理の息子ブリンドンの鋭い洞察は、義父バリ

ーのプライドを刺激し暴力を抑えられず、二人の

対立は決定的になる。

 

 レイモンドにとっては妻、ブリンドンにとっては

母のレディー・リンドンの精神的争奪戦でもある。

 

 最愛のブライアンを馬の事故で亡くし、バリー・

リンドンの野望と愛の道に落日が訪れる。

 

 全てに失敗し、叩き潰していたブリンドンに負け

彼から年金を恵んでもらう中年男となって行く。

 

 青春の野望から中年の悲しみという崩壊劇が美し

さを輝かす。

 

 ライアン・オニールは34歳でレイモンド・バリー

後のバリー・リンドンの栄光から挫折の転落劇を

深く演じた。

 

 今月21日に81歳になられる。

 


 マリサ・ベレンスン Marisa Berensonは194

7年2月15日ニューヨーク生まれ。

 

 絶世の美しさは銀幕に輝いている。『ベニスに

死す』のアッシェンバッハ夫人は綺麗だった。

  

 28歳で本作の美貌のヒロインレディー・リンドン

を繊細に演じた。

 美しさも光っているが、妻・母としての悩みも深

く表現された。

 

 ゲイ・ハミルトンのノラも綺麗だ。レイモンドが

憧れるのも頷ける。

 

 アーサー・オサリヴァンがバリーを脅す追剥ぎの

フィーニーをコミカルに演じる。

 

 バリーが軍人から服を盗もうと決意するシーンで

は川でゲイの軍人二人が裸で愛を告白しあう。この

ゲイ軍人二人の愛の交歓の場面は静かな描写なので

強烈な印象を残す。

 


 パトリック・マギー Patrick George McGeeは

1922年3月31日北アイルランドに誕生した。

 1964年にロイヤル・シェイクスピア・カンパニー

に入った。映画において鋭く深い芸を発表し重い

存在感を見せた。

 53歳でバリバリのアクの強さを渋く表現した。

1982年8月14日、60歳で死去した。

 バーディー・クリューガー Franz Eberhard 

August Krügerは1928年4月12日に誕生した。

 1962年セルジュ・ブルーギニョン監督の反戦

物語『シベールの日曜日』に主演し主人公ピエー

ルを熱演した。

 

 戦争の傷を深い芸で現した。

 

 47歳の本作ではプロイセンの将校ポツドルフ

大尉を重厚に演じた。

 

 野心家レイモンドを震え上がらせるポツドルフ

の重みをハーディー・クリューガーが鮮やかに見

せる。

 

 レイモンドの野望物語であるが、重い碇のような

存在感で迫ってくる人がポツドルフである。

 

 ハーディー・クリューガーの重厚な演技はドラマ

を支えるものになっている。

 

 2022年1月19日、ハーディー・クリューガーは

93歳で死去した。

 

 
 ジョン・オルコットが撮影した映像は秀麗で

絵画のように精緻である。

 レナード・ローゼンマン Reonard Rosenman

は1924年7月24日ニューヨーク生まれ。

 2008年3月4日に83歳で死去した。

 本作の音楽は重厚で、クラシックの深さを奏で

ている。

 壮麗な映像と風格ある音楽に包まれドラマは厳

かに歩みを進める。

 1976年3月29日 第48回アカデミー賞授賞式

 

 編曲・歌曲賞を受賞したレナード・ローゼンマン

はスタンリー・キューブリック監督と共に大先輩の

アントニオ・ヴィヴァルディやウォルフガング・ア

マデウス・モーツアルトへの感謝を語った。

 

 スタンリー・キューブリック Stanley Kubrick

は1928年7月26日にニューヨークに生まれた。

 1999年3月7日、70歳で死去した。

 

 20世紀世界映画史を支えた大巨匠である。脚本・

演出において完全主義を掲げて題材を探求した。

 

 47歳で本作の製作・脚本・演出を為した。始めは

ナポレオン・ボナパルトの物語の企画であったと言

われている。

 

 緻密な時代考証を為し、照明・美術・衣装を綿密

に研究し、自然光と蝋燭による撮影を行った。

 

 軍隊のシーンはアイルランドの陸軍歩兵が出演し

た。

 

 映画藝術探求の為、非妥協の姿勢で演出に臨んだ。

 


 マイケル・ホーダーンの語りが渋い。

 ウィリアム・シェイクスピア劇の大名優である。

本作の後に製作・放送されたBBCウィリアム・シェ

イクスピア全集の『リア王』で、リアを重厚に勤め

た。

 やはり、原作を尊ぶ道でシェイクスビア劇を演

じてきた人は語りが本物である。

 

 マイケル・ホーダンの語りは言葉の芸術である。

 

 

 ホーダーンにナレーターをオファーしたキュー

ブリックの慧眼に敬意を表する。


 野心家レイモンドの転落の悲劇に切なさが極まる。

 

 「芸術的な映画を好み、文芸的な映画を高く評価

する」というような感覚ではない。

 

 

 映画は美しき芸術であるという事実を『バリー・

リンドン』は明かしたのだ。

 

 「好む」とか「評価する」等ということは恐れ多

い。

 

 言葉や文字にすることは本来無理なのだが、あえ

て申し書くならば、哀切の劇の美をキューブリックは

極めたという事である。

 

 2007年3月19日に開設した拙ブログ『俺の命はウ

ルトラ・アイ』は当記事で11111番目の投稿となった。

 

 同じ数字が5個重なったという事であり、数字の

差別をすることはいけないが、15年間の学びを反省

しつつ気持ちを新たにして学んで行きたい。

 

 ライアン・オニールの熱き名演とスタンリー・キ

ューブリックの脚本・演出は、レイモンド・バリー

後のバリー・リンドンの野心から落魄への崩壊劇を

秀麗に描いた。

 

 ハーディー・クリューガー94歳誕生日

               2022年4月12日

  


                    合掌

キューブリック 2